夕闇迫るその場所で、彼と彼女は向き合っていた。
「如月君・・・私・・・その、・・・あなたに・・・その・・・」
うつむき加減の顔から表情を読み取ることは難しい。
しかし、いつもしっかりしている彼女とは、大分雰囲気が違った。
「どうかしたのかい、橘さん。君らしくもない。」
「あの・・・・あなたに・・・・伝えたいことが・・・あるの・・・」
そこまでいうと、意を決したように顔を上げる。
上気した頬。眼鏡の奥に見える瞳には、固い決意が宿っている。
そして、見つめあう瞳。
どこからか流れてくるBGM。
「まけて・・・お願い・・・!」
「はあっ?」
最高潮のBGMと共に発せられた言葉に、骨董屋の彼は間の抜けた声しか返すことができなかった。
「!?・・・・夢か・・・」
外からは雀の声が聞こえてくる。
・・・何だったんだ、さっきの夢は・・・
夢・・・夢は深層心理を映し出すという事をどこかで聞いたような。
・・・・・・き、気にすることはない。たかが夢だ・・・
されど夢。そんな言葉が頭をよぎる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・忘れよう。
頭を振って体を起こす。彼は顔を洗うべく洗面所に向かった。
夕刻。威勢のいい音がして、店の戸があけられた。
「如月!今日も元気に商売してるか?!」
「うふふふ〜・・・こ〜ん〜に〜ち〜は〜・・・・」
現れたのは、真神の制服×2。
「よう、龍麻・・・と裏密さん。いらっしゃい、今日は何の用だい?」
この二人だけで来るとは、珍しいこともあるものである。
「あのさ、指輪。なるべく凶悪な奴。」
『凶悪』という言葉に裏密が反応した。
「あ〜、ひ〜ど〜い〜。悪魔だってかわいいじゃな〜い。」
「何いってんだよ、ミ・サ★見た目じゃなくって攻撃力のことさ。 あんなかわいい悪魔達を俺が凶悪だなんて言う筈ねえじゃねーか♪」
龍麻が爽やかな笑みを浮かべ、裏密の額をピンッと突付く。
常人には・・・絶対に無理な行動。
「あら〜、そうだったの〜。うふふふ〜、ひーちゃんってやっぱり良き理解者だわ〜♪」
「はっはっは、ミサのことなら何だってお見通しさ♪」
「も〜・・・ひーちゃんったら〜・・・うふふふ〜・・・」
・・・なんだかすごいものを見ている気がするんだが。
「ゆ、指輪だね・・・」
持ち前の商人根性で停止しかける頭を無理やり動かし、指輪類の入った箱を持ち出す。
「こんなのはどうだい?」
「ん?どれどれ・・・」
「うふふふ〜・・・どんなのがあるのかな〜?」
箱を覗き込む店主と二人。
「こっちがついこの間まで舞園さんが使っていた紅石英の指輪で、結構在庫があるから 7万ぐらいだね。これは、前に美里さんが使っていた翠玉の指輪で在庫が少ないから・・・」
「いちいち値段と共に説明してんじゃねえ。」
「何もいわなかったら君はお金を払わないだろう?それで、こっちがこの間拾った伏姫の指輪。 多分これが一番強いんじゃないのかな。値段は60万はくだらないけど。」
何かの力を煌かせて光を放つ不思議な指輪である。
「そうね〜、これは〜・・・かなり強い力を持っているわ〜・・・」
「ミサ、これがいいのか?」
「うん〜これがいい〜。」
ニィ〜っと裏密が龍麻に笑いかけ、それに龍麻が微笑み返す。
普通なら、ほほえましい光景なのだろう。
だがこの場合、なぜか背後に何か黒いオーラが見えそうな気がした。
しかし、お客様は神様だ。引きつりかける顔を戻しながら声をかける。
「じゃあ、これで決まりだね?」
「おし、これにする。6万でいいな?」
「桁がひとつ違うな。60万だよ。」
「どうにかまからないか?」
龍麻はいつものように値切ろうとする。
だが、今回は頭の中に何か引っかかるものがあった。
「・・・まからないよ。こっちも生活がかかっているんでね。」
・・・なにか、あったか?
なにもなかったはずである。
「・・・高すぎだぞ。これじゃ買えねえじゃねーか。ミサもこまるだろ?」
裏密に話しかける龍麻。裏密が口を開く。
「う〜ん・・・如月君〜、まけて〜、お〜ね〜が〜い〜」
『まけて・・・お願い・・・!』
脳裏にフラッシュバックする夢の中の橘の言葉。
BGMまで思い出してしまう。リチャード・クレイダーマンの「渚のアデリーヌ」。
・・・ああ、なぜ曲名までわかってしまうんだ僕は?
『夢は深層心理の・・・』
・・・違うっ、断じて違う!
混乱した頭、錯綜する思考。
「おーい、如月ー?」
龍麻の声ではっと我に返る。
「あ、ああ、なんだい?言っておくけど、まける気はさらさらないからね。」
「ちっ、この守銭奴め。
・・・まあいいか。今日のところはあきらめるさ。」
裏密にアイコンタクトすると、二人はおとなしく出て行った。
・・・今日は、もう店じまいして寝よう・・・
なんだか恐いものもたくさん見た気がする。
なぜだかショックも大きかったし・・・。
わけのわからないことにショックを覚えている自分にさらにショックを覚えながら、骨董屋の彼は店の戸を閉めたのだった。
真神学園某所の闇の中。
「うふふふ〜・・・実験はどうやら成功したようね〜・・・?」
「確かに効いちゃいたみたいだが・・・くそっ、値切れなかった!!」
「どうする〜?もう少しやってみる〜?効果があるとは思えないけど〜」
「やる。値切れるまでやる。手伝ってくれるな、ミサ?」
「うふふふ〜、ひーちゃんの頼みだもの〜、聞いてあげるわ〜」
「さすがは俺のパートナーだな!」
「うふふふ〜・・・なんだか〜ドキドキする〜・・・」
怪しげな二人が新たなる策謀をめぐらせていた。
東京魔人学園より・・・以下数年前の私のコメント。
長くなったので途中までで、続きます。ゲームしてたら結構楽しかったのでこんなものが。
ちなみに、値段設定はかなり適当(^^;さすがに良く覚えてなかったので。
龍麻君が裏密さんと仲良しなのは、私のデータがそうだったからです。
で、思いつくのはギャグばかり・・・
ちなみに、別にカップリング話書きたかったわけじゃないです、念のため。