買ってきたばかりのアウターは、味も素っ気もないが普段着る分には丁度いい。
鏡の前でとりあえず着てみる。鏡を見て、調子を見て、袖を少し上げて、また鏡をみる。
「まあこんなものか。」
よし、と頷いて脱ごうとすると、玄関の方から声がした。
「たっだいまー!」
「ショコラ、元気良すぎ」
声はドーラたちのものだ。姉妹で出かけていたらしいが帰ってきたらしい。
「お帰り。何か良いものはあったかね?」
そのままの恰好で玄関に向かおうとすると、ショコラがバタバタと居間に入ってきた。後からメシュレイアも入ってくる。
「あのねー、お揃いでマフラー買ったの!」
見てみて、とひらひらさせる桃色のマフラーは確かにメシュレイアとショコラお揃いだ。
「へえ、似合ってるじゃないかね。」
「ドーラ様は上着も買われたんですよ。とってもお似合いなんです。」
へえ、と頷いたところでドーラも顔を出した。
「ただいまダリ……あれ?」
首に巻いた桃色のマフラーは、ドーラにしては珍しい色あいだ。だが、次いで出てきた胴体には、先程見たばかりのアウターが装着されていた。
「……おかえりドーラくん。なんだね、私とお揃いにでもしたかったのかね?」
笑って言うと、ドーラは照れたように顔をしかめる。
「いや、これは偶然で」
「そうだろうとも。随分と気が合うね。」
「あれ、ダリアも同じの買ってたの?」
ショコラが二人を見比べる。
「まあそんなとこだね。」
「変なとこ気が合うよね。」
「恐らく何らかの運命で結ばれていたんだろうね。」
ケラケラ笑って見せると、ドーラは少しむくれて肩を竦めた。
「どんな運命だよ。」
「それはもちろん」
「ただいま。」
「戻りましたわ。」
言葉は玄関の声で中断された。
「あ、お帰り!」
「ラヴィくんとナタリーくんも帰ってきたのか。」
声を掛けてすぐ、ラヴィとナタリーも現れた。仲良く纏ったケープは、先日買ってからそろって愛用中のものだ。
「あら、皆さん帰ってきてたんですね」
「ちょうどいいですわ。手紙が来てましたのよ、ヨウコから。」
ナタリーがひらっと振った手には封筒が一つ。
「宛名は私たち全員ですわね。」
「ヨウコから?わざわざ手紙ってなんだろ。」
ドーラが首を傾げれば、メシュレイアも同じように首を傾ける。
「開けますよね?」
「もちろん。」
頷いたナタリーの手にはいつの間にやらペーパーナイフが握られていた。
ぴぴ、と封が切られるのをなぜか全員固唾をのんで見守る。
やがて中から現れたのは1枚の写真だった。いつもより華麗な着物を着た女の子が三人並んでこちらに笑顔を向けている。
「わあ、ヨウコ綺麗」
「ツバメさんとってもかわいいですね。」
「あまり派手なのは得意じゃないとか聞いた気がしますのに。」
「シキくんもさすがに似合ってるね。」
「帽子世界にいた頃より随分派手な着物だけど」
口々に言う中、ナタリーが写真をひっくり返す。裏面にはメッセージが並んでいた。
「ハッピーニューイヤー、か。クリスマスカードのかわりかな?」
「年賀状代わりに送りますって。」
並ぶメッセージはとても短いが、それぞれに筆跡が違う。
「日本はクリスマスカードじゃなくてネンガジョウっていうの送るらしいよ」
「本年もよろしくお願いします、ですって。とっても礼儀正しい……。」
「それはツバメの字だね。」
ショコラが言うと、ラヴィが残りの二つの文章をなぞる。
「ということはこれのどちらかがヨウコさんで、どちらかがシキさんなんですね。」
「きっとだらだらしたのがシキで、ぴしぴしした字がヨウコだよ。」
「どうかな、シキくんはアレで結構几帳面なところがあったからね。逆かもしれないよ。」
「記名くらいしとけばよかったですのに。」
ねえ、と言うナタリーに皆で肩を竦める。
「これはお返事書かなきゃね。」
「はっぴーにゅーいやー、ってですか?」
首をかしげるメシュレイアに、そうだねえ、と頷く。
「写真でも送っておくかね。」
「そうですね。みんな元気ですよ、と書いておきましょう。」
「じゃあショコラカメラ取ってくる!」
ばたばたとショコラが駆けていく。
「今すぐやるの!?」
おーい、と呼びかけるドーラの声は既にショコラには届いていなかった。
「まあ、皆さん服新調したばかりだったみたいですから、いいんじゃないでしょうか。」
「うちには着物なんてありませんしね。」
「でも、ナタリーも着たらきっと似合いますよ。」
笑い合うナタリーとラヴィに割り込むように、ショコラの声が響いた。
「準備できたよ!外にでよー!」
「あれ?ショコラ、そのブローチは?」
「あのね、2枚撮ってメルにも送ろうかなって、ネンガジョウ。だから付けてきたの。」
玄関先に並びながらショコラは楽し気にブローチをきらめかせる。
「確かメル様とお揃いで買われてましたよね。」
「そうそう、そうなの!お気に入りなんだよ。」
えへへ、と楽し気に笑うショコラを見ながら、カメラをセットして様子を見る。
「こういう時はピースサイン必須だよね」
「こう、ですかね」
「そうそう」
わいわいはしゃいでいる家人たちが今の状態で全員入っているのを確認すると、ダリアも玄関に向かった。
「さて、セットはOKだ。皆カメラを見つめてくれたまえ。20秒後にシャッターを切るよ。」
口々のOKの言葉を聞きながら、自分も開けてあった真ん中に移動する。ついでにドーラの腕を取った。
「わ、何。」
「たまにはいいだろう、せっかくお揃いなのだから」
「……まあ、そだね。」
きっと今の自分は結構上機嫌だろう。
カメラの表示に10と出る。
「さあカウントダウンだ」
「7,6」
「5,4」
「3,2、笑って!」
そしてぱしゃりとシャッターの音がした。
一年目の年賀状のおまけ。イラストに色々仕込むの憧れていたけど普通に文章にした方が早かったですね。