目を開いて、本能的に約束した相手を探す。
視線をさまよわせた先、目が合ったのは同時だった。
「クライヴ!」
「・・・ラビエル・・・!!」
名前を呼んで駆け寄ると、細身の割にしっかりとした腕に抱きしめられる。
「本当に・・・戻ってきたのだな・・・・」
抱きついて、ただ、頷いた。
鼓動が聞こえる。
「・・・・愛して・・・いる・・・」
囁くような声。普段、物静かで無口なその人の、精一杯の愛の言葉。
返事の代わりに、回した腕に力をこめた。
ここが、新しい自分の居場所なのだ。そう考えただけで、物も言えぬほどに幸せだった。
・・・・そして、時は流れる・・・・
日は既に中天に昇っていた。晴れ渡った青空と澄んだ空気。とてもいい日になりそうな、そんな天気なのだが、ラビエルの心のうちは、心配で一杯だった。
彼がまだ帰ってこない。
こんなに日の照った日だというのに。
普段は朝日が昇った頃には帰ってくるというのに。
玄関口に立って、いつも彼が帰ってくる方向に目を凝らす。
何処かで倒れてるかもしれない。
そう思うと、居てもたっても居られなくて、探しに行きたくなるの・・・だが。
家に帰ってきた時、「お帰りなさい」と出迎えた時の、「ただいま・・・」の声と、そのほっとしたような表情がちらついて、探しに出て行くことも出来ない。
家に帰ってきたとき、出迎える人がいないというのは、とても寂しいことだから・・・だから、心配でも待っていようと・・・思ってしまう。
思ってしまう、が。
いい加減心配の方が先に立つ。
何処かで倒れてるかもしれないクライヴを探しに行こうかと、準備するべく引き返そうとしたところで、・・・遠くに、見間違えるわけのない人の姿が見えた。
「クライヴ!!」
着の身着のまま、その人に向かって駆け出す。
少しフラけたような、おぼつかない足取りでこちらに向かってきていたクライヴは、こちらの姿を認めると、ほ、っと安堵したような表情を見せた。
「・・・ただいま・・・ラビエル。」
「お帰りなさい・・・!!」
支えるようにして抱きしめると、クライヴは少し驚いたような表情を見せた。
「・・・どうかしたのか?」
「・・・今日は・・・今日は、一体どうして・・・こんなに遅くなったんですか?」
『すまない』と言われたくないから、心配していた、とは言わなかった。
しかし、言わなくても通じてしまったらしい。
「・・・すまない。」
「謝らないで下さい。
・・・ただ、どうしていたのかと気になってしまって・・・日の光は・・・苦手なのでしょう?」
見上げた先、アメジストの瞳が少しだけ揺らいだ。
「・・・だが、少しは慣れたいと・・・思ってな。」
「え・・・・。」
「今まで、・・・日に当たっていた。」
そして、今も日の当たる場所に居る。
普段の生活とその様子から考えれば、クライヴの身体にはかなりのダメージが行っている筈だった。
以前・・・天使時代、昼間に一緒に町に出た時に一時間もしないで倒れた事は記憶から離れたことはない。
「と、とりあえず家の中に入りましょう!」
腕を取ると、クライヴは少しよろめきながら、それを静止した。
「クライヴ?」
「大丈夫だ。」
相変わらずの無表情。それでも、汗が額にうっすら滲んでいる。
「でも・・・」
「少し無理するくらいで丁度いいんだ。」
少しだけ表情が緩んだ・・・が、それは明らかに無理をしているのがわかる顔だった。
「クライヴ!
日光に慣れるのは良いですけれど、そこまで無理しないで下さい!」
クライヴは、こちらの抗議に少し戸惑ったような表情を見せる。
しかし、返された言葉は、とても穏やかな・・・そして、少しずれたものだった。
「君は、青い空が好きだと、言っていた。」
「・・・え?」
確かに・・・今でも、天使の頃と同じく、青い空を愛する気持ちは変わらない。
「・・・それが、どうか・・・」
疑問を全て言う前に、彼の言葉が続いた。
「だから・・・いつか、君と共に・・・君の好きな青空の下を歩いていきたいと思っていた。」
心臓が、どきんと跳ね上がる。
「その為なら、これくらいなんと言うこともない。」
彼の手が、髪に触れる。ふと、頼もしさを感じた。
・・・が、今はそんなことよりももっと大切なことがある。
「でも、私は・・・貴方が、無事で居てくれる方がなにより大切なんです・・・!」
頭を撫でられた格好で、精一杯見上げて訴える。
それでも、クライヴの対応は変わらなかった。
「俺にとっては、君が笑ってくれることが・・・何よりも大切なんだ。」
穏やかな声。
それに込められた気持ちを感じ取って、ラビエルは笑った。
「・・・ありがとう。その気持ちが・・・嬉しいです。」
その笑顔は、心配と、安堵と愛がない交ぜになった・・・それでも幸せそうな顔だった。
・・・・・
「もう、無茶ばかりして・・・」
意地と強がりのなせる業か、クライヴは結局部屋に戻るまで倒れることはなかった。
しかし、相当無理をしていた反動だろう、ベッドに倒れこんで、そのままぐったりと眠りに落ちてしまったのである。
ラビエルは、冷たいタオルをクライヴの額に当てる。
「今度から、日の光に当たるときは、一緒に連れて行ってくださいね。」
寝ている彼に通じるとは思っていない。
「そっちのほうが、ずっと一緒に居られますから・・・その、あまり無理しないで・・・少しずつ、慣れていきましょう、クライヴ。」
それでも、それは彼女の素直な・・・そして正直な気持ちだった。
前サイト持ってたときはあんまし書いたことなかったんですが(いや、経験はあるんですけど)書いてみると割と楽しい。ただしこっぱずかしい(苦笑)冒頭の砂吐けそうな甘っぷりは、私の妄想じゃなくてゲーム本編でやらかしてましたから。
しかし、よくよく考えると、健気+健気のやたら可愛いカップルになるんじゃないかなあ、この人たち。お幸せに(笑)