「はいはい、いってきまーす。」
そうぼやく振りをして、記憶する限りでの通常通りに地上に降りて・・・そして、彼女はだらけた移動時間を埋めるかのように超高速で彼の元へ飛んでいった。
「やーっと来たか。」
呆れたような、非難するような口調と裏腹に、待っていた彼の目は笑っていた。
「ごめんっ!なるべく頑張ったつもりなんだけどっ!」
しかし、彼女はそんなものには気付かず、中空で小さくなって手を合わせる。
「そんなに待ってない。だからそこまで気にしなくても良いさ。」
以前の彼女なら、謝りもせずに『私だって忙しい』オーラを発しつつ用件を聞いてきていたものだった。『そんなことで呼んだんだ?』と怒りを全面に出す事も多かった。
それが今では。
「本当?」
しかられた子犬が飼い主を見上げるような・・・というところである。
「ああ。」
この変わりよう、責任の一端は間違いなく彼にあった。
その事実に、彼はくすくすと笑いながら、中空の彼女を見上げる。
「・・・時間はあるか?」
「うん、大丈夫。何かあるの?」
こっくりと頷いて、彼女は首をかしげる。
「いや・・・ちょっとのんびりしないか、と思ってな。」
手を差し伸べると、彼女は笑ってその手を取った。
「うん、よろこんで。」
彼女は、階段を下りるかのように、すとん、と彼の前に降り立った。
川辺の芝には、それなりにいい風が吹いていた。
「とはいってもさ。」
ぱたん、とうつぶせに芝に伸びて、彼女は言う。
「ん?」
そばに腰を下ろして、彼はそちらを向く。
「空を見上げれば天竜が居るんだよね。」
全世界を見下ろす禍々しい姿は、この世界のどこに居ても見ることが出来た。
「あっちの湖には悪魔の城が見えるな。」
川の行き先の湖には、3日ほど前から暗い波動を発する伝説の城が現われている。
「のんびりしてていいのかなあ。」
緊張感を削ぎ落とした声で彼女は呟く。
「すでに緊張感も何も無いように見えるんだが。」
「これでも、急がなきゃ、とは思ってるんだよ。」
しかし、言葉とは裏腹にその声は、思い切り『やりたくない』と言っていた。
「ま、急いでも急がなくても、城に着くのは明後日だ。」
彼女はころりと彼に寄り添う。
「そっか。ならちょっとくらい・・・いいかな。」
「いいさ。」
そう言うと、彼女は小さく笑った。
・・・しかし、それはほどなく吐息に変わる。
「明後日か・・・それで全部決着つくんだね。」
「ああ、つけるから安心していろ。」
彼女の頭に軽く手を置く。
「・・・ありがとう。」
泣きそうで笑いそうな顔で、彼女は転がったままその手を取ってそう言った。
明後日、すべてに決着がついた後・・・どうするのか。
決定的なことは何一つ口に出さないまま、静かに時間が流れる。
「のんびりするのもいいだろう?」
別れ際、もう一度彼はそう言った。
「そうだね。なんか癒された感じする・・・ありがとう。」
笑って地面を軽く蹴って彼女は中空に浮く。
「それじゃ・・・気が向いたらまた呼ぶか?」
そう言って見上げた彼に、彼女は首を振った。
そして、仕事時の表情で尋ねる。
「・・・この先、私の同行の必要は?」
「・・・居るに越したことは無いな。それなりに魔物も出てきてるから、妖精だと正直心許ない。」
正直なところを告げると、彼女は一つ頷いた。
「了解。それじゃ、明日また来る。」
「いいのか?」
「一人で危険なところに居るのに放って置くわけには行かないからね。」
最後の戦いはどっちみち付き合うし、と言う姿は、先ほど転がっていた彼女のものとは違う・・・世界の平和を第一に考える天使のものになっていた。
「・・・わかった。じゃあ、また。」
「うん、また明日。」
そう言って、手を振って、別れた。
明日からは、最後の旅が始まる。
先延ばしにできなかった永遠の別れは、三日後に迫っていた。
約束イベント起こしててもお別れ前提、になりそうな組み合わせ。フェイン兄さんもそうですけど、「地上に残れ」って言わないの。そういう所が好きだな、って思うのは私だけでしょうか。
天使さんを自分の好きに設定してるからってのもありますが、基本的にこんな感じの組み合わせが好きです。なんだかんだ言いつつ仲が良いのが。お互い表面必死になってどうでもよさげな顔してるのが。依存しちゃダメだと必死で言い聞かせてるようなのをたまに甘やかす感じのが。強がりって好きなんですよ。