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Happy new year!

 一月一日。
 朝起きるとまずお風呂へ。そして簡易的に家族にあけましておめでとうを言って、お屠蘇を飲んでお年取りをして。朝ごはんからおせち料理を食べて、あとはだらだら、ちょっとしてからおばあちゃんちに行って……というのがいつものお正月だ。
 だが、今年はちょっと違った。朝食代わりのおせちを食べると、ヨウコはちゃっちゃと着物に着替える。母親に手伝ってもらいつつ、正月は帰省していて若干相当やかましい兄をそっと避けつつ準備をしていく。
 今日は初詣の約束があるのだ。
 元気に玄関を出ようとしたところで、ポストに年賀状が届いていることに気が付いた。小さな束になっているハガキを引っ張り出すと、何か封筒も挟まっているらしい。
 少し気になって封筒を引っ張り出すと、それは自分宛のエアメールだった。
 差出人を確認すると、ヨウコはその場で封を切る。中には写真の挟まったカードが一枚。
 「お正月に合わせてくれたのかな。」
 ちゃっと確認すると、封筒と一緒にバッグに入れる。そして、今度こそヨウコは行ってきます、と声をかけて家を出たのだった。

 待ち合わせ場所は駅近くの広場。現在時刻は約束の五分前だ。人でごった返すとまではいかないが、そこそこ人はいる中で、誰か来ていないかを探す。
 きょろきょろと見回していると、ヨウコさん、と可憐な声が聞こえた。
 「ツバメちゃん!」
 声の方を勢いよく振り返ると、そこには薄桃色に小紋の入った可愛らしい着物に身を包んだツバメが手を振っていた。可愛らしいツバメの方へ、着物もものともせず駆け寄ってもぎゅ、と抱きつく。
 「きゃっ」
 「あーツバメちゃん!あけましておめでとう!今年もよろしくね!!」
 ぎゅうっと抱きついて挨拶をすると、ツバメは多少あわあわしながら、こちらこそ、と応える。
 「あ、あの、ヨウコさん着崩れちゃいますよ。」
 言われて少し身体を離すと、ちょっと慌てて顔を赤くした姿が見えた。それもまた可愛い。
 「ツバメちゃん可愛い!着物凄く似合ってるー!食べちゃいたいくらい。」
 「あ、あはははは……あの、遅れましたが、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね。」
 照れ笑いしていたツバメは、その場ですっと居住いを正すと、深々とお辞儀をした。
 「こちらこそ、今年もよろしくお願いします。」
 そのきちんとした空気に引きずられるように、ヨウコも深く頭を下げる。顔を上げると、ツバメは清廉な表情で微笑んだ。
 「あとはシキだけかな。」
 いうと、ツバメは小さく首を振った。
 「あ、シキ先輩はもう来てますよ。今ちょっと飲み物買ってくるって。」
 「そして今買ってきたよ。はい、これツバメの分ね。」
 ほい、と視界にミルクティの缶が割り込んできた。
 「あ、ありがとうございますシキ様。」
 その缶を受け取って、ツバメはパッと表情を変える。
 「様はやめてって言ったじゃない。」
 手の元をたどった先に居たシキは、肩を竦めながら自分の分の缶を開けた。
 「……シキ先輩。」
 「よろしい」
 満足げに頷いて、こちらを振り返る。シキも紅い着物姿だ。なんとなく帽子世界にいた頃を思い出させる。
 「あけましておめでとうヨウコ。今年もよろしくね。」
 「あけましておめでとうシキ。今年もよろしくね。……私の分は?」
 「ない。」
 即答されるのは解っていたが、少ししょんぼりする。
 「だよね……」
 「ちょっと、凹んだ顔しないでよ。ヨウコがもう来てるなんて思わなかったし、そもそもヨウコが何が好きなのかわかんないし」
 慌てたように言うシキが少し面白くて顔を上げる。
 「ヨウコさんは基本的に時間は守る女なのよ?」
 言うと、シキはちらっとツバメと目を合わせた。
 「私たち十五分前には来てたもの。」
 ね、とシキが言うと、困ったように微笑んでツバメも頷く。
 「時間にルーズな印象があったのに……」
 「シキ先輩、もともと結構几帳面なんですよ。」
 こそ、とささやかれた言葉に、マジで、と聞くと、マジなんです、とツバメも頷いた。
 「ちょっと意外」
 「時の世界の管理人ってなんとなく几帳面そうな響きじゃないですか?」
 「それもそうか。」
 「何ごちゃごちゃ言ってるのか知らないけど」
 頷いていると、シキが割って入ってきた。
 「時間通りに集合できたし、そろそろ神社の方行く?」
 「あ、ちょっと待って。二人に見せたいものがあるの。」
 神社の方を差すシキに軽くストップをかけて、ヨウコはバッグに手をやった。
 「何かあったの?」
 「ドーラたちから年賀状届いてたの、二人にも見せたくて。」
 言いながらバッグの中から先程のエアメールを引っ張り出す。
 「まあ、ドーラ様たちから。」
 「あそこ確か凄い大所帯だったわよね。」
 「そうそう、八人連名できたの。」
 署名は、ラヴィ・ナタリー・ドーラ・メシュレイア・ショコラ・ダリアに加えてフィユティーヌとセーラの名もあった。それぞれの筆跡がフィユティーヌとセーラを含めて違うところを見ると、どうやったのかは知らないが全員で書いたのだろう。
 カードにあったのは連絡先とちょっとした近況。カードに挟まっていたのは、七人で映った写真だった。それを覗き込んだ二人が、あら、と目を見開く。
 「あれ?一人増えてるわね。」
 「まあ。メル様も一緒なんですね。」
 写真の端で完全に溶け込んで笑っているメルを眺めてシキがつぶやく。
 「とうとう移住したのかしら。」
 「ビッグママとハインリヒさんが手放すとは思えませんけど。」
 「そうなの。ここに丁度連絡先あるし、聞いてみようかなって思ってさ。」
 写真とカードをそれぞれシキとツバメに預けて、ヨウコはひょいとスマホを取り出す。
 そしてメッセージアプリを起動すると、カードにあったアカウントを呼び出した。
 「このアイコンからするとショコラかな。」
表示されたアイコンは、何か月と星のアクセサリに、ショコラ、と名前が彫ってある写真である。
 「本当だ、それっぽい。」
 「えーと。あけましておめでとうございます、と。年賀状ありがとう……」
 とりあえず送信すると、意外にもすぐに返信が来た。
 「うわ。何、通話いいかって。OKっと。」
 「久々じゃない。」
 すぐにぴぴっと呼び出し音が鳴る。どうやらテレビ通話らしい。シキとツバメと顔を見合わせて応答すると、画面の方からはとてつもなく賑やかな声が聞こえてきた。ついでやたら賑やかな光景も表示される。
 「やっほー!ヨウコ、久しぶりだね!
  あれ?シキお姉ちゃんとツバメお姉ちゃんもいるの?!ていうか何!?すっごい綺麗な恰好!」
 画面の向こうのショコラは、こちらが何を言う間もなく一人で騒いでいる。
 「ショコラ、久しぶり。あけましておめでとう!今からシキとツバメと初詣なの。」
 「お久しぶりです、ショコラさん。」
 「そっちはなんでそんな賑やかなの?」
 口々に言うと、ショコラは目を真ん丸にした。
 「もう年あけちゃったの!?こっちはね、今クリス先生のとこでカウントダウンパーティの真っ最中なんだよ!」
 「え、クリスの家?!」
 驚いているうちに、画面の向こうで「ねえねえヨウコたちとつながったよー!」と声が飛ぶ。やがて、かつての仲間が画面内にわらわらと集まってきた。見えるところでドーラとラヴィとナタリー。多分後ろの方にはメシュレイアがいるのだろうか、銀色の髪が見えている。
 「ほんとだ、ヨウコだ。あれ?シキとツバメもいるの。」
 「まあ、皆さんとってもきれいですね。」
 「シキが着ていたのと似てますわね。」
 「聞こえてるわよ?」
 シキが言うと、ワンテンポ遅れて、画面の向こうのラヴィとナタリーが目を見開いた。
 「シキ、ツバメ、お久しぶりですわね。」
 「お久しぶりですナタリーさん。お元気そうでよかったです。」
 「シキさんもお久しぶりです。お元気でした?」
 「ええ、ぼちぼちね。」
 古い馴染みとの再会は楽しいものなのだろう、シキもツバメもとても楽しそうな表情を浮かべている。
 「ねえショコラ、メルはそっちに居るの?」
 聞くと、ショコラはきょとんとした顔をした。
 「メルはミュンヘンに住んでるからさすがに居ないかな。」
 「なんだ、移住したんじゃなかったのか。」
 シキが言うと、ショコラは目を真ん丸にした。
 「メルがこっちに?!それは考えたことなかったよ。」
 今度言ってみる、とショコラは笑う。
 「ヨウコさんへの年賀状にメル様がいらっしゃったので気になったんです。」
 ツバメが言うと、傍にいたドーラが、ああ、と頷いた。
 「あれはね、冬のはじめにちょっとメルが来てた時に一緒に撮ったんだよ。」
 「メルは結構ハインリヒの出張にくっついて遊びに来るんですの。」
 「だからちょくちょく会ってはいるんですよ。今年も何回かいらっしゃってました。」
 元気にしていると思いますよ。
 口々に言う三人の横から、「ちなみにそれ撮ったの3週間くらい前ね」とショコラの注釈が入った。
 「謎は解けたわ。それがちょっと気になって連絡したの。」
 言っているうちに、横からひょいっと銀色の髪が割り込んできた。
 「ちょっといいか?」
 顔を出したのはジャニスだ。
 「ジャニス!あなたもそこにいたの?!」
 「まあ、お久しぶりです。」
 「驚いたわね。」
 画面の向こうのジャニスは、少し戸惑ったように微笑む。
 「何を驚いてるのか知らんが、ジャコウもユノーもいるし、そこにメシュレイアもダリアもいるよ。」
 もちろん家主のクリスも。そう言われると、確かに納得のメンバーだ。
 「で、本題なんだが。我々の年明けはあと四時間ほどあとでな。よかったらカウントダウンを一緒にやれないか、とユノーが言ってる。」
 「なんで本人が出てこないのかしらね?」
 「1分前まで一緒にいたんだが、ちょっと他の客に捕まってしまってな。」
 シキの指摘にジャニスはひょいと肩を竦めた。
 「どうだろうか。その時にまた通話をつなげられるか?」
 「もちろん!充電して備えとくわ。そうだ。あなたの連絡先もあとで教えて欲しいな。」
 勢い込んで言うと、ジャニスは軽く目を見開いた。
 「私の?……ああ、構わない。あとでショコラから送ってもらおう。」
 微笑みと共にこくり、と頷いてジャニスが画面から引く。それと入れ替わるようにぴぴ、と音がして、ショコラがひょっこりこちらを覗き込んだ。
 「うわ、ヨウコ、ごめん充電やっばいみたい。」
 「あらら。」
 やっぱり動画って電池食うわね、と肩を竦めるシキに、ツバメは本当に、と困ったように息をつく。
 「じゃあそろそろ切ろうか。」
 「うん、ええとね、今20時半だから、あと3時間半あとで。」
 「了解。じゃあまたあとで。」
 「10分まえには連絡するからね!絶対だよ!」
 三人で手を振ると、あちらも四人で手を振り返した。そのまま画面が切れる。充電を確かめると、自分の分も確かに随分減っていた。
 「話は尽きないけど電池は尽きるのよね。」
 ぼやくと、ツバメも困ったように頷いた。
 「仕方ないんですけどね。」
 「三時間半後までに充電してしまうしかないわね。あ、でもこれならパソコンからやればゆっくりできるかな。」
 近くにネカフェとかないかしら、と思いを巡らそうとすると、シキがそれなら、と声を掛けた。
 「うちに来る?」
 思ってもみない申し出だ。
 「え、いいの?」
 思わず聞き返すと、シキはもちろんよ、と頷いた。
 「大丈夫。ツバメもいいでしょ?」
 「え、あ。……はい。」
 ツバメも嬉しそうだ。心なしか顔が赤い。
 でも、それならばやることは決まりだ。
 「じゃあ、初詣いって、お昼してからシキの家行きましょうか。」
 「了解。」
 「そうですね。それくらいでちょうど良さそうです。そうだ、これお返ししなくちゃ。」
 ツバメは手に持っていたカードをヨウコに戻す。シキもついで写真を戻した。
 「大事なもんだからね。」
 「うん。ありがとね。」
 年賀状を元通りバッグにしまえば準備はおしまいだ。それを確認してシキが神社の方へと足を向ける。
 「じゃあ行こうか」
 「はい!」
 「おう!」
 ツバメと一緒に元気に返事をする。
 「そんなにテンション上げなくても」
 「新年だからね」
 そう、新年なのだ。
 一月一日の空は、薄く水色に晴れ渡っている。いい一年になりそうだ。……そんな気がしていた。


年賀状のおまけ。二年目のお正月の話。シキとツバメとヨウコさんは好きな割には普段あまり書かないものだから書いてみたところはそれなりにあるかも。お正月は皆で連絡とりあうのが恒例だと可愛いと思います。
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