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逃亡者の幇助

『街中で会うなら人の格好をすること』
そんな勇者達との約束を律儀に守って、ラビエルは今日も人姿で宿屋兼酒場に向っていた。
しかし、どうやら本日は少し勝手が違ったらしい。待ち合わせの場所に着く前に相手がやってきたのである。
「ラビエル!!」
彼は、天使の姿を見るなりすばらしい勢いで駆け寄ってきた。
「・・・ろ、ロクス・・・?」
心底嬉しそうな顔が、とてもとてもとても違和感がある。普段は、見かけた瞬間嫌そうな顔を隠そうともしないというのに。
・・・もしかしたら、心を入れ替えてくれたのかも?
期待、も一応ないわけではないのだが。そこを深く考える間もなかった。
「いいところに来た!追われてるんだ。追っ手がきたら、僕はあっちに行ったと言ってくれ。いいな、必ずだぞ!」
一息にまくし立て、ばさり、とラビエルに法衣を引っ掛けると、ロクスは指差したのと反対の方向に走っていく。
「なんなんですかこれは!?」
肩に掛けられた紫の法衣。慌てて追おうとしたところで、後ろに多数の気配を感じた。
「やーっと観念しやがったか。それとも息でもあがったか?」
背筋が寒くなる。
ドスのきいた声。声の調子は考える間でもなく怒っている。殺気といっても過言ではないだろう。
神に誓って潔白なのだが、果たして話し合いがわかってくれる人なのか。
「あの、どうかしたんでしょうか?」
こわごわ後ろを振り向くと、想像通りの・・・いかつい通り越してゴツイ男達がこちらを睨みつけていた。
「んだぁ?アイツじゃねーのか?」
「アイツをどこに隠した?!」
『アイツ』はたぶんロクスである。
「あの・・・アイツ、とは・・・この法衣の持ち主ですか?」
「決まってんだろうが!お前もアイツの仲間か?!」
そして、ロクスの狙いもなんとなくだが見えてきた。
・・・・私に時間稼ぎをさせるつもりだったのですね。
人目につくローブを他人に押し付けてまで。
「彼が何かしたんでしょうか?」
「てめえに言う必要はねえ。さっさとアイツを出しやがれ!」
聞く耳などはなから持ち合わせていないらしい。
「言わないなら・・・・!!」
一人がラビエルの襟をつかんだ。
・・・この人たちをロクスに合わせるのは少し危険かもしれない。
一瞬で判断すると、ラビエルは迷わずロクスが行ったほうと反対方向を指差した。
「私に法衣を引っ掛けてあっちに走っていきました。」
襟が離される。バランスを崩してしりもちをつくラビエルの横を、多数の足が走っていった。
・・・単純な人たちでよかった・・・。

後で絶対問いただしてやる、と思いつつ、ラビエルはロクスが走っていった方角に歩いていく。やたら人目につくローブはトラブル防止のためにたたんで小脇に抱えて。
「!?」
いきなりだった。
開いていた戸口から手がのびて、そのままラビエルを室内に引っ張り込む。
「何です・・・むぐっ・・!!」
「ばか、静かにしろ!」
抑えた声は頭に来るほどに聞き覚えがあった。
とりあえず大人しくすると、口を抑える手が離れる。
「・・・やれやれ。助かった。礼を言う。」
目線の先の通りには、あの怒れる男達の姿は無い。ラビエルも一つ息をついた。
「・・・ロクス。あなた今度は何をやったんですか?」
「お前には関係ない。」
いつもの返答。しかし、今回はそれで引き下がるわけには行かない。
「殴られかけました。それに言われたとおり助けました。関係はあるでしょう。」
「・・・・・・・借金の取り立てさ。いつもの事だ。」
しぶしぶ、といった体で、なんとなく想像のついていた言葉が返ってくる。
ラビエルはため息をついた。
「あの方達かなり怒ってらっしゃいましたよ。ちゃんと謝らなきゃダメですよ?」
「謝ってすむなら逃げる必要は無いだろうが。」
それは確かにそうなのだが、それ以前に何か、ロクスの態度に大問題がありそうな気がしないではない。
・・・いえ、・・・・・一応、私の、・・・勇者、なんですから・・・信用、しなくては・・・。
無理やり頭を納得させて、またため息。
「で、いつまで隠れておかなきゃいけないんでしょうか。」
「・・・宿屋も見張られていそうな剣幕だったからな・・・とりあえず荷物を確保して人目につかないうちに街を出る。ほとぼりが冷めるの待つさ。」
やたらに慣れたこの対応。何度こんな修羅場を潜り抜けてきたのやら。
「・・・・仕方ありませんね。荷物は私が取ってきましょう。」
「助かる。たまには役に立つんだな。」
「たまには、は余計です。ロクスはここで大人しくしていてくださいね。」
羽を広げて、宿屋へ飛び立つ。天使の能力はこういう使い方をするものではない・・・とは思うのだが、乗りかかった舟とか毒喰らわば皿までとか、そんな気分だった。

荷物を確保し、闇にまぎれて町を出る。気分はまるきり犯罪者だ。
次の町に急ぐ途中、ふとロクスが口を開いた。
「・・・・・どこに向ってるんだ?」
「次の町です。今丁度、グレムリンに襲われて大変な事になってるので、助けて下さい。」
息を呑むのがわかった。
「今日の用事、一つはその依頼だったんです。」
詐欺まがいではあるのだが、これは単なる偶然である。出る方向を誘導したのはラビエルなのだが。
しばしの沈黙の後に、ロクスが一つため息をついた。
「・・・・・・しかたない、乗りかかった舟だ。掃討してきてやる。これで貸し借りなしだからな。」
「ありがとうございます。助かります。」
深々と礼をして、向き直って。
「あとはですね。」
懐からビンを一つ取り出す。
「お誕生日おめでとうございます。」
中身はつい先日六王国で入手した酒だった。
「・・・・・・。」
はとが豆鉄砲、な表情。そこまで意外だったのだろうか。
「ロクス?」
「あ、ああ。お前でもそんなことを考えたりするんだな。
 ・・・ありがとう。正直自分でも忘れてた。」
「どういたしまして。喜んでいただけて嬉しいです。さ、それではちゃきちゃきいきましょうね。」
闇の中に祝福の光が現れる。体力の減少を防ぐそれは、勇者の体に降り注いだ。
「・・・ああ・・・急ぐとするか。」
男二人道中はこうして、ため息と共に始まったのだった。



11月4日近づくと、無性に教皇様思い出します。なんか祝いたくなると言うか。
てわけで、1年目の誕生日、微妙に黒っぽい男天使でれっつらごー。設定とかなんもなかったんですけど。
男天使と絡ませるとものすごく面白い人、で記憶されてるんですよね、教皇様。
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