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ひろいもの

「報酬……体で払うって、ダメ?
あ、変な意味じゃなくて、ボクがキミのパーティに入るってことなんだけどね。」
「え、本当!?やった、ありがと!!!」
勇気を出して言ってみた、提案。それは、エステルも驚くほどの大喜びの即答で受け入れられた。


「エステルが一緒だと嬉しいな。」
ニコニコ顔でルシェはエステルの隣を歩く。
「私、まだ冒険始めて時間経ってないんだ。初心者なんだけど、よろしくね。」
「ボクのほうこそ、よろしく。歓迎してもらえてるみたいで嬉しいや。頑張るね。」
そう言って笑いかけると、一杯の笑顔が返ってきた。
「うん!」
宿へ向かう道すがら、他のみんなにも紹介するね、あ、宿も取らないと……などと、ルシェは終始ずっと嬉しそうだった。
宿に到着。黄昏時の部屋に入ると、洗い立てのシーツの匂いがする。お日様の匂いが心地よい。
お茶とかもらってくるね、とすぐにルシェはフロントに下りていった。その部屋に独りになる。ずっと一人で旅をしていたから、こんな大部屋は少し珍しかった。
「ただいまー。」
少しすると、扉を開けて小柄な少年が入ってくる。いや、小柄な少年……ではない。付け黒子がある。リルビーなのだ。……という事は、少年かどうかはわからない。
「あれ?部屋間違えちゃったかな。」
こちらを向いた彼は、そう言って首をかしげる。
「あ、えっと、ここはルシェが取った部屋なんだけど……。」
エステルが慌てて言うと、彼は小さく笑って頷いた。
「じゃあ、合ってるね。キミは……あ、この間の首飾りの子かい?」
「うん、そう。その時はありがとう。」
礼を言って、少し改まる。
「ボクはエステル。今日からルシェの仲間になったんだ。よろしく。」
「こちらこそよろしく。
 僕はレルラ=ロントン。キレイを探して旅する吟遊詩人だよ。今はルシェと旅してる。」
愛想良く、なんだか歓迎されているようでやはり嬉しい。
「君は、なんでルシェに着いて行こうと思ったの?」
軽く聞かれて、軽く答える。
「ん、首飾り届けてもらったお礼に、ルシェの力になれたらって思って。」
「へぇ……そうなんだ。」
レルラは興味深げにこちらを見る。
「キミは?なんでルシェについてきたの?」
「僕?僕は、……そうだね、ルシェに着いて行ったらキレイなものがたくさん見れるような気がしたんだ。」
面白い理由だな、と思う。
「へえ。なんかこう、旅は道連れって感じだよね。」
「そうだねえ。」
そんな話をしているところで、扉が開いた。
「おまたせ。あ、レルラ、帰ってたのね。」
お茶の入ったポットにカップを器用にもって、ルシェは部屋に入ってくる。エステルは慌ててポットを引き取った。
「おかえり、ルシェ。新しい仲間が増えたみたいだね。」
レルラに言われて、ルシェはこちらを振り向いた。
「丁度いいや。紹介するね。」
すぐにレルラに向き直ると、レルラは軽く首を振った。
「さっき自己紹介は済ませたよ。」
「あら、そうだったんだ。じゃ、これからよろしくね。エステルは私の友達だから。」
友達、の響きがとても嬉しい。少し頬が緩む。
「うん、もちろんだよ。」
そんなエステルを見て、レルラも笑いながら頷いた。

「さ、て。」
ポットのお茶を注ぎ分けてから、ルシェは一つ息をつく。
「あと一人仲間が来るの。もうすぐだけど、何言われても気にしないでね。」
「……どういうこと?」
聞き返すと、ルシェは困ったような顔で目を閉じた。
「んー……何というか、他人の意見聞かない奴で……まあ、エステルの事も確実に反対すると思うんだよね。」
その説明は、どう楽観的に聞いても歓迎されているような感じではなかった。
「ボク、来ちゃって迷惑だったかな。」
「そんなことない!絶対にない!
 アイツに何言われても気にする事は無いから。というか、気にしたら負けだから。私が何とかするから。」
こちらを見たルシェは慌ててそういってとりなす。
「ただこう、ちょっと口が悪いというか、人の気持ちも考えて欲しいというか……そんな感じで、酷い事言い出すかもしれなくて、だから先に言っとこうと思ったの。」
「……何でそんな人と旅してるの?」
当然の疑問を聞くと、ルシェはまた困ったように中空を見上げた。
「いや……一応、私を旅に連れ出した人ではあるんだけど。
 なんというか、……えーっと、信憑性の程は今計ってるとこだけど、私の兄さんの友達だって言ってたし……でも私の兄さんがあんなのと友達な訳ないと思うんだけど……ええっと。……まあ、一応アレでも私の命の恩人……なのかな。うん。」
説明はどうにも要領を得ない。ただ、言う割にはルシェの説明ではそこまで人非人でもないらしい。
首をひねるエステルに、ルシェはきちっと向き直る。
「とにかく平然としてて。萎縮しないで。堂々としてて。いい?」
「え、うん……解った。」
こくり頷く。
「エステル、本当に気にしちゃ駄目だからね。」
レルラもそういってくすくすと笑う。一体どういう人なのだろう、その人は。
そこまで考えて、その人の名前も知らない自分に気づく。
「あ、その人ってなんて名前なの?」
ルシェに声を掛ける。
「ん、名前?それは」
「戻ったぞ。」
ルシェが答えようとした時に、扉が開く。そして、件の人物……と思われる人が姿を現した。
若い男だ。長い黒髪、端正な部類の顔立ち。
……より何より真っ先に目に入るのは、その腹部を露出した、わけのわからない格好。
何だこの人、なんでルシェはこんなのと一緒に旅しているんだろう、と素で思う。
「おかえり、セラ。」
ルシェは平然と声を掛ける。セラは、ああ、と頷き、こちらを見ると露骨に嫌そうな顔をした。
「ルシェ、お前また拾ってきたのか。」
「拾っ・・!?」
人をみて第一声がそれ。怒る前に呆然とする。
「拾ったなんていい方ないでしょ。仲間になってもらったの。
 エステル、こっちはセラ。さっき言ってたもう一人の仲間よ。」
ルシェは慣れたようなつっけんどんさでセラに言い返すと、エステルに向き直った。
「よろしく、セラ。」
今すぐ愛想よく接するのはさすがに無理だった。型どおりに礼だけで済ませる。
「セラ、こっちはエステル。私の友達。今度から仲間になってもらったの。」
「………………。」
よろしくというでもなく。ただこちらをチラリと睨むだけ。どうにも仲良くなれる気がしない。
「……ルシェ。何でこう拾ってくるんだ。お前の旅は」
「セラだけじゃ心許ないからよ。剣だけじゃ宝箱は開かないし、倒せない敵だって居るでしょ。」
言いかけた言葉にかぶせるように、ルシェは答える。……内容がなんだか辛辣なのだが。
「俺より明らかに弱いお前にはそれでも十分だろう。」
「不十分よ。」
即答。部屋の空気が確実に5度は下がった。
「アーギルシャイアって聞いただけで判断力なくす様な人と二人旅なんて不安過ぎるわ。」
「お前に言われたくは無い。」
怒り混じりの低い声は、エステルの背筋まで寒くする。だが、ルシェは全く負けていない。
「だから不安だって言ってるの。」
エステルの目の前で冷たい修羅場は進んでいく。
「私達、そこまで冷静じゃないし、手もさほど器用じゃないし、魔法ほとんど出来ないじゃない。
 兄さんを探し出すためにはそれが補える人が絶対必要よ。相手はあのアーギルシャイアなんだから。」
「フン……その男女に、何か取りえがあるとでも?」
ちらりとこちらを見る、冷たい目線。言葉とあいまって、非常に腹立たしい。
「少なくともセラより器用ね。身も軽い。」
「そこに居る奴よりか。」
目線の先はレルラ。レルラは小さく肩をすくめる。
「レルラはセラよりよっぽど経験豊富な冒険者よ。とっても頼りになってるわ。」
よっぽど、の部分に力が入っている。
「この間もリルビーの子供を拾っていたな。」
「ほっとけなかったからよ。あれでほっとくなんてただの人でなしじゃない。」
「その前は貧弱そうなコーンスに、やたら高飛車なエルフだったな。あと、3000ギアで引き取った自己中心女。おまけに今度は役に立たなさそうな男女か。
アーギルシャイアを引き合いに出す割に、なんでそう変なものばかり拾う?」
正気の沙汰じゃない、とはき捨てる。
やっぱりこいつ、ろくでもない奴。そう、思った。
「物じゃない、人よ!大体、高飛車も自己中心もセラほどじゃないわ。魔法も使えて頼りになるでしょ。何に不満があるの?」
ルシェも言い方が大概酷い。セラの声がさらに険しくなる。
「お前が見境無く拾ってくるからだ。知り合いが増えるのは勝手だが、旅にまで連れ込むな。」
「拾ってくるなんて言い方がある?私は仲間になってもらってるの。旅は道連れでしょ。
 オルファウスさんだって人と出会い、仲間を作れって言ってたわ。」
一つ、舌打ちが響いた。
「前にも言っただろう。見境無く人を信用するな。いつか足元をすくわれるぞ。」
「これでも人を見る目はあるつもりよ。セラ、貴方についてきたことも含めてね。」
にらみ合い数秒。
「……今回の事はパーティリーダーの私の決定よ。つまらない文句は聞かないわ。」
目もそらさずきっぱりと、ルシェはそう言い放った。
さらににらみ合い。
ややあって、負けたのはセラのほうだった。
「……勝手にしろ。俺は面倒見んからな。」
舌打ち一つ。そして、セラは不意にこちらを見た。険しい目つきに萎縮しそうになって、思い直して耐える。
「何?」
「フン……精精足手まといにならん事だ。」
ふい、とそっぽを向き、空いたベッドに歩を進める。
その背中に、ルシェが何かを投げつけた。
「!」
「お風呂入って来たら?お茶淹れとくよ。今なら空いてる。」
投げつけたものはタオルだったらしい。
眉間に皺を寄せ、タオルとルシェを交互に見ると、セラはタオルと着替えを持って無言で部屋を出て行った。その妙な従順さは凄まじい違和感を持つ。
足音が聞こえなくなると、ルシェはふうっと息をついた。同じくして、部屋の緊張が解ける。
「エステル、ごめん。とりあえず何とかなったからもう大丈夫よ。」
「いや、ええっと……本当に大丈夫なの?」
不安一杯で聞くと、レルラが話を引き取った。
「うん、大丈夫。あれ、ここのところの恒例行事みたいなものだし。」
「恒例行事……?」
「セラってさ、新しい仲間連れてきても、あまりいい顔した事無いの。見境無く他人を信用するなー!って。……で、毎回こうなるって訳。」
ルシェがぼやくと、レルラがくすくすと笑った。
「毎回ルシェが勝ってるって聞いたけど。」
「今のところ全勝よ。」
ルシェもそういって笑う。しかし、その表情はすぐにため息の色に変わった。
「……セラのアレもなんとかならないかなあ。心配してるのかどうなのかわかんないけど、とりあえず人見知り激しいにも程があるわ。」
「まあ、最初だけで後は特に何も言わないからいいんじゃない?」
レルラはそう言って、ルシェに苦笑いしてみせる。
「まあね。そこは確かにいいところだわ。」
ルシェも苦笑いで応えて、そしてエステルに向き直った。
「まあ、見た目もああだし、言動もあの通りだし、正直とっつきにくいと思うけど、悪い人じゃないの。なんとなれば頼りにはなるし、剣は確かに強いし、あれで結構面倒見いいし。」
本当だろうか、と。ルシェの言う事なのについつい疑ってしまう自分が居て、それを慌てて消し飛ばす。ルシェはそれを見て小さく笑った。
「本当?て思ったでしょ。」
「……うん。」
正直に頷く。
「本当よ。
 旅の目的が一緒だったってのもあるけど、旅も冒険も村から出る事だってやったことなかった私に、ここまで付き合ってくれたんだから。」
まあ、直接言ったら何て言われるか解らないから言わないけど。そう言ってルシェは笑う。
「だから、セラって常にあんなだけど、あんまり嫌わないでやってね。」
お願いします、と苦笑い。
「解った。ルシェがそう言うなら、信じるよ。」
そう頷くと、ルシェはほっとしたように笑った。
「ありがとう、エステル。エステルと一緒に旅できて、本当嬉しいわ。」
その言葉が何より嬉しかった。
「ルシェと旅できるのは、ボクだって嬉しいよ。……じゃあ、改めまして。」
「改めまして。」
『よろしくね。』
声を合わせて、二人で笑いあう。ああ、こんなおしゃべりがしてみたかったのだ、とその時気がついた。冒険とはまた違う、心が弾む感じがとても楽しい。
女の子同士って言うのも、かわいらしいものだねえ、と、それを見ていたレルラが笑っていた。

新しいお茶を入れないと、と三人で分担してお茶の用意をする。
少しすると、いい香りのお茶と、心ばかりの付け合せの匂いが部屋に満ちた。
足音が近づいてくる。きっとセラだ。どんな顔して入ってくるのだろう、やはり無表情なのだろうか。そんな事を思いながら、お茶のカップを口につける。
今日はもう終わろうとしている。しかし、新しい旅は今始まったばかりなのだった。



2週目、セラにおびえながらプレイしてた時になんとなく思ってたんでした。
町に入るごとに新しい仲間を連れてくる主人公。絶対言ってる「また拾ったのか?」って・・・と。
簡単に他人を信じるな危ないから!て怒るのと、旅は道連れでしょー!て言い返すのと、論点ずれてるけどなんとなくかみあっちゃった言い合いとか、そんなのを素で想像してました。
私の中でセラは俺様シスコン腹より何より「怒ると恐い人」です。
OPでうっかり森の外に出ちゃったときとか、ゴブゴブ団の行方聞いたときとか、恐いって。恐いってば!
闘技場なんかで会うと、サボりの現場押さえられたような気がしてドキッとします。ていうか、姿見た瞬間なぜか謝らなくてはならないような気になります。別に後ろめたいことはないんだけど。
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