いや、真の闇ではない。薄く明かりが灯っている。ぬくもりに包まれている事と、人の腕に抱かれている事に気づいたのは同時だった。
肌と肌が触れ合っている。目の前に居る、自分の恋人に抱かれている。認識したところで、今更ながら顔に血が上った。
自分は、どこで意識を手放したのだろう。
「ザギヴ・・・。」
名を呼ばれ、顔を上げる。しかし、自分の名を呼んだはずの恋人は、目を閉じたまま寝息を立てていた。
間近のその顔は、昼間の頼りになるというイメージより大分あどけなく、子どものようにも見える。この寝顔を見ていると、もしかしたら最初に会った時からこの人は変わってないのではないかと・・・そう、思ってしまう。
最初に会ったときは、駆け出し然としたまだ頼りなげな冒険者だった。あどけなく、子どものような。・・・それがいつからあんなに強い人になっていたのか、自分には見当もつかない。
気づいて振り向いた時には、頼りになる戦士がそこに居た。その強さと優しさに惹かれて、今自分はここに居る。どこにでも飛んでいける筈の力をもったその人も、なぜか近衛としてここに留まっている。
戦いの後、共に居てほしいと言ったのは自分だった。去るなど許さないとも言った。
その人は、それでここに留まった。
もしかして自分が縋り付かなければ、もっと居るべき所に行けたのかもしれないのに。
・・・でも、彼がいない世界はもう考えられなかった。それは今も続いている。
「ねえ、・・・寝ているの?」
頬を寄せて、そっと聞いてみた。・・・返事はない。聞こえるのは相変わらずの穏やかな寝息だけだ。ただ、自分を抱く腕の力は少し強くなる。
心地よい、温かな腕。自分を闇の中から救い上げてくれた逞しい腕は、今も傍にあって、自分を支えてくれている。
その事実に、胸の奥から暖かい衝動がこみ上げて来た。
「ねえ・・・。」
身体を摺り寄せ、その胸に顔をうずめる。
「・・・大好き。愛してるの・・・」
眠っている相手に何を言おうが、気づくはずはない。それでも、こぼれる言葉を抑えられなかった。縋り付く様に抱きつくと、近くなった心臓の音が聞こえる。
ゆったりと、その人そのものの鼓動に、とろりと意識が溶けていく。
まどろみの中、相手の身体が少し動き、頭に手が乗ったのを感じた。
「・・・?」
目を開けると、間近で見つめられていた。
「・・・起したか?」
「お・・・起きてたの?」
また、顔が赤くなるのが判った。
「馬鹿、起きてるなら起きてるって言いなさいっ!」
そんな顔を見られたくなくて顔をうつむける。その胸板をたたく。
「今起きたんだって。なんか、・・・その、聞こえたから。」
言葉を再生しなかったのは、彼の方も照れていたからだろうか。
ちらりと上目遣いに様子を見ると、目と目が合った。
蕩けそうになるように微笑みに、心と口が緩んだ。
「・・・そうよ。貴方が居ないと、私はダメなの。
絶対、どこにも行かないで。私の傍に居て。旅立ったりしないで。置いて行かないで。」
皇帝としては、情けない言葉だろうとは思う。しかし、・・・それが本当だった。
生きる希望をくれた。いつだって助けてくれた。囚われそうな闇の底から引きずり出してくれた。
そして、こんな狭い世界に居られるような人間ではないのに、付き合って傍に居てくれる。それでもまだ、甘えてしまうのは、どう考えても酷い我侭だ。
「私が私らしく居られるのは、貴方が居るからなの。」
溢れた身勝手な想いを、縋り付いて、噛付いて伝えた。頭をゆっくり撫でていた手が、肩に回る。抱きしめる力が強くなる。
「・・・大丈夫、どこにも行かない。
大体俺は、ザギヴが居るから強くなったんだ。」
有能で高嶺の花に見えたのだと、そう言った。そんな自分に振り向いてほしくて腕を磨いた、と。
不安定に見える自分を、支えたくて強くなったと。
「・・・だから、ここに居る。」
初めて聞いたその気持ちが、泣きたくなるほど嬉しかった。
「・・・うん、ここに居て。」
声が震える。腕をその身体に回して、思い切り抱きしめた。
腕の中で、懐かしい歌が聞こえた。
心地よい子守唄に抱かれて、意識はまた暖かな闇へと沈んでいく。
ザギヴさんはとてもかわいいと思う。だからこそ、お幸せになっていただきたく・・・!
男主人公はどこの子かな、イメージは特に無いです。短いのと色気あったのでこっちにもってきました。