「天使様、レイヴ様から面会の要請が来ているのですが・・・」
机について報告書と格闘していたウィルは、怪訝そうに顔を上げた。
「レイヴから?・・・私、昨日行ったばっかりなんだけど・・・
何かあったのかな。」
「いえ・・・いつもと、あまりお変わりにならないようでしたけど・・・
ただ、なるべく早く来てほしいとの事です。」
・・・そりゃ、そうか。
レイヴに関して言えば、基本的にいつも顔つきは変わらない。
たま〜に表情が変わる事もあるが、普通なら絶対にわからないだろう。
「なるべく早く、か。
了解。じゃあ、行って来るから留守番お願いね。」
ガタンと席を立って、意識を集中させる。
次の瞬間、ウィルの姿はベテル宮から消えていた。
「レイヴ?」
「・・・!?」
声と一緒にウィルは・・・事もあろうに素振りをしているレイヴの内懐に現れた。
「!?」
振られていた剣は、間一髪でとまる。
そのまま、驚きの沈黙がしばらく。
やがて、レイヴは少し息をついて、言った。
「・・・・・・いきなり出てくるな。出てくるなら場所を選べ。」
「・・・・・・・・・・・・・そ、だね。ごめん。」
・・・やっぱり・・・瞬間移動は今度からやめよう・・・
心の中で強く決心してみたりする。
これはさすがに気まずいし、調子が悪いし、恐い。
腕の中から抜け出て、少し距離を置いた。
「で・・・今日は、何があったのさ?」
意識を切り替えて、そうたずねると、珍しくレイヴの表情が変わった。
「・・・・・実は・・・お前に頼みたい事があるんだが・・・」
「何?できる事ならやるけど。」
あまりにも言い難そうにしているのを見ると、何があったのかと思ってしまう。
「・・・・・・・・いや、大したことではないのだが・・・」
「だから、何?そんな遠慮しなくても、レイヴの頼みぐらい聞くってば。
子守から店番まで、大丈夫だからさ。」
ぐっと握りこぶしを作って見せると、レイヴの様子が少しだけ元に戻った。
「・・・すまんが・・・
・・・・・・今度の夜会に一緒に来てほしい。頼めるか?」
「夜会ね。了解。」
「・・・・・助かる。」
「いえいえ、これぐらいなら大丈夫・・・って・・・」
ひらひらと手を振って、・・・・内容に気付く。
「夜会!?ちょっと待って、シーヴァスじゃあるまいし、何でまた!?」
「・・・やはり、駄目か・・・?」
「いや、そうじゃないって。
行く。言ったからには行くけど・・・理由聞いていいよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
また、その場を沈黙が支配した。
「・・・・・あの、レイヴ?言いたくなければ言わなくても・・・」
「・・・・・俺は、ああいう場は苦手だ・・・だが、断れないものもある・・・・」
「え・・・?」
「・・・・・・・声をかけられるのも、職務のうち・・・だが、正直煩わしい。」
「はぁ・・・」
「・・・・・殊に・・・・・・女に声をかけられるのは・・・」
その言い難そうさはピークに達しつつある。
・・・なるほどね。
大体全容は分ってきた。
「つまり、いわゆる『虫除け』になれって事?」
「・・・・・・・・そこまでは・・・・・・いや・・・・・・そうだ。」
言う事を言ってしまったおかげで、少しだけ表情に安堵が・・・見えたような気がしないでもない。
「んな無理しなくても、それぐらいだったら引き受けるよ。
要するに、近くにいればいいんだね?」
一息つくと、レイヴは頷いた。
「・・・ああ。
お前は・・・その、その辺の女達とは違う。・・・
なんというか、その・・・女に見えんからな。」
つまり、だから一緒にいても苦にならないとか気にならないとか言いたいらしい。
「はいはい、褒め言葉と受け取っとくよ。」
「・・・・・・・・・ああ。」
「で、いつ?私はどこに行けばいいのさ?」
「明日の夜・・・・城に来てくれ。多分・・・日付が変わるまでには終わる。」
任務地の打ち合わせをするかのような口調に戻ると、表情もまた無表情に戻った。
「はいな、了解。
今日はそれだけ?」
「・・・・・・ああ。」
「そう。じゃあ、また明日ね。」
「・・・・ああ。頼んだぞ。」
了解!と手を振って、宙に舞い上がる。
報告書の締め切りはいつだったか・・・などと思いながら。
そして、次の日の夜。
城の中の一室で、見つめあう二人の姿があった。
「・・・・・・・・馬子にも衣装だな。」
「・・・・・・柄じゃないけどさ。これでおかしくないんじゃない?」
くるり、と一回りするのはウィル。
薄い空色のドレスが、下ろした金髪と一緒に舞う。
「・・・ああ。・・・すまんな。」
「いいって、これぐらい。レイヴの頼みだから、一肌ぐらい脱ぐよ。」
「・・・・・すまん・・・
・・・では、行くか。」
手が差し出された。
・・・ああ、そっか。
これが、礼儀というものらしい。
「じゃ、頑張ろうね。」
言って、手をとる。
気分は戦闘開始、だった。
Favorite Dearより、ガサツ天使ウィルちゃん&隊長さんの熱烈友情モノ(のはず)。
アレな設定を出してしまうとすれば、ウィルってばFavorite Dearの続編の話で使ってた子なので、この話は仲良しに見えても中身は友情モンというスタンスがあったはず。
彼女の本来の相手さんは、なんつーかこう・・・前も思ってたけど今でも思う・・・どーしようもない感じの人だったんですよね。ものすっごい好きなんですが・・・「すっとこ勇者」の愛称で親しまれてたなぁ(違)
話のほうは二人で夫婦漫才繰り広げてたような・・・微妙ラブで読み返せなかったんですけど。