真剣勝負の匂い。ガタイのいい男子生徒が二人、匙と器を持ってにらみ合っている。
龍麻の器の中には、なんとなーく濃い緑の毒々しい物体Xが湯気を立てていた。京一の器の方は、どピンクの食べられるかどうかすら謎の物体Zがトロトロととけている。
「・・・・約束は約束だよな、京一?」
にじり、と龍麻が一歩前に出る。
「ひーちゃん・・・お前も人の事言えないだろ?」
京一は円を描くように距離を保って後すさった。
「旧校舎、真っ先にぶっ倒れたのはひーちゃんだよな。」
「同時にぶっ倒れたお前に言われたくねぇよ。」
お互いの瞳は、VS鬼道衆張りに本気である。
「この、ミサから作ってもらった活性剤で強くなろうぜ?」
「この、・・・岩山センセから押し付けられたドーピング薬で体力増強しないとな?」
どっちも毒物にしか見えない。が、多分立派なドーピング薬である。
もてあました龍麻が、『一番体力が無い奴に与えれば無駄にならん』と考えナシに発言し、お約束のように自分が真っ先にぶっ倒れ、京一をついでに巻き添えにした事でこうなっていたりするのだが、どうやら二人にとってそれはもはやどうでもいいようだった。
『相手に両方の器の中のものを食させる』これがすべて。
相手が毒物を食べて硬直状態にあるときにもう片方を流し込めば自分は無事に済むという算段が、高校最後の夏休みを補習で過ごした二人の猿頭にはあった。素早さには自信があるのだ。だてにこっそり東京の妖怪退治をしているわけではない。
息をつめ、相手を窺う。必死な心のどこかに隙ができる・・・それを見極めんと、二人とも真剣ににらみ合っていた。器と匙を構えて。
二人の中でだけ熱い時が流れる。一秒・二秒・・・・
『でりゃあああああ!!!』
動いたのは同時だった。格闘で鍛えた足を生かして素早く距離をつめ、真正面からお互いの口めがけて毒物に浸された匙を突き出す。
かたやなんちゃって黄龍器、かたやなんちゃって剣聖。その素早さも、力も・・・そして頭脳の程も互角だった。
一瞬後、毒物に浸された匙は、同時にお互いの口の中に消える。
『!”##$$%’=??!!』
口をあけて正面から突っかかれば見えていた結末。
一秒後、教室には二体の屍があったのだった。
ちなみに、未確認物体Xと不確定物体Zは、その時の衝撃でもちろん教室の床にすべてこぼれた。
後で二人が、製作者達から非難囂々の魔苦境に立たされたのは言うまでも無い。
京一はなんだかんだで好き。カッコいいていうか、ものっそいいい奴。おねーちゃん大好きでオバカさんなとこも友情に厚いとこもお人よしなとこも男に冷たいとこも大好きです。