その声はそう言った。
「世界の均衡を崩しかねぬ」
そうも言った。
ご丁寧にその声は、自分でそいつの力とやらを封じてくれるらしい。崩れるかどうかもわからない世界の均衡のために、だ。余計なお世話もいいところだった。
「さあ、来るが良い」
さらに親切な事に、目の前に光の門が開く。
そして、門の前。
その力の持ち主・・・ルシェは呆然と立っていた。
この期に及んで棒立ちしている暇があるのか。
セラがそう声を掛けようとしたところで、ルシェが振り返った。こちらを向いたその瞳には、この期に及んでも隠しきれていない動揺が見える。
目は、こちらに何かを問うているような・・・いや、すがるような色を見せていた。
胆は九割決めているはずだ。それなのに、普段ならこちらの意思に関係なく好き勝手に動くくせに、こういう時ばかり自分にお伺いを立てようとする。・・・妙なところで、実に子どもだ。その、旅を始めた頃とあまり変わらぬ様子に、ふ、と息をつく。
「どうした。」
声を掛けた瞬間、ルシェの背が伸びた。
「最後の戦いの準備はもういいのか?」
目に映る動揺が消える。
その時点で答えはわかった。今のルシェの表情は、この自分をして命を賭けていい、と思わせたものだ。選ぶ道を迷うことは、もう、ないだろう。
「・・・大丈夫よ。」
ルシェは一つ頷いて、パーティを見渡した。そして、一つ息を吸う。
「・・・竜王を倒すわ。
この戦いが終わった後、どうなるかなんてわからないけど、今の私にはそれしかないの。
みんな」
「ついにここまで来てしまったね。」
続く言葉は、エステルがさえぎった。驚き顔のルシェに、エステルは、こんな事になるなんて思ってなかったけど、と頬を引っかき・・・そして、笑顔を見せる。
「ここまできたら、最後までついていくよ!」
くしゃ、とルシェの表情が歪んだ。
「あ、・・・」
言いかけた言葉を、今度はフェティがさえぎった。
「ここまで来てあきらめるなんて、ぜーーったいに許さなくってよ!」
そう言って、目を擦ろうとしていた手を引き剥がす。
「自分の力を信じなさい!最後まで戦うのよ!!いいわねっ!」
泣くのはその後になさいっ!
フェティはそれだけ怒鳴ると、すたすたと門の前に行ってしまった。ルシェはあっけにとられてその背を追う。
「大丈夫。みんな居るんだ。ボクたちが揃ってれば怖いものなんてそうそうないよ。」
その肩を、エステルが叩いた。
「・・・それにさ、竜王なんかより怒ったセラのほうが絶対怖いって。」
ぼそ、と言ったエステルの言葉は、きっちりこちらの耳にも届いている。ルシェはこちらとエステルを見比べて肩をすくめた。
「うん、違いないわ。」
そして、また、背を伸ばした。
「ネメア、いい?」
呼び捨てにされたディンガル皇帝は、もう決めたのだろう、と頷いた。
「運命と戦い、そして、勝て。
竜王の力は未知数だが、命を賭けて挑む価値はあろう。
その結果がどうなるかはわからぬが、神の時代に終止符を打つのも悪くはあるまい。」
それだけ言って、彼もまた門へ向かう。
ルシェとエステルも、連れ立って此方へやってきた。
言葉はいらなかった。自分もまた門へ向かう。
その時だった。
「ルシェさん!」
女の声だ。振り返ると、ノエルが必死の表情でこちらを見つめていた。ルシェに促され、先に門の方へ向かう。
「・・・私には・・・こんなことを言う資格はないんですけど・・・」
後ろから、切れ切れに声が聞えてきた。
「がんばってください・・・。」
力尽きそうなその声に、しっかりした声が応える。
「任せて。」
背中で聞くその声には、もう迷いはない。
「・・・戦いで犠牲になったみんなの分も、頑張ってくるからね!」
そして、門の前に、パーティ全員が揃った。
「きっとこれが最後よ。みんな、力を貸してください。
・・・行くよ!」
ルシェの体が光の門の中に消える。他の仲間も続々と消えていく。
後を確認し、自分も門に足を踏み入れた。
・・・そして、道は開かれる。
行き先は、竜王の島。
セラとミイス娘は、本当師匠と弟子で保護者と被保護者で、ラブラブには程遠いんだけどものすっごく近しいという関係を旅始めて6年ほど続けてたというイメージです。扉狙ったから時間食ったんだ(お参りに)
セラがミイス娘を子ども扱いするのは、なんだかんだで重要事項の時にはセラのほうを見るからじゃないかなと、思ってたりする。セラにしてみりゃ「自分で最後まで決めろ」なんだろうけど、うちの娘は割かし甘えッ子らしく、保護者のお墨付きがないと重要事項の決定が出来ないらしい。そう言うところがセラからすれば「半人前」なんだと思います。
セリフ集のサイトさん数件に大分お世話になりました。この場を借りてお礼させていただきます。