たまたまバラけた勤務のおかげで、ロイドは一人特務支援課に戻ってきたところだった。
「ただいまー」
声を掛けると、小さく声が返ってくる。
「あら、ロイドー?おかえりなさい」
上の階からするのはエリィの声だ。どうやら自室あたりにいるらしい。
軽く背を伸ばしてダイニングに向かう。
……と、テーブルの上にノートが一冊開かれていた。
「……?」
ロイドは首をかしげてノートの中を覗き込んだ。並んでいるのは、可愛らしい幼い字。キーアの字だ。恐らく日曜学校のノートだろう。
「片付け忘れかな」
キーアは今は図書館だ。部屋に返してやるべくノートを取り上げると、中の文章も目に入ってきた。
『○月×日 はれ
きょうも、かちょうは、キツネに会ってくると言って、お仕事に行きました。
わたしは、まだほんものを見たことがないけど、キツネさんは、どこに住んでるのかな。
わたしも、会ってみたいです。』
「……キツネ……?」
目に留まった文章に、手が止まる。
課長はそんな事を言っていただろうか。
日付は昨日だ。あの朝のやり取りは……と思い返して、キツネの正体に思い当たる。
『めんどくせぇが、キツネに呼び出されたんで行かなきゃならん』
あの朝の課長のげんなりした声まで思い出せた。
キツネとはつまり、副局長だ。
「ロイド!何見てるの?」
ふいに背中に声が掛かった。振り返ると、エリィとティオがこちらに向かってきている。
「そのノート、キーアのものですよね?」
「ああ、多分」
言うと、ティオは確認するように中をひょいと覗き込んだ。
「……キツネ……?」
同じ文面が目に入ったのだろう、ティオが軽く眉をひそめる。
「え、キツネ?」
それを見て、エリィもノートを覗き込んだ。数秒の沈黙の後、同じような顔つきになる。
「……これって、副局長……?」
「多分。」
頷く。ティオも、ですよねと息をついた。
「キーアは」
ティオがそこまで言った時だ。
「ただいま、戻ったぞ」
今度は入り口のドアが開いた。
「おう、戻ったぜー」
賑やかに入ってきたのは課長とランディだ。
おかえりなさい、と口々に言う間に、こちらに向かっていた二人もノートに気づいたらしい。
「何見てんだ?」
ひょい、と二人もノートを覗き込んだ。そして数秒。
「……キツネ……?」
ランディも軽く眉をひそめた。課長が眉間に手を当て、ティオがふうっと息をつく。
「どうやら、本などに出てくる普通のキツネと思っているようですが」
「だな」
頷くしかない。
「もしもキツネの居場所を聞かれたら、ちょっと困りますね」
エリィが言うと、課長も参ったなあと息をつく。
「なんて言えばいいんだかな」
「ともかく、夢を壊さないようにしなくては」
ティオの言う事に皆で頷く。
「しっかし細かいとこまでよく気づくもんだなあ」
ランディが肩をすくめると、課長も重々しく頷いた。
「今後は、小さい言動にも気をつけんとな」
「ええ、キーアの教育にも悪いですし」
そう言って頷く。
「すっかり保護者ですね」
「実際保護者だからな」
見上げるティオにそう言って笑うと、横からバシっと背中を叩かれた。
「おう、がんばれよパパ」
「それは違うから」
冷静にツッコミを入れて、開きっぱなしのノートを閉じる。
小さい子どもが身近に居るという事が、少し判ったような気がした。
自分のとこにUPする分にはいいんですが、流石に提出躊躇ってしまいまして。
というわけで、すごく短いです。
ちょっとでも笑っていただければ幸い?(笑)