片手に大物、もう片手にも荷物。力仕事は苦にならないのだが、人目は気になった。夕暮れ時、あまり人気の無い薄暗い道を選んで目的地に到着する。キリカの言ったとおり、なるほど、在宅のようだった。
ベルを鳴らそうとして、・・・一瞬、何と言ったものか考える。別に仕事ではないし。今日は来る予定でもなかったし。
しかし、ここで棒立ちしていてもただの不審人物だ。
息をついて、呼び鈴を押す。
「はーいっ」
聞きなれた返事と、走ってくる足音。相変わらずらしい。
「どちらさ・・・・!?」
ドアが開いた。
「よう。元気にしてたか?」
荷物を見て固まっていたティータが、こちらを見上げた。
「え、あ、・・・・」
驚いているのが手にとるように解る。見上げたまま口をパクパクさせているティータに視線を合わせた。
「いきなり来て悪かったな。・・・誕生日おめでとう、ティータ。」
「・・・え・・・うそ・・・ほんとに・・・?」
ティータの顔がゆがんで、そのまま抱きつかれる。間の大物のおかげで、バランスが崩れかけた。
「おい!?」
「・・・・アガットさんだ・・・!」
くっついたまま離れない。片手の荷物をとりあえず置いて、金色の頭を撫でていると、奥から博士が顔を出した。
「ティータ、誰だったん・・・?・・・っと、なんじゃ、おまえさんか。」
「よう、じいさん。元気そうで何よりだ。」
顔を上げて、首だけで挨拶する。ティータはようやく我に帰ったらしい。
「あ、すみません、ええと・・・。」
体を離し、何といったものかと、少し思案するように一秒。
「こんばんは、アガットさん。・・・その、ありがとうございます。」
照れたように顔を赤くして、ぺこりと一礼する。
「いや、礼を言われることじゃねぇよ。ほれ、こっちはアネラスとキリカからだ。」
横に置いていた包みを差し出すと、ティータは嬉しそうにそれを受け取った。
「で、こっちは俺からだ。」
抱えていたぬいぐるみを渡すと、ティータの顔つきが変わった。
「・・・これ、アガットさんの家にあった物ですよね。・・・ミーシャさんのじゃないんですか?」
「・・・やっぱり、気付いてたのか。」
自分では気付けなかったそれに、やはりティータは気付いていた。苦笑いが洩れる。
「古ぼけてて悪」
「そんな問題じゃありません!大事なものじゃないんですか!?」
終いまで言う前に、顔を真っ赤にして噛み付かれた。
「簡単に人にあげたりするものじゃないと思います。なんでこんなことするんですか?」
「・・・落ち着け。」
ぬいぐるみを返そうとするその手を押し留める。
「いいか?
・・・これな、焼け跡から奇跡的に見つかった奴を、村の奴らが修繕してくれてたらしい。」
目を見て、ゆっくり話す。
「でもな、俺はそれに数日前まで気付けなかったんだよ。」
この間の旅の時、家に入ったときすらな。
声に出して言えば、それはやはり情けなかった。しかし、だからこそ、このぬいぐるみはここにある。
「だが、お前はこのぬいぐるみに気付いたんだろう?腕に巻いてたリボン、お前のじゃないのか?」
「あ・・・。」
ティータが小さく声を上げる。小さく頷くところを見れば、どうやらリボンの持ち主も間違っていなかったようだった。
「だから、お前のところに持ってきた。家族だってのに10年以上も気付かなかった俺より、お前に持っててもらった方がいい気がしてな。」
「でも、大事なものでしょう?」
不安げに見上げるその顔に、頷いてみせる。
「ああ。だからティータにやるよ。ミーシャにも言ってきた。・・・大事にしてくれると有難いが、無理は言わねぇ。」
頼めるか?
そう訊くと、ぬいぐるみはアガットの手から離れていった。ティータがぬいぐるみを抱きしめてこちらをまっすぐに見つめる。
「ありがとうございます・・・大事にします。・・・アガットさんと、ミーシャさんのぶんまで。」
ちょこん、と頭を下げて、ティータはそのままぬいぐるみに顔をうずめた。
「こちらこそ、ありがとうな。頼んだぞ。」
「はい・・・はい・・・」
その頭を軽く撫でる。ティータは何度も何度も頷いているようだった。
今、ティータの部屋には、大きなぬいぐるみが二つ並んでいるという。
彼女は、その片方を抱く時、とても安心した表情をしているらしい。
もう片方を抱く時は、とても幸せそうな表情をしているという。
そして、彼女はその両方を、とてもとても大事にしているということだ。
アガットさんとティータには周りの人の好意とか、いっぱい受け取って幸せになってほしい・・・という願望です。丁度4周年で自分のサイトもハッピーバースデーだったので、かぶせて書いてみたのでした。
読んだ誰かが、少しでも幸せを感じてくだされば幸いです。