そこは、満天の星と月の明かりにみちた海岸だった。
目の前にはここ最近この界隈を騒がせている海竜が居た。
波に足を取られる。敵は巨大だ。その尾が動くと、衝撃と大波が一度に襲ってくる。戦いにくい事この上ない。
「クライヴっ、危ない!」
切羽詰った声と一緒に、体が聖なる・・・としか言いようのない光に包まれた。ついで襲ってきた竜の爪の軌道が逸れる。見失った「敵」に一瞬竜の動きが止まる。隙を逃す彼ではなかった。
その身軽さを存分に生かして、爪から腕、頭へと跳躍する。竜の口が、彼の跳んだ空を仰ぐ。彼は一分の狂いも迷いもなく竜の頭を一刀で断った。
赤い飛沫と海の飛沫が混ざり、巨大な竜が倒れる。その肩を蹴って着地点へ。
どうにか砂地に着地すると、体を思い切り引っ張られた。なぜか体が空中に浮かぶ。・・・そして、眼下で、今までたっていた砂地が海に飲み込まれるのが見えた。
「・・・あ・・・あぶなかった・・・です・・・」
後ろで自分を抱きかかえている天使が、ほうっと息をつく。
「・・・・すまない。」
「いえ・・・」
ふらふら、ふよふよ。どうにか濡れていない砂地へと、天使は彼を運んでいく。
しかし、体格の差は大きかったのか、砂地につくやいなや、ぺたんと座り込んでしまった。
「ありがとうございました・・・」
耳元で、そう聞こえた。後ろから抱きかかえている手が解かれる。
天使の腕の中から抜け出すと、肩で息をしていた天使が少し苦笑いした。
「すみません、びしょぬれになっちゃいましたね。」
「・・・・・別に・・・大した事ではない。」
そう言いながら濡れた上着を脱ぐと、体が少し軽くなった。白いシャツも脱いで絞ると、かなりの量の海水が落ちる。
ふう、と息をつくと、天使から声がかかった。
「あ・・・・クライヴ、ちょっとそのままでいてください。」
「?」
シャツを絞ったままの格好で止まる。天使はふよん、と跳躍してクライヴのとなりに着地した。
「怪我、治します。すみません、気がつかなくて・・・」
言葉と共に、体が淡い光に包まれた。
「別に・・・大した事では」
「ありますから。」
問答無用、な声で天使は断じる。
「いつも戦ってもらってるんですから、これくらいさせてください。それに・・・怪我をしているあなたをほっとくなんて出来ません。」
「・・・・・・・・。」
体中に受けた傷が急速に癒えていく。痛み、疼きそのほかの違和感が完全に消えるまで、天使はその場を動かなかった。
「他に、痛いところとかありますか?」
「いや・・・大丈夫だ。」
「・・・よかった。」
天使はまた、ふわり、と跳躍して元の場所に戻る。
「・・・すまない。」
「いえ、気にしないでください。」
クライヴは絞りっぱなしの服を適当に伸ばした。着ると、絞ったとはいえ濡れたシャツはひやりとしている。上着のほうも絞って、・・・こちらは着ないで持つことにした。
「・・・・・行くか。」
「そうですね。」
天使も頷いて立ち上がった。
「お月様、綺麗ですね。」
街までの道すがら、ふわりふわりと、宙を飛びながら天使はこちらを振り返る。
「ああ。」
見上げた月は、少々まぶしいものの、確かに綺麗ではある。
「ほら、海にも映ってて。」
「・・・・そうだな。」
指差されてつられて見てしまった海には、月の光が映っていた。
「あ、あっちも。ねえ、少しよっても良いですか?」
指差す方向には、夜花の群れが月に照らされていた。
「・・・ああ、・・・かまわない・・・・」
「ありがとうございます。」
嬉しそうに・・・本当に嬉しそうにひらりと身を翻して、天使は背の高い花の群れに気持ちよさそうに飛び込む。
「いい匂い・・・」
そんな声がして、そのまま姿が見えなくなる。
・・・・1・・・2・・・3・・・天使が出てくる気配はない。
「・・・・・?どうかしたのか?」
先ほど天使が飛び込んだ花畑に足を踏み入れる。
「あ、動かないで。」
中に屈みこんでいた天使の、慌てた声が彼を制止した。
「足もと、見てください。」
「?」
視線を落とすと、鳥の巣があった。雛が眠っている・・・思わず一歩下がる。
「ちょっと可愛かったので、つい・・・」
小さく苦笑いしながら、天使は再び視線を雛に移す。
「・・・海竜の被害が来る前で良かったです。 この子たちが助かったのも、あなたが居たからですね。」
そう言って雛を見つめる姿は、紛う事なく天使だった。
「ありがとうございました。」
目を伏せて、そう礼を言う。
「・・・・別に、礼を言われる事じゃない・・・当然のことをしただけだ。」
頼まれた事をするのも、小さな命を助けるのも、気がつけば「当然」になっていた。だから、改まって言われるような事は何一つしていない、と思う。
「・・・・・・・。」
こちらを見上げて微笑むと、天使はそっと浮かび上がった。斜め後ろの定位置にそのまま収まる。
「時間を取らせてすみません。行きましょう。」
「・・・・ああ。」
頷いて、なるべく音を立てないように花畑を抜け出す。そんなことも、当然、になりつつあった。
宿に戻ったのは、真夜中だった。
自室に戻り、上着を備え付けの椅子にかけると、天使がひょい、と寄ってくる。
「どうした?」
「ええっと、はい。」
花の移り香なのか、なんだか甘い匂いのする天使の手の中には先ほどの花畑の花が一輪収まっていた。
「綺麗だったから、・・・あなたに。」
はい、と差し出された花は、淡い香りがした。
「・・・・あ、ああ・・・ありがとう。」
思わず受け取ると、天使は本日一番の笑顔を見せた。
「いえ、こちらこそ・・・クライヴと一緒だから、歩き回るの、楽しかったんですよ。」
花を受け取った手が、天使の細い手に包まれた。
「今日は、ありがとうございました。 あなたに祝福がありますように。」
ひと時だけ、視線が合って、それはすぐに離れた。
「それでは、失礼しますね。・・・また。」
天使はふわん、と中空に浮かぶと、すっと手を上げた。
「ああ。また・・・。」
つられるように手を上げると、相手はにこりと笑って、夜の街に飛び立っていった。
毎度の事ながら、どうも現実感のない光景にしばしぼうっとする。
『クライヴと一緒だから、歩き回るの、楽しかったんですよ』
本日一番の笑顔と一緒のその言葉がなんだか印象に残っていた。
そして、手の中には天使の残していった花が一輪。
何か遠い昔に忘れ去ったような感情がふと思い出される。
『嬉しい』・・・のかもしれない。
それならば。
今度は、自分から誘ってみてもいいかもしれない。
なんとなく思いついたその考えは、小さな決意に変わっていったのだった。
続フェバは勇者さんみんな好き。よってクライヴも好き。あのお昼寝の一枚絵はつい見惚れるほどに可愛いと思う。誕生日にプレゼントもってったら、ちょっとだけ笑ってて「ありがとう」て言ってくれるのがまた可愛い。あと、日光ダメなのに昼にデート誘ってくれるのが(そんでもって結局倒れるのが)とっても可愛い。EDにて「愛して・・・いる・・・」なんていわれた日には、あまりの可愛さに倒れられます。180cmオーバーの20代男性に言う台詞じゃないけどすべてにおいて超可愛い(笑)
そんなこんなで、クライヴの好きなとこを正直に表現してみました(笑)
とかなんとか言ってたら、ぷらなさんから素敵なものを二つも頂きました。片方は挿絵として勝手に使わせて頂いてます。でも、本題はTRESUREのほうに置いてあります。首が外れるくらい同意できます(笑)本当にありがとうございましたー!