「!?」
いきなり、戦場から高笑いが消えた。今の今まで戦場を駆け回って敵を切り刻んでいたはずの高笑いの主がいない。まさかヘンな術で倒れたか?とネルは敵から少し距離をとって辺りを確認し・・・そして、まずは我が目を疑った。
「・・・・バーニィ・・・?」
思わず目をこすってみてもそこに居るのはたしかにバーニィだ。
派手な空中戦を繰り広げるクリフの足元にいる、どう考えてもこの鉄火場には不似合いな小柄なバーニィ。それを、近場にいた敵がげしげしと斬りつけている。
もしかして、アレに変えられたのだろうか?そんなことを思いながら、とりあえずそれを避難させるべくネルはダッシュでバーニィに近づいた。
「アクロバットローカスっ!」
豪快な音とともに、クリフが再度敵を殴打しながら空中へ飛び上がる。ネルは、その着地地点にいたバーニィをとりあえず思い切り蹴飛ばした。バーニィは二転三転しながら戦闘場の端に飛んでいく。そして、クリフが地上に敵をたたきつけたのと同時に壁に思い切り激突して止まった。
もう一度距離をとって、大刀を投げつける。戻ってきたものをもう一度・・・もう一度。それを繰り返しているうちに、少しずつ敵の動きが悪くなっていく。
・・・と、援護をしている目線の先に、ふと気付けばうっかり見慣れてしまったプリン頭が見えた。
見た目にボロボロなそれにひとまずヒーリングをかける。掛けられたアルベルは、ぎっとこちらを一瞥してまた敵に向かった。
そして戦闘終了後。
「・・・・・・・・・・あのバーニィ、やっぱお前だったのか。」
クリフの言葉に、アルベルは無言だった。ただ、その非常に嫌そうな眼光がそれを肯定している。
「いきなり居なくなるからどうしたかと思ったんだけど。まさかあんなのになるなんてね。」
あんまり似合わなくてびっくりしたよ、と、ネルも肩をすくめて言う。クリフも笑った。
「足元にあると邪魔で仕方ないよな。愛嬌があっていいんだが。」
「つまづいてコケたりしたら間抜けだしね。」
一緒になって頷くと、今まで無言で床を睨みつけていたアルベルが、ぎっとこちらに視線を移した。深紅の瞳に映るのは、怒り。
「・・・・・だからと言って思い切り蹴る奴があるか阿呆!!」
その件に関しては少々悪かった、と思ってはいた。しかし・・・怒鳴られると怒鳴り返したくなるのが人情である。
「仕方ないだろ!あの鉄火場で他にどうしろっていうんだい?バーニィ抱いて戦えとでも?」
「限度を知れ阿呆が!」
「手加減したから生きてるんだろう!?贅沢言うんじゃないよ!」
「どこが手加減だっ!っんのクソ女っ!!」
「なんだって!?」
様子をみていたクリフが、ぱたぱたと手をふる。
「・・・・・・ま、今度から気をつけとけ。」
その呆れ100%の態度に、場の熱が急速に引いていく。
ややあって。
「・・・・・・・・・悪かったね。」
ぼそりとつぶやけば、あちらもぼそりと返してきた。
「・・・・・・・・理解できたようで何よりだ。」
その場はそれで収まった、のだが。
数日後、塔を登る一行の前に、それは再び姿をあらわす。
「来たな・・・クソ虫めが・・・!」
目の前に居るのは「ヤツ」だった。
前回戦った時に、口にするのも考えるのも屈辱的なアレにされた事と、その後ネルに思い切り蹴り飛ばされて何かの川と花畑が見えかけた事は、未だに記憶に新しい。
よって、コレは雪辱戦だった。あの屈辱的なアレにする隙なぞ与えるつもりは無い。それより前に全てを叩き斬る。先を一つ睨み、アルベルは闘気と一体になって前方へ跳躍した。
一太刀、また一太刀。斬りつけたところでさほど怯むでもなく向ってくる敵。それどころか、軽妙な動きで眼前を行ったり来たりする。これくらいでないと面白くは無い。が、目障りには違いない。
「引き裂いてやる・・・!」
左手が気に包まれる。と同時に眼前の敵めがけてそれを繰り出す。爪による連撃はどうやら効いているらしく、敵の動きが止まった。それをめがけてまた連撃。5,6回も繰り返すと、相手は動かなくなった。確認だけして息を整える。
次の獲物へと飛び掛ろうとして、アルベルは盛大に足元の異物によってバランスを崩した。
下を見れば、・・・・なんともこの場に不似合いなものを目が捕らえる。
思わず瞬きをしてみても、やはりそれは・・・それだった。
なぜか血だの肉片だのが散らばる戦闘場にころがっている・・・一抱えはありそうなカボチャ。
邪魔極まりないそれを、思い切り蹴飛ばそうとして・・・ふと気付く。この場違い加減、この邪魔さ加減。もしかして。
・・・そういえば先ほどからクリフの声しかしていない。見回しても、クリフしか居ない。ネルは・・・別に倒れているでもなく、あの生真面目人間がまさか逃げたわけも無く。・・・ということは。
「・・・・・・・ちっ」
舌打ち一つ、カボチャを抱え上げる。
これがバーニィだったら確実に蹴り飛ばしていたはずだった。押し留めたのは、調理Lv16の一般常識のためだ。・・・すなわち、カボチャは衝撃を与えると割れる。
とりあえず邪魔にならないところに転がそうと、敵を避けながら戦闘場の端へ走る。・・・が、どうやら敵も平和に通してくれるつもりはないようだった。
「邪魔だっ!」
左腕にカボチャを抱え、右手で刀を操る。普段ほどの勢いはないものの、刀から発される衝撃破が敵を吹き飛ばす。その隙に強行突破しようとしたアルベルの前に、またしても新手が現れた。
「・・・・しつこいっ!」
イライラと敵に斬りつけていると、いきなり左腕に抱えていたものが膨れた。同時にカボチャとは思えない重さが腕にのしかかり、思い切りバランスを崩す。
「!?」
「・・・・っわぁ!?」
盛大にしりもちを付いた耳元でネルの驚きの声が響いた。うるさいがそちらに目を向ける余裕はカケラも無い。目の前には敵の刃が迫っている。
「うるさい、黙って伏せろ阿呆!」
左腕で頭を押さえ込みながら、右手はなんとか刃を弾き返す。一回、二回、三、四、五・・・剣戟の音が響き渡る。しかし、敵は特に怯む様子もない。
と。
「アースグレイブっ!」
左腕に抱え込んでいたネルが、いきなり叫んだ。近場の地中から岩槍が無数に飛び出す。完全な不意打ちのそれに敵は見事に吹き飛んでいった。
数秒だけ生まれた余裕に、とりあえず抱えていた元カボチャことネルを離して立ち上がる。
「すまない、迷惑掛けたね。」
ネルもけほけほと咳をして立ち上がった。
「全くだ阿呆。」
眼前には完全に体勢を立て直した敵。しかし、体力は減っているはずだ。刀を構えなおすと、アルベルは再度それに飛び掛った。
そして、戦闘終了後。
「お前ら、何の心境の変化か知らないが、いちゃつくなら時と場所選べよな。」
こちとら一人で何匹片付けたと思ってんだ、とクリフが笑う。
「あれは不可抗力だよ。」
「・・・・・・・・それ以上言ったら殺すぞ阿呆。」
ぎろ、と睨んで刀に手を掛ける。
「そう怒るなって。冗談なんだからよ・・・」
ぱたぱた、と手を振るクリフに、ネルも冷たい目を向ける。
「そんな冗談ばかり言ってるからマリアたちにオヤジ扱いされるんだよ。気をつけな」
「・・・・・・・へいへい。おっかねーの。」
クリフが肩をすくめ、ネルも一つ息をついた。その時、ネルの腕の辺りに、施術紋ではない赤い線が見えるのに気付く。
「おい。」
薬を放り投げると、ネルはひょい、とそれを受け止めた。
「・・・ん?私どこか怪我してたかい?」
「左腕だ。俺の爪だろう。・・・・悪かったな。」
ネルは、一瞬固まった後、さっと左腕を確認すると、手際よく傷の応急処置を始めた。
「ありがとう、気付かなかったよ。」
「・・・やれやれ、明日は槍が降るな。」
クリフがまた肩をすくめる。アルベルは再度刀に手を掛けてそれを睨みつけたのだった。
ファイアーウォールにて、実話6割妄想4割。別に蹴飛ばしたりはしてないんですが、初めてバーニィ化見たときは目を疑いました。記念すべきバーニィ一号はアルベルだったわけなのですが。
SO3は戦闘楽しいです。で、戦闘時にどんな感じなのかなあと想像するのがまた楽しくて大好きです。