遠征3部隊 各部隊を軽巡1駆逐5で構成
近海哨戒2部隊 対潜水艦装備を確保の上 航空戦艦1軽空母1駆逐艦2で構成
南西諸島方面にて補給ルートの分断1部隊 対空装備を準備の上重巡1軽巡2駆逐艦3で構成
西方海域方面にて補給ルートの分断1部隊 対空装備と対潜水艦装備を確保の上、戦艦1空母1重巡1駆逐艦2で構成
ずらずらと執務室の黒板に書かれた出撃予定表には、それぞれ出撃する予定の艦娘の名札が貼ってあった。
遠征隊は比較的最近来た艦で占められており、それなりに慣れた者が引率するような形になっている。近海哨戒も、初実戦組とベテランが半々だ。今日の引率はそれなりに古株の伊勢だった。
補給ルートの分断は中堅どころ、西方海域は戦いに慣れ始めた艦と第一線級の古株艦が混ざり合っているが、こちらはまだ札が埋まり切っていない。
「おーい、まだ空いてるか?」
「失礼するぜ。」
ばたーんと勢いの良い音と共に執務室の扉が空いた。
「おう、天龍。木曾もか。ええと」
「空いてるな、おあつらえ向きに補給艦狩りで2隻。」
返答の前に、黒板の予定表を見たらしい。うんうん、と二人で機嫌よく頷いて黒板に歩み寄る。
そして、空のあった補給艦狩り部隊に自分の名札をたたきつけるように張り付けた。
「提督、俺たち補給艦狩り行ってくっから。」
「まあ戦果を期待しておけ。」
「はいよ、怪我しないようにしろよー」
ぱたぱたと提督が手を振ると、二人は片手を挙げて踵を返した。
「任しとけ、最高の勝利を与えてやるさ。」
「累計スコアは俺が上だぞ。」
「昨日もおとといも俺のほうが戦果を挙げたがな。」
「この!今度こそ負けねえからなっ!」
「無論、俺だって負ける気はない。」
じゃあな、と勢いよく部屋を出ていく。入ってきた時と同様せわしない上に元気いっぱいだ。
「……提督、あいつらいつもああなのか?」
ソファにごろ寝の態勢で、摩耶は目線だけ提督のほうに向けた。提督は、ああそうだな、と肩をすくめる。
「いつもああだ。摩耶は見たことなかったか。戦場でも二人で競い合ってる。」
「あたし、あいつらとは海域がかち合わねえんだよな。そういう事なら一回見てみたいもんだぜ。」
「重巡1軽巡2なあ。今日の通商破壊は……鳥海か。変わってもらうか?」
黒板に目をやった提督がそう問うが、摩耶はいいわ、と手を振った。
「鳥海もちったぁ戦場に出れないとつまんねえだろ。」
「まあ、確かに来たばっかであんまり戦場に出てはいないんだけどな。
今日はあいつらも一緒だし、駆逐枠に夕立居るし、少しは勘も戻るかな。」
黒板の名前を確認しながら提督は息をつく。だが、鳥海の働きぶりを見てきた身としては、勘もなにもというのが正直なところだった。
「あいつすっげえ武闘派なんだぜ?」
「とてもそうは見えないんだがなあ。お前のほうがよっぽど武闘派に見える。」
「あたしは残念ながらそういうのじゃないよ」
この姿になる前の戦ではろくすっぽ戦えなかった事は忘れてはいない。苦くて苦くて、だからこそ今は何とか戦いたかったし、実際にそうしてきた。
「だが、強くなりたい、武勲を挙げたいってのは艦としての本能みたいなもんだろ?だから戦いたいって言ってるだけだよ。」
「……そういうもんなのか。」
「少なくともあたしはそうだね。」
さっきの二人だって恐らく大差ない。基本的には補給や護衛など裏方が多く、花形の戦いにはあまり参加していないはずなのだ。
「……そうか。」
ふうむ、と提督は資料に目を落とす。
と、控えめなノックの音がした。
「入っていいぞー」
雑な承諾の声に、ひゃ、はいっ!と緊張で震えた声が返事をする。そんなに固まらなくていい、という声も聞こえるところをみると、扉の向こうには二人いるらしい。
「し、しつれいしますっ!遠征が終わりましたので、報告に参りました!」
「潮、そんなに固くならなくていい。相手は提督だ。」
がちがちの敬礼に軽く応える。扉を開けて入ってきたのは、潮と長門だった。
「そうそう、こんな奴に緊張するだけ勿体ないぜ。」
ソファのほうからぐだっと声をかけるが、先日初めて遠征旗艦に任命されたばかりの駆逐艦はさらに震え上がっただけだった。
「お前ら俺を一体何だと思ってんだ…ったく。
潮、報告聞くぞ。報告は旗艦の仕事だからな。」
「は、ひゃいっ!!
えと、一四〇〇時、御統星艦隊 旗艦潮以下5名、予定通り遠征任務より帰還しました!
消費資材は燃料弾薬150、補充できた資材は各600…」
たまにつっかえながら報告がなされる。ガチガチに緊張しているが、遠征自体はかなりうまく行ったらしい。
「い、以上です!」
「うん、大成功か。潮、よく頑張ったな。」
「え、あ、いやそのっ…み、みんなも頑張ってましたしそのっ…」
どうも褒めれば褒めるほどに小さくなってしまうタイプらしい。
「では次の任務までしばし休息だ。次の任務は早くて明日の朝だな。皆にも伝えておいてくれ。」
「は、はいっ!し、失礼します!!」
びしいっと擬音まで聞こえそうなくらいガチガチで敬礼をすると、潮は一目散に下がってしまった。
「…こんな提督にあんなにかしこまる事もないだろうに。」
付き添うように来ていた長門は残っている。
「こんなとは何だ。こんなとは。フレンドリーで付き合いやすいと言え。」
「提督がそう思ってるんならそういう事になっているんだろう。提督の中ではな。」
言いながらすたすたと提督の方に向かっていく。
「いちいち棘があるな。」
「別に、腕はともかく付き合いやすいのは確かだと思うぞ。
ほら、これがさっきの遠征の報告書だ。さすがに潮のは読みやすい。」
ひら、と机に置くと、はいはい、と提督はそれを眺めた。
「随分資材も溜まってきただろう。遠征部隊がかなり頑張ってくれてる。任務部隊も結構頑張っているし。」
長門はそういいながら資料を指し示す。提督も作戦図案と現状の資材表に目をやりながら、まあなあと頷いた。
「新入りと古株混ぜるようにしてから育成も早くなってきたしな。摩耶、資材表更新頼む。」
呼ばれてソファから身体を起こす。
「はいよ。まあ、うちにも古株ができたってのがまず成長だよな。」
「確かにな。」
資料片手に資材表を更新していく。なるほど、ずいぶん潤ってはいるらしい。
「これはもうそろそろ西方の再攻略に掛かれるかな。」
提督のつぶやきに、応えるようにガタッと音がした。
「……どうした、長門。」
「いや別に。資材資源は大事だ、深海棲艦が立て直す前につぶすのも大事だが……。」
肩越しにそっと目をやると、案の定、長門の背後には隠し切れなかったキラキラが見えたような気がした。
「装甲空母鬼か。」
資材表を更新しながら呟く。
……わからなくはない。西方海域深部に行くなら自分だって行きたい。
「カスガダマ海域は、行けばまた激戦になるからなあ。またぼろっぼろにしちまうのはな。」
「バカ野郎、それがいいんじゃねえかよ!」
渋るような提督の言葉に、思わず言い返してしていた。
「敵さんの本拠で!暴れまくって!武勲上げて帰ってくる、これ以上に楽しいことがあるかよ?!」
資材表ごと、どんと机に手をつく。
「あたし達はな、そのために生きてんだ!!」
過去の自分が果たせなかったことを、今は存分にやることができる。
だからこそ自分はここにいるのだ。
「……おう……。」
気圧されたように提督が頷く。
人の身である提督にはわかっているのかいないのかわからない。
だが、こちらの主張を理解するくらいはできたようだった。
「……西方攻略なら、必要資材は…まあ余裕はあ」
「やるのか!?」
全て言い終わらないうちに長門が声を上げる。
ただそれは、驚きというより完全に喜びの声だ。
「……お前行けるか?」
「行く!行かせてくれ!!」
その場で踊りだしそうな長門を眺めつつ、提督のほうに顔を寄せる。
「提督。あたしも行く。」
「摩耶。今日の秘書艦お前だろ。」
「あっちに行くのにあたしが行かない道理がない。」
にらめっこ数秒ののち、提督ははあ、とため息をついた。
「……長門といいお前といい、そんないい方されたら承諾しかできないだろが…。」
ぶつぶつと言いながら西方海域の資料を引っ張り出す。
「……編成は戦艦2空母1重巡1駆逐2だ。戦艦空母は長門が確定、あとは古株の中から集めてこい。
駆逐艦は…ああ、初春と時雨がまだ出撃してないな、そっちに声掛けてくれ。新入りには任せられん。
それと、秘書艦を変わりたいなら代わりの人員を連れて来い。
人員の点呼は一六〇〇、作戦と装備案は今夜渡す。出撃は明朝だ。以上。」
「了解、そうこなくっちゃなっ!!
長門、戦艦空母はお前に任せる、あたしは駆逐の方行ってくるから。」
「わかった。」
駆け出す足取りは軽い。
誰に秘書艦を押し付けるか頭の中で候補を並べつつ、心は明日の朝に飛んでいた。
血沸き肉躍る強敵との戦い、敵中枢での大立ち回り。過去の自分が望んでも手に入れられなかった、軍艦の本分ともいえるもの。
だからこそ、今から楽しみで仕方ないのだった。
嫁が戦艦なので、なるべく活躍させてあげたいという幻覚です。きっと長門さんもお散歩待ちのわんこみたいな顔してたに違いない。