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虹の終わり

 「二人は漂流者
   世界を見にに旅立つのだ
   世界には見るものにあふれている
   我らはやがて同じ虹の終わりに辿り着くだろう 」
 
  古典。読解。教養。解釈。
  それは実戦で生きてきたフィーにとっては縁遠すぎて訳が分からないものの一つである。
  これが一体何の役に立つのか。そんなことを考える事すら面倒に思う。
  だが、課題である以上やらなくてはならないのは確かだ。
  まず最初、虹の終わりの指し示す意味を述べ……最初から分からない。
  しかし、自分に虹の終わりの意味は解らなくても、こういうのを得意とする友人は居る。
 
  「エマ」
  「エマ君、ちょっといいか。今度の会議資料なんだが、確認をお願いしたい。」
 
  呼びかけた瞬間、それは別の声によってさえぎられた。
  振り返りかけていたエマが、マキアスの方を振り返る。
  「はいマキアスさん、お預かりしますね。」
  「こことここが違っていて」
  「ああ、そこは」
  エマは完全にマキアスに取られてしまったらしい。ちぇ、と思いながら視線をそらすと、丁度ユーシスが脇を抜けていくところだった。
  「待って」
  ブレザーの裾をぎゅっと引っ張ると、ユーシスが止まる。
  「なんだ、引っ張るな。」
  「ここ教えて。」
  裾は離さない。
  「はあ……?」
  何を言ってるんだ、という顔をしながらもこちらを向いてくれるあたり、ユーシスはやはりお人よしである。
  「虹の終わり、の意味。」
  「ああ、さっきの課題か。「見果てぬ夢」、「宝物」、ひいては「大切なもの」そんなとこだろう。」
  あっさり答えてさっさと行こうとする。
  「なんでそうなるの。」
  「なんで、と言われてもな。」
  そうなってるものはそうなっている。そう言いかけて、ユーシスがこちらに向きなおった。
  「……もしかして、お前は虹の終わりの伝承を聞いたことがないのか?」
  「ん、なにそれ。」
  素直に頷くと、ああ、と納得したように息をつく。
  「……ならばわかるわけがないか。
   あのな、虹の終わりには宝物が埋まっているらしい。それは金の鍵の形をしていたり、皿の形をしていたり、財宝の入った壺だったりするらしい。」
  「本当?」
  「伝承だ。この問題はその知識を前提として成立している。」
  前提のハードルがまず高い。
  「そんなのズルい。」
  ぶーたれると、ユーシスは困ったように顔をしかめた。
  「ズルいと言ってもな…。」
  それなりに知られた話だぞ、と言われてもわからないものは解らない。
  「フィーちゃん、ユーシスさん、どうされたんですか?」
  ふっとエマの声がした。その瞬間ユーシスの表情が少しほっとしたように緩む。しかし、そちらを向いた瞬間、ユーシスの表情は一転して渋い顔になった。それで何となく察する。
  「エマ、マキアス。もう用事はいいの?」
  ちらと目線を向けると予想通りの二人がこちらに来ていた。
  「ああ、さっきは気づかなくて悪かったな。」
  「ん。」
  こくり、と頷くと、マキアスは小さく肩をすくめる。
  「フィーちゃん、さっき呼んでたでしょう。何かあったんですか?」
  「この問題。……ユーシスに聞いてたけど、これちょっとズルい。」
  件の課題を指さすと、エマは少し首をかしげた。
  「意味、は…」
  「宝物が埋まってるなんて初めて聞いたし。」
  「ああ、伝承ですね。確かに、この問題の前提知識の一つかもしれませんね。」
  それだけで理解が行ったのか、はいはい、と頷く。
  「別に伝承を知らなくても、解けなくはないんだけどな。」
  マキアスはそう言いながらこちらを向く。
  「そうなの?」
  「ああ。フィー、虹の終わりに行ったことはあるか?」
  「行けるの?」
  問うと、マキアスはあっさり首を振った。
  「虹は、ただの光学現象だ。どんなにそちらに向かおうと、決して虹の終わりまで行くことはできない。
   つまり、虹の終わりにたどり着くのは無理だ。そこから、虹の終わりにたどり着くというのは難しい事だと持ってこれる。
   たどり着きたい遠い目標とか、そういうものにも通じる。」
  「随分理論が飛ぶね。」
  正直に言うと、ひょいっと肩をすくめる。
  「詩ってのはそういうものだ。
   で、遠い目標というのはつまり生きていくために必要なもの、かけがえのないもの……ということで、解が導き出せる。」
  証明終了、と問題をたたく指先が軽い音を立てた。
  「……数学か何かか。」
  ぼそっとしたユーシスの言葉に、マキアスはイラッとした声で答える。
  「前提条件なしで解こうとするとこうするしかあるまい。」
  「まあまあ、…フィーちゃん、これで大丈夫ですか?」
  取りなすようにエマが聞く。大丈夫かと言われると、…答えは解ったのは解ったので、大丈夫と言えば大丈夫なのだが、何かこう釈然としない。
  「ん……なんとなく、わかった。けど、めんどいね。」
  「まあ、そうなんですけど。」
  エマは少し苦笑いになった。
  「大体なんで虹の終わりなのかな。始まりじゃダメなの?」
  ぶーたれると、他の三人が顔を見合わせた。
  「詩の文句に文句を言っても仕方なかろう。」
  はあ、とユーシスが息をつく。
  「そうですね、言い方は他にもあります。虹の端、虹の根元、虹の足…生え際とか色々。きっとノルドや他の国に行けばもっと違う言い方や伝承があるでしょうし。そこであえて虹の終わりという言葉を使った意味を考えるのも、解釈のポイントではありますね。」
  エマはそう言うが、完全に分からない世界だった。
  「そんなものがあるの?」
  聞くと、ああ、とユーシスが頷いた。
  「こういう詩ならな。一つ一つの言葉はそれぞれ練られているのが普通だ。」
  「確定はしないだろうから、出題としてはないだろうがな。」
  「そんな判断しかできないのか。」
  風情のない奴だ、と鼻で笑われたマキアスが発火しそうになるのを、エマがまあまあと抑える。
  「難しくはないですよ。たどり着くのは虹の終わり。ひいては旅の終わり。意味と韻を踏んだということです。」
  「終わりにたどり着く から 終わり…」
  復唱してみても、いまいちよくわからない。
  「たどり着いた先が虹の始まりだったら、旅が終わらなくなるだろう。それではたどり着いたとは言わん。」
  「あ、なるほど。」
  ユーシスの平たい言い方にようやく納得した。
  「わかった。……うん。……むずかしい。」
  「でも、一歩前進ですよ。フィーちゃんよく考えました。」
  ね、とエマが笑いかける。
  「全くだな。解らないと聞いてくるだけでもずいぶんな進歩だ。」
  マキアスが頷けば、ユーシスも肩をすくめる。
  「それこそ虹の終わりにたどり着いたようなものだろう。」
  「終わり。……てことはこれ以上はないのか。」
  ふむ、と頷くと、何を言っているんだ、とマキアスが息をついた。
  「あるに決まっているだろう。学問に終わりなんてない。
   大体虹の終わりは始まりでもある。虹は高い所から見ればアーチ状じゃなくて円形だからな。」
  「……それは、聞きたくなかった。かも。」
  う、と引くが、マキアスは追撃を緩めてはくれなかった。
  「聞きたかろうが聞きたくなかろうが、現実は現実だ。
   終わったらまた始まる。終わらないと次も始まらない。終わるから、始まる。なんだってな。」
  言葉はぴしぴしと歯切れよい。
  「そうだろう?」
  腰に手を当ててそういわれたら、こくりと頷くしかなかった。
  でも、自分は、……昔の事にまだ未練の残る自分には、そんなに歯切れよく言える文句ではないのも確かだ。
  それに、マキアスだって。……つい先日まで、ずいぶん引きずっていたのに。
  「……マキアスは強いね。」
  正直な言葉が漏れた。
  「……はあ……?」
  面食らったようなマキアスの前で、課題に回答を書き込む。
 
  虹の終わりの意味。
  宝物 見果てぬ夢 かけがえのないもの 最終目標。 
  そして、次の始まり。


   
月の河 広大な河 いつの日か私はお前を渡るだろう
夢を創り夢を打ち砕くものよ お前がどこに行こうと私はついて行こう
二人の漂流者となり世界を見に旅立つのだ
世界には見るべきものにあふれている
我らはやがて同じ虹の終わりに辿り着くだろう
あの曲がり角の先で待っている
コケモモを共に摘んだ友 月の河 
そして私
********
誰もが知ってるムーンリバーって曲。適当に和訳してみたけど随分かなり結構意味深。
それをネタにした話。教え方や考え方、問題への向き合い方とか、成績上位3人はそれぞれに違いそうだし、それぞれに教え方が上手そう。
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