帰る度に怒られている。言い返しはするが、毎回してやられる・・・というより、なぜかあちらのペースで事が運んでしまう。腕力なら勝てる、とも言い切れないところがまた悲しい。認めたくは無いが、格が違う。今までやってきて、攻撃があたった事は数えて六回ほどだろうか。実効性があったのはその半分。その数を覚えていられるほどに、なぜか攻撃があたらない。無論いつかは口でも力でも勝つ。だが、それにはまだ時間を要しそうなのも動かせない事だった。
いや、その前に、もっと考えるべき事がある。
多数の領地経営に王宮への出仕、その他の事務仕事に恐らく陰謀沙汰も多いはず。代官を置いていたノーブルも、今は直接取り仕切っているはずだ。忙しいはずなのである。・・・それなのに、なぜ屋敷に居るのだ。
正直なところセバスチャンとの約束さえ守れれば良いので、あの鉄面皮と顔をあわせてまた怒られるのは億劫以外の何物でもないのだが・・・どうにも遭遇率が高すぎる。
そんなこんなで、ある日の昼下がり。
「レムオン様の休みの日、ですか?」
屋敷の居間でルーマティーを淹れてくれたセバスチャンを、シェナは引き止めて聞いてみた。ちなみに本日も当主はご在宅で、もうそろそろ部屋に来る予定だ。
「うん。」
屋敷を訪れるのに、その日を避ければいい。そんな内心を悟らせぬよう、笑顔で他意無く、を心がけてみる。
「それは、レムオン様に直接お聞きになったほうが良いのではありませんか?」
セバスチャンは、にっこりとそう言った。
「なんでだい?セバスチャンだって、予定くらい判ってると思ったんだけど。」
「ある程度の予定は私も把握しております。しかし、実際に休日を休日として取られた試しは殆どありません。」
表情が翳る。翳らせた影には心配という名前がついているのが明らかだった。
「・・・そうなんだ。でもそれなら、本人に聞いてもわからなさそうだね。」
「それは違うと思います。お仕事の進み具合等は、やはりレムオン様ご本人の方がわかっていらっしゃいますから。」
「それもそうか。」
それならやはり当人に聞いた方がいいのだろう。しかし、うまく聞き出せるだろうか。
「もしもお聞きになられるのでしたら、レムオン様に、きちんと休まれるようにも言ってください。
私も何度と無く言っているのですが、なかなか聞き入れてもらえないのです。」
考えている時にそう言われ、どきりとした。
「え、あ、うん。そうするね。」
何気なく、を一生懸命装ってそう返答する。
「お願いします。」
セバスチャンはそう言って真摯に頭を下げた。
後戻りはもう許されない。するつもりもなかった。
ほどなくして、扉が開く。
「久しぶり。お邪魔してるよ。」
挨拶もまともに返さず、レムオンはソファに腰を下ろすとこちらを見据えた。
「豪腕の炎、という冒険者の話を聞いた。」
開口一番切り出したその言葉は、言葉の響きとは正反対に爽快なまでに凍っていた。その冷気に当てられたように、シェナも凍りつく。
少し前についた、それは彼女の通り名だった。しかしそれは、シェナが正式な名を名乗っていれば付く筈の無い称号でもあり、・・・今のところ、目の前の人物にはあまり知られたくない名でもあった。
「・・・最初に聞いたときは耳を疑ったが、やはりお前か。」
何も言わずとも、答えは筒抜けらしい。否定は無意味だ。ならばもう、開き直るしかない。
「獲物を替えて少ししたらそう呼ばれるようになったよ。今の武器がどうやら合ってるらしくてね。」
「仮にもリューガ家の娘につく称号ではないな。そんな称号がつくなど、日ごろの行いが知れる。」
軽く鼻を鳴らし、背の高い男の顔をぎっと睨む。
「アンタが斧を取り上げなければ、もっと別の称号がついてたかもね。」
「お前が正式な名を名乗っていれば、もっと別の名で呼ばれていたのだろうな。」
その意味することを悟った瞬間、言葉は口をついて飛び出していた。
「お貴族様の名前なんて好き好んで名乗れるかい。私はただの冒険者だ。」
勢い込んだ言葉にも、返事は例によって冷たい。
「・・・立場はわかっているな。」
それは確認というより脅迫に近かった。一気に冷える。
「・・・わかってる。私はここの一員として生きるしかないさ。」
自分の立場の危うさくらいはわかっていた。しかし、必要に迫られない限り名乗りたくないものは名乗りたくないし、名乗らない事による不利益は今のところない。・・・いや、今現在進行形で不利益は進行中ではあるか。
「別に偽名使ってるわけじゃない。この名前もありふれてるから、誰もリューガ家の娘だと思わないみたいだし、私も一々訂正してないって、それだけだ。勝手についた通り名の事でアンタにとやかく言われる筋合いは無い。」
・・・とはいえ、事情を知る仲間たちには心ばかりの緘口令を敷いていた。ギルドに登録したときも、チャカが居た事もあって姓までは記さなかったわけで、隠し立てと言われれば実は否定をし難かったりはする。
「・・・ギルドに問い合わせてやっても良いのだが。」
「っ!」
まさに思っていた事をつかれた。
「・・・ふん。やりたけりゃやりな。別に不都合は無い。名前にノーブル伯っておまけがつくだけだ。」
表情を仏頂面に戻し、開き直ってみせる。
「ほう、まだ後ろ暗い事があるのか。」
底冷えのする声だ。次に何を言われるかと思わず身構える。
しかし、こちらを見たレムオンは軽く息をついたのみだった。
「・・・まあ、そこまでは勘弁してやろう。俺もそこまで暇ではないのでな。」
その言葉に内心で息をついていると、追い討ちが来た。
「だが、出自を悟られるような真似だけはするな。お前は」
「わかってる。私だって死にたかない。」
「・・・わかっているならいい。話は以上だ。」
ソファから立ち上がると、レムオンはそのまま出て行こうとする。
「待って。・・・待ちな。私もアンタに用がある。」
「・・・珍しいな。」
聞いてやる、と、上から目線で振り返られた。行動の一つ一つが嫌味に見えるのはなぜなのだろう。
「アンタの休みの予定を教えてほしいんだけど。」
そんな事を考えながら本題を問う。
「俺の予定など聞いてどうする気だ。」
冷たい反応に息を一つ。これは頼まれ事なのだ。なんとかしてやりおおせねばならない事だった。
「セバスチャンが、ちゃんと休み取れって言ってたんだよ。気をかけてくれる人いるんだったら、あんまり心配掛けるんじゃないっての。」
それだけ言って、紅茶をすする。と、もう一つ尋ねられた。
「そうではない。お前の目的は何だ。」
「休みの日を避けて戻るために決まってるだろ。」
即答。救いようの無い沈黙が部屋を満たす。
やがて、軽く鼻を鳴らす音。それは、次第に笑い声へと変わっていく。
「何かおかしいかい?」
顔を上げると、レムオンは顔を抑えて笑っていた。
「全くもって意味が無いな。
出仕予定が無いのは、今日と、一週間後。後は二十二日、二十九日だ。後はまだ未定になっている。もっとも、この予定もどう動くかは判らん。」
なかなか休まないとセバスチャンが言っていた割に、本日はやはり普通に休みだったらしい。
「で、お前は次にいつ戻ってくるつもりだった?一月後か?半年後か?」
指の間からちらりと向く視線、嬲るような声。それは、悪の大魔王のように映った。聞き方を失敗したのは間違いないが、それでめげるのも癪である。
「さあね。
それなら、確実に王宮に行く日でも教えてもらおうか。そっちを狙う事にするからさ。」
動揺なんぞ見せてやるものかと、また紅茶をすする。
「月例の昼餐会は月初めだ。」
「わかった。助かるよ。」
あっさり返ってきた返事を記憶の一番目立つところに刻み付けると、シェナは紅茶を飲み干した。
「用事はそれだけだ。くれぐれもセバスチャンに心配掛けるんじゃないよ、いいね。」
もう行っていい、と片手で追い払う。と、レムオンは戸口の方からこちらに引き返してきた。
「何?」
「気が変わった。せっかくの休みだ、少し付き合え。」
ソファに掛けたままの言葉に、ふいと首を横に振る。
「遠慮する。休みの日は身体を休めるもんだ。」
「いや、それだけではないな。」
こちらに向かって来るのを、真っ直ぐに睨みつける。
「何をする気だい?」
「一つ相手をしてもらおうか、豪腕の炎。暇つぶしになる程度には腕を上げているのだろう?」
最後の一言に、がっと血が上った。
「上等だ!」
広々とした練習場で、武器を手に向かい合う。
「・・・斧の次はナックルか。つくづく予想の斜め上を行くな、お前は。」
レムオンは余裕で肩をすくめて見せた。
「他人の武器にケチつけるんじゃないよ。身軽に動けて嵩張らない、いい武器じゃないか。」
こちらにはそんな余裕などありはしない。なんとか軽口をたたきつつも、隙をうかがうのに必死なのが現状だ。そして、そんなものはどこを探してもない。
どこから行くか。そう思っていたら、レムオンの方から声がかかった。
「掛かってこないなら、こちらから行くぞ。」
言葉と共に、軽く地が鳴る。すぐに剣は目の前に来た。横に飛んでまず避ける。すぐに次が来る。二刀を操る相手にはその場しのぎは通用しないらしい。横、後、後、横、横、と連続で避ける羽目になる。
「いつまで逃げる気だ?」
言葉と共に繰り出される横薙ぎの剣。身を低くして避け、そのまま突っ込む。思ったよりも軽い衝撃。体当たりは不発らしい。しかしまだめげない。身体をひねって拳を繰り出す。避けられる。また繰り出す、避けられる。次、と肘から飛び込むと、予想していなかったのか避けたあちらのバランスが崩れた。至近距離。思い切り踏み切って拳から飛び込む。ようやく浅く入った。まだだ、まだ。連続で次を撃つ。次はかわされる。そのまま、また距離が開いた。
「・・・ふ。努力は認めてやろう。」
「・・・・。」
前方を睨み据え、拳を構え、隙を伺っているように見せて口の中で呪文を唱える。待っていてくれる、わけはない。案の定、最後迄行く前に斬りかかられた。予測済みだ。後ろに逃げる。呪文は止めない。二つ三つ蹴って距離を開ける。
「アルカホル!」
詠唱が終わる。炎の力が身に宿る。レムオンがぎょっとしたように身を引いた。隙を逃さず懐に飛び込む。
「破ァアァッ!!!」
我が身の体力をも削る渾身の一撃。確かな手ごたえ。
吹き飛ばした身体を息を切らせて・・・見上げた。
「まだ立てるって・・・」
普通ならこれで沈むのだが。
「・・・なるほど、それが通り名の由来か。単細胞に見えてハイスペルまで使いこなすとは。」
「単細胞は余計だっ!!」
炎の力が降りている状態だと、怒りの沸点も低くなる。そもそも狂戦士化の呪文なのだ、これは。
飛び込んで、一歩前で脇に回って蹴り。剣の平で受けられる。
「まあ、これで少しは遊べるか。」
ばん、と跳ね飛ばされ、体勢を立て直したときにはすでに目の前に剣が迫っていた。
「精精楽しませろ。」
「ふざけんなっ!!」
広い練習場で、拳と剣が、交錯した。
何合やりあっただろうか。
「あー・・・ったく・・・。」
地に倒れると、もう何も動かせなかった。荒い息は宙に消えていく。怒りも悔しいという思いも何もかも、全てがどうでもよくなって大地に溶ける。残るのは、体を思い切り動かした後に残るあの不思議な爽快感。
結果は見えていた通りの惨敗だった。ただ、前よりはやりあえたし、攻撃も通った数は過去最高だ。・・・それだけはまあ評価するか、とぼんやりと自分に言ってみる。
ぼそぼそと小さく声がした。隣に人の座る気配。
「サブキュア。」
のろのろと目線を動かす前に、身体を暖かな光が包んだ。傷の痛みがすっと引いていく。それは、完敗の証でもあった。
「・・・ありがとう。あんたも多芸だね。」
深々とため息をついて、ひとまず礼を言う。最初に助けてもらったときも、そういえばこうやって回復してもらったのだったか、・・・妙な既視感を感じる。
回復した体力で身を起すと、相変わらずの鉄面皮がそこに居た。
「お前が使っていたスペルの方が上級だろう。」
「私はそれ、使えないんだけどね。」
いつもより集中し、レムオンが唱えていた呪文を真似る様に唱える。しかし、相手に向けて掛けた魔法は予想通り途中で立ち消えた。
「使えないのか?」
「私、火以外はからっきしでさ。」
しばらくウルカーンを拠点にして仕事を請けていたら、火の精霊力だけが上がってしまったというだけの事。
理由を話すと、レムオンは拍子抜けしたような顔をした。
「そもそも魔法は得意じゃないんだ。」
「だろうな。」
ぼそぼそ、とまた小さな声。
「キュア。」
自分にではない。レムオンの身体が光に包まれる。
「そんなにダメージ入ってたかい?」
声が弾んだのは言うまでもない。レムオンは、小さく顔をしかめた。・・・返ってきた答えは変わらず冷淡だったのだが。
「炎の力が宿れば、力は二倍になる。それに勢いを殺してもダメージが無くなる訳ではない。
・・・嬉しそうだな。」
「今まで攻撃まともに当たったことほとんどなかったんだから、そりゃ嬉しいさ。」
攻撃が入らなければ、倒す事もままならない。そう言うと、可笑しそうに表情がゆがむ。
「まだ俺に勝つ気でいたのか。」
「いつかは叩きのめす。そんで、ぶっ倒れてるアンタに、痛かったでちゅねーとか言ってイクスキュア掛けてやる。」
冗談のように言ってはいるが、割と本気だったりする。言われた方は一瞬固まり、・・・やがて小さく吹き出した。
「それならば一生負けられんな。
・・・やれやれ、お前の相手も気晴らしにはなるということか。」
表情は珍しく緩んでいた。
「悩み事かい?なんか無駄な事で悩んでそうだけど。」
その珍しい表情をひょいと覗き込んでみる。
「ああ、真実無駄で仕方ないが。・・・全く持って話にならん。」
しかし、その顔はあっという間にため息交じりに変わった。
「何が?」
・・・常の無表情よりは生きている気がしなくもないが。
「貴族どものことだ。無能なうえ視野が狭い。」
一言言うと、何か堰が切れたらしい。立て板に水で文句が流れた。
「都合のよい妄想はできるくせに、まっとうな想像力はない。あいつらをまとめて、雌狐に対抗せねばならぬと思うと気がめいる。」
一息に言って、息をつく。浮かぶのは自嘲に近い表情だった。
「ま、雌狐の方もノヴィンという厄介者をかかえているのだから対等か。しかし、宮廷で才覚のある人間が、雌狐ひとりというのもお寒い話だ。」
「才覚ねえ・・・。」
あの手段の選ばなさも才覚なのだろうか。レムオンの影響だけではなくエリスが大嫌いなシェナとしては、それすらも疑問だった。陰謀の度にあんな手を使っていれば、いつかは民からも憎まれるのではないかと思う。・・・自分がそうであるように。
「このままではロストールも長くないぞ。」
だから、吐き捨てるようなその言葉にも同意しかない。
「・・・そうだろうね。」
ぼそりと返すと、レムオンは驚いたようにこちらを見た。
政争ごときで民を直接苦しめる事に何も思わない、そんな王族の統べる国。お上は元より腐りかけている。
ディンガルもまだ暮らしにくそうだが、上層部はこっちよりしっかりしてるのではないか。住んでいない身でこう言うのも何なのだが。
そう言うと、ため息が返ってきた。・・・少しだけ、満足げな。
「シェナ、世界を見ろ。」
視線はこちらには向いていない。
「領主としての雑務は俺がこなす。世界を旅し、多くを見るのだ。俺は、従順な部下より ともに歩める同志が欲しいのだ。」
「同志・・・。」
言葉を舌に乗せてみる。なんだろうか・・・それはとても近いようで、とてつもなく遠い言葉だった。
「フフッ、俺としたことが…しゃべりすぎたな。」
レムオンはそう言って笑う。シェナは軽く頭を振った。
「・・・部下扱いはご免だけど、同志になれるとは思えないね。アンタは生まれも育ちも貴族で、私は農民だ。理想の方向は違うだろ。」
視線がこちらを向く。何か言われる前に、先を続けた。
「でも、私はエリスは大嫌いだ。協力はできるよ、多分。」
沈黙が落ちる。ややあって、また小さく笑われた。
「・・・それが、お前の意思か。」
「これ以上は無理だよ。わかるだろ。」
それは、怒っている風でもなければ、失望している風でもない。
「ああ。・・・それくらいがお前らしい。」
認めた、と。そういう事のようだった。
首と肩を動かしながら、レムオンは立ち上がる。
「戻るぞ。・・・また付き合え。」
「また怒られるのは嫌なんだけど。」
それにつられるように立ち上がりながら、言う。
「自分の不行儀を棚に上げてそれを言うか。」
「アンタがいちいち細かすぎるんだよ。」
ばさばさと土埃を払うと、レムオンは顔をしかめた。
「お前が大雑把過ぎるんだ。少しは周囲に気を払え。」
「多少図太くなきゃ、冒険者はやってられないんでね。」
屋敷へ足を向け、ふと後を振り返る。
「でもまあ、アンタを倒すにはまた付き合うしかないのか。」
「倒されはせん。だが、お前の相手をするのも気晴らしくらいにはなるようだからな。」
どこまでも上から目線である。なんとなく見下ろされている気がするのは、身長差のせいだけではない。
「・・・いつか、その言葉そっくり返してやる。」
「いつか、は永劫こないだろうがな。」
鼻で笑われた。片手を相手のみぞおち付近に叩き込む。
「っ!」
思わず身体を折ったレムオンに、ふん、と鼻で笑い返してやった。
「そうやって足元掬われないようにするんだね。」
そのまま屋敷の方に向かおうとすると、腕が掴まれる。
「その言葉、そのまま返させてもらう。」
ぐい、と手がひねられた。
「っ!」
手を振り回して束縛を断つ。
「随分手荒だね。」
「お前ほどではない。」
腕と足は休まない。屋敷へと向かいながら、口と一緒に不毛な小競り合いを続けている。足払いを掛けたり踏んづけたり、肘打ちだったりはたいたり。
結果、戸口で待っていたのは、セバスチャンの深いため息だった。
「お疲れ様でした。・・・しかしお二方とも、手を上げるのは感心しません。」
少し気まずくなって、掴みあっていた手を離す。
レムオンと少し離れたその瞬間、セバスチャンはシェナに小さく耳打ちした。
「シェナ様。やはり言っておきたい事がございます。」
「・・・?」
疑問はあるが、取り合えず頷く。ついでにちらりと見たレムオンの方は、どうやら気づいていないようだった。
「また、帰って来い。」
帰り際、見送りのお決まりの言葉。それに、気が向いたらね、と盛大に意地を張って屋敷に背を向ける。
貴族街から平民街へ向かう足は、屋敷に来たときと同じように重い。頭を回るのはその原因、セバスチャンの言葉だった。
『休みの日でも持ち帰りの仕事ばかりされているのです。』
『シェナ様が戻られたときは、こちらにも顔をお見せになるのですが。』
『なるべく、レムオン様が休みの時に戻られるようにしてください。』
思い返せばため息しか出てこない。それもかなり深いものばかりだ。
「・・・全く・・・なんて手間のかかる奴なんだ。」
自己管理くらいしろ、と思いかけて、自己管理はあれで出来ている事に思い至る。
『貴方様は必要な方なのです。お願いします。』
セバスチャンが相手でも、さすがに勝手な事を、とは思った。それでも、セバスチャンがそう言うなら、と思ってしまうのもまた事実だ。
「・・・聞いちゃったらもうどうも出来ないじゃないか。」
来週、二十二日、二十九日。大体七日おきか、と頭の中で暦をめくる。それなら次はそれにあわせるしかあるまい。
また、あちらのペースで事が運んでいる。しかし、言われて無碍に断る事など出来はしない。
当主の不在を狙って屋敷に戻る計画は、その日のうちに潰えてしまったのだった。
レムオンってなんとなくだけど、主人公怒らせて遊んでる感じします。あの言動、不器用とかそんなの通り越して喧嘩売ってるようにしか見えない。
でも、序盤でレムオンに勝つのは無理だろうなあ。
畑スタートやって一番びっくりしたのは、義兄上の万能っぷりでした。スキルもスペルもほとんど全部覚えてるよこの人!使えるかどうかはともかく!
精霊力は、OPイベントと空中庭園の間取ってみました、一応。空中庭園は覚醒しかけてたみたいだから少し高いのかなと思わなくもないけど、それでも少しは成長しやがれ馬鹿兄貴との思いを込めて。
実際のところ、称号は畑から始めると有無を言わさず「ノーブル伯」。
でも畑の子がリューガ姓を堂々と名乗ってたとはとても思えない、というイメージがあるんですよね。チャカ居るのに。
・・・とかなんとか思ってたのを話にしたらこんな感じ。
あと、いかに畑スタートと言っても「全く話にならん!」て愚痴られるのってやっぱり出会ってすぐってこたないだろうと思ったのでこんな感じです。