滑らかなリードに乗ってステップを踏みつつ、テラスの方を見やると、
・・・レイヴは、結局人に囲まれていた。
相変わらずの無表情ながら、困っているのはダンスの片手間でも分る。
さすがに、気の毒だった。
「あーあー・・・レイヴ、結局人に囲まれちゃってるし・・・」
あんたのせいだよ、とさりげなく足を踏みつける。
「・・・これじゃ、何のためにここに来たんだかわかりゃしない。」
テラスを見ながらぼやくと、肩を引き寄せられてしまった。
「足を踏みつけたり余所見をする前に、こちらの方を良く見てほしいものだな?」
「やだ。向こうが気になるもん。
折角レイヴが頼み事してきたってのにさ・・・ちゃんとかなえたかったんだけど。」
ふい、と視線をテラスに向けつつ、何で邪魔をした?とまたさりげなく足を踏みつける。
「やれやれ・・・本当につれないな。
折角の美人だと言うのに、こちらを向いてもくれないのか。」
「うん。
こういう事でシーヴァスの言葉真に受けるぐらい、ばかばかしい事ってないからね。」
芝居がかった嘆きの言葉も、・・・こういう事は流すに限る。
「・・・ひどい言いようだな。私の信用はそこまで低くなってたのか?」
「別に?学習しただけさ。
それに、普段のことに関して言えば信用してるよ。
・・・だから、依頼はちゃんと受けてね?」
視線をシーヴァスに移して、じっと見上げる。
「随分と調子のいい事を・・・」
「お互い様ってことさ。でも、レイヴには悪い事しちゃったな・・・」
テラスに視線を戻して、また、さりげなく踏みつける。
と、あきらめたらしい。
引き寄せている手の力が緩んだ。
「やれやれ。
・・・あんまり甘やかすなよ?あれだって職務のうちだろう。」
それは確かに、もっともなこと。
ウィルは、ふう、と息をついた。
「・・・・それは、レイヴも言ってた。
でもね、死ぬほど言い難そうにでも、私に頼み事してくれたんだ。
それぐらいには信頼されてるって事だし。それならやっぱり応えなきゃ。」
ターンを決めつつ答えを返す。
「・・・本当に真面目だな・・・
ところで、奴はなんと言って君にそんな事を頼んだんだ?」
「ん、ああいう場は苦手だって。女の人に声をかけられるのは特に苦手って。
私は普通の女と違って女に見えないから、虫除けに丁度いいってさ。」
と、シーヴァスは顔を少ししかめた。
「・・・・・大分失礼な事を言ったようだな・・・」
「そうかな?本音だったら失礼もへったくれもないと思うけど。」
「・・・・なるほど。そういう考え方もあるか。」
「そうそう。女に見えないからこそ頼まれたんだから。
これだって、十分な褒め言葉だよ。」
くるり、くるり。
すべるように踊りながら、それでも恨みがましく足を踏みつける。
「・・・今度踊るときは、足を踏みつけないでほしいものだな。」
「踏みつけられるような事しないならね。」
曲の最後にまた踏みつけて、一礼する。
「それじゃ、また。踊ったからには依頼受けてね?」
視線を合わせて、にっこり微笑む。
「・・・他に言う事はないのか?」
「ない。
さてと、レイヴのところに戻らなきゃ。」
テラスの方に視線を移す。
そこにはきっと人に囲まれて困っているレイヴが居るのだ。
「それなら、私がそこまで連れて行こう。
あの人だかりを乗り越えるのは骨だろう?」
・・・確かに。
「・・・・そうだね・・・
じゃ、おねがい。・・・ありがとうね。」
「礼には及ばない。さて、行くか。」
そのまま彼は、天使の手を取ったのだった。
壁を開いて、レイヴのところまでたどり着く。
「ごめんね、役に立てなくって・・・」
「・・・・・・・いや、いい・・・・
これはお前のせいじゃない。・・・奴のせいだ。」
恨めしげな視線は、そのままシーヴァスを直撃する。
「ひどいな。そこまで恐い顔をしなくてもいいだろう?」
「・・・・・・・・。」
「・・・わかったわかった。今度からは控えるさ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
レイヴは、やはり無言のままである・・・が、目が口ほどに語っていた。
「・・・信用、していいのかどうか、迷うとこだね、こればっかりは・・・」
「全く、本当に冷たいな。」
肩をすくめてみせられても、真実は真実である。
「冷たくて結構。こんな態度取らせる方が悪いよ。」
隣でレイヴも息をついた。
「・・・・・・・・・全くだ。
もう、夜も更ける・・・行こう。
・・・それではな、シーヴァス。」
「あ、うん。
それじゃね、シーヴァス。
約束どおり依頼はきっちり受けてもらうから、忘れないでよ?」
びしっ!と指差して念を押す。
「・・・やれやれ・・・本当にそれしか言う事はないらしいな・・・」
歩き出した背中に向かって、シーヴァスのぼやく声が聞こえてきた。
部屋に戻って二人になると、そのまま天使姿に戻る。
「・・・・今日は、お疲れ様。
役に立てなくてごめん・・・でも、頼まれれば、いつでも引き受けるから。」
「・・・・・・ああ。そんなに気にする事ではない・・・」
相変わらず言葉少ないのだが、そう怒っているわけでもないらしい。
頷いて、そのままとたとたと窓辺に立つ。
「それじゃ、またね。」
「・・・ああ。また、頼む。」
・・・頼む、か・・・♪
頼みをかなえるのは・・・失敗しちゃったけど。
でも、なにか・・・ちょっと嬉しかった。
くるりと振り向いて、最敬礼。
「了解♪」
そのまま天使は、虚空に飛び立ったのだった。
やっぱりこのゲーム・・・というかキャラクター達に愛あったのが見て取れるなあと(笑)
元のゲームはSLG+RPGのネオロマギャルゲー混ざった物品ですが、気分は友情モノで。