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魅了事故

 恋は、偉大らしい。
 
 「メリッサが言ってた気がするな」
 なす術もなく最速手段で殲滅されていく敵を眺めながら、ドーラは呟いた。
 「メリッサ様が何か?」
 ドーラと少し距離を取り目を合わさないようにしながら、メシュレイアが言う。その額に冷や汗が伝っている。
 「恋は偉大だって話」
 「……本当そうね」
 同じく目を合わせないようにしながらヨウコも呟いた。頬が引きつっている。
 「綺麗になれるらしいし」
 「ドーラくん、見ててくれたかい!?」
 敵のいる方から、キラキラと高揚した声が飛んできた。
 清々しいほどの勢いで一体クリスタルに変えて、ダリアがこちらに手を振っている。
 「見てた見てたーかっこよかったよー」
 笑顔を張り付けてドーラが手を振ると、ダリアは飛び切りの無邪気な笑顔を見せて、また敵を片づけに掛かる。
 そもそもの実力もあり、動きは華麗でダイナミックで隙がない。銃と剣を器用に操り、大技を絡めて敵を屠っていく。
 「……あんなダリア初めて見た。」
 「ドーラが初めてなら誰が見ても初めてじゃない?」
 このメンバーならそうかもしれないな、と敵の方を眺める。気の毒な敵はまた一つクリスタルに変わり、ダリアが恐ろしいほど無邪気な笑顔でこちらに手を振っていた。それにとりあえず手を振り返す。残り2体だろうか。多分あと3分もすれば全部片付くだろう。
 恋は偉大らしい。メリッサ曰く世界が変わるらしい。……あれを見るにそれは間違っていない。
 
 始まりはちょっとしたミスだった。
 
 堕天使の絆創膏なるアイテムがある。身に着けた者に魅了を掛けるとなぜかその力を覚醒させてしまう不思議なアクセサリーだ。敵からの魅了を無効化どころか戦力に変えてしまえるので魅了対策に付けていたりもするのだが、もちろん味方が魅了を掛けて戦力強化をすることだってできる。
 つまりどういうことかと言うと。
 絆創膏を装備していなかったダリアに魅了を掛けてしまったのだ。自分が。
 味方からの魅了に耐性などなかったダリアは、それはもう綺麗に魅了されてくれた。ドーラ自身に魅了の才能があるのではないかと一瞬思ってしまうくらい効果覿面だった。
 「ドーラくん!」
 目と行動と背景にハートマークを大量に飛ばしながらこちらを見たダリアの顔は忘れられない。そんな顔出来たんだ、なんて軽口も引っ込む無邪気っぷりだった。その子供のような笑顔がすうっと冷たくなって剣呑になる。
 「そいつらはなんだね。」
 視線の先はすぐ傍に居たメシュレイアとヨウコである。やってしまった、と認識したのはその時だった。
 「仲間だよ!ヨウコとメシュレイアだよ、知ってるでしょ?」
 「……私に解るのはドーラくんだけだよ?」
 上目遣いのきゅるんとした顔とは裏腹の殺気に顔が引きつる。殺気の方向がヨウコたちに向いていたのだ。なんとか逸らさないと、と思ったところで、ダリアの背後に敵を見つけた。天使のような羽とリングを持った魔法生物のような何か。
 「ダリア!あのね、後ろに敵居るのわかる?あれ、片づけよう!?ね!」
 「ん?ああ。任せたまえ。」
 ドーラも武器を構えて敵に向かおうと動く。しかし、それは、甘ったるい声のダリアによって止められた。
 「ドーラくんにそんなことをさせる訳にはいかないよ。邪魔者は私がやっつけてくるから、さっさと二人っきりになろう。」
 ぱちーんと綺麗にウインクをキメて、スキップでもするように軽やかにダリアは敵の方に飛び掛かっていく。しかし、敵直前で、ダリアはくるっと振り返った。
 「浮気はするなよ。」
 浮気ってなんだよ、と言う心の底からの叫びをぐっと抑え込んでこくこく頷く。その隣で、ヨウコが数条の光に包まれたのが見えた。
 「!?」
 隣を見た時には既に時遅く、ヨウコの時は止まっていた。
 「うっそだろ……」
 そう言えばダリアは時魔法のジェム持ってたな、なんてろくでもない事実を思い出す。
 「あの、ドーラ様、回復させないんですか?」
 隣に来てメシュレイアがささやく。
 「あ、ああそうだね……」
 ジェムに意識を集中する。しかし、必要なマナを感じない。さっきのアレで使い切ったらしい。
 「どうしよう、マナ足りなさそう……」
 「あ……」
 使い切った本人はくるくると舞う様に敵に攻撃を加えていたが、不意にこちらを振り向いた。
 「浮気はするなと言ったはずだ。」
 瞳の冷たさに射抜かれているうちに銃弾が飛んできてドーラとメシュレイアの頬をかすめた。
 「え……」
 「ひっ……」
 硬直しているメシュレイアを軽く押して距離を取る。メシュレイアの瞳は恐怖に染まりつつあるが、これ以上近くに居たら本気で殺されかねない。
 そして、ぐっと腹に力を込めて笑顔を作った。
 「大丈夫だって!ダリア、かっこいいよ、その調子その調子!」
 「はっはっは、任せてくれたまえ!」
 ダリアは褒められた大型犬のごとく嬉しそうに戦闘に戻っていく。その背を見送って小さく息をついた。
 「ドーラ様ぁ……」
 「メシュ、ごめんね。今はちょっとボクに近寄らない方がいい。」
 「……うぅ」
 視線の先では、クリスタルにかえられた敵がキラキラとはじけている。
 「ドーラくん、見てたかい?」
 ぱああっと花の咲くような笑顔でダリアがこちらを振り向いた。あの表情は見た事がある気がする。確か、ショコラがとても小さい頃……ハンカチたためたーとかなんとかそんなので見た気がする。昔のショコラはかわいかった。あれからもうどれだけ経ったのか知らないが、幼かったショコラを思い出すレベルでダリアの表情が幼い。
 「う、……うん。頑張ったねー」
 にこーっと笑顔で手を振ると、スキップしながらダリアは次の敵に向かっていった。軽やかに踊るようにステップを踏んで、大技が炸裂する。ヴェンジェンス雪月花だ。どうやらソウルの残量も構わず最速で殲滅したいらしい。それまでにマナが回復してくれと心の中で祈る。さもないと自分がピンチだ。いや、多分その前にヨウコとメシュレイアがピンチだ。今のダリアは二人っきりになるためなら、どんな手段もいとわないだろう。それには当然ヨウコとメシュレイアを倒す事だって含まれる。
 浮気はするな、と言った時の冷たい瞳を思い出して背筋に寒気が走った。
 だが。自分の冷静なところは反論する。今の所上手くいってない、わけでもない。現に自分たちの体力は温存出来ているし、戦闘自体は楽だし。
 上手く利用できないだろうか、などと考えていると、うぅ……とヨウコの声がした。
 「大丈夫?ヨウコ。ゴメン、目は合わせないで。」
 「うん……ええと」
 「ヨウコの時が止まってただけだから」
 困惑の色がにじむヨウコに手短な説明をすると、ヨウコはあぁ、と納得とも呻きとも言えない声を出した。
 「機嫌さえとっとけば、結構働いてくれているような気がするんだよね。」
 「ドーラ、あんたたくましいわね……。」
 呆れたようにヨウコがぼやく。
 「それにしても、魅了って怖いわね……味方に掛けられてもああなるのか……」
 「あれって、恋する乙女状態、なんですか?」
 ショコラさんの持ってた漫画で見ました、とメシュレイアが言うと、ヨウコがうーん、と唸った。
 「恋。……恋する乙女……そうなのかもしれないわね……」
 ドーラの知る限り、ダリア自体は「恋」の響きがそんなに遠いわけではない。知っている限りでも結構遊んでいた記憶がある。
 だが、今のアレは見たことがなかった。もしもこれが恋だとするなら。
 「……恋は偉大だね」
 呟きは剣戟と衝撃波にかき消されて消えていった。
 
 
 遠い目をしている間に敵の残りは一体になっていた。
 「回復、そろそろできるかしら」
 ヨウコはかすかなマナの残量に気をやりながら言う。視線は大技を繰り出す恋する乙女に向けられたままだ。
 あの光景はちょっと扱いに困るが、さくっと回復してしまうのはもったいないような気もしていた。
 「……いや、待って。もうちょっとほっとこう。」
 「え、なんで。」
 ジェムに意識を集中させようとしていたヨウコと、目を合わせないように言葉をつなぐ。
 「機嫌さえ取っとけば勝手に敵殲滅してくれるし、ボクたちは体力が温存できるし。……ちょっと面白いし。」
 「ドーラ様、それはあまりにも酷くないですか?」
 メシュレイアの咎めるような声と共に、最後の敵がクリスタルに変わった。5体を一人で片づけたダリアがくるりと振り返る。慌てて笑顔を張り付けて手を振ると、ダリアはにこっと笑って一直線にこちらに向かって走ってきた。
 「ありがとうダリア、素敵だっ」
 言葉はどーんと飛びついてきたダリアによって遮られた。バランスが崩れてどんっとしりもちをついてしまう。
 「ドーラ。」
 不意に呼ばれた名前に一瞬固まっているうちに、背中が床についた。
 「ご褒美、貰えるかね」
 手は床に押さえつけられ、もう片方の腕で抱きしめられて身動きが取れなくなる。
 「へ」
 琥珀の瞳が一瞬煌いた、と思ったら、首筋にちゅ、と感触があった。ついで、かすかに歯を立てられる感触。
 「ひああっ!」
 喰われる、と思った瞬間情けない悲鳴が出た。反射的にぎゅっと目をつぶると、メシュレイアの慌てた声が聞こえる。
 「ドーラ様!?」
 しかし、それは聞きなれた声が往なした。
 「大丈夫だよメシュレイアくん。私は正気だからね。」
 「え。」
 おそるおそる目を開けると、にっこり笑ったダリアがこちらを見ていた。
 「やあドーラくん。そんなに悲鳴を上げることはないんじゃないかね。私だって少しは傷つくぞ?」
 目が全く笑っていない。
 「ダリア……ええと、その……いつから正気に戻ってたの……?」
 「少なくともラスト一匹は正気だったんだが……面白いからほっとこうだなんてひどいなあドーラくんは。」
 「聞こえてたの……」
 がく、と力が抜ける。傍で硬直気味だったヨウコがはあと息をついた。
 「よかったわ……正直死ぬかと思ったもん」
 「怖い想いさせたみたいですまなかったね。まあ全部ドーラくんのせいなんだがね。」
 ぐ、と身体を起こそうとするが、ダリアは自分の上から退いてくれない。
 「ちょっと面白かったのに。」
 ぶう、と文句を言うと、ヨウコが眉をひそめた。
 「ドーラ、あんた気づかなかったの?一体敵倒すごとにダリアがめっちゃけん制掛けてきてたの。」
 「え」
 ダリアの方を見ると、ダリアはこの鈍ちんめと言う顔でこちらを見ていた。
 「ドーラ様、鈍すぎじゃないでしょうか。」
 メシュレイアまで言うのならまず間違いないだろう。
 「ええと……」
 「ドーラくん。まずは私に言うべきことがあるんじゃないかね。」
 ダリアの手が頬にぴたりと吸い付く。その親指と人差し指が緩く頬をつまむ。
 「すみませんでひたたたたたたたっ」
 「よろしい。」
 つまんだ頬をぱちーんと放してからダリアが立ち上がる。
 「痛い……」
 「他人の不幸を面白がるからだよ。」
 言いながら差し伸べられる手につかまると、ほい、と慣れた動きで立ち上がらせられた。
 「大丈夫?いったん戻る?」
 ヨウコの言葉に、ダリアは軽く首を横に振る。
 「大丈夫だ。不本意ながらちょっと気合入れすぎてしまったがね、まあこれくらいならもう少し行けるだろう。」
 先に行こう、と促して、ダリアはこちらをちらりと振り返る。
 「大体ドーラくんは薄情なんだ。私が醜態さらしてるってのに面白いからって止めようともしてくれないし。きっと混乱したって石化したって面白い動作だからってほっとくんだろうし。マンガン電池を詰められて苦しんでいても面白いし実害ないからほっとこうなんて言い出すに違いないし。」
 ぶつぶついう文句の中身は実際面白いじゃん、と思ってしまうのは仕方ないことだ。だが言ったら面倒なことになりそうな気配はする。
 「実際面白いとか思ってるだろう。」
 「な、なんでわかっ……あ。」
 諦めの混じったとても優しい笑顔……つまり面倒なことになりそうな顔をしてダリアがこちらを見ている。
 「やっぱりそうじゃないかね。……メシュレイアくん聞いたかね、まったくひどい話じゃないか」
 困惑しているメシュレイアに流れるように手を絡ませて、ダリアは切々と訴えかけている。
 「あんなに薄情なドーラくんより、キミに魅了されたかったよ。」
 「ええと。」
 困り顔のメシュレイアとダリアの間に、ドーラはぐい、と割って入った。
 「メシュに絡まないで。」
 「なんだね、私は傷心を癒しているだけだよ。
  私はこんなにドーラくんの事を想っていたというのに、ドーラくんは面白ければ私がどうなろうが知ったこっちゃないんだ。思えば身体を取り戻す為に声を掛けた時だって、キミは面倒だからってあっさり蹴った……キミはきっとラジオの方が面白いと判断したに違いないんだ」
 「そこ言う?!」
 あまりに心外すぎる言葉に思わず声が上がった。
 「ダリアだって他人の事言えない位薄情じゃないか!大体ボクに声掛けた時だって、身体を取り戻したいなんてひとっ言も言わなかったよね?!
  挙句、よりによってラヴィそそのかして帽子集めようとしてたんでしょ!?薄情なのどっちだよ!」
 永久機関起動実験場での出来事はまだ忘れていなかった。忘れられるはずもなかった。思い出すと感情が逆に流れる。ぐい、とダリアの襟をつかむと、驚いた顔がこちらを向いた。
 「キミは!今回も!その前も!ボクには何をしたいのか何も言ってくれなかった!!たとえ魅了がかかったって、キミはボクに本当の目的は言ってくれない!そんなに信用できないの!?そんなにボクは頼りないの!?」
 目を見開いたダリアの顔がかすかににじむ。
 自己無限増殖装置を止めたのは数か月前の事だった。
 ダリアの本当の目的はその時初めて聞いた。よくわからない情報で協力を求められた時に蹴った自分の判断は正しかったと思った。だが、その時に恐怖も覚えた。最初の実験の時、あのまま永久機関が起動していたら。自分は何も知らないまま、ダリアだけ勝手に居なくなってしまっていたはずで。帽子もなくなって、……きっと心から折れて何もできなくなってしまっていた。綺麗な夕暮れの工場も、きっとトラウマになっていたはずだ。
 「ドーラくん、……泣かないでくれたまえ。」
 困り切った顔がこちらを見下ろす。
 「泣くわけないだろ、ここの世界には涙なんてないんだ。」
 「それでもわかるさ。勘弁してくれたまえ、私はキミに泣かれるのには弱いんだ。」
 あやすように抱きしめようとする腕を振り払うと、今度は強引に抱きしめられた。
 「ちょっと何」
 「何、顔を見られたくないだけだよ。キミがそんな怒ってたなんて思ってなくてね。」
 ニヤケてしまいそうだからね、と耳元で囁かれる。鳩尾に入れようと思っていた拳に力が入らない。
 「あの……」
 「あー……いったん戻る?」
 困り切ったメシュレイアとヨウコの声が聞こえて、耳まで赤くなる。
 「私はどっちでもいいが、ドーラくん次第かな。うっかり逆鱗に触れてしまったようでね。」
 「ボクは大丈夫」
 「だそうだ。先に行っててくれたまえ、すぐに追いつくから。何かあったらこちらに引き返しておいで。」
 ダリアがそう言うと、ヨウコははいはい、と返事をした。
 「気を付けてね。メシュレイア、行こう。」
 「あ、はい。」
 声と足音が少し遠ざかって、ようやく拘束が解ける。
 「少しは落ち着いてくれたかね?」
 「最初から落ち着いてるし。」
 「まだ耳が赤いぞ。」
 いわれて慌てて耳に手をやるが、わかるわけがなくて、じろっとダリアを睨む。
 「私はあまり落ち着いてないんだけどね。キミがあんなに私の事を想っていてくれたなんて嬉しくて。」
 「その台詞何人に言ったのか聞いていい?」
 「……忘れたな。だけど本音だよ。」
 ダリアはそう言って肩を竦めた。
 「一つだけ、言っておきたかった。
  私はね、キミの事を信頼している。技術に関しては大したもんだと思うし、協力者と言えば真っ先に浮かぶ。」
 「でも何も言ってくれない」
 「キミは薄情な顔して優しいからね。本当の事を言ったらきっと止めるだろうと思った。」
 きっと誰だってそうだろうからね、あの話は誰もしていなかった、と言葉が続く。
 「そんなこと言って結末だけ押し付けるなんて、本当の事を言う何倍も酷いよ。」
 「結果は一緒だからな。」
 きっぱり言い切る所は厳しいのに余りにもダリアらしい、と思ってしまう。
 結局、ダリアは基本的に極力無駄を省きたい合理主義者なのだ。それでも、そこでいい負かされたくはなかった。なにより、自分が無駄の一部と思われているようなのが腹が立つ。
 「頑固者。キミにとっては自分の考えを遂行する以外の事なんて全て無駄なんでしょ。」
 「キミも似たようなもんだろう。最初に声を掛けた時、キミがなんて言って断ったか覚えているかね?」
 言われると言い返せなかった。だけど、ちゃんと言わないと、ここで負けたらきっと気持ちは届かない。
 「誰かに本当の事を言えば別の道があるかもしれないのにさ。実際あっただろ。」
 「そうだね。それは今回学習したよ。正直負けた気がするがね。」
 はは、と自嘲するように笑って零れた言葉にはっとして、ダリアが口を押える。
 「それが本音?気持ちはわかる気がするけど。」
 ちょっと可笑しくてくすくす笑うと、ダリアはぶう、と口を尖らせた。
 「黙っててくれよ。水を差したくない。」
 「はいはい。
  そろそろいこっか。」
 笑いながら先へ方向転換すると、ダリアもそうだな、とそちらを向いた。
 「今度は魅了事故なんてやめてくれよ。」
 「そうだね。面白かったから今度はビデオか何か持っていった時にしようかな。」
 歩きながら言うと、ぐい、と首ごと抱かれた。
 「ドーラくん?」
 声がドス低い。面白かったのは事実なのに、あまり触れてはいけないようだ。
 「冗談だよ。さあ行こう。」
 先にはメシュレイアとヨウコが見えていた。広々とした神殿のような建物は、今は静かで敵の気配もあまりない。
 「ねえダリア。」
 足を進めながら、隣に呼びかける。
 「なんだね。」
 「今度キミが何かやる時は、ちゃんと目的を教えてほしい。」
 視線は前を向いたまま、足音だけが続く。
 ややあって、ふうっと緊張の解けた声が聞こえてきた。
 「……そうだね、善処しよう。」

ちょうどゾンサガハマってたのだと冒頭で思い出しました。
ヨウコ編で言われた「ダリアさんはラヴィの前にドーラに声かけてた(そして振られた)」ていう話が好きで、もしもドーラが万一その誘いを受けてたらどうなるのかな、ていうのは結構好きな論題です。夕暮れの機械の世界で地球最後の告白を聞く羽目になっていたかもしれないという最悪のロマン。
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