夕闇迫るその場所で、彼と彼女は向き合っていた。
・・・ああ、またこの夢か・・・
「如月君・・・私・・・その、・・・あなたに・・・その・・・」
うつむき加減の顔。
いつもしっかりしている彼女とは、大分雰囲気が違った。
「どうかしたのかい、君らしくもない。」
・・・何を言ってるんだ自分!その後の結末はわかってるだろう!?
しかし、思うようになるわけがない。これは、夢である。
「あの・・・・あなたに・・・・伝えたいことが・・・あるの・・・」
そこまでいうと、彼女は意を決したように顔を上げる。
どこからか流れてくるBGM。今回はなぜかマンボNO.5である。
そして、そこにあった顔は「彼女」ではなく、「彼」だった。
停止する思考。
「HAHAHA!ユビーワ、1万デ売ッテクレレーバ、ボクもHAPPY、ユーも、HAPPYネ!」
まぶしいほどの笑顔。
・・・ああ、指輪を1万で売れば僕は幸せになれるのか・・・
固まった頭の底で、ふとそんなことを考える。
「わかった、1・・・」
・・・って何考えているんだ、自分!!
「邪妖、滅殺!」
骨董屋の彼は泣きながら奥義を繰り出していた。
・・・ああ!どうなっているんだ僕の思考は・・・
思考回路はショート寸前である。
全身に水をかぶって目が覚めた。
「ぐっ!?・・・・夢か・・・」
あたりはまだ暗い。時計を見ると丑三つ時もいいところだった。
・・・何だったんだ、さっきの夢は・・・
「夢は深層心理を映し出すんだよな〜」
夢・・・夢は深層心理を映し出すという事をどこかで聞いたような。
・・・・・・き、気にすることはない。たかが夢だ・・・
「あんまり馬鹿にできたものでもないのよね〜・・・うふふふ〜・・・」
・・・いや、僕は気にしないぞ・・・ってあの笑い声は・・・!
天井裏から聞こえてくる怪しげな笑い声。人の気配はしないのだが。
「はっはっはっはっは、これでうまくいけばいいんだけどな!」
・・・・・・・・・!?
シュン!
忍び刀を音が聞こえてくるほうに投げつけると、天井裏から(どういうメカニズムでか)ラジカセが落ちてきた。
「うふふふ〜・・・ノイローゼになるのが早いかもしれないわよ〜・・・?
それならそれで、興味深い材料なんだけど〜・・・」
「いや、今奴にぶっ倒れてもらっちゃ困るし。ちょうどいいところで手加減をしてだな・・・」
未だに再生を続けるラジカセ。
今や彼は、悪夢の原因をしっかりと理解していた。
夕刻。威勢のいい音がして、店の戸があけられた。
「如月!今日も元気に商売してるか?!」
すがすがしいほどの笑みを浮かべた龍麻である。
「・・・よう、龍麻。ちょうどいいところに来てくれたな。」
「ん?なんかいいことでもあったのか?」
いつもの調子で笑顔を向ける。その目の前に彼はあるものを取り出した。
「これに見覚えがないとは・・・言わせないぞ。」
悪夢の元凶、ラジカセである。
「あ、気付いたのか。」
「しっかり聞かせてもらったよ。サブリミナル効果を期待したマインドコントロールのつもりだってね?
君のアラン君の声まねはうまかったけど。 残念ながら、僕はあれしきで倒れるほど軟弱な神経は持ち合わせていないよ。」
「・・・実験と実益を兼ねたいい方法だと思ったのに・・・無駄に鋭いぞ、お前。」
ぶちぶちと文句をいう。盗人猛々しいとはこのことではないだろうか。
「何とでも言いたまえ。もう、君の実験に付き合うつもりはない。」
「けっ、・・・わかったよ。もうしないさ。・・・ところで如月。」
「なんだ?」
「伏姫の指輪、俺に1万で売ったらきっと幸せになれるぞ。
というわけで売れ、1万で(にっこり)。」
「ああ、わかった。」
カシャリ。
「そうか、さすがは如月♪商人の鏡だ♪」
「いや、それほどのこともないさ。」
昨日の指輪の入った箱を取り出す。
「これだね?」
燦然と輝く伏姫の指輪。
「そうそ。じゃ、代金はここにおいとくな。ありがとさん♪」
龍麻は代金(1万円)を置き、指輪を取ると足取りも軽く出て行く。
「ありがとう、また来てくれるな?」
「もちろんさ♪」
返事が風に乗って聞こえてきて・・・はたと気がついた。
・・・売ってしまった・・・いつの間にか・・・
台の上には1万円。さっきの指輪は60万。
「龍麻ー!!!!」
持ち前の行動力で一気に距離を詰めると襟首をつかみ上げる。
「うぐぁっ・・なんだよ、一体・・・」
「とぼけないでくれ。さあ、さっきの指輪を返してもらおうか。」
「金は払っただろ!」
ジタバタと暴れる・・・が放っておく。
「あと59万ほど足りないよ。」
「お前さっき1万でいいって・・・」
「言ってない。」
「じゃあ、これはなんだ?」
カチッ。
『ところで如月。』
『なんだ?』
『伏姫の指輪、俺に1万で売ったらきっと幸せになれるぞ。
というわけで売れ、1万で♪。』
『ああ、わかった。』
ガシャッ。テープが終わる。
「そんなものまで・・・」
「一般常識だろ。」
絶対に違うのだけは間違いなさそうだが。彼はとりあえず呆然とするしかなかった。
「じゃあな〜。」
その間に龍麻は人ごみの中に消えていく。
「不覚・・・・!!」
旧校舎で拾ったものだったと言うのがせめてもの救いだろうか。
後には血の涙を流してたたずむ彼の姿があるだけだった。
真神学園・霊研部室内。
「うふふふ〜・・・どうやらうまくいったみたいね〜・・・?」
「おう♪このとおりきっちりせしめてきたぜ♪
なんだかんだ言っても如月って単純だよな〜。あっさり引っかかりやがった。
ミサの言うとおりこんなもん隠し持ってやがるし。」
数日前、最近なんか強い力を如月が拾ったらしいと裏密が告げてから、彼はいろいろと工作を重ねてきたのである。
『守銭奴の奴は絶対に高く売りつけるに違いない』というちょっぴり偏った認識の下に。
「ほい、指輪。部室貸してくれてありがとな。」
「うふふふふ〜、ありがと〜・・・これぐらいなんでもないわ〜。結構楽しかったし〜・・・うふふふふ〜」
「また、頼むぜ。頼りにしてるぞ、ミサ♪」
「それは〜・・どうかしらね〜・・・うふふふ〜・・・・」
「そういうところが、またミサらしくっていいんだよなー!
うーん、俺はいいパートナーを見つけたもんだぜ!」
「うふふふふ〜・・・褒め言葉だと思っておくわ〜・・・」
「はっはっはっはっは、ぜひともそーしといてくれな!」
薄暗い影の中に二人の笑い声があったのだった。
朧EDで大爆笑したのも過去の話。今彼にあっても、生暖かい視線で見守る事が出来るでしょう。
さて、以下数年前の私のコメント。
よい子は真似しないように。多分犯罪ですから・・・
裏密さんの会話は書いてて楽しいです♪
「まけろ〜値引きしろ〜」という文句を龍麻がその辺にあったテープ(何か入ってた)に入れたため、 奇妙なBGMが入ってしまったという裏もあります。これだけ書き損ねちゃったのでここで。