チョコ事情、クッキー事情 2 〜2/14 横浜〜

席に着き注文が終わったところで、神戸は包装されたチョコレートをテーブルに載せた。
「はい、バレンタインのやで。」
イルミネーションの街を歩いて思う存分賞賛を浴びた後は、夜景の綺麗なレストランでディナーである。
お約束のコースも、こうやって神奈川と行くと様になった。自分の美しさを引き立てるような気がして楽しい。
「ああ、ありがとな。」
目の前の男も同じ事を考えているのだろう。いつもよりキラキラとにこやかに、開けてもいいか?と聞いてくる。
「もちろんや。」
笑顔で促す。中身は自慢のチョコレート菓子だ。持ち運びしやすいように、日持ちと費用もついでに考えて、シンプルに小さくリーズナブルに。ちょっと綺麗に作ってみた、今年二番目の自信作である。
開けた神奈川が小さく感嘆の声を上げた。
「今年もすげえな。」
「まあね。洋菓子は得意分野やもん。」
ふふん、と胸を張ると、神奈川も笑う。
「だよなー。俺も楽しみにしてたんだぜ。いつだって神戸からもらうチョコが一番美味いんだもんな。」
きらっきらの微笑みはお世辞か空気を読んだ結果か本心か、さっぱりわからない。しかし、そこはそれここはこれだった。この空気を楽しむのが今日の主目的なのだ。細かい事を気にする必要はどこにもない。
「ほんま?神奈川っていくらだってチョコレートもらえそうにしとぉのに、そんな事言うてええのー?」
蕩けるような笑顔で微笑みかけてみる。
「本当のことじゃん。問題ねーよ。」
にこり、と返された。それならにこりと返してやろう。
「ふふ。お世辞でも嬉しいわ。」
「お世辞なんかじゃねえって。」
見つめあい、微笑みあう。
「こりゃ、ホワイトデーはちゃんと返さねえとな。」
何がいい?お約束の言葉は、実を言わなくても今となっては神奈川からしか聞くことは無い。
「うちの要求は高いでー?」
「それなら聞かねえ。」
笑って避けられた。例年の通りだ。
「ふふ、残念や。」
だが、それでいい。神奈川相手にお礼目当てというわけではないのだし。
「でも参考までに、いつも何もらってんだ?」
俺だけじゃねえだろ、の問いには素直に頷いておいた。
「せやねえ、相場としてはやっぱりバッグとか?」
くすりと笑う。
「へえ、毎年そんななのか?」
「まあね。」
少なくとも去年はバッグだった。貰った但馬の新作は、現在膝の上にある。
「言ったやろ、うちの要求は高いって。」
「本当になー。」
呆れ半分の表情に笑いかける。バッグが当然、という顔をしてはいるが、これは特別だ。家の方には、最初からホワイトデーを当て込んで・・・あとは新作の試作兼ねて少し豪華に作ってあるのだし。今年はなんとなく気合が入った分来月が楽しみだったりするのだが、それはさておき。
「まあ、神奈川にはそこまで言わへん。ケーキくらいで許したるで。」
「それならお安い御用だ。美味いトコ知ってるから、ご馳走してやるよ。」
横浜スイーツも美味いんだぜ、と笑う神奈川に、知っとるで、とまた微笑みかける。
見た感じは、きっとまるきりの恋人同士だろう。それも美男美女のベストカップルだ。
周囲の羨望の眼差しが心地よかった。

星がきらめく。自分たちだってきらめいている。
今夜はそんな夜だ。



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