あけましておめでとうございます。
「エスト兄さん、誕生日おめでとう」と伝えておいてください。
もうそろそろ春でしょうか。
麦がもう実っている頃かもしれないですね。初夏の麦畑は本当に綺麗なので、一度見に行って欲しいです。
あ、そうそう。レムオン、誕生日おめでとう。 ……』
・・・二週間ほど前に久々に届いたその手紙には、半年分の時候の挨拶が羅列してあった。差出人はどうやら別の大陸に渡ったらしく、『いつ届くかわからないから、とりあえず書いておきます』と言い訳めいた事も書いてある。手紙の日付は年末で、当人には確かにもう一年は会っていない。
たまには帰って来いと連絡を入れたくても、心配していると伝えたくても、海賊経由で海を渡った差出人に連絡を入れる術はなかった。
執務机の上、書類の山に埋もれない特等席に常に置いてあるその手紙を、また読み返す。
『こっちは星空も違います。光の帯が頭の上を横切ってるみたいでとても綺麗です。
町の風景も、目新しいものばかりで面白いです。レムオンにも見せてあげたいです。』
いつ読んでも、子どものように町に感動している顔が浮かぶようだった。
子どもっぽさを感じさせるのは、子どもの作文のような手紙の文面のせいもあるだろう。現実に顔つき合わせてこんな話し方をすることはまずない。もう少し、いやかなり、荒っぽいはずだ。もっと、こう・・・そこまで思い至って、その口調も具体的に思い出せない自分に気づく。
・・・一年は、長かった。それは動かない事実。
ふ、と息をついて手紙を置く。・・・何か、無性に外の空気が吸いたくなった。
テラスに出て、月明かりに銀の髪をさらす。二階にあるとはいえ気温も湿度も階下とあまり変わりはなく、ここも夏の入り口の湿った空気が外を支配していた。
息を吸う。と。
「おーい。レムオン!」
深呼吸の最中。女の声が、自分の名を呼んだ。
思わず咽た。
「大丈夫かい?」
その声の主を探す。テラスの真下で手を振っているその姿は、すぐに見つけることが出来た。今しがた想っていた、待ち望んでいた相手だった。数メートルの距離がもどかしい。かといって、戸口に回る時間も惜しい。目を離したら消えるのではと、過去の経験はそんな警告まで出している。
結局、そのままテラスから飛び降りた。
「・・・豪快になったね。」
芝の上に着地すると、呆れたような声が出迎える。
「テレポートでもなんでも使えばよかったのに。」
「手段など何でも構わん。」
立ち上がり、眼下にある頭をぐい、と掴んだ。
「痛っ!」
どうやらこれは夢幻ではないらしい。安心と共に言葉があふれた。
「帰ってくるなら連絡くらい入れろ。大体毎度毎度夜中に帰ってくるのはなんだ、嫌がらせか?いや、それ以前に一年以上も戻って来ないというのはどういう了見だ。それにこの間の手紙も」
「あーもう、うるさいねえ相変わらず!」
まくし立てた文句は、そう、さえぎられた。
「いいじゃないか、帰ってきたんだから。」
そう言って、ぶう、とむくれる。ふくれた頬を指で押しつぶすと、その眉が不本意そうに寄った。
しかし、やがてその表情は笑いに変わる。
「本当相変わらずだね。安心したよ。」
手を離してやると、また表情がゆるむ。
「お前もな。元気そうでよかった。」
「そりゃあもちろん。それにさ、間に合ってよかったよかった。」
くすくすと笑いながら、ポケットの中から何かを取り出す。
月の光のように淡く光る、小さな結晶。それは、今までに見たことの無い宝石だった。
「ほい、誕生日おめでとう、レムオン。今日だよね。」
放り投げるように渡されたそれを、受け取る。
魔法でもないのに、太陽の光を溜め込んで夜に光るのだと、早口な説明が飛んできた。こちらには無いだろうから、持ってきてみた、とも。
「ああ。・・・すまないな。」
言葉が止まり、・・・また笑われる。
「そういうときは、ありがとうって言うもんだよ。」
会わなかった一年が消え去るようなやり取りが、嬉しかった。
「・・・そうだったな。・・・ありがとう。」
素直に礼を言うと、くしゃり、とあちらの表情が歪む。唐突に腕が身体に回り、抱きつかれる格好になった。受け止めると、その力はまた少し強くなる。
「どうした?」
「ううん、なんでもない。」
頭を撫でてやると、またくぐもった声が聞こえてきた。
「・・・こうやって、アンタに抱きつくために帰ってきたって言ったら、信じるかい?」
さすがに虚を突かれる。言葉が出てこない。沈黙のままでいると、抱きとめていた肩が震えた。
「やっぱり、無理か」
「いや」
全て言い終わる前に、それは口をついて出てきた。一瞬慌てたのが悟られないように、息を一度止めて切り出す。
「・・・信じてやらんでもない。」
潤んだ目が此方を見上げた。・・・どうやら、見ないうちに大分素直になったらしい。
少々調子は狂うが、嬉しいのもまた事実だ。それをごまかすように、言葉を続ける。
「だが、帰ってきたのなら、まずは言う事があるだろう。」
言うと、少し力が緩んだ。視線が伏せられ、何かを考えているのか、沈黙が流れる。
・・・そして。
「・・・ただいま。」
「・・・ああ、おかえり。」
ええと、おたんじょうびおめでとうおにいさまあいしてるわー(棒読み)
突発な上に短いからこっちにもってきました。
旅立った娘さんと、いつ帰ってくるかわかんないけど仕事しながら待ってる義兄さんというのが、扉ED後の私のデフォです。というか、それしか思いつかない。その内いつかある程度落ち着いてかつ手遅れにならないうちに、二人で駆け落ちでも隠居でもすればいいんじゃない?んで、あったかい家庭を築いてしまえばいいと思ってるよ。うん。
タイトルは思いつかなかったので東京エスムジカの曲から。実際のテーマソングは「おたんじょうびおめでとう」って、みんなのうたの曲。
お誕生日おめでとう ふるさとの星の夜をリボンで結んで
この日に送りたいけど 星はみんなの願いです
だからこの手紙 星に読んであげました
物凄く好きな曲です。誕生日曲の中では一番だなあ。