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猫の手と猫の数

 特務支援課ビル一階、キッチン前のテーブルは、食事やミーティングに利用されるのが普段の用途である。
 しかし、そのテーブルは現在白と黒で染まっていた。
 「本当、見事に溜まりましたね……」
 紙をめくり、ペンを走らせながらティオが何度目ともしれないため息をつく。
 全くよ、とエリィが応えた。
 「バタバタしてたからなのは解るんだけど。」
 視線は報告書に走らせるペンの先と資料を交互に参照し、何か捉えたかふと上がる。
 その先には黒い猫が首をかしげていた。コッペはその視線に気付いたか、とてとてと何もなかったように階段を上っていく。
 「猫の手も借りたいくらい、なんだけどな。」
 同じものを見ていたらしい。ロイドが肩をすくめると、本当に、とエリィも苦笑いを返す。その横から、あーあ、とランディが明らかに飽きたような伸びをした。
 「猫なあ。この辺って、猫どれくらいいるんだろうな。」
 死ぬほどどうでもいい話題は現実逃避しかけている証拠である。
 「さあなあ。」
 ロイドも資料をめくりながら首を回す。その様子を眺めて、また視線を書類に落とした。
 「私の知る限りでは、中央広場近辺だけでコッペ含め4匹くらいいますね。」
 ペンを走らせながら、それだけ返す。
 「俺の知る限り、裏通りはもうちょいいるな。」
 声だけへえ、と流すと、エリィの声も聞えてきた。
 「西街区は知ってるだけで三匹くらいかしら。」
 さらさらとペンを走らせる音、紙をめくる音は止んでいない。
 「正確な数ってどんなもんだろうな。」
 ロイドの声も少し途切れていて、書類と睨めっこしながら言っているのがわかる。
 「多分ダドリー捜査官が知ってますよ。こないだ猫の所在メモしてましたし。」
 次の資料、と、必要な分をとんとまとめて言うと、ええっ!?と視線が一斉にこちらを向いた。
 「マジかよ。なんつー似合わねえ趣味してんだ。」
 吹きだすのを堪えるようにしてランディが言う。
 「予想してみるか?」
 珍しくそんな事を言うロイドも笑いを堪えたような不思議な半笑いの表情だ。ただ、それに何かの狙いが見えて、心中で乗ることを決定する。
 「お、ロイドも乗ってきたか。いいぜ、俺は多分40くらいと見た。」
 ランディは気付いていないフリをしているのか、全く気付いていないのかいつもと同じ感じだが、エリィは狙いがわかったらしい。
 「やれやれね。私は30位だと思うわ。そこまで多い気がしないもの。」
 ぽんぽんと数字が出てくるが、自分の予想はもっと上。
 「いえ、もっと居るはずです。旧市街にどれくらい隠れているかにもよりますけど……60で。」
 多分、これが妥当な気がする。そう言うと、ロイドも、ふむ、と頷いた。
 「じゃあ俺は間とって50でいくか。」
 これで数字は出揃った。最後の言葉はきっと自分の役目だ。
 「では、確認は、書類が一番最後に終わった方で。」
 きっぱりというと、ロイドもうんうんと頷いた。
 「だな。」
 「じゃ、ランディ頑張ってね。」
 とても優しい微笑みを浮かべてエリィも頷く。そこまできて、初めて自分の立場に察しが付いたらしい。
 「ちょ、待てよお前らグルかよ!?」
 「別にそんな事はありませんけど。」
 言いながらも、視線はさっさと書類に戻した。
 「仕事量大差ないんだからフェアなはずよ?」
 さらさらっと優雅にペンが紙をすべる音も再開される。
 エリィが言っているのは全くもって事実だった。ただし、同じような仕事で同じような作業量の場合、サボり時間の多い人間の仕事が遅いのはただの自然の摂理である。
 「これくらい張り合いないとヤル気でないんだろ。」
 いたって平静なロイドの声に、ランディは今度こそがくっとテーブルにつっぷした、ようだった。
 
 「ああもう、マジで猫の手も借りてぇ……」
 
 ……正解は別にダドリーに聞かなくても、コッペなりツァイトなりに聞けばいいのだが。
 ランディの一人負けがほぼ決定している以上、この情報を開示する必要は、どうやらなさそうだった。



ツイッタ診断「貴方はふたりで『ゲームを始めようか』をお題にして140文字SSを書いてください。 」というのに沿って書いてみた……のは良かったんですが2人じゃなくて4人じゃないかって今気が付きました。
ダドリーさん連れてコッペ見たとき、「(現在は特務支援課に移管)」とかメモしてるのが可愛くてですね……!
4人で事務仕事って言うのはあまり描写されてなかったけど、きびきびグダグダやってたらいいなと思います。
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