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サンタの降りる夜

23日、夜。
タンブールの教会は、台所を除いて寝静まっていた。
その台所からは、粉を混ぜる音が静かに聞こえている。
「で、これは・・・・?」
バターをかき回しながら、天使はたずねた。
といっても、今は天使には見えない。
羽を隠した人姿にエプロン。新緑色の髪は白い三角巾で包んである。
傍には、防寒用と思しきケープも置いてあった。
「明日の夜にね、寝てる子供たちの枕元にプレゼントを置いておくんだよ。」
同じような格好をした女・・・フィアナは、粉を静かに振りながら答える。
「・・・・?なんでですっ?」
きょとんとした顔をフィアナは少し意外そうに見た。
「あ、知らないんだね。」
そして、苦笑しながら答える。
「神様が地上に降りてきた日にね、サンタさんがプレゼントくれるって言い伝えがあるの。
 ここに住む人なら、誰だって知ってる御伽噺。」
「へえ・・・・」
「で、子供たちはそれを信じているわけ。
 それには答えようって事でさ、こうして手伝ってもらってるんだけど。」
粉を振るう手は休めない。
「プレゼント、クッキーなのですねっ。」
天使も、バターの中に砂糖を振るい入れた。
「まあ・・・・ね。
 貴重な寄付からだし、これくらいしか作れないんだよ。
 ホントなら、服とかおもちゃとかあげたいんだけど・・・」
粉をあわせながら、小さくため息をつく。
「でも、気持ちは伝わると思うのですっ。
 大丈夫、きっと喜ばれるのですっ♪」
砂糖を混ぜながら、天使は笑った。
「ん、そうだね。
 さって・・・・そっち、用意できた?」
用意・・・イコール、粉は入れられるか。
「あ、もうちょっと待ってですっ。
 バターに時間かかっちゃったですからっ・・・」
卵を少しずつ入れながら、天使は慌てて答える。
「ん、いいよ。じゃあ、私はオーブンに火いれてくるから。」
「はいっ・・・ごめんなさいですっ。」
「謝る事じゃないでしょ?寒いんだから仕方ないよ。」
「はいっ・・・・」
火を入れている間に最後の卵を流し込んで、フィアナがあわせた粉を混ぜる。
生地が出来ると、二人はほぅっとため息をついた。
「二人ともお疲れ様。どうだい?」
台所の扉が開いて、小柄なシスターが顔を出す。
「エレン。」
「エレンさん。」
「ちょっと生地を休ませてる所なんだ。」
「ついでに、私たちも休んでたとこなのですっ。」
二人で顔を見合わせて笑うと、エレンもにこと微笑んだ。


日付が変わってしまうころ、台所にはクッキーの甘い香りが漂う。
可愛らしくラッピングしたものを戸棚にしまいこんで、プレゼントの準備は万端だ。
『すっかり手伝ってもらってしまったねぇ。』
エレンが済まなさそうに苦笑する。
『いえいえっ♪』
ひらひらと天使が手を振ると、フィアナがぽんと彼女の肩をたたいた。
『お疲れさん。
 これは、お礼ね。』
 渡されたのは、クッキー一袋・・・子供一人前。
『ありがとうですっ・・・けど、いいのですっ?』
受け取りながら、教会の住人を見上げる。
『何も出来ないんだ。これぐらい、させておくれよ。』
エレンは、ゆったりと微笑む。
『そうそう、これくらいなら。ね。』
・・・それに、好きな人いるんでしょ?
   アンタの手作りだしさ、プレゼントしちゃっても良いじゃない。
そうささやいて、フィアナも軽くウィンクする。
『っ・・・・!・・・』
天使は、ぱぁっと頬を赤くした。


『微笑ましい事だねえ・・・』
『だから、見てて楽しいんだよ。』


彼女達と別れて、ちょうど一日。
本日・・・12月24日夜。
天使・・・・ウィーラは、インフォス上空を飛んでいた。
片手には昨日貰ったクッキー。
・・・好きな・・・・
思い出すだけで、顔が熱くなる。
だから、頭を振って深呼吸。
・・・そうっ。いつもお世話になってますしっ。
   折角貰いましたしっ、プレゼント渡す日みたいですしっ。
これをあれからちょこちょこ繰り返しつつ、今に至る。
渡す事はもう決めた。
夜に渡すものらしいから、夜に渡す事も決めた。
寝ている間に、そっと枕元に置けばいいのである。
だから。
・・・お願いですからっ、・・・・寝てますようにっ・・・・
彼・・・リュドラルは、夜に訪問すると非常に機嫌が悪い。
困った顔をされると、こちらとしても申し訳のない気分になるのである。
だから、時間によってはプレゼントを渡すにも覚悟が必要なのだ。
天使は、勇者達にすら姿が見えないように用心深く姿を消すと、精神を集中した。


姿は消したまま。
小さな宿屋に、彼女は降り立つ。
・・・・寝て・・・ます、よねっ・・・?
優しい・・・・慣れ親しんだ人の気配がする。
少し見渡すと、ベッドにに人が寝そべっていた。
毛布に包まったその体は、静かに規則正しく動いている。
・・・よかった・・・
ほっと一安心して、ふわふわと近づく。
なんとなく顔を覗き込むと、彼は少し寒そうに身を縮めた。
・・・そっか・・・そうですよねっ・・・
少し考えて、肩口に自分のケープをかける。
と。
「・・・・んん・・・・?」
身じろぎと、小さな声。
天使の心臓は飛び上がった。
・・・!おきちゃったですっ・・・!?
「・・・・・・?・・・・・zzz・・・」
どうやら、少し動いただけ・・・で済んだらしい。
・・・それに。
   よく考えなくっても、私姿消してるんですよねっ・・・
大丈夫。気付かれはしない。起こす事もない。
ふぅ、と息をついて、またふわふわと移動。
クッキーの袋とヒイラギの枝をサイドテーブルに。
フィアナから教わった、「この日用の挨拶」を袋に書いて。
カサッ。
・・・!!
少し、音をさせてしまった。
慌てて振り向くが、彼は・・・大丈夫、まだ寝ている。
ほっと小さくため息をついて、ペンを直して、完了である。
・・・貴方にとって、今日がいい日でありますように。
寝ている彼に向き直って小さく祈る。
と。
また、彼が身じろぎした。
天使は、びくっっと体を固まらせる。
「・・・ん・・・・・・・。」
聞き取れないほどの声。
「!・・・」
でも、聞き間違いはしなかった。
彼の口から漏れた言葉・・・自分の名前だったから。
「・・・リュドラルさんっ・・・・・・?」
思わず口に出してしまって、はっとなる。
・・・が、どうやら、大丈夫だったらしい。
また、彼は静かに寝息を立てている。
ほっとした。それに、・・・少し、嬉しかった。
でも。
・・・これ以上いたら、起こしちゃいそうなのですっ・・・
「・・・・・・・(貴方に幸せが訪れますようにっ・・・)」
彼女は、最後に彼の額に軽くキスすると、そのままかき消えたのだった。
 


蔵出し。
コレの世界にサンタとクリスマスがあるかどうかは気にしない方向でお願いします!
乙女回路全開フルスロットルな感じです。
しかし、過去の読み返してたらこれマダマダ序の口でした(苦笑)
設定ってモンでもないですが、ウィーラの方はこのとおり・・・こっちのおにーさんとほのぼのラブして、そのまま地上に降りてしまいます。というか、この名前でプレイした時に落としたのがたまたま彼だったという話もあるんですが。
寝こけてるだけなので何ともですけど、彼もいい人です。正統派主人公!って感じで、行くたびに癒されてました(笑)
冒頭に出てきたフィアナも、やっぱり勇者さんの一人。
実は全てのゲームあわせて、女キャラだとこの人が一番ラブだったりします(笑)
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