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げに愛しきは、相変わらずな日々

ホワホワとした燐光が宙に現れる。
ぼんやりしていた頭は、それを見たとたん一瞬で冴えた。
それは、さらにあふれて人と同じ大きさになる。完全な人の形を取るまでそうそう時間は掛からなかった。
そして・・・ついこの間まで煩いほどに現れていた娘の形をしたそれは、こちらを見ると最上の笑顔になる。
「ただいま・・・ロクス」

夢だと思った。

「・・・・・本当に・・・戻ってきたのか・・・・?」
「一応言っとくけど、夢じゃないからね。」
見よ、この翼なしの身体を!などと言いながら、娘はその場でくるりと回転してみせる。
それは無闇に現実感のある態度だった。
「・・・僕なんかのために・・・?お前バカか?」
虚勢を張った言葉とは裏腹に、声がかすれる。しかし、相手には伝わっていないようだった。娘が、ぷぅっと頬を膨らませる。
「バカとはなんだバカとは。人が折角残ったっていうのにさ。」
真っ向から噛み付いてくるその口調で確信した。自分の夢なら、もう少しまともに脚色してくれるはず・・・これは間違いなく現実だ。
「・・・こっちに来いよ。」
そう言って、彼は娘を手招いた。



時は流れる。


「次は、商人さんが隣村まで行くから護衛だって。多分日暮れまでには帰ってこれるだろうから、って。で、その後はあっちの納屋の修理で・・・」
メモをロクスに渡すと、元天使はぺらぺらと予定を並べ立てる。
「お前な・・・毎回毎回一体どこからそんなに仕事を見つけてくるんだ・・・?」
予定で埋め尽くされたメモを見ながら、ロクスは顔を引きつらせた。
「だって、とりあえずさっさと借金返済しなきゃいけないし。仕事なんてちょっと聞いたらいくらでも出てくるよ。」
何を当然のこと、と娘は強気に彼を見上げる。
「ったく・・・これじゃ前と全然変わらないじゃないか。」
脳裏によみがえるのは、天使と旅をした・・・というより、天使に振り回され続けた少し前の二年間。あの時も、彼女は・・・目の前に居る元天使は、自分のところに情け容赦なく事件を持ち込んでいた。
「人間そう変わるもんか。ほら、私も出来るだけ手伝うから。頑張ろ?」
そういって、娘は彼の腕を取る。
その仕草に、少しの変化が見えた。
「いや・・・変わったこともあるのか。」
「?」
怪訝そうに見上げる娘の肩に、軽く手を置く。
「お前はもう、仕事を押し付けて飛んでいったりしないからな。」
小さく笑うと、心当たりがあったらしい娘は、決まり悪そうな顔をした。
「あ、あの時は忙しかったんだし・・・その。
 でも、今は・・・最初から最後まで一緒に居られるし、手伝えるから、その・・・そのために残ったんだし・・・えと・・・」
決まりの悪さとわずかな照れとで娘の視線は泳いでいる。何時見ても思うが、反応がとても正直だ。
「ま、いいさ。」
くすくすと笑いながら娘の肩を引き寄せる。
「これからは一緒に居るんだろう?」
返事の代わりに、元天使は腕の中でこっくりと頷く。
「もう、飛んでったりしない。いきなり消えたりもしないよ。」
言って見上げる瞳は、天使だったころと同じように一生懸命で、まっすぐだった。
「それならいいんだ。」
変わって嬉しい事もある。変わらなくて嬉しい事もある。自分はきっと、裏も表もないまっすぐな彼女に惹かれたのだから。
空を映す娘の瞳の中の自分は、少し安心したような、少し和らいだ表情を見せていた。


「仕事終わったら、久々に飲みに行きたいね。」
先にたって歩きながら、娘はくるりと振り返る。
「そうだな。・・・・この予定だと、いつになるかわからないけど。」
先ほど渡されたメモをひらひらとさせる。それは、仕事を相変わらず情け容赦なく次々と持ってくる彼女への軽い嫌味・・・のつもりだったのだが。
「大丈夫!きっとそのうち終わるから!」
娘はにぱっと笑って、手を打った。
「そういう楽観的過ぎるところは相変わらずだな・・・。」
仕事が絡むと嫌味も皮肉も効かない所も変わらない。
「うん、褒め言葉と受け取っとくよ。」
そして、すっぱり笑顔で開き直るところも。
人間・・・・いや、天使も。そうそう変わることなどないと言うことを実感しながら、ロクスは空に向かって軽くため息をついたのだった。



続フェバから、ロクス&天使のED後。天使さんは名前こそ出さなかったけど、確定でウィルさんです。
ED後って、妄想楽しいけどなんでこんなにこっぱずかしいことになるんでしょうかね(苦笑)
続フェバは一番好きなのは間違いなく愛するすっとこどっこいつーかロクスです。癒しの手の話とか、寒い夜の話で見事にすっこけて数年、今でも大好き。なんか、会話してると漫才ぽくなるとことか突っ込み所多いとことか、たまに優しいのがたまらなく好き。
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