だから、今回の話もかなり前から知っていた。何せ、ツァイスの町では、新型飛空挺の開発成功に並ぶかそれ以上のビッグニュースだ。ティータは中央工房のアイドルなのだから。
なんであんなのがいいんだろう・・・というのが正直なところだが、そう言えば最初に会ったときからずっと、ティータは彼に懐いていた。なんであんなの、とは二人一緒にいるところを見るたびに思っていたのだけれども。
自分の方がずっとティータを幸せにしてあげられる気がする。少なくともあんなのよりは。
その、「あんなの」が居酒屋から出てきたのが見えた。
・・・おかしい、と思った。
式までもう1時間切っている。
今日の主役の片割れである「あんなの」は、もういい加減教会に居ないといけないはずなのに、何でこんなところに居るんだろう。おまけにいつもの服で。
ほどなく、ギルドの方からも何人か出てきたのが見えた。皆、見知った顔。なるほど、前に冒険したメンバーが勢ぞろいしているらしい。・・・どうにも居たらまずそうな人間まで混じっているが、それは手にバラを持って非常に活き活きと口上をのたまい、両側から殴られていた。・・・これだけみると、以前と全然変わっていない。
そして、交差点で彼らは出くわした。
問答無用であんなのに飛び掛る3人。話を聞け、と叫びつつ慌てて攻撃を避けるあんなの。一応周囲に被害が及ばないようにか、広い場所へ移動しようとしているのが見て取れた。
その時、女の・・・シェラザードの声が耳に入った。
「花嫁置いて逃げるような奴の話なんて聞く価値無いわ!」
最低最悪。あんなのは所詮『あんなの』だったのだ。決意は一秒だった。
「行くわよ、《パテル=マテル》。」
目立たないよう隠していた相棒に声を掛ける。
「あんなの、塵も残らないくらいに粉々にするの。」
スカートを翻し、町のはずれの高台を飛び立った彼女の目には、ティータを取った上にティータを捨てたという、許されざる「あんなの」の姿がしっかりと捉えられていたのだった。