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toi toi toi!

「ふわぁ・・・・おはよーさん。」
テーブルを拭いているロイドに上から声を掛け、階段を下りるいつもの朝。
「ああ、おはよう。」
一つ伸びをして、階段の最後の一段を下りる。
台所の方も朝からがちゃがちゃと賑やかだった。パンの焼けるにおいに、紅茶の匂いが混じる。
とりあえずキッチンに声を掛けようとすると、キーアがぽんっと飛び出してきた。
「朝がっ来ーてっ toi toi toi!」
トイ・トイ・トイ、とステップを踏んでサラダがテーブルに運ばれる。明るい歌はどこかで覚えてきたのだろうか、朝らしく素直に可愛い。
「木のテーブル toi toi toi?」
微笑ましいと思っている間に、ロイドが受けてテーブルを軽く叩いた。
「おいしいパン toi toi toi!」
思わず目を見開いているうちに、キッチンから出てきたエリィも、焼きたてのパンを運びながら歌う。
『いーいことが あるよっうっにっ!』
そして三人の声が一つになった。
何なんだ。
ぽかんとその光景を見つめていると、いつの間にやら隣にもう一人が立っている。
「おはよーございます。何ぼーっとつったってるんですか。」
「ああ、ティオすけ。おはよーさん。
 なあ・・・あれ、何かわかるか?」
「?何か歌が聞えてた気はしましたけど。」
よくわかりませんでした。
あっさりした答えになぜかほっとした。
「あ、ティオ、ランディおはよー!」
キラキラした笑顔がこちらを振り向く。
「よぉ、おはよーさん。」
「おはようございます。さっきの歌は何なんですか?」
挨拶ついでにティオが訊ねると、キーアはにぱっと笑った。
「おまじないのうたなの!」


「こうね、toi toi toi! ってやるんだよー。」
キーアは、トントントンと軽くテーブルを叩いて説明する。
「toi toi toi、か。たまにはこっちもいいかもなあ。」
どことなく楽しそうに聞いているのは課長だ。当然のような顔をしているところを見ると、課長にもなじみがあるらしい。
「意味としては、きっとうまくいく、みたいな所かしら。」
エリィが言えば、ロイドも頷いた。
「日曜学校で習うようなことじゃないんだけど、なんか気がついたらどこかからか聞いて覚えてるんだよな。」
総合すると、どうやらこの辺りに昔から伝わるおまじないの類らしい。
「なるほどなあ。ってことは」
「さっきのはわらべうたって所ですかね。」
ティオもそう言って、toi toi toi!とテーブルをとんとん叩く。
「歌は知らなかったのですが。」
「じゃあ、キーアが教えてあげる!」
「ふふ、ありがとうございます。」
花がほころぶ様な、としか形容できない笑顔でティオが頷いた。

あおいっそーら toi toi toi!
せんたくもーの toi toi toi!

なし崩しにキーアの授業を聞いていると、何にでもtoi toi toiとつけているようにしか聞えない。
・・・そこが単純で覚えやすいのだろうか。
「きょうのひがうまくいく おまじないのことば」
「toi toi toi だいじょうぶ きっと きっとね だいじょうぶ」
トントントン!とテーブルを叩いて、キーアとティオが声を合わせる。
「ティオ上手ー!」
「ふふ、ありがとうございます。」
ただ、この光景は確かにしあわせなものだった。ふとロイドたちを見てみれば、皆して顔が緩みまくっているのだから、きっと思うところは皆大して変わらないか、自分より確実に重症だ。
真っ先に我に返ったのは課長だった。
「・・・さあて、元気ももらったところで、仕事に掛からんとな。
 ああ、俺は今日は会議で本部にいるからな。あとはいつもどおりお前らでやっとけ。」
「わかりました。おつかれさまです。」
「かちょー、toi toi toi!だよ!」
ぽん、と掛かったキーアの声に、課長の表情がふっと緩む。
「ああ、会議だってtoi toi toi!だな。」
わしゃっとキーアの頭を撫でて、セルゲイは課長室に戻っていった。
「じゃ、俺たちも準備しないとな。捜査活動toi toi toi!だ。」
ぽんぽんぽんっと軽く頭を撫でられて、キーアがぽんっと笑う。
「みんな、お仕事頑張ってね!toi toi toi!」
「キーアちゃんもね。今日は日曜学校でしょう?」
エリィが言うと、キーアは元気に頷いた。
「うん!日曜学校toi toi toi!」
ぽんぽんぽんっと三回弾んで、「準備してくるね!」と階段を駆け上がっていく。
元気な後姿に、場の雰囲気が軽くなった。
「なるほど、素晴らしい汎用性ですね。
 それに、キーアが言うと、女神よりも効き目があるような気がします。」
「同感ね。理由は解らないけど、絶対上手く行くって感じがするもの。」
toi toi toi!と口ずさみながらエリィが笑う。
「キーアパワーかな。」
「だな。
 ほれ、力仕事だってtoi toi toi!だぞ、ティオすけ。」
からかうように背を三度叩く。しかし、ティオは涼しい顔で頷いた。
「ええ。書類仕事もtoi toi toi!ですよね、ランディさん。」
ぽんぽんぽん、と肩が叩かれる。
「くっ・・・」
言い返せずにいると、ロイドとエリィが吹き出した。
「今のはティオの勝ちだなあ。」
「確かにね。」
ティオもうんうんと頷く。
「まあ、当然です。」
「ちぇー、なんだよもう。」
ぶーたれると、さらに笑いが広がった。


「toi toi toi がんばれ きっと きっと うまくいくよ」
覚えたての歌を口ずさみ、ティオがトントントンッと玄関先にたつ。
「なんだ、気に入ったのか?」
ロイドとエリィは既に階段に足を掛けていた。後ろから声を掛けると、ティオは猫のように首をかしげ、こくりと頷く。
「ええ。なんでしょう、女神よりもなんとなく私に合うようです。」
振り返るのも、トントントンッとリズムのいいステップと同時だ。
「おまじない、という気楽さがいいのかもしれませんね。叶わなくてもショックが少なそうで。」
妙に納得の理屈だった。
「なるほどなあ。」
女神を恨みたくなるという事も、女神に絶望を感じる事も、これならば確かにないだろう。
謎の感心をしていると、ティオはふうっと息をつく。
「あとこれ、単純なもんだから頭を回ります。」
既に軽く中毒です。由々しき事態です。
言いながら、解決策を探すように顎に手を当てた。いちいち真剣なその仕草がおかしくて、思わず吹きだす。
「別にいいじゃねえか。キーアが喜ぶぞ。」
「!」
キーアの名前を出すと、ティオがぴくんと顔をあげた。
目がぱちんとあって、一秒。ティオが気を取り直すように咳払いをする。
「・・・そうですね。キーアが喜ぶなら。」
toi toi toi!
頭を回っているであろう音そのままに、ティオは階段を駆け上がった。こういうところは年齢相応か、となんだかほの暖かい気持ちになる。
のんびり足を踏み出すと、上からティオの声が降ってきた。
「早く来てください。ロイドさんたちはもう上がってますよ。」
「あいよ。」
返事をして階段の上を見上げれば、ティオはそこで一応待っているらしい。同じように三拍で階段を駆け上がると、こちらが着くか着かないかのうちに先を歩き始める。

「いいことがあるように こころからねがう」

歌を口ずさむ声が聞える距離。頭を回っているのは本当らしい。

「toi toi toi がんばれ、・・・てか?」
合いの手の声を掛けると、ティオは驚いたように振り返った。一瞬止まって、やがて思いなおしたようにシメを口にする。
「きっときっと うまくい・く・よ」
ラスト三文字でぽんぽんぽんっとたたかれる。
「きっとうまくいくよ、か。」
「きっときっとうまくいくよ、です。」
お祈りなんてガラではないし、何かどこかに引け目もある。でも、おまじない程度なら、誰に許しを請う必要もない。
「俺もおまじないの方が合ってんのかもしんねえなあ。」
誰にともない呟きに、ティオがクスっと笑う。
「それならおまじない仲間ですね。」
「お、ティオすけと仲間か、そりゃいい。」
トントントンッ、と頭をかるく撫でると、ティオはむっとしたように咳払いをした。
「・・・前言撤回です。」
「なんでだよー。」
「おーい」
声が聞えてきてそちらを向く。
先にいったロイド達だ。こちらが少し遅れていることに気付いたか、立ち止まったところらしい。
「はやくいかないと」
「そうだな」
二人揃って三拍で駆け出す。頭を回っているのはきっとあの歌だ。

今日の日が toi toi toi
すこやかで toi toi toi
すばらしい toi toi toi

いい日であるように


NHKの2355とか0655で流れてる toi toi toi!! って曲が大好きです。デーモン閣下の歌が素敵。
このtoi toi toiってのはドイツのおまじないらしいですが、クロスベル近郊に伝わるおまじないにしてしまいました(勝手に)。意外に違和感なかった。
なんとなくですが、ランディとティオって女神様は信じてもいいけどいまいち信じきれないんじゃないかなあという気がします。過去が過去だけに、祈っても何しても助けてくれない事を知ってそう。だから、女神様一辺倒の世界だけど、気軽におまじないっていうのもありかなあと。
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