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Good morning, darling

 ダリアが家に帰りついたのは、日付も変わろうかという深夜だった。
 六人で暮らす家は外見からも暗く、既に寝静まっているようだ。……ただ一部屋を除いて。
 「ドーラくんはまだ起きているのか。」
 自分の部屋に灯ったままの明かりを見上げながら、ダリアは家の鍵を開ける。
 戻ってきた部屋は、案の定煌々と明かりがついていた。
 とはいえ、この部屋に勝手に入って作業するのはドーラくらいのものだ。
 「ただいま」
 いつものように機材を借りて作業をしているのだろうと踏んで、とりあえず声を掛けた。
 しかし返事がない。集中してるのかと目をやった机の方にも人はいない。
 ここの明かりをつけたまま部屋に戻ってしまったのだろうか。
 首をかしげながら、とりあえず上着を脱ぐ。
 そしてベッドに荷物と一緒に放り出そうとして、ふと気づいた。
 布団が盛り上がっている。
 端の方で遠慮がちに盛り上がった布団は、ゆっくり、かすかに上下している。
 「……なるほど。」
 肩を竦めて息をつく。
 そこにはドーラがぐっすり眠りこんでいたのだった。

 少し明かりを暗くする。放り出すつもりだった荷物と服も所定の場所に置いて、ダリアはそのままシャワーに直行した。
 ドーラは恐らく仮眠のつもりで寝てしまったのだろう。ここの所夜遅い日が続いているようだったからさもありなんと言ったところだが、起こして部屋に追い返すのも悪いような気がして、とりあえず自分の用事を済ませてしまうことにしたのだった。
 髪を拭きながら戻ってきてもまだドーラはぐっすり夢の中だ。
 作業途中のデータはどうなっているのだろう、とスリープ状態のパソコンを開けてみると、処理完了のダイアログが画面の真ん中に張り付いていた。
 なるほど処理待ちで寝てしまったのか……とベッドの方を見やるが、やはり起きる気配はない。
 まあいいか、とまたスリープに戻して時計を見ると、時刻は日付を越えたところだった。
 趣味の作業の進捗と今日の疲れに明日の段取りと睡眠時間とベッドのお客を天秤にかける。
 ダリアは一つ伸びをすると、そのままベッドに向かった。
 部屋についていた少し大きなベッドは、二人なら眠れる広さだ。安心しきった顔で丸まっているドーラになるべく触れないように、そっと脇にもぐりこむ。人肌で温められた布団は、そのまま眠れる心地よさだった。
 少し暗い明りの中、間近で見るドーラは普段のクール加減から比べるとかなりあどけない。長い睫毛も小さく艶めいて、人形のような可愛らしさだ。
 いつもこうなら、と思いもするが、気に入っているのは別の所だという自覚はあった。両立もするかもしれないが、現在の所全くその気配はない。
 まあいい、気に入っているのは彼女の知的で議論の戦わせ甲斐のある所なのだ。他人に高望みをするのはよろしくない。
 「おやすみ、ドーラくん」
 そっと囁いて明かりを消す。
 明日の朝、普段はそっけないドーラも絶対に驚くだろう。そう思うと明日の朝がちょっと楽しみな気がしていた。

**********


 ふわふわしたものにくっついている感触。
 それが心地よくて、きゅっと抱きしめる。
 しかし、顔をうずめるとなんだか苦しい。少し距離を取ろうかな、と、顔を離すと、今度は冷えた空気がひやりと顔を撫でた。
 「……ん?」
 ちょっとした違和感に薄く目を開ける。
 と、目に飛び込んできたのは人の肌だった。白くて、ふわふわで……
 「!?」
 そこでドーラは完全に覚醒した。
 目線を上にあげると赤い髪と白い肌が見えるし、眠っているダリアの顔が見える。
 と言う事は、目の前のふわふわしていたこれは。
 「わああああ!?」
 「……ん?」
 慌てて距離を取ろうとすると、勢い余って身体が半分ベッドからはみ出る。バランスが崩れた、と思った瞬間、身体をグイっと引き寄せられた。
 「おはよう。何やってるのかね。」
 寝ころんだまま、眠そうな顔でこちらを見るダリアは、自分の慌てぶりに比べてとても眠そうだし落ち着いていた。
 「何って、な、なんで!?」
 「なんでって……」
 寝ぼけ眼でダリアはこちらを見て、自分の胸元を見て、またこちらを見た。
 その瞳がすうっと細まって弧を描く。
 「昨日はあんなに熱い夜を過ごしたじゃないか。忘れたのかね。」
 少し低くて色気のある声。
 つん、と頬をつつかれて、ドーラは今度こそ声にならない悲鳴を上げてベッドから転がり落ちたのだった。

 「あたたた……」
 「何やってるのかね。」
 二度目の言葉は、呆れ半分の響きを含んでいた。
 ベッドの上から手を伸ばすダリアは、キャミソールだけ身に着けたラフな姿で、さっきふわふわしていた胸元がちらちら覗いていて、またぞろ思考が停止する。
 「何って、何って、」
 半ばパニックの自分を見下ろすダリアが、小さく吹き出す。そして、ニヤッといつものように笑って言った。
 「あのな、ドーラくん。昨日の夜何やっていたか思い出してみたまえ。」
 「昨日の夜?昨日の夜は」
 いつものように機材を借りて作業しようとしてここにきて。
 キリのいい所で処理実行、と思ったら、20分くらいかかるみたいで。
 まあその間ちょっと休もうかな、と仮眠用のベッドに身を投げて。

 気付いたら朝だった。

 別に昨日の夜何かあったとかそんな話はなかったのだ。
 「からかったんだね?」
 伸ばされた手を取って、ベッドに腰掛ける。
 「まさか騙されると思ってなくてね。」
 ダリアはケラケラ笑っている。
 「襲われたのかと思ったんだよ。」
 言うと、ダリアは目を見開いた。
 「襲ってよかったのかね?」
 「いい訳ないでしょ。」
 「そうだな。まあ私はキミが嫌がることはしないよ。……ところで。」
 ダリアはそう言って一息ついてこちらを見た。
 「ドーラくん、私に言う事があるんじゃないかね?」
 言われて、ええと、と鈍る頭を働かせる。まず言うべきは何か。
 「え、……えと、勝手にベッド使ってごめん。」
 言って上目遣いに様子を伺うと、ダリアはふっと困ったように笑った。
 「そうじゃない。それは別に構わない。」
 仮眠用に都合のいい場所にあるからな、と言われて、つい素直に頷いてしまう。
 それならなんだろうか。
 「……疑ってごめん」
 よく考えなくても、ここはダリアの部屋でこれはダリアのベッドなわけで。襲ったのなんだのと、朝から随分失礼なことを言ってしまったような気はする。
 「まあ、からかった私も悪かったのかな、これは。でもそうじゃない。」
 肩を竦めてダリアは言う。だが、それ以外に心当たりはない。
 「ええと……」
 言いよどんでいると、ダリアの顔がひょいとこちらを覗き込んだ。
 「朝起きたらまず言う事は?」
 琥珀色の目と自分の目がぱちんと合う。金色にも見える瞳の色はお日様の色を映して少し煌いて見えた。
 「……おはよう。」
 ようよう出てきた言葉に、琥珀の瞳が柔らかく微笑む。
 「正解だ。
  ……おはよう、ドーラくん。」
 今日もいい日になると良いな。
 額にちゅ、と唇が触れた。

これは…らくがきだ…!
気を許し過ぎてて他人の部屋で我が物顔で寝てるの猫ちゃんみたいで可愛くてシチュエーション的にとてもすきなんですよね。同じような話がちらりほらりと…。
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