HRが終わり、生徒達はがやがやと動き出す。
さっさと教室から出て行く者。
友人同士の話に花を咲かせる者。
そして、一緒に帰ろうと誘いをかけに行く者。
彼、蓬莱寺京一もまた、そのうちの一人だった。
「ひーちゃん、一緒に帰ろうぜっ・・・って、どこ行ったんだ?」
「京一・・・相手がいるかいないかぐらい確認してから声かけなよ・・・」
あきれ果てた小蒔の声が入る。
「だってHR終わったばっかだぜ?いるのが当たり前じゃねーか。」
「うふふ、龍麻ならミサちゃんのところよ。
さっきチャイムと一緒に出て行ったわ。」
龍麻の隣の席の葵が笑いながら声をかける。
「霊研〜?何でまたそんなところに行くんだひーちゃんは。」
「うーん、なんか気になることでもあるんじゃない?」
軽く返されても、疑問は残る。
「だったら、大抵先に俺達に何か言うだろ。」
「そういえばそうだよね。・・・葵、なんか心当たりある?」
「・・・いいえ、ミサちゃんのところに行くとしか聞いてないわ。」
葵は少し考えて首を横に振った。
「俺もないしな。おい、醍醐。お前なんか知らないか?」
こっちに来ようとしていた醍醐に声をかける。
「・・・いや、知らないな。」
「お前もしらないのか・・・何なんだろーな、一体。」
微妙な疑問符が頭の中を飛び交う。
一方、こちらは霊研。
なんだか闇が支配していそうな神秘的な空間で、彼・・・緋勇龍麻はそこの主と向かい合っていた。
「ミサ、どうしてもダメなのか?」
「ダメよ〜・・・今は答えを出すべきではないと出ているわ〜・・・」
水晶玉に手をかざしながら、ミサが答える。
「なら、いつだったらいいんだよ?ここんとこ同じ答えしか聞いてねーぞ?」
「さ〜ね〜・・・・?」
なかなかにつかみ所のない答えが返ってくる。
「俺は、早くミサの答えが聞きたいんだ。」
真剣だというのに、ずっとはぐらかされ続けている。
「そんなこと言われても〜・・・ミサちゃんだって困るわ〜・・・」
「・・・う、いや、困らせるつもりはなかったんだ、悪ぃ・・・」
「謝ることはないけど〜、でも〜、今はその時期じゃないのよ〜・・・」
少し困ったような響きが、ミサの声に混じった・・・様な気がした。
「時期じゃないって、・・・俺が初めて言ってからもう結構たつぞ?」
「でも〜・・・なんだか〜、お邪魔虫が入りそうな予感〜・・・」
水晶玉にかざしていたミサの手を両手で握る。
「邪魔なら蹴散らせばいいだろ?俺は、俺は・・・」
言葉はなかなか出てこない。
「ひーちゃんの言いたいことはわかってるわよ〜。
だから〜、今言わなくても〜・・・」
「いや、言うからな。
俺は、ミサのことが好きなんだ、付き合ってほしい。
きっと俺達は、前世からの運命の恋人なんだ!」
「・・・ひーちゃ〜ん・・・あなたの前世の相手は〜、そこにいる美里さんじゃなかった〜・・・?」
口説き言葉にも顔色を変えずに入るツッコミ。
そこもまたミサの魅力だ。
「・・・・・って、そこにいるって・・・!!?」
ばっと後ろを振り向くと、霊研の入り口に石像が4つ出来上がっていた。
全てに共通しているのは、唖然とした表情。
「お前ら、なんで・・・!!いつからいたんだよ!!!」
一瞬の硬直の後、顔が上気するのがわかる。
「・・・・えっと、その、ごめんなさい・・・
あの、そ、そんなこととは思わなくって・・・」
一番最初に石化が解けたのは葵だった。
とはいえショックが強すぎたのか、言葉が回っていないのだが。
「・・・ひーちゃん・・・お前・・・・なんで・・・」
どうにか石化が解けたようだが、まだ言葉が出ない京一。
醍醐と小蒔は、まだ石化したままである。
「そりゃ俺の台詞だ!!」
京一の襟首をつかむ。
「うあっ・・・と、ひーちゃん、落ち着け。
お前が何にも言わないで霊研に行くからその、気になってだな・・・」
「で?」
「ひ・・・ひーちゃん、京一が死んじゃうよ。」
声がかかる。小蒔も石化が解けたらしい。
微妙に顔色が変わっている京一を放すと、なんだか咳き込む音がした。
「ひ〜ちゃ〜ん・・・暴力はダメよ〜・・・?」
「あ、ミサ・・・」
後ろからの声に我に返る。
「ミサちゃん・・・それ、京一が死ぬ前に言ってほしかったな・・・」
「ゲホっ・・・勝手に、俺を殺すな・・・っ」
そんなやり取りは半分無視して、ミサのほうに向き直る。
「ミサ・・・知ってたんだな?」
神秘的なのも、たまに困りものである。
そこがいいのだとも思うが。
「なんとな〜く、そんな感じはしていたわ〜・・・」
いつものつかみ所のない顔で答えが返ってきた。
さすが、ミサである。
「・・・仕方ねーな・・・今日のところは帰る。ミサの言うとおりお邪魔虫も入ったし。
まあ、また来るさ。」
・・・そのときは答えを聞かせてくれな。
そんな心中の言葉は、伝わったのだろうか。
まあ、ミサだからわかっていると思うが。
「うふふふふ〜・・・またね〜・・・」
ミサの声に見送られながら、龍麻は霊研を後にした。
「お、おい、龍麻、どこに行くんだ?」
遅ればせながら石化解除した醍醐の声がかかる。
「帰んだよ。どうせ一緒に帰るつもりだったんだろ?」
龍麻は軽くいつもの調子で返す。
「ああ・・・まあ、そうだが・・・」
当惑したような声が返ってくる。
「悪気はなさそうだったからな。
誰にも言わないんだったらさっきのことは忘れるさ。」
「龍麻・・・」
こういうところが、何気に人が寄ってくる所以なのだろうか。
荒っぽくてもそれなりの心の広さは持ち合わせている。
「ひーちゃん、お前・・・」
「ただし、もし情報が漏れてたときは秘拳・黄龍。」
絶対零度以下の声音。なんだかんだ言ってもそれなりの怒りはあったらしい。
最後の一言で4人をしっかり凍結させると、龍麻は靴箱に向かって歩き出したのだった。
そこ、変な趣味とか言わないように。
てわけで、以下数年前の私のコメントです。
もしかしなくてもきっと珍しい「主人公v裏密」をお送りしました。
初回プレイ時、初クリスマスがミサちゃんだったので、完全にそのイメージで固まってます。
といっても、実はこの話で描きたかったものはタダ一つ、
「きっと俺達は、前世からの運命の恋人なんだ!」
「・・・ひーちゃ〜ん・・・あなたの前世の相手は〜、そこにいる美里さんじゃなかった〜・・・?」
これに尽きますが。
ちなみに、『渚の夢』の彼とこの彼は同一人物です、多分。