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骨と人間とにらめっこ

 ソファの上で、パピルスと人間がにらみ合っていた。
  ただし、双方ともに全力で表情を崩し、素っ頓狂な顔をしている。
  ふるふると二人とも震えているのは、笑いたいのをこらえているのだろう。
  やがて、パピルスが唐突にキリッとした表情になり、耐えきれなくなった人間が吹きだした。
  「ぶっ……無理!パピルスそれはちょっとずるくないっ!?」
  呼吸困難になるほどソファの上で転げて笑っている。それを見てパピルスも思い切り笑い出した。
  「これで俺様の3勝目だな、フリスク!にらめっこマスターパピルス様と呼ぶといいぞ!」
  「くっそお、今度こそ勝つんだからな!」
  「はっはっは、何回でも掛かってくればいいぞ!」
  平和極まりない光景である。
  アズゴアに会いに行くと言っていたはずの人間……フリスクはなぜか今ここにいた。
  ちょっとスケルトンの家で骨休めしにきた、と言いながらやってきて、すでに3日経とうとしている。家をうっかり燃やしたとかで先日から居候しているアンダインもいるおかげで現在家は普段の倍以上に賑やかだった。もっともアンダインは買い物に行くとかで、今日は珍しく出払っていたのだが。
  二階から眺める居間の光景は平和だ。水を差す気にもならないくらいに。
  「あ、サンズー。サンズも勝負しよ!」
  そんなことを思っていると階下の方がこちらに気づいたらしい。ばたばたと手を振る二人の目は輝いていて、なんとも断り辛い雰囲気を醸し出していた。
  「兄弟に勝てないのに俺に勝てると思ってるのか?」
  「もちろん!ぼく、絶対サンズより強いもん。」
  どこから来るんだその自信は。喉元まで出かかったツッコミを抑えてフリスクに向きなおる。
  「んじゃ、お手柔らかにな。」
  「うん、容赦しないよ。」
  せえの、で見つめ合う。
  フリスクの細い目の奥、瞳は見えないようで強い光を持っていた。
  最初に会った時と変わらない。今はパピルスとじゃれているが、自分はどうにも警戒を解くことができなかった。
  最初に会った時。
  先を予知したような顔で振り向かれて、怖がりもせずにブーブークッションを盛大に響かせて、妙に慣れている様子に、何かを感じた。
  「お前さん、こうなるのが分かってたみたいな反応をするんだな?」
  半分冗談で聞いてみたら、こいつは真顔で言ったのだ。
  「うん。ぼく三週目だから。」と。
 
  前の周回の事はこまかく覚えてはいない。だが次に起こる事と正解は、何となくわかる。
  死ぬと思ったら、生きたいと思った時に戻ってしまうから時間は巻き戻しているかもしれない。
  でも決して故意じゃない。
 
  少しずつ聞きだせたのはそれくらいで、警戒を解くには足りなかった。本当を言えばパピルスにだって必要以上に近づけたくはなかったが、今となってはおはようからお休みまでべったりである。パピルスパピルスとついて回るし、ごはんもシャワーもベッドも一緒だ。もっとも、ここに来る前だって四六時中パピルスに電話をかけまくっていたようなので、変わらないといえば変わらないのだろう。
  そして、パピルスもパピルスでフリスクを気に入ったのか随分面倒を見ている。外に出れば雪遊びしているし、本を読んでやったりもしているようだし、今はこの通りだ。
 
  目の前の顔が唐突に歪んだ。ぐにっと頬を押さえて顔が細くなり歯が剥き出しになる。
  自信満々の偉そうな表情がなんとなくどこかで見たような、と思っていたら、今度は歯を剥き出しにしてにかぁっと笑った。あー、顔真似かと思い当たる。やがて片目を隠してすごむような顔になり、そのうちにやついた口元を張り付けて止まった。どうやら自分の真似らしい。目が全然笑っていないのがなんとも不気味なのだが。
  顔を少し手で隠して、表情を消す。
  目と口を細めて、フリスクがいつもしているような表情を作り上げて手を離した。
  自分風のフリスクと、フリスク風の自分が顔を合わせる。そして二秒。
  「サンズ、流石にぼく、そんな顔したことないと思うんだけど。」
  「そうか?結構イケてると思うんだがな。」
  「目が笑ってなくてめっちゃ怖い。」
  真顔でにやけた口元はやたら正直だ。だがそれなら自分だって言いたいことがあった。
  「お前さんもな、それはもしかして万一にもないと思いたいが……俺の真似か?」
  「うん。目が笑ってないところとかとてもリアルにできたと思うんだけど。」
  他意が無いせいでためらいのない言葉がソウルをえぐってくる。
  「さすがに傷つくんでやめてくれ。俺はもう少しイケボーンなはずだぜ?」
  言うと、首を傾げたフリスクの表情がにたあと笑った。これはこれでうれしくない。
  「でもサンズ、ぼくと話す時いっつも怖い顔してるじゃない。」
  「そうか?」
  「うん。ニヤニヤしてるくせに目が全然笑ってないの、めっちゃ怖い。慣れたけど。」
  む、と思って目元を務めて緩めてみる。
  「サンズ、それはちょっと気色悪いぞ……」
  パピルスまでもが嫌そうな顔になった。
  「ぼく、そろそろめいよきそんかなんかで訴えて良い気がしてきた。」
  にやけた笑いを引っ込めて、フリスクが真顔になる。
  「ちゃんとぼくを見てよ。ぼくはだれよりかっこいいんだよ?」
  そうして顎に指を当て、キリッと格好をつけた顔を作る。
  「俺様だって世界一かっこいいんだぞ!」
  対抗心が刺激されたのか、同じようなポーズでパピルスまで思い切り格好をつけた顔を作る。
  同じような顔が目の前に二つならんで、空白の時が二秒。
  空気に耐えられずに吹き出したのは自分だった。
  「みろ、俺様の力でサンズに勝ったぞ!」
  「ええ、ぼくが先にポーズ決めたのに!」
  「じゃあこれは二人の勝利だ!」
  「そうだね!!」
  パピルスとフリスクは、よくわからない理論でハイタッチしている。
  「参った参った。」
  笑いながら手をひらひらとふると、フリスクは精一杯の上から目線でどんなもんだと胸を張った。
  「ほら、僕の方がやっぱり強いだろ。」
  「へいへい、降参する、降参するって。」
  もはや笑うしかない。すると、フリスクはこちらにぐいっと近寄ってきた。
  「サンズ、一応笑えるんじゃん。」
  「俺は何時だって笑顔を忘れないスケルトンだぜ?」
  何言ってるんだ、と片目をつぶると、フリスクもにかっと笑う。
  「いつも目が笑ってないのは顔が固いからかと思ってたんだけど。」
  もう一人の同居人のように全力で笑って、フリスクはこちらに抱きついた。反射的に抱き留めると、腕の中からこちらの目をのぞき込む。
  「サンズ、ちゃんと笑ってると怖くないね。」
  こんなに近くに来たのはそういえば初めてだ。至近距離でにへらっと笑ったその顔に、深読みしなければいけないようなものは何もなかった。
  パピルスと大差ない陰のなさに、警戒し続けるのもおかしいのではないかと、心のどこかが緩み始める。
  「ニヤニヤしてるとそれはそれで不気味だが、それがサンズだからな!」
  パピルスは無駄に自信たっぷりにそう言い切るが、その言葉が終わらないうちに、小さな手が頬をぐいっと掴んだ。
  「あれ。固い。」
  ぐいぐいと力を入れられると流石に痛い。
  「それ以上やられると、俺の顔が小さくなるな。」
  少し顔をしかめると、手は骨をつかむかわりに頬を撫でだす。
  「ごめん、痛かった?」
  「……骨はもう少しいたわってくれ。」
  言うと、少しすまなさそうな顔が素直に頷いた。
  年相応、という言葉が頭をよぎる。こいつは、周回しているといっても中身はただの子供なのだ。いまいち分別が付いていないが、笑って泣いて言われたことはそれなりに素直に聞く、ただの子供。
  「フリスク、骨にやさしく、だぞ。」
  「はあい。」
  パピルスの言葉に返事を返して、頬を撫でる手は止まった。ふむ、と考えて、こちらから小さな茶色の頭に手を載せる。
  「?」
  そのまま撫でると、フリスクは少し驚いたようだった。
  「いい子の頭は撫でるもんだろう?」
  「そういうもんなの?」
  「そういうもんだ。」
  感触は柔らかい。その髪を撫でるたびに、少しずつ自分の中の警戒が解けていく。
  こいつは、大丈夫なのだ。多分。イタズラはするし、口も良くないし、人間には変わりないが、悪いやつではない……し、今のところ、殺しはしていない。
  少なくともこうやっている限り、間違いなく無害だ。
  そう思うと少しだけ気が楽になった。
  撫でられるままだったフリスクが抱きついてくる。
  「なんだ、お前さん?俺に惚れたか?」
  「そんなわけないだろ。でも、ちょっとうれしいっていうか、ほっとするんだ。サンズがそうやって優しい顔してるのがさ。」
  フリスクは、にへっと表情を崩して続けた。
 
  ぼく、サンズともやっと友達になれる気がするよ、と。
 
 


アンテの話書きだした理由は、N→TPでやめときゃいいのに、サンズの部屋の話とか隠し要素、いろんなイベントの話を聞いて、もう一回やってしまったからなんですよね。フリスクには心から悪いことをしたと思ってる。
だからうちのフリスクは3週目です。N→TPで幸せだったのにもっかい地下に放り出されたフリスクへの贖罪かもしれない。
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