ドーンの部屋は、ほこりと荷物とゴミその他で埋まっていた。
「いやー、助かるよ、あっはははは。」
苦笑いのドーンに、ミリーの叱責が飛ぶ。
「ドーン!笑ってても手を動かす!ほら、ラティはそっちのゴミ片付けて!!」
ミリーはてきぱきと指示を出しながら、溜まった埃を外に追い出していく。
「ひゃー、こわっ。」
「こういうときのミリーって、別人だよな・・・」
額を寄せ合うラティとドーンに、またしてもミリーの声が飛んだ。
「二人ともしゃべってないで動きなさいっ!」
年末。つまり今日は大掃除の日。ミリーとラティは、一人住まいのドーンの家の大掃除の手伝いに来ていたのだった。
数時間後。
「終わった・・・・」
不要物の束、ゴミの袋が床に鎮座し、3人はその真ん中に座り込んでいた。
「年末恒例って言っても、結構出てくるもんだよな。」
ラティがゴミ袋を見ながら息をつく。
「ほんとにな。でも、ラティとミリーが手伝ってくれたおかげでさっと終わってよかったよ。あとはこれを処分するだけだ。」
不要物の束を眺めてドーンが笑った。同じく不要物を見ていたミリーもご機嫌で頷く。
「うんうん。すっきりしたわよね。
・・・あ、そうだ。ドーン、整頓してたら古い絵本が出てきたんだけど。」
そう言いながら、ミリーは不要物の束の脇から、古びた絵本を引っ張り出した。
「え?絵本とかまだ残ってたのか?何だろ。」
ドーンは驚いたようにミリーの持つ本を覗き込む。ラティも同じように覗き込んだ。
「へー、ドーンが持ってた奴か。なになに・・・『こおりのしろのまおう』・・・・?ああ、冒険ものなのか。」
「へえ、懐かしいな。ワレンとメルのシリーズだろ、それ。正義を貫き悪をくじく!かっこよくてさ!ガキん時大好きだったんだ。・・・あ、捨てるなよ?折角出てきたんだし。」
「うん、わかったわ。」
ミリーは、手に持ったその絵本をパラパラとめくる・・・が、その手は、3ページ目、主人公たちが出てきたあたりで止まった。
「・・・・・これが、ワレン・・・と、メル・・・?ラ、ラティ、ちょっと!」
「ん?・・・!これってまさかっ・・・!」
二人の視線は絵本の登場人物にくぎづけになる。
銀髪でガタイのいい、ハイランダーの男戦士・・・大剣使いの豪快なワレン。
綺麗な赤毛を風になびかせた、男言葉のハイランダーの女戦士・・・飛翔剣を操る凛々しいメル。
さらに話を見てみる。それは、村に魔王が現れて困っているところを、通りすがりの剣士二人が助けると言う、よくある話だった。息の合った戦いで魔王を沈めた彼らは、礼などいらん、当然のことをしたまでだ・・・などと言って、カッコよく去っていく。誇り高い騎士のように。
「・・・・・・・・なんか・・・。」
「うん。」
妙な既視を感じる。
「なあ、ドーン、これの他の話って知ってるか?」
ラティが聞くと、ドーンは少々驚きながらも頷いた。
「ああ。確か、二人は元々魔王を倒した勇者だったとか、とても位のある騎士だったのに、その座を捨てて旅に出たとか、そんな話だったんだよな。だから、本当の名前は名乗らないとか・・・」
ドーンの話が、直感を裏付ける。
「もしかしなくても・・・そうだよね。」
「・・・・・・ああ。」
ラティとミリーは顔を見合わせた。
「なんだよなんだよ、二人で分かり合いやがってよ。」
ぼやくドーンに慌てて答える。
「あ、ああ。なんか、前に旅した仲間にものすごく似た人たちが居てさ。銀髪で豪快な大剣使いと、赤毛の飛翔剣使いの女戦士。幼馴染とか言ってたっけ。」
ミリーも頷く。
「そうそう。いっつもケンカしてるようで仲良しで、戦ってる時も強くて頼りになって、息もぴったりで。」
「なんか、思い出すんだよな。」
脳裏に思い浮かぶのは、かっこよく戦っていた姿ばかりではなく、情けなかったり面白かったり、色々な表情の彼らなのだが。
「ああ、あん時の旅のことか。300年前・・・だったら、もしかしたら本人かもな。派手な組み合わせだし、元になったってことはあるんじゃないか?」
「あはははは、そうだといいなあ。」
ミリーが嬉しそうに笑う。そのミリーを見ながら、ドーンは絵本の一点を指差した。
「可能性は低くないさ。ほら。」
「え?・・・・アストラルの・・・伝説・・・?」
ぽかん、とミリーはそれを見つめる。
そして、自然ラティと顔を見合わせる。二人のそれはすぐに笑いに変わった。
「そうか、シウスって伝説になってたんだ。あははははは・・・!」
「しかもこんな近くにいたなんて・・・元気でやってたんだね。
てゆーか、フィアさんと一緒に旅してたなんて・・・ふふふふ、なんかもう色々目に浮かぶね。」
懐かしさと可笑しさその他で、ミリーの瞳には涙がうっすら浮かんでいる。
「ホントにな。ま、あの二人ならどんなところでも心配なさそうだ。」
「いえてるいえてる。」
くすくす笑いあうラティとミリーを眺めながら、ドーンはまた頬をふくらませた。
「まーた二人で分かり合いやがって。いいよな、俺も当人に会ってみたかったぜ。」
「まあまあ、そう言わないで。それに、本人に会ったらイメージ崩れるわよ、きっと。」
「う、それはちょっと遠慮したいかも。」
部屋に、笑い声がまた響く。
それ以後、ラティとミリーはドーンの家に来るたびに、大切に本棚に並んだその絵本を眺めていくようになったという。
*****
「っくしゅ。・・・うぅ・・・」
「なんだ、風邪でも引いたのか?」
そう言って彼は連れを振り返る。振り返られたほうは、なんでもない、と手を振った。
「いや。・・・なんか噂されてたのかな。」
「はは、そうだな・・・ラティたちかもな?」
少し遠くを見るような目で彼が言う。
「ははは、それはいいな。ラティたちも元気にやってるだろうか。」
彼女もすこし遠くを見るような目をした。
「大丈夫だろ。あいつらなら。」
「それもそうだな。」
300年前。
時空の彼方を思いながら、旅の空の剣士二人がそんなことを話していた。
それを知る者は、誰も居ない。
名を残すってのはつまり、アシュレイのおじーちゃんみたく、伝説の英雄みたいになることかな、って思ったのだけど、こんな感じで不思議な残り方してる方がシウスっぽいかなーっと。シウスはがっくりきてそうですが、そこはそれ(笑)私としては、その後も過去メンバーが幸せに暮らしました、ってのが少しでもわかったら嬉しいな、って思うのでした。