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プレゼント:side ティータ(空の軌跡)
「それじゃ、また来て下さいね。」
「ああ。」
ぽんぽん、と頭をなでられる。
「またな。」
そう言って、アガットはいつものように出て行った。
ぼんやり、その光景を見送る。
まだ、少し感触が残っていた。
頭の上にはごわついた手袋の感じ。少し肌に触れたところは、毛羽立った皮でざらつく感じ。
いつもと同じ、少し安心する感じ。
なんとなく、頭に手を載せてみる。と、ざらり、と感触があった。頭の上の粉をぱたぱたと払い落として、ふと思う。
・・・そういえば、結構くたびれてるのかな。
あの手袋は、重剣を振り回す手を守り、仕事に飛び回る主人についていき、もしかしなくてもかなり使い込んでボロボロなのではないだろうか。
いつもお世話になっているし、ずっと気にかけてもらっていることだし。
よし、とうなづく。明日の予定がひとつたった。

父の部屋を探すと、遊撃士時代に使っていたと思しき手袋が出てきた。くたびれたというより、長年しまいこまれていて古びたそのグローブは、それでも見るからに頑丈そうだ。ただ、父が使うのはエステルと同じく棒術。アガットに渡すなら、もう少しゴツい作りのものがいいだろうと思う。
大体の想像はついた。とりあえず参考にそれを手に持って、ティータは武器屋へと赴いたのだった。
「いらっしゃい。おや、ティータじゃないか。今日はどうしたんだい?」
店の主人がそう出迎える。ティータもぺこりと頭を下げた。
「こんにちは。ええと、こんな感じのグローブを探してるんですけど。」
父のグローブを見せると、武器屋の主人はしみじみとそれを眺めた。
「ああ、お父さんにプレゼントかい。でもそれは技師用じゃなくて遊撃士用みたいだが。」
グローブの持ち主をあっさりと割り出し、店主が尋ねる。
「そうじゃなくて・・・あ、でも、遊撃士用を探してるんです。えっと、なるべく頑丈そうなのがいいんですけど。」
店主は少しだけ不思議そうな顔をしたが、あっさり頷いて言った。
「ふむ、遊撃士用で頑丈なもの、ね。・・・ちょっと待ってな。」
ええと、これとか、これと・・・ああ、これもかな。
屈んだり立ち上がったり背伸びしたりして、店主はいくつかグローブを出してきた。
「この辺りになるかな。好きなのを選ぶといい。」
「あ、ありがとうございます!」
質実剛健、という言葉がしっくりくるようなラインナップ。ただ、工房で開発したらしく機能性を追及したものや、職人の技が光るようなものまで幅広い。
「んー・・・。」
悩み、迷う。店主がほかの客の相手をしているときも悩み、見比べて。やっと手にしたものは、結局機能性より何より頑丈で長持ちしそうな職人のものだった。・・・少しでも長く使ってほしい、と思ってしまったのが決定打だ。
「すみません、これにします。」
棚の整理に入っていた店主に声をかける。店主は、整頓の手を休め、こちらに戻ってきた。
「おお、やっと決まったかい。・・・どれどれ。」
はい、と渡すと、店主は顔をほころばせた。
「なかなかいいものを選んだな。ティータは見る目があるよ。」
「えへへ・・・、ありがとうございます。」
会計を済ませ、品を受け取る。家への足取りは軽かった。
家に帰り、棚のところに仕舞っても、ついついそちらばかり見てしまう。
喜んでくれるといいな、と。そう思っていたら、ふと思いついた。
封をそっと開けて、手袋を取り出す。
頑丈でゴツい・・・だけど柔らかなその手袋なら、なんとかできそうな気がした。
裁縫道具を出し、適当な布を引っ張り出し、ペンを持って。
ご満悦で小さく笑って、その細工は完成した。
元通りに封をして、包みを抱くと、また笑いがこぼれてくる。
「・・・アガットさん、早く来ないかな。」
次の来訪はいつだろう。
いつもより、ずっとずっと。それは待ち遠しくて仕方がない事なのだった。

→「プレゼント」(空の軌跡)に続く
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