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trust you :side アルベル(SO3)
二人はボロボロだった。
突発的戦闘を二人で切り抜けたせいだ。相手も悪かった。生きているだけマシ、級の身体を引きずり宿に戻る。

ネルがドアをあけると、内側から温かい光がこぼれ出してきた。
「・・・つい・・・た・・・」
もつれるように玄関先に倒れこむと、どたばたと音がして、視界に影がさす。
「なっ・・・」
「何やってたんだお前ら!?」
他のメンバーの声。どうやら皆起き出していたらしい。物好きな事である。
「酷いわね・・・ソフィア、回復お願い。私は薬を取ってくるわ。」
「う、うん!わかった!」
それらの声は、どんどん遠くなっていく。
「アルベル!?」
耳元で聞こえる、ネルの声。
意識の片隅で、珍しいこともある、とどこか冷静な考えがよぎる。それを最後に全てが急速に白く遠くなっていった。


何か、知ったものをみたような気がする。
今まで手に掛けてきた敵。死んだと聞かされたヴォックス。炎に捲かれて死んだ父。
妙に白っぽい、虹色とも暗闇とも光ともつかない空間で、何故だかそれらは自分を呼んでいた、ようだった。・・・全ては曖昧だ。
ただ、呼ばれると行きたくなくなるのは人情である。さっさと踵を返すと、足元にあったらしい穴だか段差だか崖だかに落ちた。
体の痛みに目をあけると、そこは崖下・・・ではなく、やはり白い空間。
「あ・・・!」
聞き覚えのある声。のろのろとそちらに頭を動かすと、赤い髪の女が微笑んだ。
「・・・よかった、気がついたんだね。」
誰だ、コレは。
ぼんやりした頭は、まだ現況を理解しては居ない。
「失血死寸前だったんだ。全く、アンタがしぶとくて助かったよ。」
そう、息をつく。
水を持ってくるとか何とか、そう言って視界から消える女。
ひとつ瞬きする間に、思い出した。
ネルだ。
確か、剣でも振ってこようと外に出て、ネルと出くわして、キメラと戦って、宿まで・・・
戻ってからの記憶がない。ここは、確かに宿なのだが。
「俺は・・・?」
「2日寝たきりだったんだよ。」
「・・・・・・。」
辺りは部屋の明かりのみの明るさだ。とすると、今は夜なのだろうか。
身体を起こそうとすると、少々手荒にベッドに倒された。
「まだ駄目だ。傷も塞がり切れてないし、しばらくは地味に回復するんだね。」
ほら、水。
渡された水差しで水を飲む。ネルが横で口を開く。
「先に謝っとく。ごめん、私の力不足でアンタを殺しかけた。」
「・・・テメェ頭でも腐ったか?」
それは口をついて、出てきた。
「そんな事考える暇があるなら鍛錬にでも励んでやがれ阿呆が。」
寝起きだというのに、不愉快だ。水差しをサイドテーブルに放り出す。
「お前なんかに殺されかけただ?冗談じゃねぇ。俺が死に掛かったのは、テメェの実力不足だ。」
ネルは沈黙のままだ。
「・・・解ったら、つまんねえこと考えてないでさっさと消えろ。」
そう言うだけ言って、寝返りを打つ。目を閉じる。
がた、と小さく音がした。席を立ったのだろう。少しして、小さなささやきが聞こえた、気がした。
「ヒーリング」
暖かい何かが全身を包む。身体が少し楽になり、その感覚に身を浸し、・・・そして我に返る。
「阿呆!何やってる!」
「うわっ!?」
がば、と起きて、ネルの口に手を伸ばす。・・・そこで、全身に痛みが戻ってきた。一瞬固まりかけて、意地で手を下ろす。
「アンタこそ何やってるんだい!?起き上がるなって言っただろう!」
ばたん。また転がされる。体中痛い。
「・・・阿呆が。また倒れたかったのか?」
元通り寝た格好に戻る。
「倒れるって・・・」
ネルは当惑したように眉をしかめ、そして、息をついた。
「・・・私は外傷はアンタほど酷くなかったからね。一日寝てたら全快したよ。」
内心、・・・少しだけほっとする。
「・・・・・・意外にしぶとかったんだな。」
「アンタほどじゃないさ。解ったらもう一度黙っといてくれるかい?」
ぼそぼそぼそ、と聞きなれた韻が踏まれ、もう一度、身体を暖かいものが包んだ。
「・・・・・・。」
「これで、少しは楽に眠れるだろ。・・・おやすみ。」
そう言うと、ネルはそのまま明かりを消して部屋を出て行った。
暗がりに一人残される。
攻撃にサポートにと飛び回り、呪紋をかけ続けていた姿は今も鮮明に残っていた。ただ、回復の力に包まれて振り向いた先、倒れていったネルの姿はそれよりももっと強く残っている。背筋が寒かったあの光景。おまけに、やっと気づいたかと思ったら、朦朧としながら回復を掛けようとしていた。あれは完全な救いようのない阿呆だ。
ついてくるのもこないのもあちらの勝手だ。その結果がどうあろうがこちらが知ったことではない。
ただ。・・・自分にもう少し力があれば、こんな無様な姿を晒す事はなかっただろうし、ネルが倒れるまで戦わせることもなかったかもしれない、とは思わなくもない。悪いことをしたとはこれっぽっちも思ってはいないが、こちらが倒れた時に辛気臭い顔をされるのは嫌だった。お前のせいじゃない、といったって、あの性格ならきっと理解できないに違いない。つくづく面倒な奴だと思う。
目を閉じて、息を吐いた。

・・・強くなりてぇなぁ・・・。

何度願ったか解らない願いは、また身体を通り過ぎていったのだった。


→「trust you」(SO3) 後日談
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