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デート、っていう言葉に、こだわりなんかないはずで

「観光?」
バロン城の屯所で書類と格闘していたカインは、鸚鵡返しにたずねた。
「そう。私もうすぐ幻界に戻らないといけないから、その前に地上のいろんなとこを見ておきたいの。」
目の前に居る緑色の髪の少女はそう言ってにっこりと笑った。
「ああ、そういうことなら構わんが・・・」
「何かあるの?」
「いや、なんで俺のところにきたのかと思ってな。」
セシルでもローザでも、相手は居るだろう、という疑問は部屋を訪ねてきたときからあったのだが。
「エッジはついてきてくれるって言ってたけど、ここの町はあまり知らないみたいだったし。セシルもローザも聞いてみたんだけど、忙しいみたいだったからよ。」
一応ね、リストはもらってきたんだけど、と、小さなメモを見せる。
「この辺がおすすめだって。分らないようだったら町の誰かに案内してもらえば大丈夫って・・・」
それで大体の合点はいった。確かに、王位を継ぐことになるセシルの忙しさは、バロンの復興のこともあり、カインの比ではない。ローザもカインも手伝ってはいるのだが、本人と手伝いではやはり違いがある。それで、仲間内で地理に詳しそうな3人目に白羽の矢が立ったというわけなのだろう。
「なるほどな。・・・どれ。」
・・・北の水辺、南の雑貨屋、南の森に城の塔近辺・・・
メモにある場所は全て彼の行動範囲内だった。どことなく女性好みの空気が感じられるのは、ローザの意見も混ざっているから、だろう、多分。セシルとローザの字が入り混じったメモからは他の事も十分読み取れたのだが、カインはあえてそれに気づかなかった事にしておいた。デートコースにしか見えないコースだろうと、これは観光案内用のメモなのだ。
「・・・・カイン?」
声を掛けられて、はたと我に帰る。
「あ、ああ。・・・これなら一日もあれば案内できるな。いつ行こうか?」
「ええっと・・・明日、とか、だめかな?」
そう言って、いきなりかな、とリディアは少し苦笑いした。
「明日か・・・ま、大丈夫だろう。」
予定は、とりあえずどうにかなりそうだ。頷くと、リディアの表情が晴れる。
「ありがと、カイン。じゃあ、私明日の朝迎えに来るね。」
「ああ、分った。それじゃあ、明日。」
軽く手を振って見送ると、リディアは嬉しそうに廊下に出て行った。
完全に足音が無くなってから、手元の書類に目を落とす。リディアと一緒にもう一つ非常に覚えのある殺気混じりの気配が消えていく。
「・・・俺は・・・また貧乏くじを引いたのか・・・」
ペンをインクに浸しつつ、カインは一つ息をついたのだった。


南通りの雑貨店は、素朴かつ可愛らしいものの並ぶ女性に人気のスポットである。
そして、以前ローザに付き合ってセシルと3人で来た事がある・・・何度か。

  『カイン、これ可愛いと思わない?』
  『ああ、そうだな。似合うんじゃないか?』
  『セシルはどう思う?』
  『うん、とっても可愛いと思うよ。』
  『じゃあ、決めたわ!おばさん、これ下さーい。』
  『決断早いなあ。』
  『ふふっ・・・だって、セシルが可愛いっていうんだもの。』
  『ローザ・・・・』

・・・・今は遠く懐かしくなんだか物悲しい思い出である。

「ねえ、これ可愛いと思わない?」
浸っていた頭は似たような言葉で現実に引き戻された。
「そ、そーだな。」
後方をそっとうかがうと、エッジとリディアが髪飾りを片手に、なにやら懐かしいやり取りを繰り広げている。
「髪に合うかなあ・・・ね、エッジちょっと見てみてよ。」
そう言って、リディアはシンプルな細工の髪飾りを髪に当てた。一箇所だけきらりと光る簡素なデザインは確かにリディアに合っている。エッジのほうは・・・・顔が赤いのがここからでも分るのはどうにもこちらが気恥ずかしい。カインは視線を前方に移した。
「どう?」
とはいえ、声は聞こえてくる。
「あ、・・・ああ・・・」
「かわいくない?」
「そんなんじゃねえ!その、か、・・・可愛い・・・ぜ。」
「ほんと?!よかったあ。」
心底嬉しそうなリディアの声と、思い切り緊張しているのが丸分りのエッジの声。なんだかとっても居心地が悪いのは気のせいではないだろう。
デートか観光かなんて最初からどうでもよかったのだが、何か昔を思い出す2+1の構図。
エッジとリディアは、まだ飾り物を見ているようだ。
「あ・・・あれもいいんじゃねえか?」
「え、どれどれ?よく見えないけど・・・」
「あー、取ってやるから待ってろ。・・・よっ・・・」
嬉しげなその掛け声になにやらぞっとしたものを感じて後ろを振り返る。エッジは高いところの飾りを取ろうと手を伸ばし、棚に手を掛けて・・・

棚が、傾いていた。
「ばかっ、やめ・・・・!!」
体が勝手に動いた。

がっしゃーーーんっ!

顔面への衝撃と共に、派手な音が響いた。

店の主人の声が後ろから聞こえる。
「何ご・・・、ちょっと、お客さん、大丈夫ですか!?」
「・・・・・・・・・すまん・・・・。」
棚を顔面で無理やり支えた状態から、どうにか元の位置に戻し、乱れた髪を後ろに追いやって、店の主人のほうに向き直る。
「・・・ってぇ・・・・おい、リディアっ、大丈夫か!?」
足元でエッジの声がした。
あの状況から、リディアをとっさに庇っていた、らしい。そこのあたりは評価してやっても良いだろう。
エッジに覆い被さられた状態のリディアも目を開いた。心中すこしだけ心臓をなでおろす。
「うん、大丈夫・・・・ありがと。
 ・・・・だけど。」
エッジもホッと息をつく。
「よかった・・・・だけど?」
「何やってんのよ、バカっ!」
すぱーんっ、と良い響きがしてエッジが張り倒されていた。当然だ、とカインは思った。


片付け弁償掃除その他終わった時には昼も遅くなっていた。しっかりばっちり予定が狂ったのは言うまでもない。それでも、リディアの髪にはさきほどエッジが取り損ねた髪飾りがついていて、二人ともそれなりに楽しそうではある。少々のトラブルにはめげないという事なのか、トラブルなど慣れっこなのか・・・おそらく後者だろう、と勝手に思っておく。特にエッジの場合、常日頃のあの言動なら、確実にトラブルなぞ日常茶飯事に違いない。自分のような常識人とは住む世界が違うのだ、絶対に。

昼食時は、「もうちょっと焼いてもおいしいかもね」等という他愛のない会話の後、トーストを炭にした。レストランで術を使うな、ととりあえず殴っておいた。トーストだけですんでよかった、と心底思った。

道端で、犬にほえられて、大人気なくも同レベルで吠え返していた。リディアが犬のほうをなだめ、カインはエッジを殴り倒して黙らせておいた。その後エッジは「なんで話し合う前に喧嘩するのよ」とリディアに怒られていたが、当然だと思った。

他にも色々、南の雑貨屋から北の水場までいくだけなのに、いくつトラブルを起こせば気がすむのか。

そして今度は水場である。ここにつくまでに、街中で術を使うな、と釘はさしておいたので、今度こそトラブルは起きないでくれ・・・・と、カインは願う。居心地の悪さはあまり変わらないが、エッジを監視しておかなくては復興が遅れてしまう事にも気づいてしまっていた。見張っていないとこの水辺も破壊されかねない。

「カインー、気持ち良いね。」
水場で足をばしゃばしゃとあそばせながらリディアが笑う。ちなみにエッジは色気たっぷりの踊り子に声を掛けられて話中、らしい。
「ああ、そうだろう。ここは、昔からよく来ていたんだ。夕暮れ時や月のある日はまた雰囲気が変わって綺麗でな。」
セシルと二人で来たり、ローザと3人できたり、懐かしい遊び場、だった。昼は水浴する人々で賑わい、夕暮れ時以降、水辺はとたんにムーディになる。
水辺に居る踊り子に声を掛けられて、セシルと二人で真っ赤になった思い出みたいなものも蘇る。そういえば、ここの水場はどうやらセシルのチョイスらしかった。やたらに含みを感じるのは気のせいだろうか。
「へえ・・・夜来てみても良かったな。」
リディアは視線を水辺のほうに向ける。日に照らされて、水面はきらきらと輝いていた。
「ま、居るのは恋人同士ばかりだがな。」
「そ、そうなんだ・・・。」
心なしか顔を赤くしているのが、なんだか可愛らしい。
「ま、機会があれば使ってみるのもいいだろう。」
おそらく使った事があるであろう幼馴染の顔が頭をよぎる。ため息をつきたい気分になったところで、話題をきりかえる。
「ところで、エッジの奴はどこにいった?」
「・・・そういえば、見ないわね。」
水辺をぐるりと見回してみる・・・エッジは見当たらない。さきほどの踊り子も一人でいるようだ。
と。
「!?」
いくつかの泡と共に、前方に銀色の頭が現れた。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」
カインはとりあえず他人の振りをした。
リディアが目をまん丸にする。
「なにやってんのよ!?」
「何って、水泳に決まってるじゃねぇか。気持ち良いぞ、リディアも来いよ。」
差し伸べる手に、リディアは一瞬固まる。
「わ、私はいいわ。水着ないし、その・・・・」
「泳げない、とかか?」
「!!!
 ほっといてよっ!カイン、いきましょっ!」
水に浸していた足をさっと抜いて、カインを半ば引きずるようにして水辺を離れる。
「おいっ、待てよっ!!」
エッジが慌てて追いかけてくるのを横目に見ながら、カインはため息をついたのだった。


最後のスポットは、城の塔だった。夕暮れ時の風景が美しいのは、城にいるものだからそれはよく知っている。
「というわけで、あの塔からの夕景は絶景だから一度は見ておけ。」
塔の天辺と入り口と、指をさしてカインは息をついた。一応城まで送り届けたのだ、これで。
「カインはこないの?」
「俺は毎日見てるし、もういいよ。お前達だけで行ってこい。まさかもう迷わないだろう?」
ひらひらーっと手を振ると、リディアは名残惜しそうに、エッジは見て分るほど嬉しそうに手を振った。
「ま、一応ありがとな!」
一瞬居残ってやろうか、との考えが頭を掠める。
「ありがとう。色々あったけど楽しかったわ。」
「ああ、それはよかった。色々あったからな、本当に。
 じゃ、またあとで。」
にっこり笑って踵を返す。これで道案内役とはおさらばである。胸をなでおろしてもだれも責めないはずだ。一息ついてカインは自室に足を向けた。

・・・・・・そして。
塔から出てきた二人が、親しげに手をつないでいた、と、後でローザから聞いた。
あれ以来仲がいいよな、とセシルも笑っていた。
ついでに二人で幸せそうなセシルとローザを見やりつつ、若いというのは多分幸せな事なのだろうな、とカインは思ったのだった。




初めて書いたFF4は、ホントに自分の好みに忠実なものが出来上がりました。最愛は誰になんと言われようともカイン。んでもって、エッジ&リディアの組み合わせが好きなのです。ついでにカインとエッジが仲良く喧嘩してるのも。そんでもって、きっとカイン君は苦労人に違いない。
これはカイン視点だからエッジの扱いがアレなことになってますが、同じ事もリディアから見れば、若は結構かっこよかったんじゃないかと思います。エッジの事が、誰よりもかっこよく映ってるのはリディアであって欲しい。お馬鹿もちょっと大人なとこもひっくるめて。カインから見てしまえばこのとおり「馬鹿だろコイツ」に集約されてしまうんですけどね。それもまた、良し?(笑)
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