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02:二人め、食事当番はこのボクに!

ボクはエステル、冒険者だ。今は、ルシェたちと一緒に旅をしてる。
ボクのパーティでの主な役割は、鍵開けと偵察。こう見えても結構身軽なんだよ。それと、料理当番。野宿をする時は、ボクが料理を作ってる。・・・と言っても、キャンプ料理だから、とってもシンプルなものばかりだけどね。みんな喜んでくれるから、まあいいかな、と思ってる。
今日も野宿だ。今一緒に居るのは、ルシェとセラとフェティ。フェティは、『なんでこの高貴なアタクシがそんなことしなきゃならないわけ!?』なーんて叫びながら、山菜を取りに行っちゃった。ルシェは、そんなフェティと一緒に焚き木を集めに行ってる。セラは水を汲みに行くって出て行ったから、今キャンプ地にはボクだけお留守番。まあ、慣れてるんだけどね。
簡易かまどを作りながらみんなを待つ。石を組んで、串を作って、調理に使うものも準備して。我ながら結構手際よく出来てるんじゃないかな、と自画自賛。

でも、そんな風に料理の準備してる時、いつも思うことがあるんだ。

ボクの故郷は、砂漠の真ん中の古代の遺産、ラドラス。ボクは冒険者をやってるけど、そこの族長っていうもう一つの役目がある。不定期にあるチェックの時、どういう仕組みかは良くわからないんだけど、ボクが居ないとラドラスは砂漠に沈んじゃうんだそうだ。
だから、ボクはかなりの頻度でパーティから抜けている。

・・・ボクが居ない間、誰がご飯作ってるんだろう。

とりあえず、戻ってきたフェティに聞いてみた。
「ねえ・・・つかぬ事を聞くけどさ、ボクがいないときって誰が料理作ってるの?」
「この高貴で気品あふれるエルフの私が、そんな事をすると思っているの?」
一刀両断だった。
「だから、誰が作ってるのかなって。」
「さあね、私が知った事ではないわ。」
きっぱりと切り捨てる。でも、少ししてフェティはまた口を開いた。
「・・・でも、ルルアンタといったかしら、あのリルビーが居る時は、比較的美味しいわね。」
「へえ、そうなんだ。」
「あ、貴方も精進なさい!そして、この高貴な私の口に入れるにふさわしい料理をつくればいいのよ!」
フェティは、言うだけ言ってぷいっとそっぽを向くと、また森の中に戻っていった。わかりやすい照れ隠しだ。他人を褒めるのって、そんなに照れる事なのかな。
フェティの言いようからすると、ルルアンタが居る時はルルアンタが作っているってことになる。そういえば確かに、ボクもルルアンタの手料理食べた事ある。料理の時、一番手伝ってくれるのもルルアンタだし。
・・・となると、ルルアンタがいないときは?
ボクがいないとき、必ずルルアンタが居るってことはない。
なぜなら、ボクと一緒に猫屋敷でルルアンタが出てきたことがあるからだ。ボクはこれでも結構な頻度でパーティに出入りしてるけど、今ここに居る他にもユーリスやレルラとか、デルガドさんとかナッジとか、一緒に行動する仲間は居るんだよね。

というわけで。
「ねえルシェ、ボクやルルアンタがいないときって料理は誰が作ってるの?」
夕食の席。串焼きをほおばりながら、今度はルシェに聞いてみた。
「んー、いろいろね。レルラが作ってくれる時もあるし、デルガドのおっちゃんが固パン分けてくれる事もあるし。あ、ナッジも簡単な料理ならって作ってくれるわね。」
どうやら、ボクが居なくてもなんとかなるようにはなっているようだ。少しだけ安心する。
「それに、いざとなったらセラが作ってくれるから大丈夫。」
ごっくん、と思わず串肉を飲み込んでしまった。
「セラなんだ?」
聞きながら、ちらりとセラの方を見る。セラは相変わらずの仏頂面で黙々と串焼きを食べていた。
「うん。上手よ。煮物は面取りって言うんだっけ、きっちりしてあるし。魚も切り身にしてあるときって、小骨が入ってた試しないし。」
なんだろう、その・・・お母さんみたいな調理能力。
お母さんみたいにエプロンをして台所に立つセラの姿が一瞬脳裏に浮かんで、慌てて取り消した。どうやったって似合わない。っていうか、正直に言えば結構怖い光景だ。
「・・・その割には、ボク、セラの料理って食べた事無いんだけど。」
「エステルの料理の方が美味しいもの。」
それは答えになってない。・・・と思ったのが伝わったのかな、ルシェはひょいっと肩をすくめた。
「・・・まあ、セラもよっぽど必要に迫られない限り、料理したくないみたいだからね。」
それで、ルルアンタやデルガドさんやナッジの料理が出てくるということらしい。なるほど。
そこまで納得して、ふと疑問が出てきた。
「ルシェは料理しないの?ユーリスとかフェティも。」
「ユーリスはね、料理できない事は無いけど、・・・なんていうのかなあ、料理が革新的なのよね。前に作ってもらった時、普通に毒キノコ混じってたりしたし。もしもメンバーがユーリスしかいないなら、セラが作ってるんじゃないかなあ。」
そこまで言って、ルシェは声のトーンを落とした。
「あとね、フェティはね、とっても機嫌がいいときにはサラダとか作ってくれるよ。結構美味しい。」
「本当!?・・・いいなあ。」
ずっと森に居たというフェティのサラダは、なんとなく美味しそうな気がした。
「・・・で、ルシェは?」
再度聞くと、ルシェは困ったように微笑んだ。
「料理は出来るよ。最初は私が作った。今は、セラが作らせてくれないの。」
「なんで?!」
うっかり声を上げてしまって、慌てて口を押さえる。これは意外だった。
「わかんない。
 ・・・ねえ、なんで?」
後半はボクに言ったんじゃない。セラの方に呼びかけてる。
「何がだ。」
セラが顔を上げた。その一瞬、さっきうっかり想像したお母さんエプロンの姿が頭をよぎっちゃって、思わずセラから目をそらす。
「料理の事。何で作らせてくれないの?」
「・・・自分で考えろ。俺はお前の料理は金輪際食わん。」
セラの声は、いつも以上に冷たかった。話は終わり、と、また手元に意識が戻る。
「いつもああなのよね。」
ルシェは軽くため息をついて串焼きをまたほおばった。
「・・・そ、っか。」
同じように、串焼き二本目を手にする。
ルシェには悪いけど、セラの反応からすると・・・多分ルシェの料理も、ルシェの言葉を借りれば「革新的」なんだろうと思う。
「いつか見返してやりたいんだけどね。」
もぐもぐ、とお肉をかんでルシェが言う。だから、ボクも頷いた。
「うん、頑張りなよ。まずは味見してみるとこから、ね。」

・・・これって、我ながらなかなかいいアドバイスだったんじゃないかな。


料理事情イメージ(区分1で入る人たち)

エステル・ルルアンタ・ナッジ・フェティ・セラ:
料理くらい出来ます。その気にならなくても、家庭料理くらいなら朝飯前。エステルは割とオムレツだとかポトフとか、そんなレベルの料理を作る事が多くて、ナッジは炒め物だとかたまに揚げ物だとか、そんなレベル。ルルアンタはもうちょっと豪華でグラタンとか。フェティ様はそんな面倒な事なさいませんが、サラダとかは機嫌がよければさくっと作ってそうな(そして結構上手そうな)イメージ。セラは手順はやたら丁寧だけど味はそんなもんかな、て感じ。いつもは照れて串焼きだとか簡単なものしか作ってくれないけど、その気になれば普通に煮物やら味噌汁やら出てくるようなイメージ。

デルガド・レルラ:
冒険生活長いので、キャンプ料理くらいはできますとも。ただ、気合は入れません。食べれるものを持ってくる感じ。ご飯は炊けるし、あとはキャベツぶつ切りに串焼きでいいんじゃね?とかそんなレベル。

ユーリス・ミイス主:
作中ではあんなんですが、普通の料理も作れます。ただ、少々冒険心旺盛すぎて、例えば串焼きに砂糖かけたら甘くて美味しいかなーとか、毒キノコのあの痺れる感じが料理に活用できないかなーとか、スライムのあの食感を再現できないかなーとか、無謀な挑戦をしないと料理じゃないと思ってるから、殺人料理ができあがるだけです。ちなみに、ユーリスは割と物は計って作るタイプだけど、うちの娘はさっさかあてにならなすぎる目分量で作ります。

妄想すごいなー我ながら(・・・)
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