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01:風呂の順番

「やった、貸切じゃん!」
湯治客の間隙をついた時間帯だったのだろう、見事すっからかんの湯船を見てチャカは思わず声を上げた。
「よっしゃ、俺様一番乗りなっ!」
駆け出すよう助走をつけ、ヴァンが湯船に飛び込む。大きな水しぶきが上がって、すぐにヴァンが顔を出した。
「んー、湯加減上等っ!」
「ヴァン、せめて体洗ってから入りなよ・・・」
呆れたように声を掛けたのはナッジだ。
しかし、この広い湯船を独占できるのは今しかないし、独占時間はなるだけ長いほうがいいに決まっている。
「あー、俺もっ!」
すぐ傍にあった桶で気持ちばかり頭からお湯を被ると、チャカも同じように思い切りよく飛び込んだ。
「チャカまで。・・・もう。」
仕方ないな、と言いながらナッジもお湯を被る。そして、もう一度桶でお湯をくみ出すと、持ってきていた布で体を洗いだした。
「なんだよーまだこねえの?」
「そうじゃないよ、身体くらい洗ってから入るのがマナーだろ。」
「えー、いいじゃん、今貸切なんだし。」
「駄目。」
口々に言ってもナッジは折れなかった。まあいいか、と端に向かって泳ぎだす。
「競争な!」
言いながら、ひょいっとヴァンが追い抜いていった。
「この距離で負けるかあ!!」
思い切り水しぶきをさせて泳ぎ、ヴァンを追い抜く。
「なにおう!」
二人分の水しぶきだ。視界も酷い水しぶきになって、思わず目をつぶった。
が。
「いでっ」
「がっ」
瞑ったとたん岩に頭がぶつかった。頭を押さえながら体勢を整えると、同じようにヴァンも頭を押さえているのが目に入って思わず噴出した。
「何やってんだよ!」
「そりゃ俺の台詞だぜ!」
大笑いしながらお湯を掛けると、無論掛け返されて結局大きなしぶきがばしゃばしゃと立った。
「ヴァン!チャカ!いい加減にしなよ!!」
しかし、湯しぶきをはるかに超える大きな声が洗い場から飛んできて、思わず手を止める。
「全くもう、子供じゃないんだからさあ。」
身体を洗いながらのナッジの声に思わず顔を見合わせて肩をすくめる。
「へーい」
「ほーい」
「返事は、はい、だろ。」
『・・・はーい』
ナッジをこれ以上怒らせるのも得策ではないのは理解できた。とりあえず大人しく湯船に浸かる事にする。
丁度いい湯加減の温泉に肩まで浸かると、全身から疲れが解けていくような気がした。
「あー・・・。」
「うー・・・天国だな・・・。」
「ここに色気のあるおねいさまでもいたらさらに良かったのになー・・・。」
「うちの姉ちゃん色気ねえからなー・・・ていうか居たら天国から地獄だな・・・。」
だらっと力を抜くだけ抜いて言うと、ヴァンはおいおい、とため息をついた。
「そこで現実の姉貴を想像するなっての・・・。ちなみにチャカはどんなのが好みなんだよ?」
「どんなのって、うーん・・・
 可愛くて、ほっとけない感じで、優しくて・・・て、何言わせんだよ!ヴァンの方はどうなんだ?」
「俺か?俺はやっぱり、ぼんきゅっぼーんとスタイルよくてーせくしーで大人ーなおねいさまだな!」
きっぱり明るく言い放つ。
「せくしーでおとな・・・ね・・・。」
会った事のある女性の中だとどの辺りだろうな、などと考える。確かに会った事はあったとおもうのだが。
「・・・カフィンさんみたいな感じか。」
思い出した事をなんとなく口に載せると、ヴァンが怪訝そうな顔でこちらを見る。
「カフィン?誰だそれ?」
「んー、銀髪で髪が短くてで赤い目で露出たっかい服着たスタイル抜群の美人のおねいさん。」
特徴をつらつらと挙げるとヴァンの目が見開かれた。
「おおおおお前そんな人とどこで知り合うんだよ!?ずるいっ!ずるいぞ!」
「ずるいったって、旅してりゃいろんな人と会うもんじゃんか。美人のおねいさんの一人や二人、旅してりゃそのうち見る機会あるんじゃねえの?」
「・・・何の話をしてるんだよ・・・」
呆れ声と水音と一緒にナッジも入ってきた。
「チャカの奴いつの間にか美人のおねいさんたちと知り合いになっててずるすぎるよなって話だよ!」
「だから違うってばー!」
「はー・・・まあ、旅してれば知り合う人数も増えるだろうけど・・・。」
ぐだぐだぐだ、とナッジは肩まで沈んでいく。
「・・・そういえば、チャカこないだアイリーンとお茶してなかった?」
「え、なんで知って」
「なんだとおっ!?」
言う前に首にヴァンの手が掛かった。
「おま!なんでそう!うまくやりやがってこのやろズルイぞ!!」
「ちょ、待て、死ぬ・・・!!」
息が苦しい。じたばたと暴れる。
「ヴァンやめなよ、チャカが死んじゃう。」
「おおっと。
 ・・・で?そこんとこ詳しく。」
「・・・その前にナッジ、何でお前そんなん知ってたんだよ。」
「エンシャント歩いてたらたまたま目に入ったんだけど」
「そんなのはどうでもいいから!」
ばしゃんっと水を跳ねさせてヴァンがさえぎる。
「チャカお前さっき可愛くてほっとけなくてはかなげでーとか言ってなかったか」
「・・・まあタイプとしては、君の姉さんのほうに近いよね・・・?」
言われなくてもそこに否定する要素は無かった。アイリーンは女騎士めざして修行中と言っていたが、性格は周りを巻き込んで引っ張っていくような活発なタイプである。
「アイリーンな、俺見てると死んだ弟分みたいでなんか懐かしいってさ。それに出身近くて話合うから。そんだけ。」
「・・・へえ?」
「で?」
先を促されてもそれ以上も以下もない。
「それだけだっての。姉ちゃんと仲いいみたいだからそのせいじゃねえの?」
「なるほど。」
「おこぼれに預かったって奴か・・・。」
「そういうこと。」
言いながらも肩をすくめるのを止められない。
「パーティに女の子来る事も結構あるけどさ、みんな姉ちゃんにべったりなんだもんな。
 間違いなく生まれてくる性別間違ってるぜ、あれは。」
「まあ確かにたくましい、かな・・・」
ナッジもくすくす笑って頷いた。ヴァンがそういえば、と首をかしげる。
「俺まだ入ったばっかでよくわかんないんだけどよ、一緒に旅するってどんな子が居るんだ?」
言われて、思わずナッジと顔を見合わせた。頭の中では超マイペースな魔法使いの声とヒステリックなエルフの声がこだましている。
「・・・なんか、色々・・・濃いような。」
「・・・結構、振り回されっぱなしっていうか、な・・・」
口調と性格をリピートすると、温泉の中でもくらっとしてしまいそうなけたたましさだった。
「あ、でも悪い人達じゃない・・・よね?」
「そ、そうだよな!ほら、ルルアンタとか割と普通・・・」
「そうそう、それにこの間の砂漠の子も」
「うんうん、まだ救いはあるよな!」
必死でまともな部類に属する仲間を思い出して、全力でうなずいてみる。それで薄まるかと言われれば大して薄まらないのが悲しいところなのだが。
「救いってのはなんなんだよ・・・。」
「いやその、うん・・・ヴァンも、会ってみればわかるよ。」
「うん、そうだよな、百聞は一見にしかずっていうしな。」
疑問顔にも曖昧な顔しか返せなかった。
「期待するなって事か。」
「いや、ほら、仲間だけじゃないし。それに・・・そうだ、ほら、ほかにも居るじゃん、ここの巫女さん超美人だし。」
慌ててフォローしようとしたところで、そういえばと思いだす。
「マジか!?」
食いついたヴァンにナッジが頷く。
「うん、よく解らないけど、細い断崖の奥のほうに神殿があるんだ。」
「そうそ、なんか人形みたいな印象なんだけどそれがまたほっとけないと言うか何せ美人でさ。」
クールなうら若き巫女のフレアは、仲間にはちょっと無い雰囲気の美女で、何度と無く通った事もあり、印象深い人物だった。
「ウルカーン来た時はいつも行ってるから、多分今回も行くんじゃないかな。」
「おー、なんかテンションあがる話だなそりゃ!」
そう、仲間に限定さえしなければ、世界は割りと美女に満ちている。
「そういえばアキュリュースの巫女さんも美人だよな」
「そうそ、優しそうな人だしね。」
な、と振ると、ナッジも頷いた。
「ほよー。目の保養には苦労しなくて済みそうだな、なんちって。」
「ヴァンの場合、そのダジャレでみんな逃げていきそうだけどね。」
くすくす笑いながら、さらっとナッジが酷い事を言う。
「何を失礼な事を言ってんだよ!」
「そうだよー別に逃げるほどのもんじゃねえじゃん。」
口々に言うと、ヴァンはばしゃんと此方を向き直った。
「チャカ、お前やっぱり俺の美学がわかるのか!」
「もちろん!ヴァンのダジャレは特級だぜ!」
しかし、がしぃっと手を取り合ったところで、ナッジは静かに首を振っただけだった。

「・・・僕にはちょっと、理解できないかな・・・。」

最初は女の子ばっかりできゃいきゃいしてるものを書いてたのですが、読み直しているうちに訳がわからなくなってきたのでざくっと書き直したら、健全な男の子の健全なグダグダになってしまいました。
ヴァンとチャカが仲良しって言う設定はグッジョブだと思うんですが、おかげでうちの畑発パーティはナッジかヴァンがよく入ってますが、テラネ発だとチャカが出てこないので馬鹿4人で冒険してる図が見られないのが個人的にとても惜しいと思っています。
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