HAPPY HAPPY WEDDING! INDEX

ツァイス七耀教会 13:50頃

教会の一室。窓の外は結婚式日和のいい天気で、さわやかなそよ風が吹いている。
彼女は椅子に腰掛けて、じっと外の混乱を聞いていた。いや、正確に言えばついさっきまで動けなかったのだ。
レースに刺繍の施された長い裾。ふわふわのプリンセスラインのワンピースは、肩から背中にかけて大きく開いた白いドレスになっている。頭には、花飾りのティアラと花嫁の長いヴェールがかぶせてあった。
本日の主役・・・こと、花嫁のティータのいる部屋には、今は誰もいない。花婿ことアガットが逃げたと言う事で、探しに出ていたり、段取りの相談をしなおしたりと忙しいらしい。本当は自分がなんとかしないといけない事なのだが、花嫁くらいはそこでおとなしくしていて欲しいと言われてしまっては、どうしようもなかった。
そう。アガットはただ今、結婚が嫌で逃げ出している、らしい。もっとも、逃げた逃げたと心配しているのは自分以外の人たちで、ティータとしては、実は全く心配していなかった。大方外の空気でも吸いに行ったに違いない。こういうところは見るからに苦手そうでもある。
・・・それでも、これだけ大騒ぎになっててびっくりしてるんじゃないかなあ。
そんな事を思いながら、アガットがいるはずの窓の外から室内に目を戻す。と、いきなり街中に爆音が響いた。
「!?」
音からすると、アーツ・・・それでなければ、かなり大きな物の仕業だ。
慌てて窓の方に駆け寄ると、そこには、・・・ある意味では、アガットよりもずっとずっと待ち望んでいた姿があった。
人の形を模したような、巨大な機械。
「《パテル=マテル》・・・?レンちゃん!?」
《パテル=マテル》自体にも技師として興味は尽きない。しかし、それ以上に、それの持ち主をティータはずっと待っていた。
ヴェールをばさりとあげて、窓から身を乗り出す。場所は、ここから南に少し行った場所、ギルドの傍。しかし、《パテル=マテル》は、ひとしきりその体にしては小さなスペースで暴れると、一直線にこちらに飛んできた。
すぐに肩の上に、知った顔を見つける。
「ティータ!」
「レンちゃん!」
もう何年ぶりになるだろうか、紫の髪にひらりとしたドレスの同い年くらいの娘・・・レンだ。以前から可愛らしいと思っていたが、相変わらずの鎌を片手にした姿はハッとするほどの美人になっていた。
「レンちゃーん!」
大きく手を振る。
「ティータ、私と一緒に来なさい!」
窓辺に降り立ったレンが、有無を言わさずその手を取った。
「え!?」
ぐい、と。重たいドレスを着ているのに、軽々と引っ張りあげられ、窓辺に立つ格好になる。相変わらずの強引さが、状況の割にとても懐かしい。
「あんな奴にティータはあげない。レンが決めたのよ。」
その懐かしい強引さで、一方的に宣言された。
あんな奴、が誰を指すのか考えて、一瞬止まる。
「え。えっと。」
しかし、その一瞬でアガットのことと判った。
「ティータを捨てるなんて、寂しい思いさせるなんて、許されないことよ。そうでしょ?」
レンは、見た目の通りどうやらアガットに対して怒りを抱いているらしい。
「え・・・と・・・!」
別にティータとしても捨てられたとは思っていなかった。それはレンに言われても変わらない。
ただ、寂しいとは思った。心配していないこととそれとは、また別問題だ。
「そ・・・そうだね!」
だから、乗ることにした。
決めた瞬間、アガットが怒る顔が目に浮かんだ。それでも、少しくらい心配を掛けても大丈夫だろう、と思えた。こっちだって何回も心配してきたのだ。
それに苦手だからといって結婚式を抜け出されるのは、やっぱり少し、・・・残念だったのだ。

白いドレスと白いヴェール、金の髪をはためかせ、レンにつれられて《パテル=マテル》に腰掛ける。
「お願いね、《パテル=マテル》!」
「よろしくね、《パテル=マテル》!」
レンと二人で高い場所から見下ろす街は、なんだかとても新鮮だった。
心地よい駆動音に抱かれて、ゆっくりと空に飛び立つ。
「ティータ、久しぶりね。」
「レンちゃん、会いたかったよ。美人さんになったね。」
当然でしょ、とレンは笑う。
「ティータも見違えたわね。そのドレス、とっても似合ってるわ。」
「ありがとう、レンちゃん。」
会って、言いたかったことはたくさん、話したかったこともたくさんあったはずだった。それなのに、隣にレンがいると、それだけで言う事が見つからなくなってしまう。
「元気だった?」
あせっているわけではない。ただ、ほっとしすぎて、気持ちがあふれ出して、一杯一杯なだけだ。
「まあね。この間、とってもかわいいお店見つけたのよ。」
「え、どんなのがあっ」
「ティータ!?」
聞き返そうとすると、下から聞きなれた声がした。赤毛のその人は、こちらを見上げて走っている。
「アガットさん。」
「ティータ!レン!降りて来い!!」
「来たわね。」
レンの表情が一気に冷たくなった。その表情に、友達ながら背が冷える。
「待ってて、ティータ。」
「レンちゃん?」
よっぽど不安そうに見えたのだろうか。レンはこちらを向くと、にっこりと笑った。
「大丈夫よ。ティータが嫌がることはしないわ。レンはあんなのとは違うんだから。
 ・・・《パテル=マテル》、止まって。」
駆動音をさせて、《パテル=マテル》が着地する。そこは先ほど戦闘でもあったのかというくらい、道が壊れていた。
「よく起き上がれたわね?でも無駄よ。言ったでしょ、貴方なんかにティータはあげない。」
「何言ってんだ!」
叫ぶアガットの周りは、既に大変な騒ぎだ。その前でレンは優雅に笑った。
「ティータは、レンがもらっていくわ。」
振り返ると、レンは既に大鎌を携え戦闘態勢に入っていた。
「邪魔をするなら、またここで叩きのめしてあげる。」
凄みのある声は、紛れもない本気を思わせる。
「待って、レンちゃん!」
重たいドレスを翻し、ティータは慌ててレンを止めに掛かった。



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