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Goodbye yesterday

エンシャントも落ち着きを見せ始めていた。大多数の魔物は掃討され、街には人が戻り始めている。
あの戦いは、ようやく終わりを迎えていた。
彼女と共に旅した仲間たちにも、各々ようやく一息つける時間が生まれている。
そんなある日。


「セラ、少しいい?」
聞きなれた声。何かと思って振り向くと、予想通りの人物が居た。
「……どうした。」
ルシェは小さく笑った。
「うん、まあ、これもケジメかと思って。」
「ケジメ?」
聞き返すと、ルシェは改まった表情でこちらをまっすぐに見つめた。
「うん。
 今までありがとうございました。セラさんのお陰でここまでやってこれたことに感謝しています。」
す、っと丁寧に礼をする。そんな姿を見たことはなかったが、確かに堂に入っている。
「街も元通りだし、もうそろそろ潮時だと思います。……ここで解散しましょう。」
頭をあげ、まっすぐこちらを見てそれはそう言った。一瞬、思考が止まる。
しかし、動き出した頭は、至極冷静に答えを出した。
「……なるほどな。わかった。」
うなづくと、ルシェはまた笑った。
「セラはやっぱり手間掛からなくて良いわ。」
「引き止めるとでも思ったか?馬鹿馬鹿しい。これ以上お前に迷惑をかけられるのも面倒だ。」
「うっわ、酷い言い様。まあ、それが良いのかな。」
ひょい、と肩をすくめる。とてもエンシャント動乱を戦い抜いたようには見えない、普通の娘のようなしぐさ。……実際のところ、普通の娘よりはるかに手が掛かった気がしなくもないのだが。
「でね、セラに相談があるんだけど。」
「相談事ならロイにしろ。」
即答。
「セラがいいの。」
さらに即答で返される。
「面倒ごとは御免だ。」
背を向け、反対側に歩き出す。と、その腕を掴まれた。
「お願い。……お願いします。」
ぞっとするほどの真剣さ。それは不審以外の何物でもないが、断るには厳しい態度だった。
「…………わかった、聞いてやる。」
「ありがとう、セラ。」
ほっとしたように、ルシェは息をついた。
「……他人に聞かれたくないのよね。……部屋に戻って話したいんだけど。いい?」
小さな声で囁く。面倒ごとの匂いが漂っているが、聞くといったのは自分だ。
「構わん。さっさと終わらせてくれ。」
「ありがとう。」
それきり無言。何も話さず目も合わさず、二人は部屋に戻った。

誰もいない部屋。ルシェは窓にカーテンを掛け扉に鍵まで掛けた。
「……どういうつもりだ?」
「……本当に他人に聞かれたい話じゃないの。大丈夫、別に襲ったりしないから。」
そう言って、ベッドに腰掛ける。セラが向かいに腰掛けると、ルシェは単刀直入に切り出した。
「あのね。ディンガルの皇帝になれと言われてるんだけど、どうしたものだと思う?」
……単刀直入すぎて、意味が取れない。いや、意味は取れるが荒唐無稽過ぎてすぐに信じられない、という方が正しい。
「……何の冗談だ、それは?」
やっとのことでそれだけ言う。薄暗い部屋の中、ルシェは首を横に振った。
「冗談だったら有難いんだけど、なんか違うみたいでね。ほら、ネメアが旅立っちゃったでしょ。それで、後を探してるようなんだけど。」
確かにネメアは動乱の終結と共に退位し、エンシャントから去っていた。
しかし、ディンガルの皇室は、まだ生き残りが居たはずだ。
「ザギヴが居るだろう。」
言うと、ため息が返ってきた。
「そのザギヴが真顔でこの話持ってきたのよ。」
「……騙されてないか?」
「その後、ベルゼーヴァが日取り持ってきたわ。『なるべく早い方がいいだろうな』とかなんとか。」
首を振ってそう言う。冗談にしては性質が悪すぎた。
「理解できんな。お前を皇帝にしてどうするつもりなんだ。」
「……人類の革新に相応しいとか、実力主義のディンガルならこれ以上の人物はないとか、なんか色々言われた。」
そう言って肩をすくめる。
「話聞いてたら、どうも私、大陸を救った勇者って事になってるみたいでね。」
・・・それは否定し難い事実だった。動乱を収めた大陸一の冒険者。レーグを倒した剣聖。竜王をも倒した竜殺し。煌びやかな称号がルシェにはいくつもくっついている。
「勇者か。まあ、外れてはいないのだろうな。」
言うと、ルシェは複雑に表情を曇らせた。
「……そう見えるのね。」
「外からの話だ。お前のような手間のかかる奴が勇者など、それこそ悪い冗談だろう。」
はっきり言い切る。結果と称号だけが全てではない。勇者扱いされているのは事実だが、現実と食い違っていることもまた事実だ。
「そこまで言い切られると、いっそ安心するわね。」
ルシェは、小さく笑って肩をすくめる。
「フン、自分が勇者だとでも思っていたのか?」
問うと、苦笑いが返ってきた。
「まさか。……って言いたいけど、もうちょいで洗脳されるとこだった。」
称号がいくつついても、馬鹿は馬鹿のままらしい。
「ちやほやされて舞い上がったか、半人前。」
ルシェが目を見開く。
「……ちょっと、……そんな……!」
そして、盛大に笑い出した。少し気分が悪い。
「何がおかしい。」
「おかしいって言うか、…………あはははは……!」
思い切り笑っているその表情は、なぜか泣きそうにしていた。
「ああもう、セラに相談して正解だったわ。」
涙をぬぐい、まだ笑いながらそう言う。
「私は、……まだ、半人前なのね。」
「それ以外の何だ?自制もない、泣くわ喚くわ騒ぐわ行き当たりで行動するわ、仕事の請け方もまるでなってないわ。冒険者は慈善事業とは違うと言っているのに、お前今でも解ってないだろう。
 百歩譲って剣だけは認めてやってもいい。だが、それ以外は半人前だ。」
六年だ。実に長かった……今となれば少し短い気もしないではない六年。その間散々振り回され続けた身としては、いくら言っても言い足りない。
「一人前を名乗りたければ」
「俺を倒してからにしろ?」
まぜっかえされる。無言で立ち上がり、頭に拳を落とした。
「痛っ!……もう、なんでそうすぐに手が出るのよ。」
「言っても聞きはしないだろう。」
また座りなおして言う。それを一年もしないで悟った事が、手の掛かり方を如実に表していた。
「一人前を名乗りたければ、俺の手を煩わせるな。もう子守はたくさんだ。」
またルシェが吹き出す。
「子守りって……!」
ひとしきり笑って、息を無理やり整えてこちらを見上げる。
「……あのね、私に半人前だの子守りだの言い出すのは」
「大陸中でも俺くらいだろうな。」
言うと、ルシェは驚いたようにこちらを見た。
「自覚あったのね。」
どうにも失礼な奴だ、と思う。
「今のお前は英雄ということになっている。それは事実だ。
 だが現実には、お前はまだまだ半人前だ。旅をしてもう六年になるというのに一向に成長が見られん。ここまでくると才能だ。
 大方周りの奴らは、称号に目がくらんで現実が見えていないんだろう。馬鹿な話だ。」
「なんかそこまで言われると、皇帝とかなんとか遠くなるわね。」
そう言って、息をつく。
「そもそも遠いだろう。」
元の話題はそういえば、皇帝になる話だった事に思い当たる。
「それで?どうする気だ?」
「断るわ。」
「そうか。」
それでいい。世の中には身の丈にあった事があるはずなのだ。
「丸く収めるなら皇帝するべきかな、とか思ってたんだ。セラが、皇帝になるのが当然って言ったら、この話受けるつもりだったの。」
あははは、と笑うが、その声は重い。おまけに言っていることは、どうにも皇帝向きの話ではなかった。
「責任を取るつもりなら、そんなことを他人に決めさせるな。
 ……全く、こんな奴を皇帝にしたがるとは、ディンガルも長くないな。」
くしゃり、とルシェの表情がゆがむ。笑っているような、泣いているような。また笑われるのだろう、と息をつく。
と、前から飛びつかれた。反射的に抱きとめる。
「ありがと、セラ。」
涙声に、身体を退けようとした手はそのまま止まった。
「……泣くことか?」
「……なんかね、ほっとしちゃったの。
 皇帝の話来てから……ううん、戦いが終わってから、なんか色々考えちゃって……勇者なんて言われるけど、そう言われる資格あるのかとか。竜王倒しちゃってよかったのかとか、取り返しつかないことしちゃったかとか、ノエルに申し訳なかったとか、いっそ世界の平和のためには死んだ方がよかったかなとか。」
まくし立てる言葉は、涙声としゃくりあげる声で聞き取りづらい。
「そんな馬鹿な事を考えている時点でお前は半人前だ。」
「……馬鹿っていうけど、だって」
またぐずぐずとしそうになるのを、さえぎる。
「終わった事を一々悩むな。お前は別に世界をどうこうしたかった訳ではないだろう。ただ、向かってきた敵を倒してきただけだ。違うか?」
「でも、……力がありすぎるって、世界すら滅ぼせるって、……生きていくのは愚かだって……」
竜王の言葉を思い出したのか、小さく震えている。まだ、迷いがあるらしい。それを押さえつけるように抱きしめた。
「その気がなければ力などあってもなくても変わらん。
 そんな事で死など考えるな。俺を六年も振り回した挙句勝手に死ぬなど許さん。」
「……セラ……。」
震えがとまる。身体に回った腕に力が入る。
「ありがとう。……本当に、ありがとう。」
涙声としゃくりあげる音が同時に聞こえてきた。
「泣くな。俺はお前の子守りをする気はない。……顔を上げろ。」
「……うん。…………でも、……もうちょっと。待って。止まんない。」
ぐすぐすとひとしきり泣いて、しばらく。ルシェはやっと顔を上げた。すぐ傍の涙でぐしゃぐしゃの顔は、それでも表情に心細そうなところは何一つなく、自分で立って歩けることを示す。凛としたそれは、不思議に美しくみえた。
「……ルシェ。」
名を呼ぶ。
「何?」
小首をかしげてこちらを見る。直視されたまま数秒が経過した。
「どうしたの?」
問われて解る。……ルシェは、こちらの考えていることなどさっぱり解っていない。
ため息ひとつ。片手でルシェの目を覆う。
「え、何?」
「察しろ。気付け馬鹿。」
目を覆った手でそのまま首を仰け反らせ、唇を重ねた。
ひとつ、ふたつ。数えるくらいで解放してやる。
目を覆っていた手を退けると、ぽかん、と見開かれた目と目が合った。
その瞳は次第に見開かれ、顔はあっという間に赤くなり、すぐに俯けられる。その仕草は、娘どころか少女そのものだった。
ややあって、小さな声が胸の辺りから聞こえてきた。
「気づけなんて、……無理言わないでよ。」
片手が、こちらの胸をたたく。
「そんな、今の今まで子ども扱いしてたじゃない。……こんなの、こんな、予想外よ……!」
また、泣きそうな声になっている。
「嫌か?」
低く問うと、ルシェはキッとこちらを見返してきた。
「セラ。」
「何だ」
聞き返す言葉が全て終わる前に、唇が重なっていた。
「貴方こそもっと早く気付いてよ馬鹿!もう望みなんてないかと思ってたわ!」
間近で見えるぐしゃぐしゃの顔は、涙を流して笑っていた。
「無理だ。子守りに手をとられ過ぎていたからな。」
額に、その瞼に、頬にキスを落とす。
「……悪かったわね。」
「全くだ。
 ……だが、もうそれも終わりだ。」
そして、最後に唇に。
「お前も、子供に見えなくなってきたからな。」
「それはどうも……ありがと。」
また、キスを返された。
そのまま抱きつかれ、顔は見えなくなる。
「……け……、計画、考えないとね。」
少しあせった様な……違う、照れ隠しの時の裏返った声が肩越しに聞こえてきた。
「計画?」
聞き返してやる。返って来たのは、それで気が落ち着いたのか意外にしっかりした答えだった。
「まずは、皇帝になれって言う人たちから逃げ切る計画。それと、逃げ切った後の計画。断るのはいいけど、追手掛かりそうな気がするから。」
それはそうだろう。あの特徴的な頭のディンガル宰相ならそれくらい当然にやってくる。
「追手など、蹴散らしてしまえば良いだろう。」
言うと、不服そうなためいきが返ってきた。
「罪もない人を蹴散らすのもなんか申し訳ないもん。なんとかこう、うまくいかないもんかな。
 あ、……オルファウスさんに頼んで転送機で高飛びとか。」
「悪くはないな。ただ、猫屋敷に行くのを感づかれないようにしろ。それくらいのことはあちらも予想しているだろう。」
「……そうね。隙を見る、タイミングを計る。んー……」
抱きついたまま、考え込む。だが、その時間は余り長くはなかった。
「……あ、匿ってもらってみるとか、どうだろう。そっちに行ったって油断させといてこっそり猫屋敷行くの。そしたら追手が出るのも遅れるんじゃないかと思うんだけど。」
ひょい、と身体を離す。その表情は明るい。
しかし嬉しげな意見でも、それは諸刃の刃だった。
「うまくいくのか?相手を選ばないと、そのまま皇帝になるぞ。」
「そりゃそうね。……んー、私が皇帝になる事にとりあえず反対してくれそうな人……」
首をかしげながら、移動する。セラの隣に腰を下ろし、ルシェは一つ手を打った。
「ロストール方面ならなんとかなるかな。ロストールの兄様とかゼネテスとかティアナとか。」
なんとかなる、と挙げた人物は、皆今のロストールの中心人物である。
「……外交に使われたりしないか?」
しばしの沈黙。
「……セラってそういう事も思いつけたのね。」
ややあって、そんな失礼な言葉が戻ってきた。ルシェの頭をはたく。
「痛っ!……もう、悪かったわよ。」
「わかればいい。……ロストールは今はボロボロだろう。お前を利用できるのならいくらでも利用してくるはずだ。」
「……なるほどね。…………んー……」
また考える。上を見て下を見て、そしてきっぱりと言った。
「よし、ロストールの兄様に頼るわ。」
「お前今の俺の話を聞いていなかったのか。」
間髪居れずに突っ込むと、ルシェは平然と答えた。
「聞いてたわよ。でも、あのお人よしの兄様ならきっと私を利用しようと考えたところで実行はしないと思う。ゼネテスやティアナだとちょっと危ないかもしれないけど、大丈夫、兄様なら行ける。」
最後の方は無駄に力強かった。
「……酷い信頼だな。」
信頼の方向性は思い切り間違っているようだが。
「念のため、皇帝の件は黙っとくわ。でもま、私がお屋敷にちょっと居座ったところで大して気にもしないと思う。なんせあそこは私の家なんだから。」
利用することを当然と思うくらいには馴染んでいたらしい。最初に屋敷に引きずっていかれた時の嫌そうな顔からすれば大分変わったものである。
「とりあえず、皇帝の件断って。ロストールに身を寄せるって言ってロストールにお世話になって。隙見て猫屋敷行って。あとはどこにでも飛んで行けば良いわ。別の大陸とかよさそう。……ほとぼりが冷めたらまた戻って来たいけど。」
指折り数えるその計画は、ルシェの割にはきちんと理に適った計画だった。
「逃げ切れれば良いがな。」
言うと、楽しそうに笑う。
「大丈夫。奇跡だって起こして見せるわ。私の平穏な生活のために。」
とん、と肩に重さが掛かる。
「ありがと、セラ。相談乗ってくれて。……その。本当、助かった。」
緊張の解けた声だった。今まで、あれでかなり疲れていたらしい。
肩に寄りかかる頭をくしゃりとなでる。
「……でね。もう一個聞いていい?」
「…………何だ。」
頭においていた手を下げると、なぜか沈黙が落ちた。
少しの間。そして、ルシェは意を決したようにこちらを見上げる。
「……セラはこの後どうするの?」
「さあな。決めては居ない。
 ……だが、ロイが居る。それに付き合ってミイスに一度は戻らねばなるまい。後は、……また姉を探しに行くのだろうな。」
全ては不確定だ。確実なのは、ここでルシェとは別れるということくらいだろう。パーティを解散した以上、目的も違うのに共に行動する理由はない。
ふう、とため息の音がした。
「そう。……わかった。今度こそ見つかるといいね。」
「ああ。」
また、沈黙が落ちる。いつの間にか、部屋の中はすっかり暗くなっていた。


その日の夜、ルシェは仲間全員を集め、パーティの解散を宣言した。
名残を惜しむ声も、まだ一緒に冒険したいという声も、『セラとも別れたから』の一言で散っていった。いつの間にか、自分の立ち位置はそんな事になっていた、ようだった。
翌日は政庁に出向いた後、帰るべき場所のある者達を送り出し……逆に送り出されていた。あれでルシェには人望があった、らしかった。
その後のことは、セラも知らない。
ロイと共にミイスへ戻り、復興の手助けをすることになったからだ。
交代で外に出て物資を調達したり、荒れた村を片付けたりしているうち、ルシェが兄であるエリエナイ公と共にロストールへ帰還したらしいと言うことを聞いた。
……彼女の計画通り、事は進んでいるようだった。

それから、また一月が経った。
その日、セラが数日振りに物資の調達から戻ってみると、珍しくロイの姿が見えなかった。
どこに行ったのかと辺りを見回す。と、見覚えのないものが目に入った。
どこから取ってきたのか、花が植えてある。植えた花の種類、その植え方からするに、ロイの仕事ではない。ただ、自分の旅の終わりは漠然と感じる、その花。
……シェスターだ。姉さんが、ここに居る。
植えられていた花は、姉が好んだ花だった。
村の奥に歩を進める。月光がかすかに反応する。ロイは神殿の中なのだろう。
ふう、と息をつく。
と。背後に、唐突に気配が現れた。それは、軽い駆け足でこちらに向かってくる。
間違うわけも忘れるはずもない、その気配。

「セラ、みっけ。」

外の大陸に行くと言っていた筈の……六年間散々振り回され、慣れきってしまった奴の声がした。
「……俺を捜しにきたのか、ルシェ?」
振り向くと、あの時のような……泣きそうな笑顔で頷かれた。
「うん。よかった、間に合って。セラの事だからさっさとお姉さん捜して旅に出ちゃったんじゃないかって……逢えなかったらどうしようかと思った。」
「この俺が、姉を捜すため、何も言わずにお前のそばを去るとでも?
 ……フッ、バカな。」
いつだって勝手にどこかに行ってしまうのはルシェのほうだ。毎回毎回自分はなぜか待ち続ける事になってしまう。それなのに、ルシェは首を横に振った。
「そんなに言うけど、約束もしてなかったのに待っててくれるなんて期待できる訳ないじゃない。おまけにお姉さんが絡んでたら、セラってば人変わるのに。」
口を尖らせてそう言う。……ルシェに他人の事を言う資格はない。ロイが絡めばためらいなく理性を放り出していたのだから。
だが、全ては過去のことだった。その想いも、自分の想いも。
「俺は姉よりももっともっと大きなものを探し求める。」
姉を探す必要は、もう、ない。
「……それって……?」
「それが何かはわからない。
 ……だが、お前が一緒なら必ず、そこにたどりつける。」
……そう、お前と一緒なら。
約束した訳でもないのに、ここに留まってしまった理由は、きっとそれだった。
「……うん、わかった。」
声ににじむ、驚きと喜び。自分でもらしくないことを言ってしまったのか、……少し失敗したかもしれない。
「ならば、行くぞ。」
動揺を抑えるように、そう言って……ふと、思い出した。
「忘却の仮面はここにおいていけ。」
本来ここにあるはずの仮面は、今はルシェが持っている。
「え?」
「いわば、ささやかな祝いの品だ。」
こんな日に持ち主が現れたのも、何かの巡り合わせなのだろう。
「……それに、このくらいの面倒はかけてもかまうまい。」
……中にも聞こえるように、そう言った。
それで、神殿の中に察しが行ったらしい。ルシェも頷いて神器を引っ張り出した。
神殿前の広場に、あの仮面がぽつりと置かれる。

「……さらばだ。」

仮面へ。ミイスへ。神殿へ……そして中に居る二人に、別れを告げた。
踵を返すと、細い手が絡まってくる。自分の手を取るそれを、握り返す。
見下ろすと、見上げられた。
目を合わせ、頷きあって里を後にする。
結界の外には、新しい世界が広がっているようだった。



セラさんとミイス娘のイメージは、師匠と弟子、保護者と被保護者、ギリギリで相方ていうか同志というか。でもまあ、かけがえはないのかもしんない。それくらいのイメージだったりします。あと、「自分に似てるのかなー・・・やだなあ、自分てこんなんなのか?」とお互いに思ってるのに同族嫌悪にはなぜかならないような、不思議な関係。求めちゃいるが、そりゃまあ好きなんだけども、そこまでべったりじゃないよ、みたいな。
あと、セラって、ひょいひょいどっかに行ってしまう主人公を、結構待っててくれそうなイメージです。初めてのエンシャントで、「ギルドで待ってる」って言われた後、町の人に話し掛け午後ティー3杯楽しんで宿で一泊したのに待っててくれたから(笑)
戻ってきた主人公はその後盛大に怒られるんでしょうけど。

セラEDの台詞は、攻略WIKIのED台詞の奴丸コピーです(白状)
書いてみたら、意外に甘ったるいこと言っててびっくりしました。
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