外出のついでに近くを通ったのも何かの縁だろう。
ふらりと静岡の家に寄ると、静岡はいつものようににこにこと出迎えてくれた。
「よお来たねー。上がって上がって。」
「おじゃまするづら。」
招き入れられた茶の間には、テレビやコタツ……のほかに、どん、とお菓子の満載された籠。
うなぎパイに安倍川もち、イタリアンロールにレアチーズケーキと、お客でも来る予定だったのか、かなり豪華に取り揃えてある。
「お客でも来るだけ?」
邪魔でもしたのかと腰を浮かすと、いやいや、とコタツに入れられる。
「別に何か約束があったわけじゃないんだら。」
急須にお湯を注ぎながら静岡は笑う。
「でも、多分今日はカナちゃんが来る気がするけん、ちっと準備してたんだら。」
「神奈川がけ?」
「うん、そー。いつもバレンタインの翌日に遊びにくんだら。」
静岡はそういいながらお茶を差し出した。
「当日に来りゃあいいに」
「当日はチョコ渡しにいくけん普通に会うもんでー。」
ずず、とお茶を二人ですする。
「多分、チョコバットの当たり外れを報告に来るけん今日なんだら。ほら、バレンタインにチョコ渡すじゃんか。」
すすったお茶を吹きそうになった。
「チョコバット!?……あの、30円のアレけ?」
バレンタインに渡されたら、恐らく自分なら若干がっかりするだろう。たとえ義理であろうとも。あれはチョコレート菓子には違いないが、分類としては駄菓子だ。
「うんー。カナちゃん、チョコバット好きみたいだもんで、毎年あれあげてんだあ。」
けろっと言う言葉の通り、チョコバットをむさぼっている神奈川を想像してみるが、何かが違う気がしてならない。ちなみに自分が昨日静岡に貰ったのは、非常にシンプルにハート型のチョコレートだった。身内とはいっても、落差が酷すぎる。
「そうか……意外づら……。」
「だらー?うちも意外だに。でも、バレンタインにチョコバットあげたら、大体次の日には当たった外れたって報告にくるんだらあ。」
それってやっぱり好きじゃないとしないら?
そういわれると頷くしかなかった。
「男の子っていくつになってもああいうの好きなんだねえ。」
静岡はそういいながら安倍川餅に手を伸ばす。
「宝くじも良くあてるって言ってたし。」
「そりゃ何か違うづら。」
反射的に突っ込んだものの、静岡はのほほんと首をかしげるだけだ。
「そーかなあ。同じくじに違いないって思わん?」
「まあ、それは……」
しかし、言いかけた言葉はばたばたと玄関から聞えてきた音で中断された。
「おーい、しずー!見ろよ、チョコバットホームラン出たぜー!」
……内容が、いざ聞いてみても意外だった。
「あらあカナちゃん、すごいねぁ。うちにもみしてー。」
バタバタの音のみで姿の見えぬ神奈川に、静岡は慣れた調子で声を掛ける。
そして、こちらにひょこっと向き直った。
「ほら、来ただら?」
肩をすくめて、幸せそうにくすりと笑う。
「本当だったづらか……。」
こちらも肩をすくめる。しかなかった。
世の中は不思議なことやワカラナイ事に満ちている。そう思った。