「了解しました!」
返事が聞えたか聞えないかのうちにランディは先に突っ込んでいった。まあ聞えていようがいまいがやる事は同じだ。返事と同時に全力のアーツを駆動させているのだから。
駆動に時間の掛かる分だけ前で時間を稼いでくれるのは、自分にとっては本当にありがたかった。確実に敵をひきつけてくれるお陰でこちらは全力で駆動に集中できるのだ。
駆動終了すると、そのタイミングが解っていたかのようにランディが跳び戻ってくる。
息を詰めて、そして同じ敵を見て。
「ハーケンストーム!!」
「ハーケンストームッ!!」
どん、とアーツを駆動させると、ランディの攻撃により敵に蓄積されていたダメージは一瞬で増幅、爆発した。
「よ、お疲れさん。」
「うまく行きましたね。」
ぱん、と高いところにある手にハイタッチをすると、ニッと機嫌のよさそうな笑顔が返ってくる。
「アーツ得意なティオすけと肉弾戦得意な俺のコンビってやっぱ最強じゃね?」
よっぽどうまく行ったのが嬉しかったらしい。まあ、実際上手く行ったのは間違いないし、その感想はまんざらでもなかった。回数を重ねれば重ねるほど威力も上がりタイミングも合ってきていて、調子は間違いなくいいのだ。
ただ。
「まあ、そうかもしれませんけど。」
小さな気がかりが、少し言葉を濁らせる。
「……ランディさん。この技、実はちょっと辛かったりしますか?」
見上げて問うと、きょとんとしたような空色の目がこちらを向いた。
「何でそうなるんだよ?」
「最初に敵に突っ込んで行く時、……なんというか、殺気が凄いというか……猟兵をされてた時こうだったのかと思うような動き方をしているので、ちょっと気になって。」
猟兵時代の事は聞いた話だけでよくは知らない。ただ、それをランディがそれとなく避けているのは解っていたのでなんとも言いづらかった。でも、……多分、技を繰り出した後にランディのテンションが妙に高いのもそのせいではないかな、とは最近薄々感じている事でもある。
初めて試そうという事になった時だって、発動させるアーツをなるべくランディに合わせようと思って調整したら血の色もびっくりの真っ赤な円陣が出現して、さすがに若干驚いた。これが本来の彼の姿なのかとは思ったものの、ランディ自体は随分それを忌避しているようにも見えるため今まで言い出せなかったのだ。それに、クラフトの出来だって、どうにもトラップを仕掛けているような気がしてしまう。もっとも、これに関しては自分らしいとも思うのだが。
「……ティオすけ、そんなのまで解っちまうのか。」
参ったな、とランディは苦く笑った。
「見くびらないで下さい。……一緒に技を出すってことは、そういう事です。」
その時だけは、本気で心を合わせようとする。だからどうやったって解るのだ。いつもと空気が違う事も、過去に近づいている事も、……それをどこか忌避している事も。
「辛いんだったらやめませんか。怪我の元です。」
言うと、ランディは空を仰ぎ、そして息をついた。
「ティオすけは、怖いか?」
言葉から、珍しくおちゃらけ分が減少している。だからこちらも覚悟を決める事にした。
「いえ。どんな顔してようがランディさんはランディさんですし。」
素直に、正直に言葉を続ける。
「まあ、……初回は驚きましたけど。」
私だって他人の事いえませんしね。
そう言うと、ランディはゆるく笑った。
「それなら問題ねえよ。俺はティオすけが怖いとか気味悪いなんて思った事はねえし。
俺は確かに昔の俺があんまり得意じゃねえが、ティオすけが怖くないって言うなら、きっと大した事ないんだからな。」
今はまだ厳しくても、そのうち受け止められるような気がする。
そんな気持ちは言葉ではなく感情で読み取れた。
「……それなら、いいんですけど。」
でも、あまり無理しないで欲しい。
そんな気持ちが見えたのだろうか。頭の上に大きな手がどんっと乗っかった。
「やれやれ、ティオすけに心配されるとはなあ。」
「……心配するのも仲間の仕事ですから。」
重さを増していく掌をいつ退けるか考えながら、そう答える。
頭の上からは、ゆるい笑い声が聞えていた。
やれやれ、ティオすけは優しいな、と。
ハーケンストームの時だけじゃないかな、ランディが若干猟兵入ってる出だし……と思ったら、相手がティオだから猟兵モードでもいいかってうっかり素が出てるのかなとか思えばそれはそれで妄想のし甲斐あるのですが、どの道解っちゃうティオは多少なりとも心配してそうな気がしなくもなくてですね。
寄り添うって表現ならこの二人はやっぱりいいなと思います。感情隠そうとしてもバレちゃうし、丁度良く無関心で丁度良く気遣えるいい関係。後ろ暗いと自分で思ってる過去って共通点はそこそこ大きいのかなあと。