「インフィニティ・アーツ!!!」
言ったとおりの、無限とも思える蹴りの乱舞は、一つ一つが確実にドラゴンに命中していった。
トドメの一撃に、その巨体は地響きと共にくずおれ、そして、光と共に消えていった。
「・・・・ま、こんなもんだな。」
ふぅ、と息をついて、クリフが肩の力を抜く。
「・・・やれやれだね。」
「まあ、それなりに歯ごたえはあったな。」
同時に息をつく三人の前に、中空から何かが降りてきた。
一抱えほどのそれは、淡い燐光を放ちながらゆっくりゆっくり降りてきて、あるべき場所へ還るかのように自然に、クリフの腕に収まる。
「なんだ?・・・こりゃガントレットか?」
自分のところにやってきたそれを、ひっくり返したり覗き込んだりしながら、クリフは首を傾げる。
「・・・・・・なんだか、嫌な感じがするね。」
少し眉間を寄せて、ネルが言う。
「んー、だけどよ、破壊力はバッチリあるみてぇだぞ。」
ガチャガチャ、と今まで装備していたガントレットと付け替えながらクリフ。
「なんだこりゃ、あつらえたみてぇにぴったりだ。おまけに重さも丁度だ。」
装備した腕をブンブンと振り回せば、確かに常より動きにキレがある。
「フン・・・悪くないんじゃねぇのか?」
当人も気付かないような羨望を少し覗かせて、アルベルが言う。
「おう。考えられる限り最高の出来だ。」
上機嫌でクリフが頷く。
「でも・・・私はやめといた方が良いと思うけどね。」
ネルは、まだ乗り気にはなれないようだった。
「大丈夫だって。」
「・・・・・・うーん・・・・」
なおもネルは心配そうにしていたが、クリフはちゃっちゃと前の武器を荷物袋に放り込むと、どん、と胸を叩いて見せた。
「さ、先行こうぜ。」
足取りは軽く、姿はやる気に満ち満ちている。遠足に行く子どものようだ。・・・という表現は、クリフに対しては30年ほど遅いのだが、事実彼は浮かれていた。
「・・・試しか。なら、精々お手並み拝見と行くか。」
アルベルも乗り気なようで、男2人はさっさと先に行ってしまう。
「・・・・・・・仕方ないね。」
ネルは一つため息をついて、その後ろを追っていった。
カモは、すぐに現れた。
「結構やるようだな。」
クリフは嬉しげに構えを取る。
「なかなかやるようだな・・・面白い。」
戦闘時は、アルベルもかなり機嫌がいい。笑みすら浮かべて敵と対峙する。
「気合入れてかないとまずいよっ!!」
まともな精神状況なのはどうやらネルだけのようだった。
「いくぜっ!!」
クリフが先頭を切って走り出す。ついで2人もそれぞれの攻撃準備に入る。
その時だった。
「・・・・えっ!?」
「な・・・なんだっ?!」
妙な感覚だった。周りには何もない。それなのに、地面に足が吸い付くようで、足が上がらない。動けないわけではないが、これでは戦闘にならない。
「ちぃっ・・・!」
移動が出来ないと解ると、アルベルは遠距離からの技に切り替える。ネルも手早く呪文を唱える。
「くそっ・・・!!」
クリフは、その戦闘スタイルゆえに遠距離攻撃技を持たない。彼は、息を止めて気を一瞬で暴発させると、そのまま上空へ飛び上がった。
「エリアル・レイドっ!!!」
着地と同時に、大きな衝撃があたりを破壊する。さきほどのガントレットのせいか、攻撃力は確かに増していた。・・・今までの倍以上に。
「空破斬!」
「黒鷹旋!」
後ろからの攻撃が追い討ちを掛け、勝負はあっという間に決まった。戦闘行動をやめたとたん、体がまた軽くなる。
「ちっ・・・なんだってんだよこいつは・・・!!」
一度は装備したガントレットを前のものに付け替えながら、クリフがぶちる。
「・・・まさかこっちにまで被害が及ぶとはね。」
戦闘時間自体は短かったのに、緊張感やらなにやらで、疲れは常の倍はあった。
「気に入ってたんだがなぁ・・・破壊力はよかったんだが、・・・」
「ゴミ以下だな。」
アルベルがぼそりと吐き捨てた。
「・・・お前、さっきまで乗り気だったくせに、掌返しやがって・・・」
恨みがましそうなクリフをちらりと一瞥して、アルベルはさらに言う。
「他人の足まで引っ張るような装備は武器じゃねぇ。ゴミだ。」
きっぱり言い切るその言葉は、ネルとしても十分頷けた。何せ迷惑だ。
「言いたい放題言いやがって。・・・っと、結局これに戻るわけだな。」
前の装備に換え終わって、クリフがため息をつく。
「アレよりははるかにマシだと思うよ。」
体を少し伸ばして言えば、クリフは情けない表情でこちらを見やる。
「お前まで言うのかよ・・・」
「仕方な・・・来るよ!」
気配を頭上に感じ取って、武器を構える。
「ちっ、仕方ねぇな!」
残り二人が武器を構えたところで、敵が降ってきた。戦闘できる距離に入ろうと駆け出・・・せなかった。足が床に吸い付く。さっきと同じ。ほぼ同時にアルベルも異変に気付いたようだった。
「何やってやがるクソ虫がぁっ!!」
「クリフっ!何装備してるんだい!?」
口々に怒鳴られたクリフは、その場に寄ってきた敵を蹴飛ばして叫んだ。
「違うっ!!俺じゃねぇっ!!」
上がった片手に装備されているものは、前のガントレット。
「・・・チィッ!!」
盛大に舌打ちをして、遠距離技に切り替える。
結局、先ほどとあまり変わらない内容で、戦闘は幕を閉じた。上空からの奇襲と、出鼻のハプニングでいつもより怪我が多かったのが違うところだ。
後に残ったものは、・・・疲れ。
「捨てる。」
戦闘が終わると同時、アルベルがずかずかと荷物入れに近づいた。クリフが慌てて荷物をガードする。
「待てっ!落ち着けっ!!」
「俺は至極冷静だ。」
多分そこまで冷静ではない。しかし、ネルの精神状態もあれとさほど変わらない。
「とんだお荷物だったね・・・さあ、どいて貰おうか。」
腕を組んでそう言えば、クリフの顔がさらにひきつった。
「ネル、お前も落ちついてくれよ!」
「私も落ち着いてるよ。ただ、さすがにアレは頂けないってだけだ。」
基本的に素早さを身上とする戦い方をする分、多分誰よりも被害は大きい。
「こんな奥地で手に入れたんだぞ。いいファクターついてるならめっけもんだろ?」
「使えねぇモンは使えねぇんだよ。」
ネルも言い捨てるアルベルをちらりと見て、頷く。
「そう言うことだ。諦めな。」
「・・・こんな時ばっかやたら息合ってるよな、お前ら・・・もっとこう、物を大切に」
クリフは、未だぶつぶつ言っている。
「この件に関しては誰だって一緒だと思うよ。フェイトたちに聞いてみれば?」
クリフが口を開く前にアルベルが切り捨てた。
「どうせ返事は変わらん。聞くだけ無駄だ。」
「それもそうだね。」
クリフがまた顔を引きつらせた。
「聞く前から結論出すなよ!
ほら、工房で直したらマシになるかもしれねぇし。この攻撃力は使えるって。」
な、一度戻ろうぜ?エレベータも近いし。
必死の嘆願に、少しだけ、確かに冷静になってきた。
ちら、と視線をアルベルのほうへやれば、嫌そうに了承の意思を示す。
「・・・・・そこまでいうなら、仕方ないね。」
一言で、とりあえずその場は収まった。
ところが。
「・・・・・・他は全部消せそうだが、移動速度だけは無理だ。」
工房のクリエイターの言葉はとても残酷だった。
「やっぱりあの時捨てればよかったんじゃねぇか。」
「持ってきたものは仕方ないさ。・・・捨てた方が楽だったと思うけどね。」
移動速度低下の被害を受けた二人の言葉は、さらに辛辣である。小さな舌打ち、冷える空気が痛い。
「原型を留めなくていいのなら、合成素材としては使えるわね。潰せば?」
マリアがしみじみとそれを見ながら言う。フェイトも頷いた。
「まあ、折角持ってきたんだし、使える部分だけ使えばいいだろ。」
「そうよね。」
ソフィアも頷く。
「・・・・ちなみに、使える部分ってのはどの辺だ?」
「・・・・んー、この紋章?みたいなのかしら。攻撃力の上がる紋章が入ってるみたいよ。ちょっとだけど。」
そう言ってマリアは肩をすくめる。
後ろから見ていたボイドが眉をしかめた。
「・・・コイツの全攻撃力の3分の1以下ってとこか。物足りねぇなあ・・・。」
「それでも、全くのゴミよりはマシですよ。」
フェイトはそう言う。
「まあ、そりゃそうなんだが。・・・上質なだけに潰すのは惜しいよなあ。」
ボイドが言えば、一緒に眺めていたライアスも息をつく。
「この可動性、素材など、どれをとっても最高級なんですが。・・・使えないなら仕方ない、のでしょう?」
鍛冶クリエイターとして、良質のものはやはり魅力的なのだろう。もったいない、という意見がにじむ。
クリフが唸っていると、ガストがボソリとしめた。
「次に出て行くまでに考えるんだな。」
それは、どこまでも正論。
クリフは結局、未練と実利その他のところで盛大に悩む羽目になったのだった。
・・・ああ、あのフィット感よかったんだがなあ・・・
夜はこうして更けていく。
2008年10月13日現在、ここで止まってました。潰すのは勿体無いし、あると邪魔だし。
キャラクターの性格は適当に変わってますが、自覚ありますので突っ込まないであげてください。なんか妙に息のあう2人がちょっと書いてみたかっただけです。