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骨と人間と悪い夢


 暖かい日の光の中をみんなで歩いていた。
 「こんなに晴れているなら、きっと夜の空もきれいだろうな。」
 雲一つない青空を見上げてサンズはまぶしそうに言う。
 「いつもよりキラキラして見えるのか?」
 アンダインが首をかしげると、アルフィスはそれもいいわね、と笑った。
 「いつもより一杯見れるのよ。星を見るなら、あまり夜の明かりが届かない広いところが良いって話だっけ。」
 アルフィスはそう言いながら、あたりを見回す。
 「それは寂しくないかい?ねえブルッキー。」
 メタトンが肩を竦めると、ナプスタブルックはふるふるっと震えて、メタトンを見上げた。
 「ぼく……はそういうのも好き……ウォーターフェルみたいで。ほら、シャイレンの唄も、映えそうだし」
 ね、と言うと、傍にいたシャイレンも照れたように頷いた。
 「それはいい考えだね!星空ライブだ。」
 その案にパピルスが歓声をあげた。
 「オーホー!最高だな!それなら俺様、心当たりがあるぞ!このあいだドライブで見つけたんだ!な、フリスク。」
 「うん、そんなに遠くないよ。今夜あたり見に行ってみる?望遠鏡もってさ。」

 言ったとたん、景色は暗転した。
 物凄い力で後ろに引っ張られるような心地がして、慌ててパピルスにしがみつく。
 「どうしたんだ?」
 「え、え」
 きょとん、とパピルスはこちらを見るが、後ろからの力もどんどん強くなる。なんなのかと思って振り向くと、そこには黄色い花畑が見えた。
 ルインズだ。一番最初の、旅のスタート地点。
 時間ごと、何もかもが戻されようとしてる、と直感した。そんなの絶対に嫌だ。パピルスに必死でしがみつく。
 「やだ!パピルス、パピルス助けて!」
 「フリスク!?フリスク、どうしたんだ、フリスク!!」

 「フリスク!どうしたんだ、フリスク!!」
 声と一緒に、ぱちん、と頬を叩かれて目が覚めた。辺りは暗い。目の前には心配そうなパピルスの顔がある。
 「パピルス…!」
 安心感で思わず抱きつくと、パピルスはおっと、と抱きしめてくれた。
 よく見たらパピルスはパジャマ姿だし、ここはパピルスのベッドの上だ。どうやらパピルスに思い切りしがみついていたらしい。
 「フリスク、起きたな!
  お前が余りにもうなされてたから、起こしたんだ。大丈夫か?」
 夢、と気づいて、途端に力が抜けた。はあああと深く息をつく。
 「大丈夫。ありがと、パピルス。
  ……まだ夜だよね…?ごめんね、起こしちゃった?」
 聞くと、パピルスはあいまいに頷いた。
 「……まあ、そんなところといえば、そうかもしれない。」
 そして、真っすぐにこちらを見る。
 「だが!友だちがうなされてるのを放っておくことはできないからな!これでいいのだ!」
 「うー、ごめんねパピルス。」
 しょんぼりと謝ると、気にしちゃだめだぞ!とパピルスは笑った。
 「まだ朝まで時間はあるし、もう一度寝るといいぞ!また変な夢みたら、俺様が追い払ってやるから。」
 きらきらした目は騎士の瞳で頼もしい。だが、あまり寝る気は感じられなかった。起きようと思えばパピルスは多分起きていられるのだろうが、 普段はおやすみなさいをしてから朝までぐっすり寝ているのだ。 それはとても申し訳ない。
 「んと、それじゃあ一緒に寝ようよ。夢の中で追い払ってくれる方がいい。」
 ぺたんとくっつくと、パピルスはフリスクを腕の中に入れながら首を傾げた。
 「夢の中でか?俺様フリスクの夢の中に入れるのかな。」
 「入れるよ。さっきも一緒に居たもん。」
 うん、と頷くと、パピルスは目を見開いた。
 「本当か!」
 「うん。だから一緒に寝よ。目を閉じて、いっせーのせ、でおやすみなさいするの。」
 言いながら目を閉じて、パピルスにぎゅっとくっつく。
 「目を閉じたぞ!」
 「じゃあ、おやすみなさいしよ。いっせーの」
 『せ!』
 声を合わせて、すうっと力を抜く。目を閉じて、ゆっくりと息を吐いて、またゆっくりと息を吸う。
 そして眠りに落ちたら、

 ……またルインズの花畑かもしれない。

 碌でもない思いつきに、一瞬で目がさめた。そんなことはないと信じたいけれど、不安は大きくなるばかりで全然消えてくれない。
 だいじょうぶ、だいじょうぶだ、と自分に言い聞かせる。それでもだめだ。眠れない。
 「あー、こちらパピルス。フリスクは眠れていないな?」
 頭の上から声がして、思わず目を開けた。
 「なぜなら俺様がまだ眠れていないからだ!フリスクが夢の中に入らなければ、俺様も夢の中に入ることができない!」
 「そうだよね。……うん。眠れてないよ。」
 ごめん、とくっつくと、パピルスはうーん、と目を閉じた。
 「謝らなくていいぞ!
  でも、さっきの夢、本当に怖かったんだな。俺様がついているのに眠れないとは。」
 「うん。」
 「どんな夢、見たんだ?いや、怖いのは俺様も眠れなくなるが!でも!フリスクだけ辛いのも嫌だし…」
 困った顔で考え込むパピルスの顔を見て、そしてもう一度目をつぶる。
 怖い話、ではある。それにこんな話、パピルスに言って大丈夫なのか、とも思う。事情を知っているサンズはともかく、……とそこまで思ったら、何となく迷いは無くなった。
 何でも話せるのが友達、ということはないと思う。だが、サンズに話せてパピルスに話せない、なんて、それは酷い話じゃないだろうか。
 胸に小さな決意を抱く。そしてパピルスの頬を、ぺたんと触った。
 「ニェ?」
 「あのね、時間も何もかも、世界が全部巻き戻ってスタートからやり直しになりそうになった、そんな夢見たの。
  もうだめかも、って思ったらパピルスが助けてくれたんだ。
  でもね、また寝たら、また全部巻き戻るんじゃないかって、怖くって。」
 思い出すと自然と震えがくる。
 「世界が、巻き戻る?やり直しになるのか?」
 「そう。明日の約束も、来週のコンサートも、全部全部なかったことになって、またママに『はじめまして、ぼうや』って言われて、パピルスに捕まえるぞ!て脅されるの。今までの事、全部なかったみたいにさ。」
 ここに来るまでに一度経験した事だった。明日出かける約束をして、ワクワクしながらおやすみなさいとベッドに入って、目を覚ましたら花畑にいたのだ。最初は夢だと思った。でも、現実だった。
 もちろん、三度目の冒険自体は一回目よりはるかにスムーズだったし、知らないことも知れた。今はみんなと友達になれたし、地上にも出れたし、みんな幸せに暮らしている。
 でも、もう一度やりたくはなかった。 今の時間もまたなかったことになったら、またスタートに戻されたら、……自分はもう耐えられる気がしない。
 パピルスは悲しそうに口を開く。
 「俺様、もうフリスクにそんな事はしたくないぞ……それに、俺様にそんなことはさせたくないぞ!俺様とフリスクは友だちなんだからな!」
 もぎゅ、と抱きしめられると、なんだか心が解けていくような気がした。きゅっとくっついて、真っすぐな骨に頬を擦り付ける。
 「ありがと、パピルス。ぼくもね、もう一度パピルスに初めましてなんて言いたくない。でも、だから、怖くて。」
 平気、の顔もできなくなってきた。せめて泣きそうな顔を見られない様に、顔を背ける。その頭を、骨の手が撫でた。
 「大丈夫だぞ。そんなことはきっとないし!もしも戻ったとしても、俺様も一緒に戻る!そしたら二人は友だちのままだから寂しくないだろう?」
 突拍子もない案に思わず顔を上げた。
 いや、寂しいかな……、なんて、パピルスは真剣な顔で考えこんでいる。どこまでも素敵なスケルトンだ。
 「そうだね、一緒に居てくれたら、寂しくないね。……ありがとう。ホントに。」
 アズリエル……ではなくてフラウィーに騙されて弾幕を受けそうになっても、パピルスなら「それはただの弾幕だろう!」なんて言って追い払ってくれるだろう。ママに置いていかれても、二人なら平気だ。出ていく時だって、一緒に説得してくれるなら百人力だ。
 そう思ったらなんだか笑えてきた。
 「お、フリスク、笑ったな?」
 パピルスのホッとしたような声に、素直に頷いた。
 「へへ……うん。巻き戻ってもパピルスと一緒なら楽しそうだなってシミュレーションしてたんだ。」
 「しみゅれーしょん?」
 難しそうな顔をしているパピルスに笑いかける。
 「まず最初、騙されて弾幕を受けそうになったら、それは弾幕だから当たると危ないって言ってくれるでしょう?」
 「そうだな!」
 「そしたらきっと、弾幕飛ばしてきた子は逃げて行っちゃう。」
 ふふ、と笑う。
 「後ろから足音が聞こえてきてさ、こっちを向いて握手しろ、て声がする……なんてこともあったんだ。」
 「それは怖いな…?」
 嫌そうな声に笑いかける。
 「でもその声サンズなの。」
 パピルスは一瞬唖然とした顔をしたが、すぐにきっぱり言い切った。
 「すぐ振り向いて、悪趣味な事をするんじゃない!!って、俺様は怒るぞ!」
 「そしたらサンズも少しは反省して、変なイタズラしなくなる気がするでしょ。」
 「それくらいはしてほしいぞ!俺様の兄弟なんだからな!
  まあ……無理かもしれないが。サンズだし。」
 我に返った諦め半分、の表情に吹き出すのはこちらの番だった。
 「あはは、確かに。」
 「だがな!もしも俺様がフリスクを捕まえる!なんてやってきたら、俺様はこいつは友だちだからダメだ!て言うぞ。
  俺様は話の分かるスケルトンだからな!絶対納得して引き下がると思うぞ!」
 「流石パピルスカッコいい。」
 「当然だ!」
 誇らしげな顔を見ているだけで安心する。パピルスと一緒の旅ならきっと怖くないし面白いだろう。
 「アンダインを説得するのは難しいかもしれないな……」
 「でも、二人でいるだけで心強いよ。アンダイン強いもん。」
 とめどなく飛んでくる槍も、一人よりは二人の方が心強いに決まっていた。
 「タッグマッチだな!それに、アンダインも友だちになれば怖くないんだ!」
 「そうだよね。パピルスのおかげでアンダインとも仲良くなれたんだ。」
 説得というか、何か本当にいろいろあった。パピルスのおかげもあって、アンダインも今は大事な友だちだ。その次は、と思うと頭を四角いロボットがよぎった。
 「ああそうか、メタトンやアルフィスとも一杯会えるよ。」
 「そういえばそうだな!テレビでの活躍は見ていたぞ!あの時は俺様もちょっと、いや、かなりうらやましかった!
  メタトンに会ってサインをもらうんだ!まあ今は持っているがな!」
 壁を壊して出てきた時は、怖い、としか思わなかったメタトンだが、きっとパピルスなら、壁を壊して出てきた瞬間、なんてクール!なんて言いながらサインをねだりに行くのではないだろうか。そう思うとなんだか楽しくなってきた。
 「とってもいい考え!」
 「だろう!」
 一人の時は怖かったことすべてが、なんだか楽しいイベントに変わっていく。もう恐怖は吹き飛んでいた。
 「パピルスと一緒なら、絶対大丈夫だね。」
 笑いながらくっつくと、パピルスも笑って頭を撫でてくれた。
 「もう怖くないか?」
 「怖くない!ありがとパピルス、そろそろ寝よ。今度こそ一緒に夢を見ようよ。」
 「ん、そうだな!じゃあ羊でも数えるか?」
 問われて、む、と立ち止まる。そして、一つ名案を思い付いた。
 「んー、そうだ、とっておきの方法があるの。
  パピルス、目を閉じて、ゆーっくり息をして、ぼくの声を聴いてね。」
 「ん、わかったぞ。」
 素直に目を閉じたパピルスを確認して、自分も目を閉じる。ゆっくりと息をついて、ゆっくりと息を吸う。
 そして、囁くような声で歌った。

 眠りなさいよいこ こわいものはもうないわ
 ほら 夢の世界も こちらにおいでとうたっているの

 シャイレンの子守歌は、地下世界で覚えた技で一番役に立っている気がする。何せ即効性がある。
 思った通り、二コーラスもいかないうちに、パピルスはすやすやと寝息を立てていた。
 「……おやすみ」
 自分ももう眠たい。その寝息に寄り添うように息をする。ゆっくりとした息が合わさったころには、意識はすっかり飛んでいた。


我が家のフリスクは基本的にパピルスが大好きすぎるし、パピルスデート回は本気で口説いている気持です。
ていうかあれは絶対振られるところがいいですよね。
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