「はい、カナちゃん。バレンタインの分ね。」
何とか選んだチョコレートは、ベタに包装された上で神奈川の手に渡った。例年包装などした事も無かったのだが、包装くらいしてやれとの山梨のアドバイスもあり、今回は普通に紅い包装紙にくるんである。
受け取った神奈川は、ぽかんとチョコレートとこちらを見比べた。
「ありがとな。でも……これ、しずからか?」
「そうだよー。なんで?」
「いや……」
問うと、神奈川はもう一度こちらとチョコを見ておずおずと口を開く。
「その、……今年は普通なんだな。」
「うん。チョコバットは好きじゃないみたいだったから、普通のにしたの。」
神奈川の表情がふっと晴れる。
「そっか。ありがとな。」
「どういたしまして。何が良いのかよくわからなくって、結局山梨に選んでもらったんだけどね。」
笑顔に笑顔で応えると、神奈川の表情が少し硬くなった。
「……山梨になんだって?」
「だから選んでもらったの。チョコバット以外の選択肢思いつかなくてさあ。」
「……ふーん……。」
声もすうっと冷たくなる。目線も少しきつい。
……でも、理由は良くわからない。だから、多分そのうち誤解も解ける気がしていた。
「なあ、お前ら一体どういう関係なわけ?」
声が低い。前言撤回、これはこじれる。
「どういうって、カナちゃんも知ってるでしょ、お隣さんの富士山仲間。」
落ち着いて、とりあえず事実を述べる。
「……俺らは、どういう関係だ?」
「お隣さんでSKY仲間?」
次の質問も同じように事実のみを答える。
「……そうか。……か。」
神奈川がぼそっと呟いた。うまく聞き取れなくて聞き返す。
「何て?」
「……もういい。」
吐き捨てるように声が飛んでくる。
「え?」
瞬きする間に、神奈川は背を向けていた。
「俺用事あるから。じゃあな。」
手を振る事もなく去っていく。
後には呆然とそれを見送る自分がいただけだった。
原因はやっぱりよくわからない。
ただ。
……また、カナちゃん怒らせちゃった……。
それだけは、動かしようの無い事なのだった。
とぼとぼと戻る家への道。その途中に見えたのは、菓子屋。
そういえば、明日はお客が来るよねえ、と思い出してふらりと中に入る。
何が喜んでもらえるだろうか。気分転換も兼ねようと、手元の籠に菓子を取る。
しかし、その手はすぐに止まった。
誰が来るのだったか。
二月十五日は例年予定を空けてお客を待っていたのだが、度忘れしてしまったのか、なかなかその客が思い当たらない。
「……ええと。……ああ、そっか。」
でも、例年のことは例年のこと。すぐに思い出した。
思い出すと共にため息が落ちる。籠の中のお菓子を見つめて、またため息。
……明日、来るのかねえ。
レジには並ぶが、心は迷う。今年は、そういえばそのお客がうちに来る理由はなかった。
二月十五日の客は、毎年チョコバットの当たり外れを報告しに来る。
でも、今年はそれを渡さなかった。
二月十五日の客。それは、先ほど怒って行ってしまった神奈川なのだ。