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探し人

夕闇の中。ウィルは片手に本を抱えて宿屋の前に居た。
宿屋の前といっても入り口ではなく・・・勇者の滞在する部屋の窓の前である。周りの部屋に灯が点いていく中、その部屋は暗く沈黙を保っていた。
「ロークスー?いないの?」
軽く窓を叩いても、中からは何の物音もしない。
「入るよー?」
留守かな?などと思いつつ、天使は窓を開けて部屋へ滑り込む。
部屋の中は・・・やっぱり無人だった。
「・・・・どこ行ったんだろ。食事かな?」
脳内にひらめく二つの選択肢。

1、探しにいく
2、ここで待つ

思考は一瞬だった。
「これで夜中になったら・・・追い返されてもなんだし・・・行きますか。」
本を抱えたまま、ウィルはふわりと窓から飛び降りたのだった。

「んー・・・・どこ行ったかな。」
ふわふわと食堂内を見回れど、なかなか探し人は見つからない。
「入れ違ったかな・・・」
あきらめ半分、一度宿に戻ろうか・・・そんなことを考えつつ、3件目の食堂を回ろうとした時。
背後の酒場から・・・・聞き覚えのある声が聞こえてきた。
酒場のほうを覗いてみると、案の定・・・探し人は今日も乱痴気騒ぎを繰り広げているようだ。
「・・・・・・・・・・・ったくあのすっとこどっこいは・・・。」
呟く声に少し怒りが混じる。
確か以前に連れて行かれたときに「酒は少し控えておけ」と言った筈だった。とはいえ、あの彼が素直に聞き入れるとも・・・実はあまり期待していなかったが。
今すぐでも飛び込んでいって、心のままに怒鳴りつけたいのを少し抑えて、深呼吸。
天使姿のままで彼に喋りかけると、彼が変な人になってしまう。今のあの状態なら酔って幻が・・・程度に誤魔化すだろうが、それだとなおタチが悪い。用件を聞いていなかった事にされかねないからだ。
「・・・・・よし。」
物陰でこっそりと人姿になると、ウィルはすたすたと酒場に入っていった。
カランカラン・・・とドアベルが鳴る。
「いらっしゃい!」と振り向いた店主が、見慣れない・・・そして少々場違いなお客に一瞬固まった。
店主によく通る声で挨拶をして、そのまま目的地へ直行する。
「こんばんは、ロクス。」
女性達に思い切り囲まれた・・・一応自分が導いているハズの勇者のもとへ。周りから視線が突き刺さるという、普通に考えれば居心地の悪いはずの場所も、怒り半分なのでさっぱり気にならない。
「ん?・・・・!?!!」
幸い、目的の彼は、したたかに酔っているにも拘らず、一目見た瞬間わかってくれたようだった。
自分が誰かということに。
「・・・こんなところまで、何の用ですか?」
周囲が固まる中発した一言は、常の・・・慇懃無礼な態度だった。
自分は今どんな表情をしているのか、すこしだけ気になった・・・が、それはとりあえず置いておく事にする。
「休憩中ごめん。ちょっと色々用事があったから探してたんだ。」
少し肩の力を抜いて話しかけると、相手はさらりと余裕の表情になった。
「僕のほうには特に用事はないのですが。」
相変わらず引っかかる物言いである。胸中のイライラを抑えてもう一言。
「私にはあるんだよ。今、話せる?」
「さあ?どうでしょうね。」
どうやら聴く耳は持たないらしい。酒のせいか、自分のせいか、彼は元からこうなのか。何を言っても無駄かもしれない、という思いが一瞬頭を過ぎる。が、彼女はあきらめなかった。
「酔ってるね?
 ・・・・もうちょっと控えた方がいいんじゃない?飲みすぎは身体に毒だよ」
とりあえず、酒のせい、という事にしておいて言葉をつむぐ。
・・・・と、相手の表情が変わった。
「いくらあなたでも、僕の楽しみを邪魔する権利はないはずですよ。」
つん、と澄まして手に持った杯を思い切りあおる。
これはなんだろう。自分に対する挑戦なのだろうか。・・・それならば、それには応えてやらないといけないだろう。
そう感じるくらいには、ウィルの我慢も限界だった。
「いい加減に・・・・」
一閃。抱えた本は、鈍器に変わる。
「しろっ!!」
天界印の分厚い装丁のソレが、華麗に彼の頭にヒットした。周囲の女達が息を呑む。
「もう十分飲んでたみたいだしね?楽しみの前に身体に悪いから控えろって言ってたの忘れた?」
酒が大分回っているところに頭部への一撃。ふらふらと頭を抑えるロクスが何か言う前に、さらに一歩。
「大体なんでそういう態度取るかな?受けるにしても断るにしても、もうちょっとやり方ってもんがあるんじゃないの?」
手に持った本は、いまだ鈍器のままである。
目線の先の彼は、本を見て、彼女を見て、目をそらす。
「・・・わかったよ。出ればいいんだろ出れば!」
盛大に舌打ちして、いっそ爽快なまで不機嫌な表情で立ち上がる。
そのままロクスは、ウィルの顔も見ずに背を向けたのだった。

少しの後。
宿屋の外、物陰に隠れるような隠れないような感じで一人・・・いや、二人は立っていた。片方は常人には見えない。翼を出し、本来の姿に戻った天使である。
言いたいことをぶちまけてしまったお陰で、イライラは少し落ち着いていた。
「酔い、少しは醒めた?」
「お前のせいでな。」
話を切り出しても、流れる空気は当然ながら険悪である。
「そう。で、用件なんだけど。」
しかし、そんなことは気にするだけ無駄、とばかり、ウィルはさくさくと用件に入る。
「僕が素直に聞くと思ってるのか?」
「いつかは聞いてくれると思ってる。」
嫌そうな声もさらりと受け流し、彼に向き直る。
「おめでたい奴だな。」 
「なんとでも言って。
 まずね。ルディが・・・レグランス担当の勇者がしばらく南を留守にするから、ちょっと南の方に移動して欲しいんだ。あっちで変な動きもあるからそれも見に行って欲しい。お願いできる?」
チラ、と見たロクスはあさっての方向を向いて、露骨に興味なさげな顔をしている。聞いていたら御の字、くらいの態度なのだが。
「断る、といったら?」
どうやら聞いていたらしい。
「夜でも朝でも昼でも、ロクスが根負けするまで頼み込むさ。」
言い切ると、彼はふん・・・と鼻をならした。
「僕に選択肢はないということか。」
「これでも人手不足でね。私にも選択肢はないんだ。」
沈黙が落ちる。
選択肢がないのは事実だった。他の勇者は今は皆、遠い地だ。これでも結構切迫しているのである。それでなければ、わざわざ探しに出てまで頼みには行かない。
だから、真剣だった。
「・・・・どうか、お願いします。」
言って、頭を下げて・・・しばし。
「そういう頼み方は卑怯だぞ・・・ったく。」
苦虫を噛み潰したような声が頭の上からふってきた。
「・・・・わかった。やればいいんだろう。」
「ありがとう。」
とりあえずほっと一安心して、顔を上げる。
彼は一瞬毒気を抜かれたような顔になって・・・盛大にため息をついた。
「・・・もういい。
 で?用件はそれだけか?」
「最優先事項がそれで・・・細かいのが後二つかな。」
頭の中で数えて言う。
「聞いてやるからさっさと言え。」
機嫌が直ったような感じはしないが、先ほどよりは遥かにマシな態度。自然、こちらの態度も軟化する。
「んじゃ、これ。」
目の前に突き出したそれは、元鈍器。頑丈な装丁のお陰で傷一つついていないのだが。
「なんだそれは?」
「この間読みたいって言ってた本。貰って来たよ。」
そう、本日一日抱えてたのは、決して勇者を殴るためではなかった。
なかったのだが、予定は未定とか、先はどうなるかわからなかったとかそういう言葉もあるわけである。
「へぇ。鈍器じゃなかったのか。」
受け取った本を検めながらロクス。
「武器はまた今度。」
皮肉だというのは五百くらい承知の上でさらりとかわす。
向こうは何か言いたそうにこっちを見る。・・・が、ウィルは気付かないふりで続けた。
「で、私今日からしばらくロクスに同行するから。」
「は・・・・・・・・・・・・?」
帰ってきたのは間の抜けた声。
「あんまり羽目外さないで、頑張ってお仕事しようね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
見張りつきかよ、とか。
うるさいのがきた、とか。
どういう神経してるんだ、とか。
物凄く色々なことを含んだ視線を向けられつつ、ウィルはもう一度、ぺこりと頭を下げる。
「じゃ、しばらくの間よろしくお願いします。」
「・・・・・ああ・・・・わかった・・・・」
ややあって搾り出されたようなその声には、「もうどうとでもなれ」だの「先が思いやられる」だのという声なき声が目一杯込められていたのだった。



続フェバから、ロクス&天使で。ええと、初期あたり?実際ゲーム中でも、初期イベントはこんなんです。面白い人だけど、スカウト時にある意味フォーリンラブだったんですけど、会話のたびにコイツムカつくと思うのは止められませんでした。殺伐としてて、実は温度としてはこれくらいでもいいや、て思ってたりします。
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