「ただいま。」
ラヴィが声を掛けてリビングに入ると、テーブルには、磨き上げられ黒光りする鉄の塊が並んでいた。
ソファに腰掛けたダリアが、それを注意深く組み立てている。小さな工具もオイルも自分の手のように使いこなして調整していく姿は、あまりにもしっくり来過ぎていて一枚の絵のようだった。
組み立てているのは銃に見える。帽子世界にいた頃は、ダリアのメインの武器だったものだ。機械の管理人だからなのか、自分の手足のように操る姿は正直凄いと思ったりもしたものだった。
しかし、ここはフィラデルフィアである。帽子の創造の力は使えなくなったし、銃を撃たれれば簡単に死ぬ、現実の世界だ。
その事実にはたと気づいて、ラヴィは思わず悲鳴を上げた。
「だ、ダリア!? それはもしかして銃ですか?!」
ダリアが顔をあげる。
「ん? ああ、お帰りラヴィ。これは確かに銃だが、どうかしたかね。」
お帰り、と微笑まれても手に持っているものは紛れもなく武器だ。
「どうかって……ダリア! それは武器で! 銃で! ここは現実世界で! 撃ったら死ぬんですよ!?」
「まあ確かにそうだが。」
「今の私たちには必要ないはずです!」
取り上げなければ、と手を伸ばすと、すっと後ろに下げられた。
「まあ落ち着きたまえ。私だって別に人殺しがしたいわけじゃない。殺傷能力はないよ。さすがに顔に当たったら少し危険かもしれないがね、死にはしないさ。」
「なんだってそんなものを!?」
机にドンと手をつくと、工具がカタカタと跳ねる。ダリアは困ったようにそれを見て、またラヴィの方を見上げた。
「最近この辺で不審者を見かけるんでね。護身用……というか、まあハッタリだな。」
「不審者ですか?」
全く知らなかったが、ダリアはそうだよ、と頷いた。
「ラヴィも気を付けたまえ。よくわからんが、顔を隠した男がうちの方を伺っていたりするんだ。声を掛けると逃げていくんだが、余計に気味悪いことこの上なくてな。」
言いながら、残りの部品を手際よく組んでいく。やがてテーブルの上は工具だけとなり、それもあっという間にきれいに片付いてしまった。
組み終えた銃をくるりと回転させると、ボフッと自分の脇に置く。重さを受けたソファが少し沈む。
「まあ、用心はしておくに越したことはない。」
「……随分重そうですけど、本当にそれ、玩具なんですか?」
「言っただろう、私だって人殺しはしたくない。まあ、ここで撃ちはしないがね。散らかってしまうし。」
ナタリーくんにも怒られてしまうしね、と肩を竦めるその様子は、常と変わらない。だが、それと同時に何か引っかかりを覚えた。
よく考えたら、こういう事をする時は、ダリアは大体自室と言う名の研究室にこもっているはずだ。
「なぜここで整備をしてたんですか?」
聞くと、ダリアはこともなげに答えた。
「もしかして覗いているようなら威嚇にはなるかなと」
不審者がどこから覗いていたのかは知らないが、ここは門から覗いても見辛いはずだ。
「本当にそれだけですか?」
もう一度聞くと、ダリアはすーっと目をそらした。
「……まあキッチンが近かったし……」
キッチン。それは、料理をする場所であって、間違っても銃の整備に使う場所ではない。つまり、キッチンには別の用事があったという事である。そう、過去を例にとるとキッチンを謎の粉だらけにしたりシンクを焦がしたり溶かしたりレンジを爆破したりする用事があったことになり、そういう事はするなとナタリーと二人できつく申し付けていたはずである。
「……またキッチンで実験しましたね?」
聞くと、ダリアの目が泳ぎだした。
「……あー……本日ノ天気ハ晴レ、所ニヨリ雷雨トナルデショウ……最高気温ハ」
誤魔化すつもりだろうか、棒読みでラジオの天気予報を喋りだす。確かにダリアはラジオだった事もあったが、今はしっかり女性の姿だ。悪あがき以上に意味がない。
「ラジオのフリをしてもダメですよ。」
ダリアはこちらをちらっと上目遣いで見ると、またすすっと目をそらした。
「……いや、まあ、その……ほら……ええと……水も火もあって便利だし……ちゃんと片付けたし今日はシンクも焦がさなかったし……」
「実験、したんですね。」
「う……その……。」
泳ぎすぎて行き場をなくした視線がこちらを見上げる。
「……ごめんなさい。ちょっと弾を加工してたんだ。」
少し潤んだ琥珀色の瞳がきらめきながら許してほしいと訴えていた。本当に困った人だが、こういうところはかわいげもあると思う。ナタリーには、騙されるなとよく言われるのだが。
「全くもう。めっ、ですよ。」
とはいえ、キッチンで実験するようなものを入れているというのなら、きっとその銃は玩具だろう。
「でも、その銃が玩具なのは解りました。使う機会がなければいいんですけど。」
言うと、ほっとしたようにダリアは頷いた。
「そうだな。さっさと解決してくれることを祈るよ。とにかくラヴィも気を付けてくれたまえ。」
わかりました、とこちらも頷く。
ただ、不審者という響きが何だかもやもやした不安を掻き立てていた。
「ナタリーは何か知りませんか?」
部屋に戻ってきたナタリーに不審者の事を聞くと、一通り聞いたナタリーは眉を顰めた。
「知りませんわね。でも、ダリアが銃を準備していたというのなら、恐らくその不審者には数回出くわしているのでしょう。
私は聞いてませんけど。」
最後の言葉に力がこもる。そしてナタリーは、キッと顔を上げると、行きますわよ、と言ってツカツカと歩き出した。
「あの、どこへ行くんでしょう?」
「決まってますわ、ダリアに聞きます。今日は夕食当番でしょう?」
「ええ。」
時刻はそろそろ夜に差し掛かる。台所からはいい匂いがしていたし、リビングの方からは同居人たちの声も聞こえていた。
キッチンへの扉を開けようとすると、向こう側から扉が開く。
「ああラヴィにナタリーくん、ちょうどよかった。ごはん出来たよ、そろそろ食べようか。」
ダリアがエプロン片手に扉を開けたところだった。
「はい、ありがとうございま」
「ありがとう。ところで不審者の件について聞かせてもらえますこと?」
全て言い終わる前にナタリーが上からかぶせてくる。ハタから聞いていてもキツい言い方だが、ダリアは全く動じなかった。
「ラヴィから聞いたのか。まあとりあえずは夕飯にしよう。その話はドーラくんたちにもしておきたいからね。」
言ってくるりとキッチンに戻っていく。
「あ、ラヴィもナタリーも手伝ってよ。」
中からドーラにも声を掛けられて、ナタリーは軽く肩を竦めてキッチンに入っていった。
やがて食卓が整う。並んでいるのはシンプルなパスタとサラダだ。いただきます、と食事が始まると、ダリアが口を開いた。
「最近この辺で不審者を見かけるんだが、何か知ってるかね? 昨日の夜帰って来たら、顔を隠したやつがうちの方を伺ってたんでね、気になっているんだ。」
昨日の夜。残業だったとかでダリアが戻ってきたのは、とっぷり日の暮れた夜の九時過ぎだった。
「え、そんな夜にですか?」
「それは気色悪いね……」
メシュレイアが眉を寄せると、ドーラも気味悪そうに顔をしかめる。
「まあ、声を掛けたら逃げて行ったんだがね。」
ダリアが言うと、ドーラは心配そうに顔を上げた。
「そこで声掛けるのって危ないと思うんだけど。」
「門前に佇んでて邪魔だったのだよ。
ここ最近、あまり見かけない奴がうろついてるのも見るし……それで、何か知らないかと思ったんだが。」
言いながらダリアはのんびりとパスタを口に運んだ。ややあって、メシュレイアが口を開く。
「あの……私も良く解らない人には会いました。そっちの角の方で、二日か三日くらい前に、地図片手に家の方見てる人がいて。何を見てるのかと思ってるうちにすうっといなくなってしまったんですけど。……確かおじさんでした。その時は迷子かなって思ったんですけど……その。」
「それって白髪交じりで、茶色のコート着たえらそうな人?」
ショコラが尋ねる内容は随分具体的だが、メシュレイアはええ、と頷いた。
「なんかそんな感じです。育ちが良さそうな感じはしました。」
「ショコラ、何か知ってるような口ぶりですわね?」
ナタリーが尋ねると、ショコラは、うーん、と首を傾けた。
「ショコラその人かどうかは知らないけど、今日なんかそんな感じのおじさんが声をかけてきたの。」
何と、と促す空気に、ショコラはサラダを飲み込んでから答える。
「それがね、ラヴィという娘を探してるんだが知らないかって。この辺に住んでるはずなんだが、って。」
唐突に出てきた『ラヴィ』の名前に、息が止まった。視線がショコラに集まる。
「まさか教えたんじゃないでしょうね?」
ぎろ、とナタリーが睨むと、ショコラはむうっと膨れた。
「ショコラそんなことしないもん。何か御用? ってちゃんと聞いたよ。」
「それじゃ知ってると言ってるようなものですわ……そしたら?」
「会わないといけない用事があるんだって言ってたけど……なんか胡散臭かったから黙っといた。」
その言葉に、ナタリーがほうっと息をつく。しかし、用事とはなんなのか、ラヴィの思考はアテもなくぐるぐると回りだす。だが心当たり……心当たりは、よくわからない。
「ふーむ、ラヴィか。
しかしおじさんというのが気にかかるな。私が見たのはもう少し若い感じだったし。」
ダリアが首をかしげる隣で、ナタリーがショコラとメシュレイアに向きなおる。
「と言う事は不審者は二人以上ということになりますわね?
時刻はどれくらいでしたの?」
「帰ってきたころだから夕方かな」
「私も夕方ですね」
ね、と顔を見合わせるショコラとメシュレイアに、ふむ、とナタリーが頷いた。
「夕方に出てくる中年男性と夜に出てくる若い男。中年男性はラヴィに用があるらしい。育ちが良さそうだけど胡散臭い……。
ラヴィ、何か心当たりありまして?提出書類忘れてるとか同じ学科の人だとか。」
考え込んでいるところでナタリーの目線がこちらに向いて我に返る。
「……え。」
「だから、最近先生に書類提出をせかされたり、同じ学科の人に付きまとわれたりとかしてません?」
ナタリーが心配そうに覗き込む。
「……してないです。心当たりは……ちょっとよくわからないんです。ごめんなさい。」
心当たりがあればもう少し対応もできただろうか。だが、今はただただ申し訳なくて縮こまるしかできなかった。
「ラヴィが謝る事じゃない。不審な近付き方をしてくる方が悪いんだ。玄関からチャイムでも鳴らしてくれれば応対くらいするというのに。」
ダリアが笑って肩を竦めると、メシュレイアも頷く。
「それに全然大したことなかったオチって事だってありますよ。」
「ラヴィに心当たりがないなら気にすることないんじゃない?」
そうそう、とドーラもナタリーも頷いている。
「あまり気にしすぎない事ですわ。」
空気をかえるように、ダリアが明るく声を出す。
「よし、とりあえず、変なおじさんお兄さんには気を付けよう。おやつをもらったからってついていっちゃだめだぞショコラくん。」
「ショコラそんなことしないし! ダリアってばめっちゃ失礼だよ!」
ショコラが噛みついて、ダリアがけらけらと笑う。止まりかけていた食事がゆるやかに再開される。いつもの食卓にいつもの日常が戻っていく横で、顔に笑顔を張り付けながら、ラヴィは一人思い悩んでいた。
ダリアに銃を持ち出させるほどに皆を不安にさせている原因は自分だ。自分に関係あるとするなら学校だろうか、行きずりなのか、帽子世界の関係者か、……もしくは実家か。
せっかくのパスタも味がしない。ラヴィは笑顔を張り付けたまま、早々に部屋に引き上げたのだった。
自室に戻ると、ラヴィは大きなトランクを引っ張り出した。
ここに来るときに持ってきていたものだ。それに一つ一つ荷物を入れていく。
もう完全に馴染んだ自分の部屋。最初に来た時はこのトランク一つで来たのに、いつの間にかトランク一つでは収まらないほどに増えた自分の荷物。
当座の服やお金、あとは……教科書。学校にも迷惑はかけられないから、通う事もできない。そのうち退学ということになるのだろうか。それでも医者になる夢は捨てたくはなかった。一緒に勉強を頑張ろう、と誓い合ったナタリーには申し訳ないが、そのナタリーにも迷惑はかけられない。
自分が出て行けば、きっとこの騒ぎも終わる。
「ラヴィ!? 何をしてますの!?」
機械的に手を動かしていると、部屋の扉が勢いよく開いて、ナタリーが入ってきた。
「ナタリー。……あの、私、ここを出て行こうと思って」
「ええそうでしょうとも、そんな気がしてましたわ。ですがこれしきの事で出ていくことは許しません。」
トランクをどん、と抑えてナタリーはキッとこちらを見た。
「でも、皆さんに迷惑をかけてしまいます。私はそんな事したくありません。」
言い募るこちらを冷静に見据えて、ナタリーはゆっくり言葉を口にする。
「ラヴィ。不審者がいる原因が仮にあなただとしても、あなたに罪はないし、あなたが出ていく謂れはありませんわ。
そうですわね……もしも私のせいで不審者が出たとして、あなたは出ていって欲しいんですの?」
「そんな事! 私も一緒に解決します!」
即座に否定すると、ナタリーは優しい瞳で微笑んだ。綺麗すぎるその表情に一瞬吸い込まれてしまいそうになる。
「でしょう。私たち皆そう思ってますわ。だから少し落ち着いて、とりあえず荷造りはやめなさい。」
「そーだよ、ラヴィ。水臭いよ。」
ばたばたとショコラが部屋に入ってくる。
「まさか本当に出ていく準備をしていらっしゃっただなんて」
その後ろからドーラとメシュレイア、ダリアもついてきていた。
「やれやれ驚いたよ。ナタリーくんは本当にラヴィの事なら何でも分かるんだね。」
ダリアが肩を竦めると、ナタリーは振り向きもせずに言い放つ。
「ラヴィを利用しようとしただけのあなたなんかより、よっぽど付き合いが長いんですもの。これくらい当然でしてよ。」
一言一言に圧がある言い方は、先程とは随分違うが、ダリア相手だとよく聞く言い方だ。
「全くナタリーくんは手厳しいなあ。」
しょんぼりと声を落として見せるダリアの隣で、ドーラが息をつく。
「あのねラヴィ。もしも相手がキミを狙っていたとしても、今キミが出て行ったら相手の思う壺だと思うんだ。
だから、思い詰めるのは詳しい事を相手に聞いてみてからでもいいんじゃないかな。」
「そうだよ、ここは共に解決しよう。今我々は、同じ家に住んで同じ問題に直面している。いわばチームで……ファミリーだからね。」
違うかな、と笑いかけるダリアに否定は返せなかった。
「そうそう、今の私たちは家族なんだから。だから一人で悩んで一人で出て行こうなんてそんなのダメだよ。」
「それにまだ、相手が悪い人だって決まったわけじゃありませんし。結論を出すのは早すぎます。」
ショコラとメシュレイアにまで言われてしまうと、張ろうとした意地も氷解してしまう。もう、「でも」も「だって」も言えなかった。
「とにかく、これは元の所に返しますわよ。トランクを使うのは旅行の時だけで十分ですわ。」
言いながらナタリーは勝手知ったる何とやらで、テキパキとトランクの中身を部屋に片づけていく。
「ああ! 私もやります。すみません。」
気付いて慌てて立ち上がる。
「謝る必要はありませんでしょう。まあラヴィが考え直してくれたならそれでいいですわ。」
一緒になって片づけていると、なんだか心の緊張が解けていくような気がした。
「私たち、家族なんですね。」
「同居していて助け合うのを家族というのなら、そうですわね。」
さっさとクローゼットに服を戻しながらナタリーは言う。
「同居していて助け合う……」
復唱すると、ナタリーがこちらを振り返った。
「ちょうど今やってるでしょう?」
「そうでしたね。……そうですね。」
少し悪戯っぽく笑った顔に、なんだか全てが納得いったような気がして、ラヴィはこくりと頷いた。
「対策も考えないとね。」
「とりあえず玄関先に監視カメラは仕掛けておいた。」
「行動早っ。」
後ろの会話はもう先の話に移っている。不審者対策だというのに、なぜか皆楽しそうで、自分が悩んでいることも薄れていくようだった。
翌日。
学校は、いつもと同じに通い、いつもと同じに学んだ。きっとドーラたちもいつもと同じに各々過ごしているはずだ。
ただし、昨日の話を受けて、いつもと違うことがある。
「ラヴィ、お疲れ様ですわ。」
授業終わりとともに、教室までナタリーが迎えに来た。
「ナタリー、待たせてしまってすみません。」
「私も図書館で勉強してましたの。待っていただけという訳じゃありませんわ。」
さあ、帰りますわよ、と歩き出すナタリーの隣を歩く。
『なるべくラヴィを一人にしないように。』
授業以外はなるべくナタリーが一緒に行動するようになった。これが昨日とは違うところ一つ目だ。学部が違うナタリーとは授業終わりが被らない限り一緒に帰る事もなかったので、こんなに一緒に居られるのは少し新鮮で、ちょっと……不謹慎かもしれないが、嬉しかった。
「アレも今のところ出番がなさそうですわね?」
「ええ、おかげさまで。」
目線はお互いのカバンに向く。そこにぶら下がっているアレ……ひも付きの小さなぬいぐるみ。それは、小さなブザー装置だった。
『ほぼ出来合いのものなんだがね。』
そう言ってダリアは全員に小さなぬいぐるみのキーホルダーを渡したのだ。
『え、可愛いじゃん。これ貰っていいの?』
小さなぬいぐるみを目の前に吊るしながらショコラが言うと、ダリアはもちろんだよと頷いた。
『なるべく普段から持ち歩いてくれたまえ。紐を引くと大きな音が鳴る。防犯ブザーってやつだ。』
『それだけ?』
『それと共にGPSのスイッチが入り、お互いの端末に通知が行く。この機能だけ使いたい時はこっちのボタンを押せばいい。緊急通報のようだが、まあ迷子探しにも使えるかなと思ってね。』
「こうしてるとなんだか可愛いですよね。」
「ドーラとセーラが作ってたのを流用したというだけありますわ。」
完成度だけはやたら高い、とナタリーは笑うが、人形は元々こんな用途にする予定はなかったらしい。その名残か、配られたブザーは各々ぬいぐるみの形が違っている。今だってラヴィのカバンにはウサギがついているし、ナタリーのカバンにはキツネがついていた。
「全員分用意しているところが抜け目ないというか。」
歩くのに合わせて揺れるストラップはつぶらな瞳で宙を眺めている。
「ダリアの事だから、多分私たちに何らかの責任を感じていたんだと思います。預かりものみたいな気持ちがまだあるのかも。」
「まあ、そんなところでしょうけど。ブザーはともかく、これはちょっと大げさかもしれませんわね。」
これ。キツネのストラップのついたバッグに入っている、もう一つ昨日と違うもの。
それは昨日ダリアが整備していた銃だった。使えるものは使うという方針の下、一番ラヴィの傍にいるから、というシンプルな理由でナタリーが持つことになったのだ。
「使う機会がないといいんですけど。」
「まあほとんど玩具ですから、怖がることはありませんわ。中身も聞きましたし。」
ナタリーがラヴィの方を向く。
「今の私は、さしずめラヴィ専属のボディガードですわね。」
「私だって、守られるだけじゃないですよ。」
軽く言い返すと、ナタリーはその意気です、と微笑んだ。
「ラヴィ。昨日より随分いい顔をするようになりましたわね。」
「きっと頼りになる家族のおかげです。」
笑い返すと、ナタリーは嬉しそうに笑った。
学校と家は歩いていける距離だ。当座の下宿先、くらいの気持ちでやってきた家だが、同居するダリアやドーラたちとはすぐに家族のような間柄になってしまった。部屋はあるものの、リビングでくつろいでいれば誰かしらやってくるし、夕飯は皆で食べる事が多いしで、正直実家より家族らしい気がする。
大通りを渡って少し歩くと現れる住宅街。そこの一角が今の家だ。路地を歩きながら話していると、ナタリーがぴたりと歩みを止めた。
「どうしまし……あ。」
家はもう百メートルくらい先に見えている。しかし、その前に何か見覚えのない車が停まっていた。一目見て高級と分かる黒塗りの車は、どう見たって宅配便ではない。
「来客予定はありませんでしたわね。」
「ええ。」
話しながら、それとなく車から見えない場所に移動する。塀の影から車を伺うと、ナタリーは小さく指示を出した。
「家に居そうなのはショコラかしら。連絡を。絶対に応対しないで、と。」
頷いて、端末でショコラを呼び出す。
「あ、ラヴィ? 今どこ? さっきから家に何か来てるんだけどチャイム鳴らしてこないんだよ。」
二コールもせずに不安そうなショコラの声が応答する。
「家の近くでナタリーと一緒です。そこは他に誰が居ますか?」
「セーラお姉ちゃんとドーラお姉ちゃん。ダリアはまだだよ。」
「分かりました。いいですか、たとえチャイムを鳴らしてきても応対はしなくていいです。無視してくださいね。」
「わかった。気を付けてね。」
ぴ、と通話が切れる。
「さて。あの方たちの目的を聞かないといけませんわね。平和に教えてくれるといいんですけど……ラヴィ、ぬいぐるみの準備はよろしくて?」
「は、はい。」
鞄についたぬいぐるみに手をやると、ナタリーはふふ、と笑った。
「絶対私から離れちゃだめですわよ」
そう言って高級車の方に向かって歩き出す。その左腕にぴったりくっついて、ラヴィはナタリーと共に歩き出した。
車の中もこちらに気づいたのか、何か動きが見える。やがて、車から男が二人出てきた。
一人はダリアより少し年上だろうか、若い男だ。そしてもう一人は白髪交じりの中年の男。どちらも品の良さそうな物腰で、育ちの良さが見て取れた。恐らく、メシュレイアとショコラが言っていた品が良さそうで胡散臭いおじさんはあの中年の男の方だろう。と言う事は、ダリアが見たという若い男もそこの男なのかもしれない。
男たちはこちらに悠々と近づいてくる。そして、優雅に会釈をした。
「ラヴィさんですね。」
中年の方が、す、と写真を出してくる。心当たりしかないその写真は、帽子世界に行く前の自分の姿が写った写真だ。言い逃れはできないと悟って顔をあげる。
「……何か御用ですか。」
警戒心をあらわに尋ねるが、相手は余裕の態度を崩さない。
「私たちの元に来てくださいませんか。身分と生活は保証いたします。」
「なぜですか?」
聞き返すと、今度は若い方が言葉を受けた。
「私の妻になっていただきたいのです。」
穏やかな言い方。だが、一瞬何を言われているのかわからなかった。
「……え?」
「な……!?」
唖然としていると、若い方が驚かせてしまいましたね、と笑う。
「ラヴィさん、あなたがいない間、ご実家の方は混乱を極めていました。そして今、あなたが戻ってきたことによってその混迷は増しています。私はそれを収めたい。どうか力を貸してくれませんか。私の妻として。」
言われている事は否定し難かった。実家で争いが起きていたのは自分の力不足だが、自分が居なくなったところで混乱も争いもなくなるわけではないのは当然と言えば当然だ。そして、ここにきて死んだはずの自分が戻ってきたのなら、どうなるか。
……死んだままの方がマシだったのだろうか。責任は負うべきなのだろうか。
「随分好き勝手おっしゃいますのね。」
グルグル回る考えを断ち切るように、怒りを孕んだ声が隣から聞こえてきた。
「あなたは?」
「『今の』ラヴィの家族ですわ。」
ナタリーは一言一言圧を掛けて言葉を続ける。
「詭弁ですわね。正直に『財産が欲しいから元当主でも相続権のあるラヴィが必要だ』とおっしゃったらどうですの?」
「これは手厳しい。そのような面がある事はもちろんわかっていますが、それはあくまでも副産物です。
ラヴィさん、どうでしょうか。決して悪い話ではないと思うのですが。」
男はこちらに手を差し出す。それを問答無用でナタリーが叩き落した。
「いい加減になさい。もしそれが本気だとしても、そんな旧時代的な事情で一介の医学生のラヴィをつれて行くのは乱暴ですわよ。
ラヴィもしっかりなさい。あなたは何のためにここにいるんですの? 今度こそ自分の夢を叶えるためでしょう?」
自分に向けられた言葉はキビキビとしているが、どこか泣き叫んでいるようにも聞こえる。
「私と離れていたくないと言っていた事、あなたが忘れても私は忘れませんわよ。」
ナタリーの言葉が、心にすとんと落ちてきた。
「あ……」
それは波紋のように心を撫でて満たしていく。
そうだ、確かに言った。自分はそのためにフィラデルフィアに居る。立派なお医者さんになるために。そして、ナタリーと一緒にいるために。
ラヴィはすっと顔を上げ、そして男に向きなおった。
「申し訳ありませんが、このお話はお断りさせていただきます。私は一介の学生ですし、一度当主の座から退いた身ですから。」
一礼してナタリーに寄り添う。男を避けて家へ向かおうとすると、ぐい、と腕をつかまれた。
「きゃ!?」
「そうはいきません。あなたは必要な人だ。」
高級車から、さらに人が出てくるのが見えた。二人、三人。
「本性表しましたわね……!」
ナタリーはすかさずラヴィの腰を抱くと乱暴に抱き寄せ、男の額に銃を突きつけた。
ひるんだすきにラヴィも腕を振りほどく。そして、ぬいぐるみのスイッチを入れた。
ピコピコと目立つ音が響く。
『ラヴィに危険が迫っています』
繰り返す電子音はナタリーから、そして家の方からも聞こえてくる。
「お前ら!」
捕まえようと飛び掛かってくる男達相手に、ナタリーは躊躇なく銃のトリガーを引いた。
派手な銃声と共に、辺りが閃光に包まれる。瞬間的に目を閉じたが、それでもちかちかしてよく見えなくなった。その状態でナタリーに腕を引かれるまま走りだす。数秒で眼がきくようになると、家まではあと数メートルだ。ちらりと見た高級車には誰も乗っていない。挟み撃ちは免れそうだと判断し、二人は車を背にして男たちと対峙した。
「子供だましか!」
「子供だましでも引っかかっていれば世話ないですわね。もう一発いかがですこと?」
ナタリーはまた躊躇なくトリガーを引く。弾は咄嗟に目を覆った男たちの足元に当たり、派手な色の液体が広範囲に飛び散った。
追おうとする男たちの顔面に向けてもう一発。今度は真っ白な粉がその辺りを覆う。目くらましになっている間に、ラヴィはナタリーと共に玄関前までたどり着いた。家を背にすると、既に男たちはこちらに向かって来ている。胸元から取り出しているのは、銃。玩具のナタリーの銃とは違い、こちらは間違いなく本物だ。
「無駄な抵抗はやめろ。」
「無駄な誘いもやめなさい。」
ナタリーが言い返す横で、ラヴィも声を上げる。
「あの、私は今あなたの所に行く気はありません。家の事は心苦しいのですが、どうか他の手段を考えてください。」
「そういう訳にはいかない。お前が一番の近道なんだ。」
「あくまでもラヴィを利用したいんですのね。」
近寄り、包囲を狭めてくる男たちにナタリーは厳しい顔で銃を向けた。
狙いを定めるその表情は今まで見た事がない位真剣だ。
「ふん。次は目くらましか? ペイン」
半分馬鹿にした声を遮るように、重量のある銃声が響いた。
すぐ横から流れてくる火薬の匂い。アスファルトをはずむ銃弾の音、金属の薬莢が落ちる音が続く。
顔のすぐ脇を弾丸が通過し凍り付いた男に、ナタリーは凍えるような声で告げた。
「実弾ですわ。」
動けずにいるうちに、ナタリーは男に狙いを定めた。
「帰りなさい。そして二度と来ないで。
ラヴィを自殺に追い込んだあなたたちに、ラヴィを渡すわけにはいきません。」
氷のような声が、怒りの炎で震えているのが分かる。
「次の弾丸も実弾でない保証はありませんわよ。」
ナタリーは本気だ。
悟った瞬間身体が動いた。ナタリーを殺されるわけにはいかない。ナタリーに人殺しをさせる訳にはいかない。咄嗟に前に出て銃を抑えると、同時。
上から凄まじい音量のサイレンが響き渡り、勢いよく水が落ちてきた。
「二人とも、中へ!!」
唐突に玄関が開き、ぐい、と中に引っ張り込まれる。そして、ドアが閉じた、と思った瞬間、外で立て続けにとんでもない爆発音がした。
「な……」
「一体何が」
茫然と玄関にへたり込んでいると、上から金色と銀色の髪が覗き込んだ。
「あんまり挑発したらアブないよ、ナタリーお姉ちゃん。」
「二人とも無事でよかったわ。」
ホッとした顔が口々に言う。中に引き込んだのはショコラとセーラだった。
「姉さん、警察に電話してくれるかい。」
鳴り響いていたサイレンが止まり、上から声がする。
「分かったわ。」
セーラはすぐに端末を手に立ち上がった。
「どうなったんですか?」
茫然と疑問を口にすると、階段の上からドーラが顔を出す。
「のぞき窓から確認してごらん。多分全員伸びてるよ。スタングレネードと催涙弾混ぜて投げといたんだ。」
「どこからそんなものが……いえ、愚問でしたわね……」
間違いなくダリアだろう。果たして、のぞき窓から確認すると、外には若い男も中年の男も含め五人ほど倒れていた。先ほど車から出てきた人数と一致する。そこまで確認すると、なんだか力が抜けてきた。
「とりあえずそこの鍵は閉めて。他のとこは閉めてあるんだ。」
はいさ、とショコラが玄関の鍵をかける。
「ドーラお姉ちゃん、ダリアに連絡しとく?」
チェーンを掛けながら言うショコラに、お願いするよ、とドーラが言うと、ショコラは奥に戻っていった。
家の外はちょっとした騒ぎになりつつある。
「ちょっと派手にやりすぎたかな。」
「いいえ、正当防衛ですわ。女一人攫うのに、車に人数と武器を揃えて来たんですもの。」
奥からショコラが戻ってくる。
「ダリアと連絡取れたよ。今戻ってるとこだけど、もし実弾使ったならできたらヤッキョウだけ拾っとけって。」
「分かりました。」
外をもう一度のぞくが、男たちは伸びたままだ。運よく視界にきらりと光る薬莢を認めて、ラヴィは玄関を開けた。
警戒を怠らず、一応男の様子を確認するようにふるまって、さり気なく薬莢を回収する。倒れた男の腕には、見覚えのある紋章のカフスが留められていた。母方の少し離れた親戚の家の紋章だ。
と、目の前の男がぎり、と動き出した。
「お前……よくも……!」
地の底を這うような声に足が一瞬すくむ。
「ごめんなさい。」
だが、ここで立ちすくんでしまう段階はもうすでに通り越していた。ここで曖昧な振る舞いをしては、体を張って自分を助けてくれたナタリーにも、法律を踏み越えてでも守ろうとしてくれたダリアにも、危急の時を助けてくれたセーラ、ドーラ、ショコラにも顔向けができない。
「あなたと一緒には行きません。既に警察にも通報しました。
ここは当家とは関係のない場所です。こんなところまでいざこざを持ってこないで……私の家族を巻き込まないでください。追って本家にも伝えますが、……当家に関わる人間としての誇りがあるなら、潔く退いてください。」
血走った目は催涙弾のせいだろうか。涙で酷いことになっている顔をハンカチでぬぐうと、男は唖然とした顔でこちらを見上げた。
「な……んで……」
「私は医者の卵ですから。」
抵抗する気をなくしたように力の抜けた男の顔をぬぐいながら、言葉を続ける。
「私は弱い人間です。あの家を一度は命ごと投げ出しました。
きっと今ならそんな選択はしない。
家督の件は返上としたといっても私が生きている限りついて回る事でしょう。でも、それをどうするかはあなたに決めてもらわずとも私が決めます。」
ある程度ぬぐうとハンカチは真っ黒に汚れてしまう。それを折りたたむと、ラヴィは真っすぐに男を見つめた。
「そろそろ警察が来ます。あなたたちもそろそろ動けるはずです。どうなさるかは自分で決めてください。」
そう言って立ち上がる。
「待て。」
「なんでしょう。」
振り返ると、男はよろめきながら立ち上がったところだった。
「ここは退く。だがまた会う事は」
「ごめんなさい。ここには二度と来ないでください。」
言い置いて玄関の中に滑り込む。それと同時に中に引き込まれ、玄関のドアが音を立てて閉まった。
「何やってますのラヴィ! 危ないでしょう! あなた狙われてる自覚ありまして!?」
襟首をつかまれ、耳元でナタリーが声を上げる。
「大丈夫です。あの人も話せばわかってくれました。」
落ちついてください、と返すと、ショコラが肩を竦めた。
「コウドな肉体言語をゼンテイにした話し合いってやつだけどね。」
「専門用語で脅迫とか言うアレね。」
はあ、と息をつきながらセーラが戻ってきた。
「警察には一応家の前で銃を持った男が数人うろついてるって通報してるわ。ただ、近所の人たちの口に戸は立てられないわよ。」
「近隣の方々にも大騒ぎは伝わってるでしょうけど……」
「怖かったから近くにあった防犯グッズ全部使った、て説明しておこうか、とりあえずは。」
覗き窓から外を観察していたドーラが言う。
遠くからサイレンの音。それと同時に、家の前で勢いよく車のエンジン音がした。
「逃げる気だね。」
車が慌てたように走り去っていく音がする。
「あ、ズルい。」
「いえ、放っておいて下さい。あの方たちの出自は大体わかりましたから……本家の方に連絡を入れればとりあえずは収まるでしょう。
今回は迷惑をかけてすみません。本当にありがとうございました。」
深々と頭を下げると、全くもう、とナタリーが息をついた。
「何言ってますの。こういうのはお互い様ですわ。」
「昨日も言ったでしょ、私たちは家族だって。」
そうそう、そうよ、と。ここの家は本当に暖かい。
自分が強くなれたのは、ナタリーと、あの帽子世界で関わった人たちのおかげだ。そしてこの家の愛すべき家族のおかげで、すぐに揺らいでしまう自分の立ち方も少しずつしっかりしてきている。自分の居場所はここだ。……そう、心から思った。
外のサイレンの音が近い。すぐに車が家の前で止まる音がして、チャイムが鳴った。警察が来たのだった。
ダリアが戻ってきた時には、警察は撤収した後だった。ドーラたちは玄関先を片づけに行っている。
幸いと言うべきか、ナタリーの銃の事まで見ていた者は居なかったので、その辺りはなんとか誤魔化せたところだった。
「本当にダリアの作品には助けられました。ありがとう。」
改めて礼を言うと、いやいや、とダリアは笑う。
「しかしそれはちょっと見てみたかったな。もう少し待っていてくれたら良かったのに。」
「何言ってますの、実弾まで使う羽目になったというのにそんな余裕あるわけないでしょう!」
ナタリーががみがみと噛みついて、冗談だよ、とダリアが諸手をあげる。
「ナタリーは最初から実弾が入ってる事、知ってたんですか?」
そう言えば、と問うと、ナタリーはあっさり頷いた。
「もちろんですわ。あれは、どういう改造をしたのか知りませんが、特殊弾と実弾で切り替えられたんですの。」
「なかなか大変だったんだよ、あの仕組み。ラヴィに見せた時はこけおどしの玩具のつもりだったんだがね。」
参った参った、と肩を竦めたダリアが、さて、とこちらに向きなおる。
「立ち入ったことになるんだが、ラヴィはご実家の方とは連絡は取れたのかね?」
「ええ、警察が撤収してからすぐ伝えました。私が学生の間は手を出さないよう伝えてほしいとお願いしています。もしもそんなそぶりがあればすぐに伝えてほしいとも。
それから後の事は……これから考えて行かなければいけないでしょうね。たとえ家督を返上し相続権を放棄したところで、私がお父様とお母様の娘であり、あの家の本家筋だという事実は消えませんから。……ごめんなさい。なんだか迷惑をかけてばかりで。」
「いや、連絡が取れるのならいいんだ。ラヴィは、実家とはうまくいっていないのかと思っていたから少し心配だったのだよ。」
少し困ったような顔で言うダリアは、多分自分が帽子世界に行く前の事を言っているのだろう。詳細を話したことはなかったが、察しのいいダリアのこと、真実にたどり着いてしまう可能性は決して低くはない。
「正直あまり上手くはいっていませんけど、向き合う位はできます。私もあの世界で随分鍛えられましたから。」
それは大丈夫ですよ、と言うと、ダリアは今度こそホッとした顔でこちらを見た。
「それは良かったよ。」
「またご迷惑はかけることになるかと思いますけど」
「大丈夫だ、ラヴィ。今、キミの居場所はここだ。
今回の件程度の事で一人出ていこうとするなら、また止めさせてもらうからね。」
琥珀の瞳がじっとこちらを見つめる。それを見つめ返して、ラヴィは言葉を紡いだ。
「ダリア。あなたが同じようなことになった時も、一人で出ていくなんてしないでくださいね。」
金色にも見える瞳が一瞬揺らぐ。
「……私はここの家主だよ?」
「とぼけないで下さい。あの銃も、催涙弾やスタングレネードも。私たちの防犯のためというより、あなたの自衛のために用意していたんでしょう? 最初から私たちに扱わせるつもりなら威力を落としているはずです。」
「その辺りは……その、まあなんだ……」
言いよどむダリアに、ナタリーがはあ、と息をつく。
「あなたの頭の中にはあの永久機関の設計図が入ってますわ。関係者は皆口をつぐむでしょうが、何かの拍子で漏れないとも限らない。それを警戒していたのでしょう?
もしもそうなっても、私は……私たちはあなたを守りますわよ。」
「そうです。一人で出ていくなんてしないでくださいね。約束してください。
私たちは『チームでファミリー』でしょう?」
畳みかけるように二人で言い募ると、ダリアは天を仰ぎ、深々と息をついた。
「参ったな、その通りだよ。千里眼の力がなくともナタリーくんの洞察力は健在ということか。
だが、そうだね……約束しよう。何かあったらどんな大事でもちゃんと相談するよ。」
それでいいかね、と尋ねるダリアに、もちろんだと応えると、ダリアはその名の花が咲くような顔で笑ったのだった。
ED後の話はホームコメディになりがちで、なかなか入れられないアクションシーンとか入れられて楽しかったし気に入ってる話です。