ついてくる足音、ひたひた、ひたひた。
うしろに感じる気配、視線。静かに、静かに。それでも執拗に。
夜寝ているときも、枕もとでじっと見下ろしているような・・・。
その足音は、彼が止まると、一歩余計な音を立てて止まる。ひたり。
気配を感じてうしろを振り向けば、少女のまっすぐな視線がこちらを向いている。
気のせいか?いや、気のせいではない。だって、自分は確かに聞いた。ジュルリ、という音を確かに聞いた。いつも自分の後ろで舌なめずりをしている。つかず離れずでついてくる。でも、きっと気を抜いたら襲い掛かってくるに違いない。だって、気配はそう言っているから。
自分の中の自分が警鐘を鳴らす。この足音から一刻も早く逃れなくては、と。ついてこれないくらい、どこか遠くへ。
・・・そうだ。自分には羽がある。上空に飛んでしまえばきっと逃れられるはず。そう思ってばさばさと羽を広げると、後ろのそれは襲い掛かる気配を見せた。突き刺さるようなその衝動。黙っていたら自分はなくなってしまう・・・!!
猛スピードで飛び上がる。町の端まで飛んで、屋根の上に着地する。さっきの気配は追ってきては居ない。いないと思う。多分居ないといいなあ・・・
しかし、やっぱり・・・いた。
ひたり。
羽を休めた、そのうしろに足音が聞こえる。
ひた、ひたひたひた・・・
背筋が寒い。全身の羽という羽、毛という毛が一気に逆立つ。恐怖とはこういうことを言うのだろうか。衝動は逃げる方へ逃げる方へと自分を駆り立てる。
ひた、ひたひたひたひたたたたたたたた・・・・!
羽ばたこうと羽を広げると、うしろの足音は駆ける様にその速度を増した。恐怖も限界だ。無我夢中で彼は上空に跳躍した。
誰かに相談した方がいいのだろうか。
しかし、こんな事を信じてくれるだろうか。あの少女はすくなくとも見た目は・・・・
ふらりふらりと屋根の上に着地する。
ひたり。
また、足音が、聞こえた。
じゅる・・・り・・・。
舌なめずりする音も、聞こえた。
もう、逃れ・・・・られ・・・・
「ペリシー!何やってるんだ?」
「あ、ラティ!あのね、ヨシュア見てたのー。とっても美味しそうなんだよ♪」
「なっ・・・・だ、ダメだろペリシー、ヨシュアは仲間なんだから。」
「うん。でもね、とーってもとーっても美味しそうなんだよ。羽がばさばさーって動くところとか、つい追いかけたくなっちゃうの。
それにね、手羽先って美味しいんだよ?」
手羽先。
レッサーフェルプールは、祖先であるネコの特徴を色濃く残すというが。
手羽先。
一応仲間であるはずの彼女にそんな評価を受けていたことに、ヨシュアはショックを隠しきれないのだった。
・・・・手羽先・・・・。
いや、それにしたって手羽先はないだろう手羽先は・・・!おかげでヨシュアのあだ名がすっかり「手羽先ヨシュアさん」です。手羽先は苗字で。「手羽ア」な発音で。