こまごました事を済ませ、部屋に入ってしばし。疲れていたのだろう、隣からは静かな寝息が聞こえてくる。
ネルは、自分も眠りに身を浸そうと目を閉じた。
・・・・・・が、眠れない。休めるときに休むのが大事だとわかっているのに、目を閉じて寝ようとすればするほどに眠れない。それどころか、雑念だらけでどんどん目が冴えてくる。
雑念の8割は、昼間の出来事だった。あんなので動揺してどうするんだ、と自分に言い聞かせても、どうにもそれが頭を回る。あれから今まで仲間の手前冷静にクールにいつもどおり振舞ったつもり、だったのだが、ベッドで布団を被ったとたんにこれだ。忘れた、と思い込んだつもりだったのだが、そうそう上手くはいかないらしい。
・・・外にでも出てこよう。
ついでに水でも飲んで、少し頭を冷やそう。
むくり、と起き上がって、とりあえず外に出られる格好になる。武器も護身用に一応持っていくことにした。同室のマリアとソフィアは眠っているようだ。足音を忍ばせ、そっと部屋から出ると、ネルは屋外へと足を向けた。
風が涼しい。玄関先でぼんやりするのもなんだったので、適当に歩き出す。月の光に誘われて歩を進める・・・といえば、風流に聞こえるのだが、実際のところはそう風流でもなかった。思い出されるのは昼間のアレだ。
「・・・・・・・・・・・・・っ。」
何だったんだアレは。何のつもりだったんだアレは。何であんな事をするんだアレは。そう思うと苛立つばかりで思考停止してしまう。それに苛立ち、また考え直してさらに苛立つ、悪循環。
苛立つままにうだうだと歩き続け、気付けば町外れまで出てきていた。光景が一気に寂しくなったところで、腰掛けやすそうな樹を見つけた。ひょいと飛び上がって、枝に着地する。
月の光を浴びて、冷たい風を吸って深呼吸。ついでに足を遊ばせていると、少しだけ落ち着いた。
落ち着いたところで、また本題を思い返す。
今まで、自分のことと冷静を装うことで精一杯で、まともに考えなかったのだが・・・今なら、どんな表情をしていても誰にもわかりはしないだろう。
考えるなら今だ。何で、ああなったのか。
マリアとクリフが言っていた。自分が居るとアルベルの戦い方が違うと。無茶をすると。それで、なんで自分の居る時に限って無茶するんだ、と問い詰めて・・・
問い詰めて、ああなった。あれから自分は情けないくらい一人パニック状態で・・・・それで、答えはまだ聞いていない。
つまり。
・・・・言いたくないことでもあって・・・ごまかされた?
だとすれば、相当の力技だ。見習いたくは無いが参考にはなるな、と諜報部隊トップの冷えた脳が判断を下す。しかし、それと本音はまた別だった。
「・・・・・・・・・・・アイツっ・・・!!」
もたれていた幹に拳を叩きつける。ざわざわと音がして、木の実が上から降ってきた。ころころと服の上を転がる固い実を、苛立ち紛れに下に投げつける。
「って!」
意外なところからの声にぎょっとする。
「あ、ごめんよっ!」
慌てて樹から飛び降りる。身を低くして着地すると同時に、上から声が降ってきた。
「・・・・何をやってる?」
見上げれば、・・・・昼から自分のペースを狂わせてくれている奴の顔があった。
「な、なななな・・・・なんでここにいるっ!?」
驚きのあまりバランスが崩れた。転びそうになるのを必死で押さえる。
「・・・・・・・・どうだっていいだろうが、阿呆。」
苦虫を噛み潰したような声が返ってきた。そのままアルベルは、先へすたすたと歩いていく。あっけにとられて、そして、はたと我に帰る。
「待ちな。こんな時間にどこに行くんだい?」
振り返りもせず先に行きながら、声だけが返って来た。
「関係ないだろう。放っとけ。」
これを不審といわずして何というのか。
「この先は町の外だ。こんな夜中にそんなところに行く用があるとは思えないけどね。」
さらに言えど、アルベルは返事もしなければ振り返りすらしない。ネルは強硬手段に出た。
「答えなっ!」
外に出る時に持ってきていたクナイを、アルベル目掛けて投げつける。3本。
「!」
金属と金属の当たる音が響いた。2本は避け、1本は叩き落したらしい。アルベルはころりと転がるクナイを眺め、ついでこちらを見やる。
「ふん・・・やる気か?」
月明かりに照らされ、その表情が見えた。ニヤリ、と強い敵に出会ったときと同じ表情。引き抜いたままの刀が鈍く光る。一瞬背筋が冷えた。刺激が強すぎたらしい。こうなればきっと人の話なんぞ聞かないだろう。
「・・・私にその気がなくても、向ってきそうだね。」
戦闘態勢に入り、警戒を崩さずに言えば、アルベルはさらに嬉しそうに刀を構えた。
「そう言うことだ。」
・・・この戦闘バカはっ!
しかし、気分がぐしゃぐしゃしていた所だった。原因であるアルベルを的にして体を動かせば、少しは気が晴れるかもしれないという考えがふと、よぎる。
「・・・精々いい的になるんだね。」
その言葉と同時、アルベルが一つ跳躍する。
形見の剣を構えると、ネルはそれをそのまま彼に投げつけた。
近づいてはいけない。普段の彼の戦闘スタイルを見ていればわかる事だ。一度捕まれば後は滅多切りにされるだけ。全てを受けることは・・・今なら不可能ではないだろうが、体力の無駄だ。
常に動き回れ。アレで遠距離攻撃が意外に得意だったりするあたり、性質が悪い。
まともに彼の相手をするのは二回目だった。しかし、かなりの回数戦場を共にしてしまっているので、弱点も癖も案外見えていたりする。後衛の強みというのだろう、多分。
剣を投げつけ、牽制を重ねて円を描く様に移動しながら、クナイを投げつける。繰り返して体力を削れば、相手の動きも鈍くなってくる。その隙に、再度剣に術を込め、また繰り返せばいい。集中する。術が剣に掛かったのを確認して顔をあげれば、すぐ傍に相手が来ていた。飛び離れ、上空へ跳躍して強襲する。さすがにそう簡単には直撃はしないらしく、寸でのところで避けられた。後ろへとまた飛び離れる。
「っくぁ!?」
途中で首が絞まった。
「甘い。」
見ればマフラーの先が握られている。ぐい、と引っ張る様子を見せた腕に、ためらいなくクナイを投げつける。手が離れた。その隙に空中後転で逃れる。着地と同時に剣を投げつければ、鈍い音と共に剣は跳ね返されてきた。
「何が甘いって?」
片手で掴んで間合いを取り直す。次は、どこから切り崩すか。横飛びに飛ぼうと体重をかけかえたところで、アルベルが一気に間合いを詰めてきた。横へ、ついで後ろへ。着地の度にクナイを投げつけて牽制しつつ距離をとる。怯まない相手に舌打ちしつつもう一度。
唐突に、ざわりと肌があわ立った。
別の気配。人間とは何か違う。剣を片手に、そちらの方に意識をずらす。アルベルの攻撃も止まった。
「・・・・・・魔物か。」
「だろうね。」
気配は一つ。ただ、地を這う妙な振動が嫌な予感を増幅させる。
「・・・ここでやるのはマズそうだね。」
「なら、出迎えてやるだけだ。」
すたすたと、散歩にでも行くような足取りで、アルベルは嫌な気配の方へ歩みを進める。一旦退く、などという慎重策は最初から頭にないらしい。しかし、あの嫌な感じからして、一人で行かせるのも気が引けた。仕方ない。ネルも一つ息をついてアルベルについていく。
「退かないのか?」
面白がるような言葉に、そっけなく答える。
「相手がアンタとはいえ、見殺しにしたら寝覚めが悪そうだ。」
「フン・・・。」
それきり黙って歩を進めれば、嫌な気配と妙な振動がさらに強く伝わってきた。町の外、すぐにそれは居た。チラチラと光る赤い炎が見える。
「なるほどな・・・。」
アルベルが低く呟く。月明かりに照らされた魔物の姿は、先ほどまでの嫌な予感を全く裏切っていななかった。炎の尾、獅子の頭、その他にも色々、趣味悪くごちゃごちゃとくっついたその姿。
「キメラ・・・」
呟いた言葉はうめきと紙一重だった。
見たことはあるものの、あまり戦いたい相手ではない。何より、なんでこんなところに出てきたのだか。
しかし、ここは町の入り口である。放っておくわけにもいかなかった。
「厳しいね・・・誰か呼べるかな。」
言えば、一言で却下される。
「やめとけ。」
ネルとしても呼びに行く間に侵入されるだろう、という結論は頭の中にあった。
宿の方角をちらりとみやれば、傍で刀を抜き放つ音がする。不安しか残らないが仕方がない。ネルも剣を構えた。
「行けるかい?」
魔物から視線は外さない。
「やるしかねぇなら、やるだけだ。」
強敵を目の前にして、どこか楽しそうなその態度は、ある意味大物を感じさせる。馬鹿な奴、とも思うのだが。ネルは半分呆れてぼやいた。
「アンタのその自信はどこから来るんだかね。」
例によって答えなんぞ期待していない。だが、少しの沈黙の後に、ボソリと声が飛んできた。
「・・・・・信じてるからな。」
その言葉と同時にアルベルは刀を横薙ぎにしながら疾っていく。こちらに向けられた性質の悪い幻聴のような言葉に一瞬固まりかけて、ネルはそれを追い払った。
「・・・・仕方ないねっ!」
牽制のクナイを放り投げ、本命の剣を投げつける。相変わらず防御を無視で魔物に突っ込んでいくアルベルを観察しながら、牽制と回復。いつもと変わらない。それだけに、妙な安心感があった。
消耗を度外視すれば、破壊力もあるし殲滅速度は速い。結局一番早く片付くのだ。片付けるだけなら。
波状攻撃も、ここ最近まともに決まるようにはなっている。一人の攻撃がガードされても、直後にもう一人が攻撃を叩き込めば相手は怯む。一人が近接で気を引いている間に遠距離から攻撃すれば、それは確実に相手のダメージになる。
全て、慣れのなせる業だった。相方の戦い方を覚えてしまえば、合わせるのはさほど難しくはない。隠密がメインの仕事とはいえ、基本的に遠距離からの戦いが得意なネルとしては、考えなしとはいえ近接メインのアルベルとはお互いの仕事が被らなくて調子がいいといえばいいのだった。
ただし、消耗は激しい。
守られているわけではないから自分の身は自分で守ることになる。これは当然だ。敵に攻撃もしていく。これも当たり前だ。
防御を考えないアルベルが攻撃を受ければ、それは即命につながるので、一瞬たりとも気が抜けない。常に詠唱準備と観察をすることになる。ついでに、動きに無駄が多い相方のフォローも回ってくる。一人で突っ込んで行けば確実に死にそうなところに当然のように突っ込んでいくので、敵の牽制やら何やら、考える事もやることも多い。
例えて言うなら、一人で攻撃もこなしつつ2人分の防御と補助を受け持つようなものだ。アルベルがメンバーに居るだけで、仕事が倍以上に増えるのである。
だから、せめてもう少しでいいから無茶するな、といいたくなるのだ。
しかし、先ほどの槍の降りそうな発言からすれば、・・・補助がしっかりしているから無茶が出来る、と・・・取れなくも無い。そうならば、自分が居る時は戦い方が違うといわれても納得がいく。昼間、相当強引な手段で答えをごまかした理由も、これだけ槍の降りそうな理由ならわからなくもない。雲より高い矜持の持ち主だ。他人の力を当てにしているなど、認めたがらないだろうし、言えるはずが無い。
もっとも、ごまかしの手段に関しては、納得は出来ないし今でもなんだか許せないのだが。・・・それは頭から追い出しておくことにする。今は非常時だ。
剣を投げつける合間に回復呪紋を唱える。術を発動させた直後に剣が戻ってくる。敵は強い。牽制でもまともに気を込めないと、牽制にすらならない。
遠距離からの攻撃をメインにしているだけのことはあり、怪我は大した事はない。だが、体力は着実に減っていく。アイテムも何もないのが痛かった。しかし、自分に回復をかけている暇はない。前線のアルベルは血を浴び、血に塗れている。引き付けてくれているといえば確かにそうで、痛々しくて放っておけない。結局また、剣を投げつけながら回復呪紋を唱える事になる。
どれくらい経っただろうか。
体力も気力も、もういい加減危なかった。気を抜けば目がかすむ。アルベルのほうも多分似たり寄ったりだろう。しかし敵の動きも鈍くなってきている。チャンスといえばチャンスだった。
ありったけの気力をかき集めて、剣を投げつける。それと同時に自分も前方へ疾る。尾の炎を避け、敵にダメージを与えながら戻ってきた剣を掴んで、息を吸い込む。
「鏡面刹!!!」
これで終わらなければ、自分たちの負けだ。負けるだけならともかく、おそらく死ぬ。そんな訳には行かなかった。気力と体力をかき集めるだけ集め、集中して繰り出す連続攻撃。ダメージは着実に入っている。しかし、ダメージだけではダメだ。敵が倒れるまでは続けなければ、自分たちが死ぬ。
「破ぁっ!!」
最後の気合で敵を吹き飛ばす。それと同時に、すぐ傍で猛烈な闘気が起こった。
「吼竜破!」
闘気で出来たドラゴン達が、一斉に敵目掛けて殺到していく。既にダウンしかけていたキメラも、今度はなす術なく闘気の奔流にさらされる。ドラゴン達が一匹残らず向っていったところには、尾が垂れ、膝をついたキメラが残っていた。あと一息。
「黒鷹旋!!」
「空破斬!!」
攻撃が当たったのは全く同時だった。ひとたまりもなかった、らしい。地響きと共に、敵が沈む。
荒い息をついて敵を見やれば、尾の炎は消え、息も止まっているようだった。
終わったのだ。
気が抜けた。膝は笑いが止まらないし、目はかすむし頭はぼんやりしている。しかし、ここで倒れるのは嫌だった。なけなしの気力だけで立って、アルベルの方を見やる。あちらの方も、さすがに息は荒かった。全身血塗れなのは仕方ないが、血の滴る様子を見れば、ふさがっていない傷も多いらしい。やっぱり無茶もほどほどにした方がいいのではないか、とぼんやりした頭で半ば呆れつつ、疲れのあまり良く回らない舌と動きにくい手で回復の呪紋を唱える。
「・・・・・・ヒーリング・・・。」
なんとか発動した術は、上手い具合にアルベルのほうに飛んでいった。呪紋が掛かる。確認すると、今度こそ力も気も抜けた。白濁する視界の中で、アルベルがこちらを向く。しかし、まともに確認する前に意識が蒸発していった。
ぺちぺちと、頬が何やら叩かれているらしい。
「おい、起きろっ!」
緩慢に、体も揺さぶられている。目をあけるのは正直面倒だった。瞼が重すぎて動かせない。諦めて他所に行ってくれ、とよくわからない声と手の主に思う。
「起きろ!聞こえてるんだろう?」
嗅覚が戻ってきた。なんだか血の匂いがする。怪我をしているのだろうか。治さないと。
重たい手を持ち上げて、声帯を震わせる。
「阿呆がっ!んなことやってる場合かっ!」
持ち上げた手がきつく握り締められた。固い。痛い。声も思い出した。これは・・・
「!」
思い出すと同時に、目が覚める。同時に、今まで何があったのかも思い出す。目をあけた先、残念ながら見慣れてしまった顔があった。片手はどうやらそれが握っているらしい。
「・・・・やっと起きたか。おい、戻るぞ。歩けるか?」
あたりの暗さからすれば、倒れてからさほど時間は経っていないようだった。少しだけホッとする。
「・・・ああ。手間かけたね。」
掴んでいた手が乱暴にほどけた。
「全くだ。自分の体力くらいわかっとけ阿呆。」
体は重いが、全く動けないほどではない。少しでも倒れていて体力が戻ったのだろう。ゆらりと立ち上がれば、少しめまいを感じた。・・・大丈夫だ。これくらいならとりあえず宿に戻れる。息をついていると、アルベルのほうもゆらりと立ち上がった。刀を杖にしているその足元は、血に塗れている。ふさがっていない傷がまだまだあるのだろう。比較的軽傷だった左半身で、崩れそうなその体を支えに掛かると、アルベルの右手が頭を押し返してきた。
「やめろ。倒れるぞ。」
「アンタがだろ。」
空いた手を動かして詠唱を始めようとすると、今度は肩から手が回って口がふさがれた。いささかムっとして抗議する・・・が、声にならない。
「いらん。倒れられる方が迷惑だ。」
そういわれると、・・・先ほどまで気を失っていた手前あまり反抗も出来ない。抗議をやめると、口を押さえていた手が離れた。その手を右手で捕まえる。
「おい。」
抗議の声にも構わない。
「私の方が、アンタより軽傷なんだよ。アンタ、それで歩くのは厳しいだろ?」
自分の体をアルベルの体の横に滑り込ませ、そのまま前へ。自分だけ歩くより、さすがに重い。ふらつく。それでも、何とかならない事もない気がした。大体ここまで来ると、無理に引き剥がせば結局2人で転んでしまうだろう。
さすがに解ったらしい。結局同じようにふらふら歩きながら、アルベルがぼそりと言う。
「テメェのほうが足元おぼついてねえぞ。自覚あるのか?」
「宿までたどり着ければいいんだよ。」
一歩ずつ、一歩ずつ。前を見たままで答えると、肩を抱かれるようにして引き寄せられた。勢い、体重の幾許かを隣に預けることになる。
「何の真似だい?」
転びそうになって歩みを止める。
「さあな。」
アルベルは構わずふらりと前へ進む。仕方ないのでついていく。しかし、これは・・・体重を少しでも預けているだけ、楽といえば楽だった。肩は貸したまま、というのは重みでわかるのだが、さっきより大分歩きやすい。
ただ、もくもくと先へ進む。お互いに体重を預けて、一歩ずつ。行きは大した事ない距離の宿が随分先に感じる。散歩のようにして出てきたのだが、まさかこうなるとは思わなかったな、とぐったりした思考が流れる。それと同時に、ふと疑問がわいた。
「ねえ。」
「あぁ?」
けだるそうな返事が返って来た。
「・・・・なんでこんな夜中に外にいたんだい?」
「・・・・・・・・どうだっていいだろう。ほっとけ。」
声の調子はかなりぐったりしているのに、言葉が荒くなっている。その様子に、何やら妙な既視感があった。少し冷静になって、その既視感を思い出してみれば、一つの予想が頭をよぎる。普段の態度からは想像つかないが、ない話ではない。
「・・・・・・・・・もしかして、・・・・剣の稽古かい?」
アルベルがいい勢いで振り向いた。
「テメェには関係ねぇだろうクソ虫がっ!」
間髪居れず一息でまくし立てるところを見れば、図星だったらしい。解りやすい反応に、思わず笑いが洩れた。
「何笑ってやがる。その首切り落とされたいか?」
ダルそうな声ですごまれても、あまり現実味はない。怒っているのはわかるのだが。
「いや。・・・ん、アンタも何気に努力家なんだねえ。」
笑いながら言えば、息切れと疲れでぐったりした声で怒鳴られた。
「るせぇっ!大体、テメェこそなんであんなとこにいたんだ!」
「っ!」
今度はこっちが赤くなる番だった。
あんなところに居たのは、決してキメラなんかと戦うためではなく、・・・・
「ね・・・眠れなかったんだよ。私はこれでもアンタよりは考える事が多いんでね。」
そう、平静を装って嘯いてみせる。
「フン。あの弾の勢いからすれば、何かの八つ当たりなんだろう?」
「ぐっ・・・!」
この男はなんでそんな細かいことまで覚えていて、なんでここまで微妙な洞察ができるのだろうか。半ば当たっているあたりが腹立たしくもあり、苦々しくもあり、・・・少し感心するところでもある。
ネルは、無理矢理息をついた。
「・・・そ・・・う像に任せるさ。いいんだ。さすがに今夜はぐっすり眠れるだろうからね。」
言ってみせれば、少し気が楽になった。
そうだ、もう眠れるだろう。もやもやしていたものも、先ほどのキメラとの戦いで吹き飛んだ。成り行きとはいえ、なんだかんだで大部分は納得がいっている。今は疲れているのと達成感と相まって、少し清清しいくらいだ。
アルベルが息をつく。
「・・・・そいつは同感だ。」
むしろさっさと寝たい、とその声は言っていた。
支えあうようにして、一歩ずつ着実に前へ進んでいく。
宿屋の小さな明かりは、もう、すぐそこに見えていた。
ネルさんをかっこよくかわいく!と念じてたんですが、結果はこの通りです。この2人ってばやっぱり難しい・・・(汗)
良い所とかちょっとした気持ちとか思いやりとか、見えてないとか解ろうとしてないとか認めてないとかがお互いに多いような気がしてます・・・この人たち。後ろには結構色々あるんだろうな、て思うのですが。結局、外からの色々なことに助けられて、ちょっとずつ歩み寄っていく感じなんだろうなあ・・・多分。