トタタタンッ トンッ トタタタッ・・・
小気味よい音が裏庭から響く。気になって部屋の窓から眺めると、板木を相手にネルがクナイを投げつけていた。
「おーい、ネル。何やってんだ?」
声を掛けると、ネルはひょいとこちらを見上げた。
「ああ。ちょっと基礎練習でもと思ってね。」
「へぇ、精が出るな。・・・っと。」
窓から身軽に飛び降りて、裏庭に着地する。
「なんだ、来たのかい。アンタも鍛錬なら場所空けるけど。」
「それも悪くねぇかもな。・・・組み手するには相手が居ないのが残念だが。」
言えば、ネルは少し考えるような顔をして言った。
「私でよければ相手になるよ?」
「おいおいおい、大丈夫かよ?」
口をついて出た言葉に、ネルは不機嫌をあらわにする。
「私を誰だと思ってるんだい?まあ、確かにアンタと比べれば体格に差はあるけど、負けるつもりは無いよ。」
「・・・まあ、確かにお前が強いのは認めるがなぁ・・・。」
口ごもるクリフに、ネルはさらに言う。
「練習相手が欲しいんだろう?お互い手加減しないで済んでいいじゃないか。」
「えらく乗り気だな。何かあったのか?」
「いろんな相手とやるのはそれだけ経験になる。」
さらっと言い放って、一息。
「それに、私も一人でやるのに飽きてきたところだったし。」
間違いなくそちらが本音のようだった。
「なるほどな。それならお相手願おうか。・・・お手柔らかに頼むぜ?」
「手加減はしないよ。・・・さ、掛かってきな。」
少し広い裏庭は、そのまま鍛錬場と化した。
手加減はしない、の意味は、彼女にとっては急所を狙うぞ、という意味に等しいらしい。
おかげで、クリフはさっきから危ない橋を渡りっぱなしである。プロテクターもナシでこういう真似をしているのは、・・・・とりあえずスリルには事欠かない。
スピードもあれば何気に体術も優れていて、確かにこれは手加減なんぞしていられなかった。
ただ、彼女は自分よりはさすがに技が軽い。手数は多いが、動き回る分体力の消耗は多分大きい。
そして、体力では自分に分がある。
防戦に回りつつ、体力の消耗を待つ。こちらも神経が磨り減るところを考えれば、ある意味我慢比べだった。
刀を避け、叩き落とす振りで背後に回る。すぐに反転して攻撃が始まる。パターンを変えつつも、繰り返しが続く。
・・・さすがに少し焦れてきた。
本格的に神経が磨り減る前に、ケリがつけられないものか。
飛び上がって狙いを定める。
迎撃されるかどうかは運だった。あちらに体力が余っていれば、きっと寸分たがわず迎撃するだろう。
しかし、だから。
直接ネルに向わず、少しずれたところを狙う。案の定迎撃するはずのクナイは見事に外れた。
そのまま着地。
「!!」
衝撃波があたりを吹き飛ばす。ネルの足元が少し狂った。やはり、少しは体力が減っていたらしい。
足を引っ掛けて、押し倒す。左足でネルの右手を、右手で鎖骨あたりを抑え、もう左手は勢いよく顔面へ。ネルの片手がそれを阻止しようと向う。しかし、それはどうやら間に合わないようだった。
ぺちっ。
「った!」
指で額を弾く。ネルが顔をしかめた。
「俺の勝ちだな。」
ニヤリ、と笑って勝利宣言。ネルは苦笑いでそれを認めた。
「・・・仕方ない、私の負けだね。」
負けを認めたところで右手を離す。
と。
「クリフっ!!何やってるの!?」
後ろから怒鳴られた。
振り向けば、血相を変えたマリアがこちらに向ってきている。
「マリア?どうしたんだい?」
ネルが身を起こす。
「お前どうしたんだ?」
聞いても、マリアは怒りをあらわにこちらを睨みつけるだけだ。
「何やってたの!」
詰問されて、顔を見合わせ・・・ややあって、二人してマリアの方に向き直る。言葉は同じだった。
『・・・・組み手?』
マリアの表情が、引きつった。
夕食時。
「どう見たって押し倒してるようにしか見えなかったのよね・・・裏庭で真昼間からだったから、ついカッとなっちゃって・・・」
「わかります。私だって絶対阻止してますよっ!」
マリアとソフィアはそう言って力強く頷きあっている。フェイトも、そりゃそうだろうなあ、と苦笑いを浮かべていたりする。
「大丈夫かい?」
マリアに蹴り倒されて腫れた頬を冷やしていると、新しいタオルが差し出された。
「・・・・・まあな・・・」
ネルが止めてくれなかったら、おそらくもっと惨憺たることになっていただろう。
年頃の娘さんは難しい。
タオルを取り替えながら、クリフはため息をつくのだった。
きっと、仲間!って意識が真っ先に育った二人だと思います。気の置けない関係。恋愛感情がお互いにカケラもないからこその仲良し関係。
プレイしてた時も、クリフとネル良いなって思ってて、今でもそれは根底にあるのですが。だから話にクリフ絡むこと多いんですが。
ちなみに、アルベルとネルさんは仲悪いと思ってます。恋愛感情まで発達するのをどうにもこうにもイメージできない組み合わせ。でも好きなんだ。