その姿を見た瞬間、大丈夫だろうかと一抹の不安が胸をよぎったのは間違いない。
とはいえ、引き受ける人間が彼女しか居ないということと、ギルドのマスターもこいつなら安心だと薦められたのもあり、結局護衛は彼女になった。
今日からよろしくねー・・・と、年相応の娘そのものの態度に、またぞろ不安が顔を出す。
しかし、彼女はそれには気づかない。町の外に出たところで待ち合わせていたらしく、すぐに彼女の仲間と引き合わされた。
「まず、こっちがセラ。」
黒髪の青年を娘の手が示す。どう見てもその娘より強そうな、若い戦士だった。
「どうも。」
こちらから声を掛けても、無愛想を絵に描いたような顔で挨拶もせずに視線を背ける。見るからに付き合いにくそうな男だった。
しかし、彼女はそれを意にも介さず次のメンバーの紹介にうつる。今度は巫女服に身を包んだ、彼女と同じくらいの年頃の娘だった。
「で、こっちがエステル。」
エステルと紹介された娘は、こちらを見ると明るく笑って礼をする。
「よろしくおねがいしまーっす!」
「ああ、よろしく。」
さっきの青年とは打って変わってこの子は明るかった。珍しい格好をしているが、この子の感じからすると旅の間はにぎやかなのだろう。
「あと、こっちがレムオンね。」
次に紹介されたのは、驚くほど見事な銀髪をした背の高い男だ。
「あ、ああ。・・・よろしく頼む。」
目を伏せて礼をする姿が、・・・しっかりした体格に似合わずなんだかぎこちない。
「ほら兄様、笑って笑ってー。営業はまずは笑顔からでしょー!」
少女はべしべしとその背を叩いている。どうやらこの男は少女の兄らしい。正直に言って全く似ていないが。
「・・・・・・。」
レムオンと紹介された男は無言でため息をつく。その時にチラリと、赤い目が見えた。銀髪に赤目。ダルケニスだ。自分の背がぞくりと震える。
それに気づいたか、少女はぱたぱたと手を振った。
「うちの兄様、見た目はこうだけど、確かすごく優しいのよ。」
確か、というのは何だ。そんなことを思っていると、ぎゅ、と少女はレムオンに抱きつく。
「ね、兄様ー。」
「・・・・・・。」
レムオンの方は無言ながら、その表情は確実に対応に困っていた。結局深々とため息をついて、少女をぐいと引き離す。
「・・・確かに俺はダルケニスだ。だが別に人を取って食いはしない。安心していろ。」
その言葉を信じていいのかどうかは判らない。が、良く考えれば他のメンバー・・・例えばエステルなど・・・も、行動を共にしているのだ。・・・それならば、今は信じてもいいような気がした。いや、信じるしかなかった。
「・・・わかった、よろしく頼む。」
なんとかそこまで言うと、ほっとしたように空気が緩む。
そして、娘はやっと自身に手を向けた。
「で、私がルシェ。このパーティにおける、欠点なんて皆無のリーダーよ!」
そして、ひときわ明るくそう宣言した。
「・・・どこがだ。」
ぼそ、とセラがつぶやく。同時にレムオンがエステルの方を向いた。
「エステル、ルシェにクリアは必要か?」
「・・・レムオン、真顔でそんなこと言わないでよ。」
そういいつつ、エステルも心配そうにルシェの方を見やる。
「ちょっと!ここは私を褒め称えるところじゃないわけ!?」
セラは、フッと息をついた。
「・・・馬鹿につける薬は無い。」
冷たい言葉に、レムオンも頷く。
「・・・それもそうだな。」
「もうっ!!」
そんな二人に、ルシェは年相応以下の表情でむくれ、不安はますます大きくなるのだった。
だが、しかし。
先行き不安だと思っていたものの、どうやら自分はかなりの大当たりパーティに当たったらしい。
『指一本触れさせないわよ!』
・・・とルシェが言った時は、本当に出来るのかと疑ったりしたものだが、旅を始めて早1週間、確かに傷を負うことはなかったのだ。
「エステル、インビジブル!」
「オッケー!」
「兄様、右側吹っ飛ばして!セラ、行くよーっ!」
的確な状況判断。明らかに彼女より強そうに見える男二人にも矢継ぎ早に指示を出し、魔物を次々倒す・・というより片付けていく。人は見た目に寄らないと言うが、身軽にしてきちんと芯の通った剣捌きは、確かに強者のものだった。
それに、四人とも、・・・どう見たって強い。素人目から見ても、何かレベルが違うのは明らかだった。
ただ、・・・彼女がリーダーをやっているのは、やはり不思議な気がしなくもない。首をかしげていると、ルシェとエステルの話し声が聞こえてきた。見れば、二人で地図を覗き込んでいる。
「次はこのルートで行くの?」
「うん。そっちが近いし。」
先の予定を決めていたらしい。すると、ちらりとルシェの手元を見たセラが鼻を鳴らす。
「止めろ。補給が出来んぞ。」
一刀両断だった。
「・・・んー。じゃあ、こっち?」
ルシェが手を動かすと、セラが頷く。
「そちらが妥当だろう。いい加減、今何の仕事をしているのか考えて道を選べ。」
「・・・はーい。」
・・・やり取りが、まるきり先生と生徒だ。今に始まった事ではなく、事あるごとにこの状態を目にする。みた感じはセラの方がリーダーに見えることだって多い。・・・が、パーティのリーダーはルシェ、らしい。
「決まったのか。」
レムオンも地図を覗き込む。
「うん、こういってこう。ちょっと時間掛かるけど」
そんな話をしている二人も・・・強さだけなら恐らく兄の方があるように見えていた。ダブルブレードを操り、魔法も手堅くこなす。戦闘能力は恐らくパーティ一なのだ。
・・・しかし、やはり、ルシェの方がリーダーらしい。基本的には彼もルシェに従っている。
「・・・なんでルシェがリーダーなんだ?」
そう質問できた相手は、結局エステルだった。本人に聞くのも妙ではあるし、男二人は・・・二人揃って無愛想すぎて聞ける気がしなかったのだ。
「え?」
きょとん、とエステルは不思議そうに首をかしげる。
「あいつは、別に一番強いわけでも、経験があるわけでもないんだろう?」
「そりゃまあそうだと思うけど・・・」
エステルは怪訝そうに此方を見上げ、軽く肩をすくめる。
「だって、ボクたちはみんなルシェについてきたんだもの。」
聞けば、あの『兄様』もつい最近ルシェが旅に連れ込んだらしい。他にも各地に仲間が居て、時に応じ場合に即しパーティを組んでいるのだという。そして、その全員が『ルシェの』知り合いなのだと。
「まあ、セラだけは例外みたいだけどね。それに、見ててわかんないかな。」
「何がだ?」
さっぱりわからず聞き返すと、エステルは笑う。
「ん、セラもレムオンも、他人と関わるのは苦手みたいに見えるでしょ。」
「あれは、付き合える方がどうかしている域だな。」
エステルも、そうなんだよねえと頷いた。
「他にも・・・あれ以上に個性強いメンバーも居るんだけどさ。ルシェがメンバーのみんなの間を取り持ってるんだよ。」
ルシェがリーダーじゃなきゃ、うちのパーティはまとまらないんだ。
それは、笑いの中にも妙な実感が篭っている。
その言葉と声音に、彼もまた、この件については納得するしかない事を悟ったのだった。
後半になって勇者扱いされるようになっても、調子に乗ったことを言うと周囲から厳しいツッコミが入る、そういうパーティにあこがれます。レムオンは基本ミイス主にひきずられ気味だと思ってますが、ツッコミを入れる理性はまだ残ってると思います。